6-9 サキュバスと蒼海の魔王 大好き
「ハルキ……お兄ちゃん……」
水しぶきを立てて沈んで行った姿が、脳裏でずっと繰り返される。
どうして、そんなことをしたの?
ねぇ、どうしていつも――――――。
「どうして、|二人《》とも、そんなことばっかりするの?」
気が付いたら、口から心の声が漏れていた。
涙が、さっきとは違う種類の涙があふれてくる。
もうダメだって、思ったのに……ごめんねって、言ったのに。
諦める口調を何とかしろって、言われた。
「自分が、諦めてるよ……」
涙があふれて止まらない。
浮かんでこない。
魔力を使い果たして、気を失っただけなら浮かんでくる可能性はある。でも、命が失われていたら……もう二度と浮かんでこない。
二度と、会えない。
「あ、あああああ…………」
恐怖が、体をむしばむ。
自分が死ぬことも恐ろしかったのに、よく見知った人が、大切になった人が消えることが、耐え難いほどに恐ろしいなんて。
急いで助け出したい。
でも、もうこの体に残っている魔力では、彼を助け出したところで、リヴァイアサンの追撃で二人とも海水ごと蒸発させられる。
あぁ、どうして、どうしてこんな時に、大切な時に――――――!
「私なの?」
『そうだ、貴様だ』
リヴァイアサンの声が上から聞こえてくる。
きっと私を見下ろして、口には破壊の光をため込みながら。
『貴様が、あの男を殺したのだ』
そうかも、しれない。
結局、大切な人は消えて、そして、自分も殺される。
大切なもう一人も抱えたまま。
『どんな気分だ、大切な者と引き離される気持ちは……』
悲しい。痛い、苦しい、怖い、冷たい……死に――――、
「たくない」
『ん?』
死ぬのは、嫌。
あの人が嫌がっていたのに、私がそうやって逃げることは許されない。私が許したくない。
「わかったけど……わかりたくない」
大切な人と引き離される気持ちは、痛いほどわかっている。
これまでも、妖精や魔族の子で、死に別れした経験はある。
だから、新しい大切な人が永遠に消えるかもしれない現状が、とても怖い。
だけれど、この人みたいに、だからと自暴自棄になったり、誰かを傷つけたいという気持ちは、わかるけれど、わかりたくない。わかりきってしまったら、きっと顔を合わせ辛くなるから。
「諦めたくない!」
諦めるのは、もう十分だ。散々だ。
二人は決してあきらめなかったのに、私が諦めたら、駄目っ!
それが、あの人に生きる楽しさを教えてもらった、私の義務だから!!!
「チェーンッ!!!」
意識を海中へ向け、反応があった場所目がけ、チェーンを放つ。
高速で射出された魔力の鎖が、沈みかけていた彼の体に巻き付き、伸びた時よりも少しゆっくりした速度で戻ってくる。
『無駄だ』
「無駄じゃない」
『今から消し飛ぶ。無駄なことなどせず、楽に二人して消えるがいい』
「消えない、諦めない」
『決して逃れることはできない。後、五……四……三……』
「諦めない、諦めたら……」
そこで、試合終了だから。
「そうだよね、ユィーハお姉ちゃんっ」
『二……一……散れ』
世界が、意識が真っ白に染め上げられていく。
その中で、あぁ、彼の体が海水から引き上がえられて、私のすぐ傍に来た。
「ごめんね、二人とも」
大好き。
あら、終わりじゃないわよ?