5話 ずるい勝ち方
「この度はご愁傷様です。父上の件さぞ残念だったでしょう。」
「いえいえ、父は幸せだったことでしょう。」
「それでこちらのお方はどちらでしょうか?ケール様」
俺は今父親の葬式に出ている。
本当は挨拶だけして帰るつもりだったのだがリアを賭けて決闘しろなどと脅迫されて仕方なくここに残っている。ちなみに俺が勝った場合はイザージの個人的な財産を没収する手筈になっている。
「弟のレオナートです。もっとも今はヴィアベル家に嫁いでいますが。」
「ほうでは彼が!」
「弟が何かいたしましたでしょうかライムンド様。」
驚いている40代半ばといったところのライムンドに答えたのは長男のケールではなく俺に決闘を挑んできた次男のイザージだ。
「いえ、ただ彼が先日買い物をした店がうちの系列だったもので、連絡が入っていたのです。」
「ほう、それは興味深い。」
今度はケールが答えた。いいコンビネーションをしているとある意味感心してしまう。
イザージがライムンドの話を聞いてからニヤニヤこっちを向いてきているのが微妙に腹に立つ。
「連絡が入るということは相当に高いものを買ったのでは?」
「いえ、彼が買ったのはライターですよ。」
「それはどういう?」
ケールが少し首をかしげているが、そんな時ライムンドがわざとらしく時計を見た。
「申し訳ございません。実は少し野暮用がありまして、この話は今日の公開決闘の後にでも。」
「ああ。それがいいな。」
イザージはどうやら本気で勝てる気でいるようだ。確かにイザージの魔法の属性は火で本来は強いものなのだろう。そして空気が勝てるはずがない。だが忘れてはいけない。俺は火が燃える仕組みを知っている。
「では失礼させていただきます。レオナート様ご健闘を。」
なぜか最後にライムンドが俺に対していってきた言葉がなぜか心に残っていた。
「じゃあ、俺も決闘の準備とかあるからもう抜けていいかなケール兄さん。」
「ああ、構わない。」
「へっ!リアにおめかしでもさせとけよ!」
何か後ろからクソイザージの遠吠えが聞こえるが無視して俺は宿に戻った。
「それじゃあ準備はいいな?」
「ああ、俺はいつでも構わねぇぜ。」
「僕も大丈夫です。」
俺とイザージは今向かい合う状態でアラスター家の訓練場にたっている。
詳しく言うと訓練場のなかにある土俵の2倍ぐらいの広さでラインが敷かれている場所にお互い立っている。
ルールは簡単。相手を場外に押し出す、もしくは相手の気絶が勝利条件だ。
「試合後の異議の申し立ては認めないいいな。」
審判は決闘用の審判がいるためにその人にやってもらう。なぜそんな仕事があるのかというと短気な貴族の間ではよく下らないことで決闘が起こるから貴族の家には一人はお抱えの審判がいる。
ちなみに意外にも観客が多い。どうやら今夜この領に泊まっていく貴族たちが暇つぶしにみにきたようだ。その中にはライムンドの姿もある。のちに知るのだがライムンドはアントリー商会でトップから3番目程度にえらい。
ちなみにリアは試合の会場に結界を張ってもらっている。やはりリアは相当に優秀な魔法使いなのだろうと再認識した。
「それでは試合開始!」
試合開始の合図と同時にイザージはお得意の火の魔法を放とうとする。
「喰らえ!『火弾』」
その魔法により3つほどの火の弾が俺に向かって飛んでくるはずだった。
だが、俺には日本の知識があり勿論理科の授業を受けたことがある。
なのでイザージの周りの空気の酸素濃度を下げた。
そのためにイザージのお得意の魔法はマッチ程度の火が一瞬着いたと思ったらすぐに消えてしまった。
「何故魔法が発動しないんだ!くそっ!『火弾』『火弾』『火弾』!」
イザージが喉が枯れるのではというほどの声で叫ぶが全く魔法がでない。しかし、それを見ている観客はイザージを嘲笑うことはしない。何せ彼らはイザージがどれ程の火魔法の使い手か知っているからだ。その為に魔法が発動しないのは俺が何かやっているのだろうと次第に理解し始める。
「どうしました?兄さん。俺はここにいますよ?」
「くそがぁ!その煩い口を今すぐ燃やしてやる!」
すると詠唱無しで使える変わりに余り威力のない『火弾』と違い、詠唱有りの威力が高い魔法の詠唱を始めた。
『我が求めるは彼の者を紅蓮に鎮める炎なり。我が望みに答え彼の者を燃やし尽くせ』
『紅蓮』
すると俺を筒いこんでしまう程の巨大な炎が発生しなかった。
確かに先程までの酸素濃度だったら俺は今頃灰になっていることだろう。だが、あんなにも長い詠唱をしていたのだからその間に酸素濃度を先程よりも下げておいたのだ。その為今回もまたマッチ程度の火しか発生しなかった。
因みになぜ俺がイザージの周りの空気を弄って気絶させなかったのかというと、人のすぐ近くの場所の空気濃度は弄れなかったからだ。どうやら人から無意識で漏れ出している魔力に干渉してしまっているようだった。
「終わりましたか?兄さん。」
「くそっ!くそがくそがくそがくそがぁぁぁっ!」
イザージが俺に向かって再び魔法を唱え始める。
『火弾』『火弾』『火弾』『火弾』『火弾』『火弾』『火弾』!
しかし火が着くことは決してない。
いや、正確には最初の方は本当に少しだけついていたのだ。だが次第に火力が弱まっていったのだ。
バタンッ!
イザージ兄さんが意識を失って前のめりに倒れた。
どうやら魔力が既に空のようだ。俺は殆ど満タンなのだが。
「勝者ヴィアベル・レオナート!よって彼に3億ベルが渡る!」
「おい、空気属性が勝ちやがったぞ。」
「何か魔道具の類でも使っていたのではないか?」
「いや、少なくとも感知できなかった。」
「じゃあ何だってんだ。魔法を封じる魔法だとでも言いたいのか。」
「それも違うだろう。そもそも魔法は魔法に直接干渉出来ないはずだ。」
「そんな能が空気属性にはあるっていうのか?」
「ふざけるな!そんなことがあってたまるか!空気属性如きが!」
「興味深い・・・」
全員が壮大な想像を働かせているが地球ではそんなことは小学生で習うことだからそれを大の大人たちが真面目に考えているところをみると少し面白い。
「あなたっ!」
さっきまで結界を張り続けていたリアが俺の胸元に飛び込んで顔を埋めてくる。
「リ、リア!?どうしたのそんなに慌てて!」
「いえ、ただあなたが怪我したらどうしようかと・・・。」
「と、取り合えず離れようか!」
結構な力を込めてリアを引き離そうとするのだが中々離れてくれない。
「いやです!」
「嫌って、何が!」
「なんでもです!」
すると先程まで周りの野次馬に混ざっていたはずのライムンドが近寄ってくる。
「お疲れ様です。いやはや見事でしたね。まさかあの武器を使わずに勝ってしまうとは驚きましたよ。」
「本音を言うと使いたかったんですけどね。あの武器はどうにも殺傷能力が高すぎるようで。」
「本当はレオナート様に要件があってきたのですか・・・。今は無粋の様なので明日の朝にでもあなたの部屋に向かわせていただきます。」
ライムンドの視線が俺の胸元に抱きついて離さないリアに向かう。
「すみません・・・。じゃあ明日の朝食を一緒に取りますか。その時にでも話を聞きます。」
「では、それでお願いします。」
因みにレオナートは気づくことがなかったがリアは「いい匂い・・・」などと言い幸せを堪能していたのだった。