18 雪の女王 四番めのお話 王子と王女
「御殿探索」
森のカラスのつたない言葉。
-ひとりぽっちで、どこへ行くの。
ひとりぽっちで、ひとりぽっちで。
エコーのように響く言葉。
-カイちゃんを見かけませんでしたか。
-あれかもしれない。あれかもしれない。
一人の王女さまがいる。それはそれはりこうな人。
世界中のあらゆる新聞を読んで、それをきれいに忘れてしまうほどの、
りこうな人。
-『どうして、わたしは結婚してはいけないの』
そんな歌を口ずさむ。
-いちばんじょうずに話のできた人を、おむこさんにえらぶ、
新聞にそのような文言。
だけど、たくさんの人が王女さまのところに行ったけど、
御殿の門をくぐって、
銀色の服を着た番兵を見たり、
階段をのぼって、
金ピカのお役人を見たり、
キラキラした広間へ通されたりすると、
皆は、ぼうっとなってしまう。
誰もかれもが、
まるで、かぎタバコをおなかにのみこんだみたいに、
ぼんやりしてしまう。
三日目のこと。
小さな男の子が、馬にも馬車にも乗らないで、
楽しそうに、御殿に向かって歩いてきた。
目は輝き、髪の毛は長く、きれいだった。
着物はみすぼらしいものだったけど。
背中に小さいランドセルをしょって。
御殿の門をくぐって、
銀色の服を着た番兵を見ても、
階段をのぼって、
金ピカのお役人にであっても、
男の子はびくともしなかった。
-『階段の上に立っているのは、たいくつでしょう。ぼくは奥へ行きますよ』
広間には、こうこうと輝く明かり。
そして、顧問官や大臣たち。
はだしで、金のうつわを持って…。
それはとてもおごそかな気持ちにさせて…。
男の靴が鳴る。
ものすごく高く鳴る。
男の子はちっともこわがらなかった。
それから、
つむぎ車ほどもある大きなしんじゅの上に
腰かけた王女さまとお話。
小さな男の子は、
王女さまのかしこさが知りたかったみたいだけど、
その子は王女さまを好きになり、
王女さまもその子が好きになった。
-ねえ、あたしを、御殿へ連れてってくれない!
ゲルダは中に入り、男の子のもとを目指した。
-あたしのすぐあとから、なにかが、来るような気がするわ。
いいなづけのカラスは言う。
-あれは、ただの夢なんですよ!
それからそれから。
王子と王女、二人の寝室まで行って、
確かめたのだけど、男の子はカイちゃんじゃなかった。
カイちゃんじゃなかった。
泣きじゃくったばかりに、おきだした王女さまに、すっかり話す。
-まあ、かわいそうに!
王女さまたちと一緒にすごした後、
馬車をもらって、
また、カイちゃんを探しに行った。
本当に、つらいつらいお別れだった。
馬車は、いつまでもいつまでも、明るいお日さまみたいに、
キラキラしていた。