18.ゆめ
彼は、舘を見ていた。
ここにいるのが幻のような気がしてきた。
ただ一つ求めていたもの、それがこの奥にある。それを考えるだけで彼の胸ははち切れそうだった。
そして、その舘の唯一の守りである櫓が空になるのを見た。
(今すぐにでも、やれる)
彼は門の前まで歩み、そびえ立つそれを見上げた。
(……俺はやる。トウマが何と言おうと……キクチヒコが何と言おうと)
突如。
門の向こう側で何かが叩きつけられるような音。
それに続いて、空気ごと震わせるような衝撃があたりに響いた。
(な――なんだ!?)
彼は思わず身を引いたが、その巨大な門がいささかの衝撃で倒れるはずもなく。
ゆっくりと余韻が引き、静寂が訪れる。
(……なにか……落ちた?)
閂をはずし、確かめるために扉を開く。
するとそこには――
手折られた花のように、一人の女がうつぶせに倒れていた。
「……おい?」
声をかけるが、女は動く気配もない。
彼は辺りを見回した。天空まで続くような長い階、それを挟んで立つ板塀、光と陰の交錯する深い杜。
いまなら、誰にも気付かれずに行けると――そう思って、再び女に目を戻す。
「おい、大丈夫か」
しゃがみ込んで抱え起こすと、女はひどく華奢な割に重かった。完全に気を失っている。
それどころか、その触れた手の冷たさに彼は打たれたように目を見開いた。
(死んでる……?)
抱えた女を仰向けにして、彼は二度驚いた。
(この女、巫女か!)
彼は息を呑んで、抱きかかえた女の顔を見つめた。描かれた紅い黥が異様に浮き上がって見えるほど血色のない顔色をしているが、美しかった。
(まさか、この女……この女が)
心臓がかつて打ったことのないような速さで拍を打ち、全身が熱を持ったように熱くなってくるのが分かった。
だが、ふいに安堵か失望か、ふっとよぎったもので彼は我に返る。
(いや、どう見ても違うな……若すぎる)
彼は頭を振り、女の口元に手を当てた。息をしていなかった。
(死んでるのか生きてるのか。どっちにしても放っておくわけにもいかないか)
彼は女を抱きかかえて、その大きな門を抜けた。
扉の閉まる少し前に――もう一度、その奥を振り返りながら。
風が、向きを変えて荒れ始めていた。
杜の葉擦れの音だけが、去りゆく彼の耳に残っていた。




