4-8 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 収納魔法っぽいな
その後、いくつか店を回ってから宿に戻り、俺たちは荷造りを始めた。
「晴樹、旅に必要なものは何だと思う?」
「頑強な体と剛柔兼ね備えた精神と武器と飲食料と喋るバイク。後、土壇場のクソ度胸」
「正解。だけれど、アンタには即席で作り上げたそこそこ頑丈な体と、異世界転移した状況下でもマイペースなクソ度胸以外は何もない。武器弾薬もバイクもなければ超高性能美老婆から叩き込まれた技術もない。強みは現代知識を用いた発想だけ。こんなもので旅をしようものなら一日もしないうちにこの世とオサラバすることになるわ」
「是非もなし」
「二人ともー、途中よくわからないところがあったけれど、そんなちゃらんぽらんな考えだと本当にすぐこの世とお別れになるわよ?」
エルナから当然な突っ込みを受けながら、購入品を整理して各自鞄にに入れていく。入りきらない分や大きく嵩張るものは、メイプルが収納魔法で引き受けてくれた。
何もない中空でメイプルの手が一瞬消える様子は、わかっていても驚かされる。ちらっとその際彼女の手がどうなっているのかを観察しようとしたが、なんというのだろうか、メイプルの手はそこにあるはずなのに、ないような。腕の断面が見えていない不思議な状態なので、そこにないと認識できていないのか……。
思考の深淵に入りかけて、頭を軽く振って気分を変える。
それより、もしかしたらこれ、できるのかな。
目の前の空間に、開けっと念じつつ手を伸ばすと、指先から音もなく消えて行った。引いてみると、指が元通りになった。
随分とあっさりだが、多分すごい魔法が使えるようになったみたいだ。
「……。……メイプル、俺も少し持つわ」
「ん? ……あぁ、うん、よろしくー」
メイプルからポーションが入った木製の小瓶を一ダース受け取り、目の前の空間に突っ込んだ。うむ、手首から先が半ば透けるようになっているけれど、中がどうなっているのかが何となくわかる。これ、四○元ポケットかな?
呑気に考えていたら、エルナが口をパクパクさせて俺を凝視していることに気が付いた。照れるぜ。
「ハルキ、それってもしかして……?!」
「収納魔法っぽいな」
「っぽいなって……えぇぇぇぇっ?!」
「エルナ、静かにしなさい。近所迷惑よ」
「何でメイプルもそんなに冷静なの? 収納魔法って伝説クラスの魔法なのよ! 私がおかしいの? そんなはずないよね?」
「大丈夫よエルナ。アンタの思考も反応も正常だから」
メイプルは目を白黒させるエルナの前まで歩く速度で近づき、その肩にぽんっと手を置いた。
「それでも、常識というものは日々変わっていくものなのよ、エルナ」
「昨日と今日、私の中で常識革命が起こってるんだけれど……」
「じゃあ、私たちがアンタに新しい可能性を見せたことになるわね。光栄だわ」
「そう言う問題じゃなくてね……?」
もう何度目になるかわからない、諦観の念を浮かべた表情で微笑むエルナに、ちょっとだけ同情した。俺は昨日から驚いてばかりだが、この世界の常識を知らない分、単純に喜べるからなぁ。
小説だと、主人公やヒロインの無茶振りやチートに登場人物たちが驚かされる描写が面白おかしく描かれているが、リアルで見るとちょっとだけ気の毒でもある。
「アンタもいずれ世界を変える女になれるわよ、エルナ」
「普通はできるかぁって思うけれど、メイプルが言うと何だかできそうな気がして怖いかな」
「目指せ、ギルドマスターもしくはダンジョンマスター!!」
「ギルドマスターがいいかなぁ……」
もうやめてやれメイプル、エルナのSAN値はもうゼロだ。目からハイライトが失われているぞ。
「それにしても、ハルキは本当に勇者様みたいな力を持っているのね」
「俺のは見た魔法のコピーみたいなもので、勇者っぽい力じゃないと思うんだけどなぁ」
「見ただけでどんな魔法も模倣できる人間はいないからね?」
「魔族にもいないわよ。それに、晴樹の魔法は単純なコピーとは違うみたいだし」
「と言うと?」
「簡単な話よ。単純にコピーしたのなら、その魔法に使用する魔力も同様になるはずなのに、アンタは自分に最適化したものを使える。その収納魔法ね、第二召喚魔法と同じで、ごく一部のエルフか魔族しか使えない上に、使用する魔力もそれなりにあるのよ。普通に開こうとするだけでかなり疲弊するくらいに、ね」
「え、俺全然疲れないんだけど……」
「だから言っているじゃない。自分に最適化した状態で使えているって。効能も多分、消費魔力からは考えられないほど良いんでしょうね」
やれやれチートか、と首を振るメイプルだが、俺としてもその解析力は滅茶苦茶凄いと思うぞ。それと、さり気なくお前も伝説クラスの魔法が使える魔族に含まれているのはスルーしていいんだろうか。しかも、全然疲れた様子がない。お前の方がよっぽど規格外だよ!
「異世界で出会った最強チートな二人が、冒険者の常識をぶち壊していきます」
「なんじゃそりゃ……」
「今考えたラノベのタイトルよ!」
「ナイワー」
「ははは、こやつめ」
「二人とも、呑気に話してないで手を動かしなさい」
いつの間にか普段の調子に戻ったエルナに注意されてしまった。あぁ、ちょっと怒ってるみたいだ。すんません。




