5-1 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 サンタバルカ
日差しが少し傾いてきたところで、荷物の整理が終わった。今すぐにでも出立できる状態になっている。
そして――
「うんうん、いいんじゃないかしら?」
「そうか?」
購入した革製の胸当てと籠手、脛当てを装備し、マントを羽織った俺を見て、メイプルが満足そうに頷く。携帯のカメラで撮影してもらい自分でも確認する。
なんというか、もろに異世界転移してそのまま冒険者になりましたっていう恰好だ。事実その通りなのだが。
「コスプレみたいだな……」
「いいじゃない。似合ってるわよ」
「この後、その状態で少し動いてみましょうか。違和感があったら言ってね」
今の俺には違和感しかないのだが、エルナは変だと言わないからいいのか?
「さて、荷造りもできたことだし、私はこのまま旅に出てもいいけれど……エルナと晴樹は?」
「私は少し用事があるから明日がいいかな……それに、今から出たら、あの森の周辺で野宿をすることになるし」
「よし、今日出発するのはなし!」
脳裏に残念妖精の姿がフラッシュバックする。次に出会ったら逃げられないかもしれない。
まぁ、元々今日は出発する予定ではなかったので、今のは軽い冗談のやり取りだ。たった一日で、随分打ち解けてきたものだと思う。
「じゃあ、私は少し出かけるけれど、二人はどうする?」
「あぁ。俺たちもちょっと出るよ」
「この街の観光、まだしてなかったし」
「じゃあ日が暮れるまでには帰ってきてね。メイプルがいるからって油断しないこと。スリだけならまだいいけど、冒険者の中にもガラの悪い奴はいるんだからね。あと、裏通りとかには絶対入らないこと」
「あぁ、わかった。注意するよ」
「また後でね~」
エルナと玄関先で別れ、俺たちは大広場へやってきた。依頼にでも出かけているのか、冒険者の数は最初に来ていた時よりも少なく、一般市民の姿が増えている。
「エルナは知り合いに挨拶回りってところかしらね」
「だろうな」
そう考えると、今日出発できなくてよかった。彼女自身が決めたこととはいえ、少し罪悪感を覚えたが、首を振って現実へと意識を戻す。
「んで、俺たちはどうする?」
「そうね。さっきは回れなかった場所を観光がてらに覗いてみましょうか」
メイプルの提案に乗り、街を散策することになった。
露店がひしめく通りを抜け、小広場から住宅街へと続く門を見上げると、張り巡らされたロープに干されている洗濯物を取り込んでいる光景が目に入る。その下を子どもたちが駆け抜け、俺たちの横を通り過ぎていったのだが、その中に小さな蝶みたいな羽の生えた子どもがいて驚いた。
メイプルに聞くと、人間に混じって生活している妖精も少なくなく、あぁして子どもに混じって遊ぶのが好きな者もいるのだとか。
どうやって入口の魔物発見装置を掻い潜ってきたのかはわからないが、少なくとも冒険者が闊歩している街の中で走り回っているし、害はないと判断されているんだろう。
と、妖精が俺たちに気が付いて足を止めた。その目はメイプルへと向けられている。どうやら、メイプルがサキュバスだと気づいたみたいだ。
「アンナ、どうかしたの?」
「あの兄ちゃんたち、知り合いなのか?」
「……えと」
言いよどむ妖精に、メイプルが軽く手を振った。
「サンタバルカ。ウララたちから、よろしくって伝言を預かっているわ」
「! そうなんだ。私はアンナだよ。他の子たちにもよろしくって伝えておいてね」
アンナと呼ばれた妖精は笑顔になり、メイプルへと手を振り返してきた。
「街では静かにね。騒ぎを起こしたら冒険者たちが怖いから」
「ええ、わかったわ」
「うん、じゃあね~。二人とも、行こっか」
獣人の少女と人間の少年と手を繋ぎ、一緒に駆け回る妖精の少女は、森で見た子たちと同じようにあっけらかんと笑い、三人揃って露店の通りへと消えて行った。ふわふわした髪の毛と、無邪気に二人の手を引っ張る活発さが印象的だった。
「子どものお守りをしてくれる種族よ。シルキーと同様で、人と友好に接することで人気があるらしいわ」
「へぇ」
なんか、子どもの頃に妖精と遊んだ、という話を思い出した。この世界では、実際に目の前で遊ばれているが、微笑ましくていい。
「ところで、『サンタバルカ』ってなんだ? こんにちはって頭の中では訳されたけど、妖精語の挨拶か?」
「妖精語じゃなくて、仲間かどうかを識別するための造語よ。知人の妖精の名前と一緒に言うのがポイントね」
「へぇ……」
妖精にもそう言った文化があるんだな。
「ちなみに、考えたのは私よ」
「何してんだお前」
「いやぁ、面白半分で作ってみたけれど、想像以上の働きがあってね。今じゃ大陸全土で使われているらしいわ。あ、頭にパッと浮かんだ語感が良さそうなものを適当に組み合わせただから、意味は深く考えてないわ!」
「本当何してんだお前は」
こいつ、一種族の文化に多大な影響を及ぼしてるが、本当に主人公タイプかよ。
「アンタの言語理解能力も凄いわね。それを応用してこっちの言葉をしっかり練習してみたらどう?」
「考えておく」
住宅街を抜けて、露店や店を見て回ってから別の小広場へ出たところ、メイプルはちらっと道を確認してから次の行先を指定した。先ほどまでとは違って、少しだけ人の気配が違う気がする。
「そこから先が歓楽街だから、下手に行くと厄介なトラブルに巻き込まれる可能性があるわ」
「わかるのか?」
「魔物の勘ってところよ。後、ずっと先の外れた場所がスラム街みたいね」
「そんな場所があるようには見えないけどなぁ」
明るく見えた街だが、暗い部分はあるんだな。




