4-3 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 この世界の召喚魔法
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
目を伏せてカップを微かに傾ける様子は、いわゆる優雅な淑女もとい幼女なのだが、その口元が得意げに吊り上っていた。
謙遜しているのかそうでないのか、判断に困るが、メイプルらしいと言えばそうか。
「この世界における召喚魔法は大まかに二つよ」
メイプルは空いている手でVサインを作った。
「一つは、契約した精霊や魔物などを呼び出すもの。こっちが一番有名で、人、魔問わず使用しているわ」
「召喚獣とかその類か」
サモ○ナイ○を思い出した。
「そうそう。んで、もう一つが人間を遠方から呼び出す魔法。でも、こっちはごく一部のエルフや魔物しか知らない特殊な魔法でね。どんなに偉い王様が命じても教えてもらえないし、賢者や魔法使いが会得しようとしても簡単にはできないみたい」
「お前のとこのサキュバスたちが使った転移魔法とか、そういう類のとは違うのか?」
「違うわ。転移魔法は、自分や指定した場所の人物を別の場所へ瞬間転移させるだけ。まぁこれでも人間の魔法使いには手に余る代物なんだけれどね」
「それで受付のお姉さんは驚いていたってことか」
どうやら、この世界では魔法によるテレポートは一般的ではないようだ。前に行った街に瞬時に戻れるとかできたら、緊急避難用として重宝したかったんだけどなぁ。
「……それで話を戻すけれど、この二つ魔法には特徴があるの」
「ん?」
「召喚魔法で呼び出せるのは、この星のどこからか、もしくは魔界の指定された場所だけなのよ」
「……え?」
驚きのあまり声が漏れてしまったが、すぐに我に返ってメイプルに続きを促した。まずい、何かヤバい方向へ話が進んでいる気がする。
「晴樹、ネット小説は読んでいるかしら?」
「あぁまぁ、一応はな」
「だったら、こっちに来て一度くらいは考えたことがなかったかしら?」
「ハルキ……とカエデが勇者、ですか?」
『そうだよ。カエデちゃんは、もしかしたら巻き込まれたクチかもしれないが』
ギルドの支部長室。
瀟洒な机の上に乗せられた透明な赤い宝玉がエルナの言葉を肯定した。
『王族や貴族、一部の上級冒険者を除いて、一般的に勇者とは、どこからともなく現れる、謎の超人や英雄という認識で通っている。が、その実態は遠方より強制召喚された人間だ』
「なっ……?!」
絶句するエルナ。しかし、駆け出しと言っても冒険者。すぐさま表面的には落ち着いた様子を取り戻す。
「で、では、ココロ様や、マスターがお会いしたという、今はいない若き夫婦の勇者も」
『あぁ、そうだ。ココロ君は我が国が魔王ドリューシャを倒すために呼ばれたんだ。遠い異国の地からね』
「そんな……ことが……」
『エルナ、わかっているかもしれないが、この事は他言無用に願うよ。本当なら、君にも伝えるつもりはなかったんだが……』
そう言って、宝玉から聞こえてきた声が一拍置く。
『……君だけ知らないっていうのも、フェアじゃないだろう』
「……え?」
『どうやら、新しい勇者様には優秀な使い魔がいるようだね。それとも契約もなしに自主的にくっついてきてるのかな? まぁ君たちを操っている様子はないみたいだし、悪い子じゃなさそうだ』
声の言葉に、エルナは「まさか……」と首を明後日の方向へ向ける。
丁度、件の二人が待っている部屋がある方に。
「あ、バレた」
「は?」
「なんでもないわ。えぇと、話の続きね」
意味深な言葉にまさか……と緊張していたら、次に出てきたのは間の抜けたセリフで、肩の力が抜けた。
こほんっと咳払いをしてから、メイプルは「ちょっと話はそれるけれど」と前置きしてから喋り出した。
「二番目の召喚はね、遠方にいる特定の条件に当てはまる、見ず知らずの誰かを強制的に呼び出すためのものなの。例えばそう……強力な力を持った人を見つけて、戦ってもらうために、ね」