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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「少年と少女」
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檻の中


 追加バッテリーパックの装着された背中を翻し、小刻みにバーニアを蒸かした《カムラッド3》が突撃銃を掃射してくる。BFSが駆動、リオは足下にあったデブリを蹴って進路を急速変更、掃射を躱してみせた。

 生まれたチャンスは逃さない。リオの操縦する《カムラッド》は再装填の終えたTIAR突撃銃を素早く構え、粒子砲を持った《カムラッド1》に向けてトリガーを引く。やはり間に入ってきたのは大型の盾を持った《カムラッド2》であり、今装填されている徹甲弾では盾を貫通できない。弾丸は火花を散らしながら弾かれる。

 盾を構えた《カムラッド2》がすっと横に逸れ、《カムラッド1》が蓄電完了した粒子砲を撃ち放つ。予測出来ていた一手だったため避けられたが、高熱量を誇る粒子砲は当たっていないように見えても、残留熱波によってダメージを負う危険がある。どうしても大きく避ける必要があり、その分敵機との距離が離れてしまう。

 また、相変わらずBFSが勝手に反応することがほとんどである。この時も、本来なら回避機動は最低限、表面装甲を多少焼かれたとしても、詰め寄って反撃に出なければいけない場面だというのに。余裕を持って回避し、安全圏まで引き下がってしまう。

 これではまるで新兵だ。実際に思い描いた戦い方がまったくできない。意識と無意識のズレは広がっていくばかりだった。なんとかしようと試みれば試みるほど、その傷口は広がっていくように感じられる。

『リオさん、聞こえてないんですか、リオさん』

 開いたままの通信回線からリーファの声が響く。その声に焦りの色を感じ取り、はっと気付かされる。

「ごめん、リーファちゃん。攻め込めない、ifが言うことを聞かないんだ」

 ずっと放置していたことを思い出し、慌てて返事をする。

『通信は聞いてましたから、ある程度は分かってるつもりです』

 ほっと胸をなで下ろしたように感じられる声色に、無駄に心配させてしまったと自責の念に駆られる。が、切り替わった意識は一瞬にして戦場へ溶け込んだ。

 《カムラッド3》がフォーメーションを崩し、一気にこちらへ突っ込んできた。追加バッテリーパックを用いた高機動戦闘は侮れない。しかし、フォーメーションが崩れたのはまたとないチャンスである。デブリの間をかいくぐりながら接近してくる《カムラッド3》を迎撃しようと正対する。

 今までデブリ内へ頑なに入ろうとしなかった敵機だが、《カムラッド3》は今そのデブリ群の中にいる。先程まで自分が駆け回っていた場所だけあり、地の利はこちらにあると言える。ここで確実に一機は仕留める。或いは、状況を打開できるかもしれない。そう思っていたが、自分の安易な考えはおそらく間違っているのだろう。

 敵は三機だ。フォーメーションは崩してしまったのではなく、故意に崩したのではないのか。ならば。

 突撃する《カムラッド3》ではなく、背後に向けTIAR突撃銃を右手のみで保持、ろくな確認もせずに発砲した。空いた左手でタービュランス短機関銃を引き抜き、迫る《カムラッド3》へ小口径弾を浴びせる。

 TIAR突撃銃が獲物を捉える。盾を持った《カムラッド2》が、徹甲弾を弾きながら応射してくる。《カムラッド3》と協同し、こちらを挟撃するつもりだったのだろう。

 二機の襲撃をデブリ群の中ではなく、あえて外に出ることによって回避する。デブリ群から抜け、開けた視界に敵は一機しかいない。粒子砲の癖はもう分かっている。仮にBFSが駆動したとしても、TIARとタービュランスを防ぐ手立てはない。粒子砲を構えた《カムラッド1》は、予想通りこちらに砲身を向けている。初撃を躱してありったけの徹甲弾と小口径弾を……。

 ……違う、殺される。素早くハンドグリップを傾けペダルを踏み込むのと、BFSが駆動するのは同時だった。左手に保持してあるタービュランスを投げ出してデブリ群へと後退する。《カムラッド1》の粒子砲が瞬くが、回避行動は取らなかった。

 《カムラッド1》は凶悪な破壊力と引き替えに、拡散させた粒子を照射した。点ではなく面での破壊。威力は低減しているだろうが、だからといって直撃に耐えられるわけでもない。投げてあったタービュランスが盾となり、一瞬だけ粒子を遮る。それは数秒にも満たない時間だったが、デブリへ身を隠すには充分であった。

 しかし、そこには《カムラッド2》と《カムラッド3》が待ち受けている。相手にとって、この一連の流れは全て想定内だったのだろう。拡散粒子砲を使われて、まんまとここに追い込まれてしまった。

 盾持ちの《カムラッド2》が撃ってくださいと言わんばかりに前に躍り出てくるが、本命は追加バッテリーパックを装備した《カムラッド3》だろう。自分自身が思う意志も、BFSが拾い上げる意志も、今この瞬間は同じだった。

 《カムラッド2》へ向けTIARをありったけ撃ち込みながら一気に接近する。当然盾で防がれるが、止まるつもりはない。響く警報が、背後から《カムラッド3》の奇襲を知らせる。が、どちらを相手取ってもどちらかに落とされるだけだ。

 今生き残るためのは、場を揺さぶらなければならない。機体を再加速させ、更に横に一回転させる。足下にあるデブリを踏み付け、そのままの勢いで《カムラッド2》の構える盾に突っ込んだ。正面からぶつかり合い、凄まじい衝撃と共に機体の位置関係が乱れていく。距離を離そうとする《カムラッド2》の胸部正面装甲を空いている左手で掴み、強引に引き寄せて膝蹴りを叩き込む。本来ifではできないなめらかな動きだが、直感的に動かせるBFSなら可能となる。今、《カムラッド》は文字通り自分の手足と考えて相違ない。

 そのまま何度も膝蹴りを叩き込む。その度に両機の位置は変わり、よって《カムラッド3》は射撃による援護はできない。

 《カムラッド3》がナイフを構え、こちらへ真っ直ぐ突っ込んでくる。膝蹴りを受けながらも、《カムラッド2》は抵抗をやめずにもがいている。その懸命だが隙だらけの相手へ、TIARを至近距離で撃ち放った。火花を散らし脱落していく装甲を振りまきながら、《カムラッド2》は致命傷を受ける前に残りの徹甲弾を盾で防いだ。

 ナイフを構えて突撃してくる《カムラッド3》へTIARを向けるのは間に合いそうにない。瞬時の判断でTIARを投げ捨て、肩に装着していたSB‐2ダガーナイフを両手で構えた。

 《カムラッド3》は突撃の勢いのままナイフを振り抜く。右手に持ったSB‐2ダガーナイフでそれを弾き、《カムラッド3》の頭部に向けて左手のSB‐2ダガーナイフを突き出した。それは斬ると言うよりも殴打に近い攻撃であり、左手の指がいくつかちぎれたが、構わず《カムラッド3》の頭部を潰してみせた。

 重要な索敵手段を無くし、とにかく下がろうとする《カムラッド3》を逃すつもりはなかった。指が健在である右手を使い、腰に装着しておいたヴォストーク散弾銃を取り外した。射撃モードをセミオートに切り替え、ふらふらと後退する《カムラッド3》へ向けてトリガーを引く。無数の散弾を浴び、穴だらけになった装甲を引き摺りながら、《カムラッド3》はデブリの奥へと逃げ込んだ。

 どちらも撃墜は出来なかったが、致命傷は与えることができた。少なくとも、向こうから攻めてくる気はないだろう。命が惜しければ逃げるしかない。

「リーファちゃん、二機は叩けた。撃墜はしてないけど、ろくに動けないはず。こっちは損害軽微」

 二機の位置関係を照らし合わせながら、こちらも都合の良いデブリへ身を隠す。

『リオさんの損害軽微は信用できませんが、まあいいです』

「敵は引いてくれそう?」

 このままif部隊を回収し、逃げ帰ってくれるならそれでいい。そうでなければ、手負いの二機を撃墜するまでだ。

『相手の動きから、撤退の意志は見て取れません。というより、少し妙です。艦長も何だか変だって言ってますし。とにかく引いて、こちらの援護に回って下さい』

「イリア艦長の勘、当たるから嫌だな。分かった、とりあえず下がるよ」

 《アマデウス》の位置を確認し、最短距離で向かおうとする。しかし、それまで傍観していた《カムラッド1》が、進行ルート上に拡散粒子砲を放った。盾を持った《カムラッド2》も物陰から散発的に射撃を加えてくる。頭部を損壊した《カムラッド3》はさすがに出てこないが、他二機は執拗なまでに進路を塞いできた。

「下がらせてくれない、確かに妙だね」

 直接の撃破は狙ってきていない。こちらを釘付けにするだけの射撃。撤退するでも、攻めるでもない攻撃を加えてくる相手の意図が読めない。無視して突っ切ることは可能な筈だが、BFSの誤作動を考えると難しいかもしれない。

 この誤作動さえなければ、ここまで苦戦することもないというのに。尚も続く射撃に進路を塞がれながら、《アマデウス》を、正確にはその中にいるトワの事を考える。今トワは何をしているのか、ちゃんとおとなしくしているのだろうか。

 この状況を切り抜けて、さっさと戻ってやればいいだけの事だ。それからの事は、今は分からない。この誤作動だって、トワときちんと向き合えば或いは、何とかなるのかも知れない。

 トワにとっても自分にとっても、それが何より最善に思えた。しかし、まずはここを突破しなければいけない。敵機の位置関係を確認し、少しでも足掻くため、右手に保持したヴォストーク散弾銃のトリガーを引いた。

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