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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第一章 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者
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4-2 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 黄金の鉄の塊でできた国

 ラベル市街の中央広場。

 各ギルド施設や役所などが向かい合う円形の広場には巨大な噴水が鎮座しており、冒険者の姿が多く見られた。露店なども出ており、待ち合わせ場所によく使われているらしい。

 現に、冒険者らしい複数人の男女が、露店で薬草っぽいものを購入しており、見るからに屈強な斧使いの男が、噴水の縁に腰掛けた魔法使いの女性や軽装姿の青年剣士と地図を見て作戦を練りながら、露店で売っているパンを齧っていた。

 一般人や各ギルドの職人たちも行き交い、同様に買い食いや待ち合わせをしている。

 ファンタジーの日常光景を目の前にして、俺はたちしかし別のところへ目を向けていた。


「なぁ、あの鎧ってドラゴンの鱗でできるよな?」

「えぇ、多分ワイバーン種かしらね。あのハンt……冒険者、中々やるわよ」

「おい、今ハンターって言いかけただろ」

「仕方ないじゃない。レ○ス装備好きだったんだから」

「俺は○リン装備」

「アンタ絶対女性キャラ使ってたでしょ」

「何故わかったし」

「ほら、二人とも行くよ?」


 エルナに呼ばれ、俺たちは中央広場を抜けた先の、ほんの少しだけ盛り上がっている小さな丘に鎮座するその建物へと近づいていく。


 冒険者ギルド・ラベル支部。

 入口頭上に掲げられた看板にそう書かれている二階建ては、他のどの建物よりも頑強なイメージを俺たちに与えてくる。

 中央広場の建物はどれもしっかりとしつつ綺麗な造りなのだが、ラベル支部のそれは冒険者たちが集ってできたオーラによるものなのか、それともただの錯覚か。


「緊張してるからじゃないの?」

「だよな」


 重厚そうな木製の扉を開いて中に入ったエルナに続き、俺とメイプルはそれぞれ声を漏らす。


 現代日本の役所関係の設備をほぼ木製にしたような内装に、飲食もできるスペースが設けられたそこは、思っていたよりもずっと綺麗で、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 冒険者たちは各々の時間を過ごしているが、酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている様子はなく、少しアンティークな内装のファミレスや喫茶店に来たような気分になる。


「思っていたのと全然違うな。もっと荒々しいのを想像していたんだが」

「フィクションと現実は違うってことかしらね」

「まぁ、こっちの方が落ち着くからいいか」

「そうねぇ」


 これなら、自意識過剰な冒険者から絡まれたりする心配もなく、訳の分からない突発イベントに巻き込まれることもなさそうだ。

 時折俺たちをチラッと見てくる冒険者や職員がいるが、声をかけてきたりだとか、露骨にじろじろ観察するようなことはしてこないので、感心したり安心したりしている。

 カウンターに着くと、二十代前半に見える明るいブラウンヘアーの受付嬢が笑顔でエルナに会釈した。


「おかえりなさいエルナさん。……その様子だと、やはりありましたか?」

「はい。そのことについて、お話があります。後、マスターを呼んでください」


 そう言って俺たちへと一瞬だけ振り向くエルナに、受付嬢は表情一つ変えずに頷くと、奥へと―応接室と案内してくれた。


 調度品はあまりなく、しっかりとした、見るからに高級そうな長机と椅子がある簡素な部屋だったが、掃除が行き届いているのか空気が澄んでいて、とても綺麗な印象を受けた。

 席に着くと、対面に座した受付嬢がエルナから報告を聞きだし始める。途中でお茶を持ってきた男性職員(オオカミ耳)が入ってきたが、用事を終えて受付嬢から耳打ちされるとすぐに出て行った。


「―そして、二人は異国から召喚されてサキュバスの巣窟に飛ばされ、直後にエルナさんが救助した。サキュバスたちは何処かへ消えてしまった……と」


 バインダーに挟んだ専用用紙(!)にエルナからの報告を書きとめると、今度は俺たちへと視線を向ける。


「大変でしたね……何もなくて幸いでした」

「えぇ、エルナさんのおかげで助かりました」

「うんっ、エルナおねえちゃんすごかったのぉ♪」


 屈託なくころころと笑うメイプルに頬を緩める受付嬢。知らないって幸せだと思う。

 と、先ほどのオオカミ耳職員さんが入ってきたのを見て、エルナが席を立った。


「それじゃあ私はマスターへ報告に行くから、二人はここで待っていてね」

「わかった」

「おねえちゃんいってらっしゃぁい♪」


 エルナが部屋を出ると、受付嬢さんが「さてと」とこちらへ視線を戻す。


「それでは、ハルキさんとカエデちゃんの出身地をお伺いしてもよろしいでしょうか? お二人の無事をご家族やご友人にお伝えしますよ」

「えと、多分結構遠い場所だと思いますよ……この大陸にはないかと」

「わたし、おにいちゃんといっしょにねとげしてたの♪」

「ジパングってところでして」

「おうごんのてつのかたまりでできたくにだよぉ♪」


 受付嬢は表情を崩さずに「そうですか」と頷くと、用紙に「ジパング」と記入した。


「ありがとうございました。何かわかりましたらエルナさんを通してお伝えします」

「はい、こちらこそありがとうございます」

「いえいえ。それでは、何かありましたらこちらの鈴を鳴らしてお呼びください」


 彼女が部屋を出ていくと、メイプルは屈託ない笑顔で茶菓子を頬張りながら、両手をぽんっと軽く叩いた。


「しつけがいきとどいてるねぇ」

「……。……うん、そうだな」

「わたしたちがしょうかんされたってきいてもおどろいやようすはなかったけれど、ちょっとおもうところはあったみたいねぇ」

「……。……なぁ」

「なぁに?」

「防音にしたなら普通にしてくれていいぞ?」

「ぼうおん? はるきおにいちゃん、まさかじつのいもうとを」

「いい加減にしないと俺の右腕がストレスで頭上にマッハだぞぉ?」


 引きつった笑顔で握り拳を作って見せると、メイプルは「はぁい」と普段の声音で返事をしながら、カップに口を付けた。先ほどまでの子どもらしい両手持ちではなく、片手で優雅に傾ける姿は大人びた雰囲気を醸し出している。いや、中身は大人なんだが。

 こいつがこんな話をするということは、部屋に防音なり盗み聞きできないような細工をしたんだろう。壁に耳あり障子に目あり。街に入る前に決めたルールの一つで、メイプルが両手を軽く打ち鳴らしたら、それは魔法を使った合図だ。


「話を戻すけど、あのお姉さん、私たちが召喚されたって聞いたとき、わずかに反応していたわ」

「わかるのか?」

「まぁ、本当に微かな目の動きだけどね」

「お前っていちいち凄いよな」

「それほどでもないわ」


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