4-6 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 恐ろしい女っ!
気を取り直して市場となっている通りへと入っていく。昼前でもかなり賑わっており、規模は違うのに祭りの縁日を思い出した。メイプルはファーマーズマーケットを想起したらしい。
さて、ここで購入するものは大まかに、食料や日用品を人数分と俺の装備だ。
費用はギルドマスターがくれたらしい。名目は突然見知らぬ土地へと飛ばされた俺たちの当面の生活費、とのことだったが、それにしては素人である俺が見ても額が多かった。
まるで、旅支度を兄妹分揃えた上で、それからとんでもない贅沢さえしなければ、長い長い道中でそこそこ良い宿に泊まったり、馬車に乗って比較的安全なルートを通れるようにされているみたいだ、とはメイプルの言葉だ。エルナもそれに同意していたが、目はもうどこか遠いところを見ていた。
エルナ曰く、普通に保護した旅日や人質の生活保護費用なんかとは比べものにならず、トップクラスの依頼書でしかお目にかかれない金額らしい。
果たして、いくら突然異国の地へと飛ばされてサキュバスに襲われそうになっていたところを助けられたとはいえ、果たしてそんな金額を出してもらえるだろうか。
無論、ノーだ。余程高位の出自や関連者でない限り、出される金額は上限が決まっているらしい。
ならば、どうしてそんな大金を出してくれるのか……なんて、ありきたりな思考は捨てる。
理由――俺たちが勇者かもしれないから。証明終了。
「ねぇ、二人とも呑気にしているけれど……自分たちの状況がわかってる?」
「え? ギルドや御上にがんばれーって応援されてる状況よね」
「俺、今まで働いてもこんなお金もらったことないなぁって、ちょっと罪悪感を覚えている」
「安心なさい。私たちは罪を犯して島流しにされるんじゃなくて、自ら世界へと羽ばたいていくんだから!」
「だからなんでそんなに呑気なの?! 結構大変な事なんだよ?」
街中であることを意識してか、それとも常識をボロボロにされたからか、多分両方だろうが、エルナは声を潜めながら俺たちへと食ってかかる。傍から見ると俺やメイプルとじゃれているようにしか見えないと思う。流石は冒険者、どんな心境でも周囲の事を念頭に置いて行動できるとは。
感情をある程度吐き出したおかげか、少し落ち着いたエルナは肩を落とした。
「勇者よ、勇者……魔王と戦って、人と魔に調和をもたらす最強の人間……勇者よ。普通なら慌てたり放心したり、そうでなくても自分が英雄になれるって興奮したりするものだと、ギルドマスターからは聞いていたから色々心構えをしていたのに……」
「あぁ、気を遣ってくれてたんだな……」
確かに彼女の言う通り、大変だし、心の中では少しくらいは慌てているんだが……。
「正直、デスヨネーとしか感想が浮かばなかった」
「サキュバスが勇者……なんだかいいわねっ! くらいで」
「……まぁ、二人ならそういう反応になってもおかしくはない、かな……うん」
エルナは諦観の念を浮かべた視線を明後日の方向へ向けて、複雑そうな感情を乗せたため息を吐いた。
「召喚のことだけは正直に話せばいいって言っていたけれど……最初から予測できていた、というか、読めていたってことなのね」
その上で盗聴までして、事の成り行きを確認していた訳だが。
「まぁそういうことよ。でも、私たち、特に私が勇者だってことはないわ」
「俺も、別に聖剣持ってないし、ギガ○イン使えないし、大貝○呼べないし」
「えぇと、二人とも、勇者並に凄い能力を持っているんだけれど……」
そんなことは知らん。確かに俺もメイプルも、勇者のあるあるには当てはまっているところがある。だからと言って、それがこの世界の勇者の定義に当てはまっているかと言えばそうではない。メイプルが説明してくれたことに加えて、何よりも、圧倒的に勇者たりえない証拠が存在しているのだ。
「倒すべき魔王、ちょっと前に倒されてるじゃない」
この国やその近辺で猛威を振るっていた魔王は、数年前に召喚された一人の勇者が活躍し、退治されたそうなのだ。平和な世界に勇者を呼ぶ意味がない。
そして、俺は専用の魔法で召喚された訳ではないないので、いわゆる「勇者」ではないということだ。
ちなみに、どこかの国が単なる戦力増加で呼び寄せるということは、エルフたちが絶対に許さない。これはギルドマスターがエルナに教えてくれた秘密の情報なのだとか。エルフであるご隠居と知り合いらしいし、召喚魔法や勇者関連も詳しいのだろう。
そんなギルドマスターも、今回のようなケースは初めてのようで、もしかしたら自分たちの知らない超存在が関わっている可能性もある、として、一時的に俺たちを被勇者召喚として扱うことにしたとか。今は、ご隠居やエルフのトップたちに色々と聞いているそうな。
これ、よくある大騒動へと発展するパターンじゃないのか……。
「難しく考えなくていいわよ。むしろ、これはラッキーと捉えるべきだわ」
「何でだよ」
「勇者ならきっと色々な場所へ楽に移動できるでしょう? つまり遺跡とかダンジョンを調べ放題ってわけよ!」
「お前、どこまでもポジティブだなぁ」
「利用できるものはとことん利用する、但し、人道や仁義に反しない限り!」
「すでに反してるだろ……」
「ねぇハルキ、マスターから、悪事を働かない限りは基本的に好きに行動させていいって許可を得てるんだけれど……」
ダメだ、表面上は穏やかだけれど水面下で結構大事になっていた。
俺、勇者じゃないんだが……使ったお金、後で請求されると困るんだが……。
「支給されたお金は自由に使っていいって言われてるわ。例えハルキたちが勇者じゃなくても、返さなくていいみたい」
ちぃっ、俺が一番気にしている部分をカバーしつつ、精神面でしっかりと囲ってきていやがる。
ギルドマスター、恐ろしい女っ!
エルナ「ハルキ、その奇妙な手と表情は何?」
メイプル「ギルドマスター、おそろしい女! とか考えてるんでしょうね」




