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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第五章 サキュバスとエロ漫画野郎と蒼海の魔王
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6-6 エロ漫画野郎と蒼海の魔王 迷子の人魚姫

 言葉を失った俺に、リヴァイアサンは笑いかけてきた。

 嘲笑ではなく、空虚な笑みだった。


『チート能力は嬉しいか? 楽しいか? その程度の玩具で笑っている地球人よ。無駄だ。あの方に、貴様はもちろん、神々も勝ち切ることなどできまいよ』

「やってみなきゃわかんねーだろ」

『ふふっ、そうだな……我が知る限り、それができそうなのは……一人くらいだな。だが、その人はもう、おらん』


 その人、という時だけ、リヴァイアサンの目が、とても優しいものになった。

 何だ、今のは。


『地球人よ。我と戦うのはよせ。神々の願いに答えることもあるまい。もとより、貴様は関係のない世界から来たのだろう? わかるぞ、貴様の世界には、恐らく、あの方々は近づいてすらもおるまい。なら、この世界があの方のものになった後で、我があの方に、貴様だけは元の世界に戻れるように頼んでみよう。それならどうだ?』

「は?」


 おいおい、まさかそれって……。


『もしここで我の仲間になるのであれば、お前を元の世界に戻してやろう。どうだ?』


 あぁ、お前……お前。


『ふむ、そうだな。このサキュバスの小娘と、上を飛んでいる者たちも含めよう。貴様以外の者は、我の眷属として、無事を保証しよう』


 お前……リヴァイアサン……。


『疲れただろう……お前は勝てぬ戦いをしなくてもよい。地球は住み心地のよい場所なのだろう? いつか、あの方たちが地球へ行く時があれば……その時は、お前が地球の支配者になるというのはどうだ? きっと楽しいぞ』


 お前、それは……。


『だから地球人、我の仲間になれ』

「断る」


 即答。

 それと同時に、メイプルの左腕を、鎖ごと破壊光線が包んだ。

 だが、光が止んだ時、メイプルの五体も、衣服も傷一つなく、健在だった。


 俺が魔弾を使い、メイプルに光のベールを展開しておいたのだ。だが、込めた魔力分だけの障壁は、役目を終えると消えてしまった。


 残念な事に、奴の使っている鎖が破壊されていることはなかった。


『貴様、後悔するぞ』

「後悔してるのはお前の方だろリヴァイアサン!!!」


 何だよそれは!


「お前、ただ自棄になってるだけじゃねーか!!!」

『何ッ?!』

「何があったかは知らない。けど、邪神たちに力をもらって、それで世界を支配して、けどそれがお前の望みって訳じゃなさそーだからよ!」

『知った口を利くなぁ!!!』


 破壊光線が、今度はちゃんと俺へ向けられた。それを防御せずに、真正面から受け止める。


 湧き上がった怒りが魔力に変換されている今、これくらいなら問題なく受け止められる。


「いいか、テメェ……俺は別に、憐れまれるほど、今の状況が最悪って訳じゃねぇんだよ」


 確かに、理不尽だとは思うし、労わってくれる人がいると、ちょっと嬉しいと思ってしまうのは確かだ。

 だが、憐れまれるというのは、ましてやそれをネタに邪神の手伝いの片棒を担げと言われるのは、俺にとっては違うんだよ。


「この力は……確かに、星海の邪神を倒すために渡されたもんだよ。それが誰なのかはわからねぇけど、少なくとも、この世界でちゃんと俺が生きていけるようにと、くれたもんだと思う」


 最初にサキュバスの隠れ家に飛ばされたのは大変遺憾だが、メイプルとエルナと出会うためだったのであれば、きっと……。

 そして、二人と出会ったから、今ここにいる俺が居る訳で。


「約束したんだよ、俺は」

『約束?』

「星海の邪神を倒すために、できることをやる、ってな!」


 そして、俺は俺の世界へ帰る!

 メイプルと一緒に、彼女の中の、彼女と共に!!

 それと、伊月さんもだ。彼は今どうしているだろうか。

 邪神を倒す時、彼とその守護霊や愛馬も一緒だろうから、きっと大丈夫。あの人も一緒に帰るんだ。


 そうでしょう、ナターシャさん。

 そして、貴方が俺に託した、彼女の事も、理解しました。

 救うなんて大した事は言いません。


「蒼海の魔王リヴァイアサン、アンタを、悲しみから解放する」


 せめて、星海の邪神に利用されている今の状況から、解放します。


 それでどうにもできなければ……その時は……。


 俺の宣言に、リヴァイアサンの顔に怒りが満ち満ちていく。

 そして、ぐあっと大口を開け、破壊光線を俺へと放った。


 もちろん、俺にそれは通じない。メイプルにベールを込めた魔弾も撃ちこんだ。奴の意地の悪い破壊光線も一発くらいなら防げる。

 鎖による処刑方法も、ベールが防いでくれるはずだ。


 俺とリヴァイアサンの視線が、交差した。


『おのれぇっ、何も知らぬ貴様がァッ、ざれるな雑種がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

「ごちゃごちゃうるせーぞ、素直に寂しいって言えよ迷子の迷子の人魚姫ッ!!!!」


 メイプルから奴の気を逸らしつつ、攻撃するなら、これしかない。

 俺はシールドの後ろに常時展開している小型魔法陣をフル稼働させた。

 群青色のジェットを噴き出した瞬間、俺はリヴァイアサンの目と鼻の先にたどり着いた。


『何ッ?!』

「オラオラオラオラオロアロアロアオラオラオラオロアロアロアロアオラオロロア!!!!」


 至近距離で、しかし咄嗟に奴の放った破壊光線が直撃する。

 ベールのおかげで無効化されているが、魔力が高速で削られていくのがわかる。

 だからこそ、俺は強化された拳を振るう。


 装填した魔弾の力が籠った両手の乱打が、奴の鱗を、体をぶち抜いていく。


『おのれぇぇ!!』


 顔を振るわれ、俺はエーテル・ランパートで防ぐが、距離を離されてしまった。

 だが、まだ終わらせない。

 まだ手の中に残っている魔弾がある。


「残らず持ってけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 気迫の乗った言霊と共に、目一杯伸ばした両手から魔弾がばら撒かれ、全てリヴァイアサンへと命中した。

 その時、自分の手の甲が見えたが、拳骨部分の籠手は破れ、下の皮膚が破けている。

 よくこれで済んだもんだ。

 感触からして、骨までむき出しになっている想定だったのだが。


「ハルキ、危ない!」

「!」


 メイプルの悲鳴に、俺は咄嗟に回避行動へ移ろうとして、シールドのボードが全部消えていることに気付いて……海に背中から落ちた衝撃を感じるのと、奴の緒が目の前に迫るのは、同時だった。


 確かな死の予感に、しかし諦めずに伸ばした両手で、エーテル・ランパートを張れば!!


『去ねぇぇぇッ!!!』

「がぁぁぁぁぁぁぁ?!!!?」


 尻尾の衝撃と、破壊光線が一変にやってきた。

 こいつ、自分の尻尾が焼かれるとは考えていないのか!?


 と思ったら、尻尾は無事なようだった。こいつ、自分の攻撃じゃ傷つかないのかよ!


 海に思いっきり沈められた。

 真夜中の、真っ暗な海……視界が、海面までの距離を掴む。

 水深百メートル……俺が無事なのは、リアさん由来のベールがあるから、だろうな。


 っと、まずい、アイツ、海に潜ってきやがったぁ!!


『このまま海溝まで叩き落としてくれるわ!!!』

「冗談じゃねーぞ!!!」


 クジラの歌のような、そんな音色を、翻訳能力が殺意満載の言葉へと変換してくれた。

 答えはもちろんノーサンキューだ。


 息はある。

 鍛えられまくったおかげで、咄嗟に吸い込んだ息だけで、かなりの間潜っていられそうだ。

 だが、戦いながらではそれもすぐに尽きるだろうから、とっとと浮かび上がるに限る。

 幸い、素潜りの際に気を付けなければならないこと全部を、無視できるからなぁ!!

 と言う訳で、アディオス、リヴァイアサンッ!

 奴の突撃を回避し、靴裏に展開した魔法陣ジェットで、超高速上昇。


『このチートがぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

「チート使ってんのお前の方だろうが!!!」


 一気に海上へ、そして夜空へ、メイプルの下へ浮かび上がって、彼女の鎖を全部ベールを纏った手刀で斬った直後、


『がぁぁぁぁぁ!!』


 奴の下からの突き上げに、俺はメイプルを手で押し退けた直後、更に上空へ跳ね飛ばされた。


「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 トンデモナイ衝撃に、絶叫が口から洩れた。内臓、やられてないよな……骨も、いってない……リアさん、マジありがとう。


 だが、そんなムテキなベールも限界が近くなっている。

 ポーションを飲めれば、後、もう少しなんだ……!


『どうした、チート同士の戦いでこの程度ではぁ!!! 他の世界で、貴様よりも強き者たちがいた軍団を返り討ちにしたあの方々に、勝てはせんぞぉぉぉぉ!!!』

「他所は他所ぉっ、ウチはウチぃぃぃっ!!!」


 ヤケッパチに叫びながら、奴の破壊光線を再生成したシールド・ボードに乗って回避する。


『貴様程度の力などぉ、我の知る者の中でもおったが、それでも勝てんぞぉぉぉぉ!!』

「マジ、かよぉぉぉッ!!!」


 聞きたくなかったが、有益な情報を耳にしながら、奴にカウンターの魔弾をお見舞いした。

 ふとメイプルが気になってそちらへ一瞬だけ視線を向ける。

 ふよふよと空に浮かんだメイプルが、息も絶え絶えに俺たちを見ていた。

 逃げないのは、それで狙われる可能性があるから、か。


 すぐに視線をリヴァイアサンへ戻すのと、奴の破壊光線が俺を撃った。

 まずい、今ので残りの魔力、ほとんど持って行かれたっ!!


「くっ!」


 残っている魔弾は五発。

 再生成する余裕はない。

 シールドも、次破壊されたら修復できない。

 魔法陣も節約気味にしているおかげで、ほとんど滑空している形になった。

 収納魔法を開ける回数は二回くらいか。


 サイレント・ムーヴはもうとっくの昔に、普通の身体強化へ移行した。それももうじき切れる。

 その前に、ベールが切れる。


 万事休す。


 お月様を見る。

 空に輝く満月が、俺たちの死闘をずっと見守り続けている。

 あそこに、月の都などはあるのだろうか。きっと、あるんだろうな。

 そんな事を考えながら、俺は覚悟を決める。


 後、後少しだ。

 だが、それでどうにもならなければ……最後の手段を取らせてもらうしかない。


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