表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「照影と際涯」
82/352

攻勢の刻


 八機が限界とは言ったが、その八機から先は数えていなかった。短く息を吐き、リオは状況を整理する。

「関節の摩耗が早い。重力下はこれだから」

 立て続けに表示される損害警告を端に追いやり、アクティブレーダーに表示される情報から増援の接近を確認する。

 一頻り暴れた結果、周囲にはfの残骸が転がっている。故に武器と弾薬には事欠かないが、操縦している《カムラッド》は替えが利かない。主立った被弾はないが、無理な機動戦闘を強要したせいか不調が出始めている。

 迫る機影は四つ。迂闊な接近を避け、遠距離から牽制射撃を繰り返している。残骸の群れを見て、多少は学んだらしい。

 こちらは、遮蔽物に隠れてその弾丸をやり過ごしている。奪った突撃銃を構えたまま、どうやって数を減らすべきか考えていた。

「どうせ近付いたら散開するんでしょ。膝を使い潰すつもりで動けばどうにでもなるけど」

 関節が限界を迎えたその瞬間に、こちらの負けが確定する。ただ、このまま睨み合っている訳にもいかない。増援はまだ来ている。今は四機だが、これが八機十二機と増えていけばさすがに手が付けられない。アクティブレーダーの反応から察するに、今動かなければそうなる。猶予はない。

「結局、やってみるしかないんだよね」

 警告を鳴らし続けている《カムラッド》に再び機動を促し、遮蔽物から飛び出た。奪った突撃銃で牽制しながら前進するも、撃った倍数以上の弾丸が返ってくる。前進は諦め、左右に回避しながら応射する戦術に切り替えた。

 四機の敵《カムラッド》は、陣形を維持しながら中距離射撃を繰り返している。詰め寄ろうにも、無傷では近付けないと分かる。仮に片腕を犠牲にすれば、あの四機は獲れるだろうが。その後の戦闘は不利となる。

 そんなことを考えながら応射を繰り返していると、四機の敵《カムラッド》の内、二機が後退の動きを見せた。弾切れが不調か。どちらにせよ、このタイミングを逃す手はない。

 ペダルを踏み込み、一気に《カムラッド》の速度を上げる。地面を蹴り付け、一瞬にして最高速度を叩き出す。その勢いを一切殺さず、敵《カムラッド》に接近していく。

 迎撃の為に掃射された弾丸は、先程と比べれば遙かに少ない。後は詰め寄って、すれ違い様に二機を斬る。そして、そのまま踏み込んで後退している二機を斬ればいい。

 奪った突撃銃を手放し、空いた右手を右肩にあるE‐7ロングソードに伸ばす。

 違う、これじゃない。少しの悪寒と、理路整然に結果だけを弾き出す回路が、これは違うと叫んでいる。

 形振り構わず左に飛び、飛来した弾丸をすんでの所で回避する。四機の敵《カムラッド》が撃った物ではない。地面に着弾した弾丸は、一拍おいてから炸裂している。

 形成炸裂鉄鋼弾、大口径の狙撃銃だろう。遙か遠方に、こちらを狙っている部隊がいるということだ。

 降り注ぐ致死の弾丸を、後退することで回避していく。あれ以上詰め寄れば、確実に射貫かれていた。射線から狙撃部隊の位置を割り出すも、先に潰すのは難しいだろう。おいそれとは近付けない位置だった。

 一先ず遮蔽物まで後退し、仕切り直すしかない。しかし、好機を逃さないのは敵も同じだ。

 四機の敵《カムラッド》は一気に近距離まで近付いてくると、四方を囲むようにして散開した。突撃銃の薄暗い銃口がこちらを向いている。

 突撃銃による射撃は、その全てが牽制でしかない。回避した瞬間か、反撃した瞬間か。いずれにせよ、行動によって生まれる僅かな隙を狙撃される。一瞬で攻防がひっくり返り、呆気なく終わってしまう。そういう戦いなのだ、これは。

「でも、一機は貰っていく……!」

 どちらに動いても終わるのならば、少しでも数を減らす。手近な敵《カムラッド》を斬り付けようと、E‐7ロングソードを引き抜く。そのままの勢いで斬り払おうとして。

 敵《カムラッド》がぴくりとも動かなくなっている事に気付いた。遠方からの狙撃もない。

『よし、どうですか? 多少苦戦しましたが、これで完璧な筈です』

 エリルの自信に満ち溢れた声を聞いて、策が間に合ったのだと知った。

「はい、大丈夫そうです。間一髪でしたが」

 E‐7ロングソードを右肩に戻し、ただの鉄塊と化した敵《カムラッド》達を一瞥する。

 要は、やられた事をやり返したのだ。《アマデウス》の基幹システムを立ちどころに破壊してくれたコンピュータウィルスを、同じように送り込む。ifが一機でも奪えれば、リンクシステムで繋がっている機体全てに感染させられる。あわよくば、基地のシステムまで破壊できるかも知れない。

「ミユリさんの攻勢プログラム、ちゃんと作用したみたいですね」

 素人のクラッキングで破壊できる程、ifのシステムは脆弱ではない。何重にも張り巡らされた防御壁を、ミユリが改良した攻勢プログラムで突き破る。二度と通じない手とミユリは言っていたが、今は充分だった。

『ええ。これでポート・エコー内の、リンクシステムを実装しているifは無力化です。ですが、それすら時間の問題という奴です』

 エリルの言う通りだった。対抗手段は幾らでもある。再び動き始める前に、トワやクルーを探し出す。

「分かれて探しましょう。ここからが本番です」

 どんなに戦おうと、生き残ろうと。ここで見つけることが出来なければ意味はない。

「僕は滑走路方面に行きます。エリルさんは、そうですね」

 考え、イリアのことを思い返す。基地内の混乱に乗じて、イリアなら必ず動く。

「騒ぎが起こっている方を探して下さい。それが一番分かりやすい」





 ※


 雌雄は一瞬で決した。振動と爆発、基地内の混乱とくれば、何が起きたのか確かめる必要もない。だから、仕掛ける時は一瞬だった。イリアは左足の力を緩め、自分を連行していた兵士の首から退いた。殺してはいない。しばらくは気絶したままだろう。

 良いタイミングで襲撃してくれたと、イリアは安堵の溜息を吐く。あと少し遅かったら、収容所から脱獄もしなければならなかった。

「ようやっとお迎えが来てくれた訳だが。ここからどうするかね」

 リュウキがそんなことをぼやきながら、奪った鍵でクルー全員の拘束を解いていく。両手を後ろ手に拘束されていたが、それもここまでだ。

「どうもこうもない。合流して逃げるの」

 イリアは自由になった両手の感覚を確かめ、それしか出来ないと胸中で続ける。でも、リュウキが浮かない顔をしている理由は、充分分かっているつもりだ。

「ここから合流するのだって骨で、他の事は出来ない。そういう事だろ?」

 アリサがイリアに向け、たしなめるように言った。分かっている。

「リーファちゃんとトワちゃん、どうして別々に」

 ギニーの呟きが、全員の心中を物語っている。今ここにいるのは四人だけだった。リーファとトワは、別々に連れて行かれたのだ。ここに特務兵がいない以上、そちらに付いているのだろうが。

「とにかく、お迎えのifと合流するしかない。この状態で特務兵に見つかったら、そこでおしまいだし」

 そう言って、イリアはちらと右足を見た。包帯がじわじわと赤くなっていき、焼けるような痛みが込み上げてくる。あまり大立ち回りは出来そうにない。

「っと、その前に」

 イリアは倒れている兵士からPDAを奪い、壁にあるコンソールに近付く。PDAとコンソールを交互に操作し、満足げに頷くとPDAを放り投げた。

「えっと、何を?」

 リュウキが尋ねると、イリアはふふんと胸を張る。

「コンピューターウィルスの水先案内人をしてきたの。基地内の中枢まで道を開けといたから、時間稼ぎには充分だよ」

 これで輸送機の発進が遅れてくれれば、まだ望みはある。

 他力本願とは、まったく以て情けない話なのだが。今は、それに縋るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ