5-3 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 お気に入りの場所なの
大広場へと戻り、一息つく。
噴水の前で吟遊詩人らしき旅人が竪琴を片手に歌っているのが聞こえると、さっきまでの緊張した感覚が遠い過去の出来事のように感じられる。
全く、我ながら無茶をしたものだ。
「約束の時間まであと少しだけれど、他に行っておきたいところとかある?」
「……そうだな、それじゃあ街が見下ろせる絶景ポイントを探すか」
「いいわね。って言っても、それならあそこしかないわ」
メイプルがそう言って指差す場所は、役所らしき建物の隣に設置された鐘楼……ではなく、その向こうに見える城壁だった。確かに町全体を見下ろす絶景ポイントだとは思うが……。
「一般人って登ってもいいのか?」
「恐らくダメだと思うわ」
「じゃあ、そこの鐘楼で我慢しろよ」
その鐘楼もあんまり出入りしちゃぁダメな気がするが。
「鐘楼から見える景色だと、こう、インパクトに欠けると言うか」
「今すぐ全次元の鐘楼と関係者に謝れ」
「二人とも、何をしているの?」
振り返ると、エルナが腰に手を当てて立っていた。まるで子供の悪戯を見つけた親のような呆れ顔になっている。
「エルナ、用事はもういいのか?」
「えぇ。それより、城壁か鐘楼で何をする気なの?」
「この街の絶景が見たいのよ!」
メイプルが身を乗り出して熱弁する。夕焼けに照らされているせいか、目が真っ赤に輝いている。何か魔法使ってないだろうなと、一瞬疑ってしまった。
エルナの方は口元に指を当てて少し思案した後、俺たちへ手を振った。
「着いてきて」
「ふぉぉ……」
「はぁぁ……」
目の前に広がる光景に、俺とメイプルはため息を漏らした。
オレンジ色と紺色で彩られる夕暮れの街並みは、月並みな感想だが、旅行写真や絵画にでも出てきそうなほど美しかった。
昨晩の星空とはまた違う衝撃で、俺の魂が揺さぶられる。疲労感が消えていくような、少し切ないような、不思議な感覚が妙に心地よかった。
今、俺たちがいるのは、城壁でもなければ鐘楼でもない。冒険者ギルドのある丘の、さらに奥に建っている石の砦、その屋上だ。
昔、まだ街が小さかった頃はここが防衛拠点だったらしいが、城壁が高くなったおかげで、今は使われていないらしい。それにしては手入れが行き届いていると不思議がる俺とメイプルにエルナは、街中で戦闘があった際の物見、または狙撃ポイントとして使用するから、と教えてくれた。
この塔の経緯はさておき、大広場の鐘楼が下方に見えるほどそこそこ高い場所にあるおかげで、思っていた以上に街が見渡せる。この場所は、間違いなく絶景スポットだ。
「どうかしら?」
「うんうん、これよこれ! こういうのが見たかったのよ!」
どうやらメイプルもご満悦のようだ。
「ハルキはどう?」
「あぁ、いい場所だな」
「本当よもう! ありがとう、エルナ!」
小躍りしそうなほど喜んだメイプルに、エルナは少しだけ驚いた表情を見せた後、笑顔になった。まるで、妹を見守る姉のような表情になっているのだが、エルナは気づいているだろうか。
「よかった。ここ、私のお気に入りの場所なの」
そう言って、俺たちと並んで街へと目を向けた。
夕日に照らされた金色の髪と横顔に心臓が少し跳ねるが、メイプルに何か感付かれて茶化されるのも癪なので、すぐに視線を戻す。
地球とこの世界、夕日の色も美しさも、あんまり変わらないんだなと軽く現実逃避もしておく。
それにしても、お気に入りの街に、お気に入りの場所か。
何かいいな、そういうの。
三人でしばらくそうやって夕焼けに染まる街を眺めていると、日が城壁の向こうに沈み、空が薄紫と青色のグラデーションに変わっていく頃、俺たちは塔を降りた。




