4-4 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 この世界の勇者召喚
先ほどの話と繋がった。こうなったら、答えは一つしかない。
「それって、勇者召喚って奴か?」
「ええ。最近じゃこっちでもそう言われてるわ。で、私たちも勇者かもしれない、と思われてるってこと」
「ナイワー」
心の底から出た言葉だった。
自分で言うのもなんだが、サキュバスの巣窟に呼び出される勇者があってたまるか。出現座標がズレましたとかいうレベルじゃない。
魔王を倒すためにサキュバスに押し倒される勇者なんて……あ、エロ漫画だとありかもしれんな……。
閑話休題。
それよりも、もっと重要な事実が発覚した。
さっきメイプルの言っていた、召喚魔法はこの世界、または魔界からしか呼び寄せることができない、という話しと、今の話を統合すると、恐るべき結果が導き出される。
表情に出ていたのか、俺の顔を一瞥したメイプルが厳かに頷いた。
「そう、アンタは地球からこの世界に呼び出されたと思っていたみたいだけれど、私が知る限りでは、勇者召喚はこの世界のみにしか作用しない。この宇宙の他の星から呼び寄せるのも不可能。試そうとしたエルフや魔族はいるみたいだけれど、全部失敗に終わったって聞いてるわ」
「じゃあ、俺をこの世界に召喚した奴は何者なんだ?」
「それがさっぱり。まぁ、その辺りは別の機会に考えましょう? 現状じゃあ、考えれば考えるだけ深みにハマっていくだけよ」
「それはそうなんだが……神さまとか」
「神さまは……わからないわ。でも、アンタの能力を見る限りだと、関わっていそうよね」
神様が力を貸し与えてくれている、ということは、少なくとも悪い事ではないと思う。邪神だったら目も当てられないが。
「魔王が呼び出したぁ、なんてよりも、ずっといいだろう?」
「楽観的だけれど、確かにそうね」
互いに肩を竦めて苦笑いを漏らす。が、すぐにメイプルが何かに気が付いたように動きを止めた。
「神……敵対……魔王……」
「え?」
「私も全部の魔王を知っている訳じゃないけど、魔界生まれでこっちに来ている奴なら、もしかしたらそれもあるかもしれなわね……」
「魔王複数いるのかよ……ん? 魔界生まれならってどういうことだ?」
「色々あるのよ。とにかく、今はアンタを召喚した奴は神様ってことにしときなさい!」
メイプルはそう言うと、指をパチンと鳴らした。
「おにいちゃん、げんきがないときはおかしをたべて、ゆっくりするといいの」
「……あぁ、そうだな」
確かに、今からあれやこれやと不安になってもしょうがない。
召喚されてしまったなら、もう仕方ない、これからどうするかを考えるだけだ。
とりあえず、ギルドが俺たちに関して色々と調べて、何かしら情報を発信したとすれば、召喚を実行した術者が俺を探しにやってくる可能性は高い。そして、そいつは元の世界へ俺を召還する魔法や技術を持っているかもしれないのだ。むしろ、これはチャンスを一つ掴んだかもしれない、そう考えた方が気楽だ。
もし召喚者がいなかった時は……その時はその時だ。現実逃避ともいう。
多分メイプルは気を遣って話を終わらせたんだと思うが、俺も馬鹿じゃない。最近じゃあよくある、魔王が異世界人を呼び寄せた、というパターンも想定しておかなくてはいけないということだろう。その場合、呼ばれた理由はきっと碌なものじゃない。
魔王となんて関わりたくないんだが。
話しを別の方向に持って行って心を落ち着かせよう。そうしないと恐怖で足が震えだしそうだ。
「そういやぁ、この世界の勇者ってどういう定義なんだろうな?」
「ゆうきをもってたちあがるすてきなひとのことだよ♪ まおーをたおせるからゆうしゃじゃなくてぇ、ゆうきとちからとえいちをもってみんなのきぼうになるからゆうしゃなんだってぇ♪ でもさいきんはまおーをたおせるちからのあるひとをゆうしゃってよぶことがおおくなったってきいたよー?」
なるほど。つまり、この世界の勇者召喚とは―
「見ず知らずの奴らにとっての邪魔者を倒すために、突然身勝手に拉致られて戦わされる、兵器システム……か」
「勇者じゃなくて誘拐被害者だねぇ♪」、
何ともはた迷惑な。エルフたちが秘密にしてくれていて正解だよ。
まぁファンタジーのお約束っちゃぁそれで終わりだが。
「勇者って、召喚魔法によって力を与えられるのか?」
これも異世界召喚あるあるの一つ。召喚魔法によって呼び出された奴には、召喚者の所属する国で最強の戦士よりも凄まじい力が付与される、または希望の原石となる、という謎の仕組み。その魔法の能力付与システムを解析して、自分たちで魔王討伐なりやれよ、と言いたくなる、アレだ。
「それがねぇ、ゆうしゃさまはしょうかんによってちからをえるんじゃなくてぇ、もとからちからをもっているひとがらんだむでえらばれるらしいよぉ?」
「本当にはた迷惑な……」
この世界の勇者とやらは、本当に誘拐被害者でしかないようだ。
それでその国や周辺、または世界が平和になるというのだから、何だか複雑な気分になる。
ところで、一部のエルフや魔物しか知らない召喚魔法を、どうしてこいつが知っているんだろうか。
「それにしても、何でそこまで勇者召喚に詳しいんだ?」
「いせかいものでゆうしゃってきいたらてんぷれーとがあるでしょぉ? だからしらべたんだぁ」
たったそれだけの言葉で何となく理由を察することができた。
要するに、勇者召喚された者の中に自分と同じ境遇の者がいるかもしれないと思ったのだろう。だから調べた、という訳か。
こいつの事だ。きっと物語の主人公よろしく、人の話や書物などを必死に見聞きして研究したんだろう。
「でもじっさいはちがったの……ゆうしゃさまは、このほしの、とおいばしょからよばれるだけだって……」
俯き加減になったメイプルが、どんな顔をしているのか見えなかったし、覗こうとも思わなかった。
しかし、間をそれ程置くこともなく顔を上げたメイプルはほほ笑んでいた。
「でも、いまはおにいちゃんといっしょにいれて、かえで、すっごくたのしいよぉ♪」
「……っ」
一瞬、返す言葉に詰まった。昨日今日出会ったばかりだが、俺はこいつの事を信頼しているし、夢の中で魔法を教わったり話し合ったりしたおかげで、自分の中ではすでに友達として認識していたのだ。
だから、答えはすでに決まっていたも同然で。
「俺も、お前と一緒で楽しいよ」
少なくとも、同じ地球で生きていた奴がそこにいる。
不謹慎かもしれないが、それだけで不安が少しでも取り除かれたことは事実なのだ。
じゃあ、転生して八年間も見ず知らずの世界で生きてきたこいつは? 勝手な憶測になるが、出会ってからの様子と今の言葉から、想像もつかないほどの孤独感や不安を抱えていたのかもしれない。
きっと俺以上の苦悩を―
「ねぇ、いまのかいわってぇ、ながねんつれそったふーふみたいだねっ♪」
「は? ぁあ、いや、親子の会話だろ?」
「おにいちゃんだけど、あいさえあればふーふに」
「それ以上いけない」
訂正。こいつ、それなりにこの異世界転生を楽しんでいたんだった。きっとその過程で、多少の不安も自力で乗り越えたんだろう。
くっ、少しセンチメンタルになってしまった自分を殴りたい……ッ。
俺の切なさを返せこの野郎!
晴樹 「ところで、勇者って大貝○とか呼べるのか?」
メイプル「大○獣はいないけれど召喚獣みたいなのはいるわよ」
晴樹 「バハ○ートとかサ○ンナ○ト的な何かですねわかります」
メイプル「ちなみに戦乙女や女神を召喚することもできるらしいわよ?」
晴樹 「わぁい、じゃあフッラ先輩やグナー先輩経由でフリッグ様に帰還の答えを聞きたいなー」
メイプル「北欧神話の戦乙女や女神じゃないから無理よー」
晴樹 「だよねーちきしょう!!」