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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第五章 サキュバスとエロ漫画野郎と蒼海の魔王
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6-8 サキュバスとエロ漫画野郎と蒼海の魔王 大切な人がいるなら


『私は、私は悪い子じゃない!!! 私は、私はぁぁぁぁっ!!!』


 ああもううるせーな……どうにか鼓膜は無事だが、頭がえげつないくらい痛い。


『うぅん、そうだ、私は悪い子、悪い子なの……』


 リヴァイアサンが、乾いた笑い声を漏らした。


『そうよ、私は悪い子、邪神クッタクァに眷属化された悪い子! だから、だから』

「怒られたい、てか?」


 俺の掠れたつぶやきに、リヴァイアサンは嬉しそうに反応した。


『そう! だから来て、私を叱って! ねぇ、来てよ、叱ってよ!!! ねぇぇ!!』


 懇願だった。

 それは、さっきまで魔王として振る舞っていた怪物などではなく、ただ、迷子になった子どもが親を呼ぶように、悲しく、寂しい、そんな――――。


「そんなことのために、世界を壊すの?」


 メイプルの声が、聞こえた。

 彼女は肩で息をしていたが、ぐっと何かを堪えるように顔を険しくして、リヴァイアサンを睨みあげていた。


 リヴァイアサンは、今まで無視していたメイプルに、向き直った。


『そう! そうすれば、あの人は来てくれる! だって、あの人は正義のヒーロー、勇者なんだから!』

「……その人が来たら、どうするの?」

『すっごく戦って、負けて、私、あの人に叱られるの。きっととっても怒られる』


 少し震えて、しかしリヴァイアサンは嬉しそうに、本当に嬉しそうに、


『それで、姉妹にもすっごく怒られて、それからやりなおそうって、一緒にまた世界を回るの。もうお姉ちゃんたちはいないけど、きっと、また楽しい旅が始まるの』


 夢を見る、少女のように。


「……ふざけないで」


 メイプルの声は震えていた。

 怒りで、爆発しそうになるのを、必死で堪えるように。


「そんな事のために、傷つく人や、生き物たちがいるの。皆、死にたくないって、誰かを失うのは嫌って、そう思ってる」

『私だって嫌だもん。でも、あの人たちが来るには、これくらいしないとダメだし……だったら、街だけでも破壊しちゃおう! ほら、傷つく人、少ないし。間違ってそれで死んじゃったら、それはその人の運命、寿命だよね!』


 あ、これ、駄目な奴だ。

 俺が思ったのと、メイプルから爆発的な魔力が漏れたのは、ほぼ同時だった。


「自分が、何を言っているのか、わかっているの?」

『え?』

「そんなことしちゃダメって……その大切な人に、教わらなかったの?」

『教わったよ?』

「じゃあ、そんな事をしたら、その人は、貴女のことを……嫌いになるよ?」


 メイプルの決定的なひと言に、リヴァイアサンの動きが止まった。


『……ならないもん』

「どれだけ寂しくても、やっちゃダメだよ」

『嫌いになんて……』

「どんなに悲しくても、今を生きて、明日を迎えたい人を傷つけちゃダメだよ」

『違うもん……ならないもん、私のこと嫌いに……』

「私の大切な人は、どれだけ寂しくても、私たちを傷つけなかった。私たちを、喜ばせてくれた!!」


 メイプルは大きく両手を広げた。まるでリヴァイアサンを抱きしめると言わんばかりに、堂々と、勇ましく。


「だから、大切な人がいるなら、そんな悲しいこと、やめて!!!」

『うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!』


 リヴァイアサンの極細の破壊光線が、メイプルを撃った。

 だが、それは俺が事前に撃ちこんでおいた魔弾によって発動したベールに掻き消される。


 メイプルは防御する体制も取らず、リヴァイアサンを見上げ続けていた。


 いつものメイプルとは、やっぱり違う。

 けれど、彼女の目に浮かんでいるのは、優しい光だった。


「どうしても、やめないんだね……」

『私は……我は……あの人に会うためなら、犠牲は厭わんッ!!!』


 口調と雰囲気が魔王に戻ったリヴァイアサンの口に、光が集中する。


 マズイ、もうちょっとなんだ、後三十秒、いや、少しでいい、ほんの少しでいいから、アイツを、メイプルを守らなくては……。


 と、その時だった。

 目の前に、何かが海に落ちてきた。

 それはすぐに浮かんできて、それを見た瞬間俺は、迷いなくそれを掴んだ。


「ごめん、ごめんね……ハルキ……」


 メイプルの声が聞こえる。

 もう終わりだと、諦めている声。


 あぁ、まだ気弱なまま、ではないな。

 高潔な意思をどこか感じる。

 それでも、涙声だったけど。


 破壊光線がチャージ完了と共に、リヴァイアサンは目を見開いた。


『消えろ、サキュバスッッ!!!』


 迫る光に、メイプルはフッと涙を流して、それでも儚く笑っていた。


「ごめんなさい、ユィーハお姉ちゃん」


 かっこつけやがって。


「ぇ?」


 メイプルの呆けた声が、後ろから聞こえた。

 ギリギリセーフ、だな。


 ベールに包まれた俺の腕と、支えられたエーテル・ランパートが、リヴァイアサンの一撃を防いでいた。


「じゃあ、せめて諦める口調、なんとかしようぜ」


 そう言って、上級ポーションで回復した分も含め、今度こそ魔力が尽きて、俺は海へと落ちて行った。


晴樹、再起不能――――。

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