ミッキーの彼女は有安の彼女?
埜乃はライブ終了後、リリィ達と別れると裏口へと回った。
今日はすでにミッキー(メイク姿のまま)も出てきていて、ファンの子達と話していたが、後ろにはまひろ達が陣取っていた。
有安とミッキーの秘密は、私だって偶然知っただけだ。
でも、もし彼女が秘密を知っているなら、メシア(仮)は年齢・性別・詳細不詳で行くと決めたのだから、黙っていてもらえるのか確認しておかねばならない。
・・・しかしミッキーの彼女に話しかけるというのもなかなか勇気がいるので、最初の一声が出てこない。
埜乃が迷っていると、どこからか内藤が現れた。
ライブハウス内では気づかなかったが、バシリスクを見に来ていたのだろうか?
有安と内藤はしばらく話していたが、メンバーとまひろに別れを告げて二人歩き出した。
最初は不満気だったまひろ達も、内藤の美形ぶりに気が引けたのか大人しく帰って行く。
埜乃はこっそりと二人の後をつけ、ギリギリ声が聞こえるあたりまで近づいた。
「内藤が来てくれるなんて驚いたけど。バンド興味あるの?どうだった?俺らのステージ」
有安が煙草に火をつけながら、前を歩いている内藤に話しかけるが振り返ることもなく無言だった。
それをさほど気にした風もなく有安が続ける。
「そういえば埜乃も来てたけど、一緒じゃないの?」
埜乃は慌てて物陰に身を隠す。
やっぱり、気づいてたよね・・・思いだすと改めて恥ずかしい。
・・・あれ、そういえば私はなんで隠れているんだっけ?
二人は人影のない公園に歩を進めていく。
公園の中心辺りで先を進んでいた内藤が立ち止り有安を振り返った。
内藤は無言で有安をしばらく見つめていたが、おもむろに口を開いた。
「驚いたよ、最初に写真を見たときはまさかと思ったけど。こうしてみると瓜二つといっても過言じゃない」
近付いて有安の頬をなでる。
それはどこか上の空で、有安に別の誰かを思い描いてているようだった。
髪をかき上げ、眩しそうに内藤を見返す有安との間に、なんだか怪しい雰囲気を醸しだしているのは事実で。
「俺、誰かに似てるの?」
「ええ、本当に」
「最初から、なんかワケありっぽい雰囲気感じてたけど」
「貴方はあの方に良く似ていらっしゃる」
内藤は有安の問いに応えると、右手を挙げ頭の上で大きく弧を描いた。
すると内藤を包む竜巻が起こり、一瞬で松濤の制服が肩にフリンジの付いた異国の騎士のような軍服に代わった。黒色のマントがはためいている。
脳裏に浮かんだのは・・・・コスプレ早着替え?
だがそんなレベルではないことはすぐにわかった。
軍服からは、上質な素材感と重厚感が溢れていて “本物“の雰囲気が漂っている。
「わ?わ?なんだ、ナチコス?」
有安も当然すぐには状況が飲み込めないらしく、その場で固まっている。
内藤は恭しく頭を垂れるも、行動は強引だった。
「ミキ様。お迎えにあがりました。私と一緒に来ていただきます」
内藤が有安の腕をつかむ。有安が事態を飲み込めないままも抵抗を示すと、しばらく呆然と金縛りに合っていた埜乃も、とりあえず止めなきゃ!と飛び出した。
「有安くん、内藤くん、何してるの!」
はっとすぐに二人が埜乃に振り向き、次に有安が来るなと手を伸ばした。
内藤がその隙に有安をマントで抱きしめるように包み込むと、二人はまばゆい光に包まれた。
埜乃は眩しさに目を細めながらも、必死に内藤のマントを掴む。
「ちっ」
内藤は小さく舌打ちをすると強くマントを引いた。
埜乃はそれでも手を離さずその勢いで地面に引き倒された。
内藤と有安を包むひときわ大きな閃光が放たれ、埜乃は眩しさに腕で目を覆った。
「埜乃、大丈夫か!」
「有安くん!!」
声の方向へ手を伸ばすが届かない。
埜乃が目を開けた時には、すでに二人の姿は消えていた。
「有安くん・・・・・。っイタタ・・・」
痛みに目をやると、倒れた時に腕と膝を擦りむいていた。
が、問題はそんなことじゃあない。
「消えた・・・・の?」
有安と内藤が・・・目の前から、本当に?昼間に白昼夢を見た気分だった。
さっきの光のせいでまだ目がチカチカする。
夢・・・だったのかな。
だが、夢オチを否定するように、右手を開くと内藤のマントの切れ端が握られていた。
それはほんの15センチ四方くらいの切れ端だったが、バチバチと電気を帯びていた。
触ろうとした指が切れ端を突き抜け、腕まで吸い込まれるように消えていった。
心霊写真のように、腕が空中に消えたのだ。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ~っっっ」
慌てて手を引き抜いて、手が元通りそこにあるのを確認できると、よろめきながらもなんとか立ち上がった。
・・・走りたいのだが、足がもつれて上手く走れない。
早く、早く誰かに話さなきゃ。
誰か、死ぬほど現実的な人に。