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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「介在と裂傷」
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花は舞い穿つ


 まだ思考が覚束ない。半ば逃げるようにして《アマデウス》ブリッジを後にしたイリアだが、その背に受けたのは期待の眼差しだった。

 いつもそうだった。自分に余裕があるのは先の事まで見ているからであり、既に決まった結末へと時間を流せばそれでいい。でもそれでは不十分だ。結末には幾つか揺らぎがあり、その分も含めて頭に入れておくべきだろう。そうしておけば、九割方の状況は何とかなる。何とかすることができる。

 では、残りの一割はどうなるのか。それがこの様であり、他でもない自分の限界点だった。何て事はない。幾ら天才だ何だともてはやされていても、予測できなかった事柄に対しては手も足も出ないのだ。

「私だって、人間だし」

 空虚な愚痴が誰にも看取られないまま溶けていく。自分のような人間は指揮官向けではない。だから逃げてきたのだ。本来の適材適所へ、この状況を打開する為に。

 時間は惜しかったが、状況が読めない以上今できる最善を尽くすしかない。格納庫に備えられた更衣室でフラット・スーツに着替え、最後にヘルメットを被ろうとしたその時だった。

『イリアさん、その』

 ヘルメットの内側から聞こえるリーファの声、歯切れの悪いそれに再び思考が停止していく。

「聞こえてる。どうしたの?」

 ヘルメットを被りリーファに返答する。

『先程ですが、リオさんの信号消失しました』

 辛そうに事実を伝えていくリーファに、何か声を掛けるべきだと思ったが、やはり思考は停止したままだ。

「そう」

 何の感情も込められていない一言しか出せず、自分が今何をしようとしていたのかすら分からない。信号消失、つまり撃墜されたって事で。もうそれで終わりじゃないか。

 色々と聞くべきことがある。敵ifの残存数や大まかな位置、リオ機が何処で撃墜されたのか、その状況は。どれも大切な事なのに、頭も心も空白のまま、何も浮かばなくなった思考はもう役に立つ道理がない。

『あ! イリアさん、微弱で断定は出来ませんが脱出反応です。リオさん、まだ生きてるかもしれません!』

 頭の中のスイッチが一気に跳ね上がる音がした。相も変わらず虫食いだらけの思考だったが、到達すべき結末は見えてきた。

「そっか。リオ君頑張ってるんだね」

 まだ終わっていない。であるならば、自分が出来ることは一つだけだ。

「分かるだけ、全部の情報を教えて」

 更衣室を出て、自分のifへと跳ねる。重力の無い今、それが一番速い移動方法だ。手近なタラップを掴み、その慣性を止める。丁度ifの真上であり、準備万端と言わんばかりに操縦席が明滅していた。

 if‐02《シャーロット》、今はもう稼働している物の方が少ないだろう。基本的なシルエットはリオの使っていた《オルダール》と大差はないが、《シャーロット》は内装とシステム面が段違いに強い。その分扱うには熟練された技量が必要となり、まともに動かせる人間もそういないだろう。

 黄色に塗装されたそのifは、紛れもなく自分専用の物だった。わざわざ目立つ色に塗ってあるのは、その方が味方ではなくこちらを撃ってくれるのではないかという浅知恵から来ている。

「取り戻さないと」

 迷いはない。逃げる為ではなく助け出す為に、イリアはその足を踏み出した。





 ※


「全機距離を取れ。警戒は解くな」

 《リンクス》の操縦席で、カインは操縦桿を握り直した。既にフラット・スーツ内は汗で濡れそぼっていたが、不快感など気にしている余裕は無かった。つい先程まで、ここには死が滞留していたのだ。

 残ったifは自分を併せて四機だけ。全機併せて十二機もいたのに。

『見ろよ、吹っ飛んでいく』

『クソッタレのカミカゼ野郎が』

 そんな味方の通信が、耳に入っては抜けていく。自分は何を相手にしていたのか、それすらはっきりとしない。

 呆気ない終わりとは思えなかった。この化け物は徹頭徹尾、こちらの命を刈り取る為に動いていたのだから。

 火を噴き、瓦解するように散っていく《オルダール》の最期をじっと見据える。勝利を噛みしめている気持ちなど毛頭ない。ただ恐いのだ、本当にこの《オルダール》はもう動かないのだろうか。

 まだ奴なら動きかねない。そして動いたが最後、いとも簡単に刈り取られる。そんな不吉な想像が頭を支配している。

 炸裂し粉々になった破片を見ても、まだ何処か嫌な感覚を覚える。それ程までに、この《オルダール》は脅威だった。凶暴、と言い替えてもいい。

『勝ったんだよな、これ。今何が起きてたのか、誰か俺に説明してくれよ』

 たかだか一機のifを相手にしただけで、八人も死んだ。これは勝利ではない、ただ生き残れただけだ。

『AGSの《オルダール》だろ。あんなクソッタレな動きをする奴は、俺は見たことないがな』

 ただの残骸となった《オルダール》は、もう動くことは無いだろう。それを確認してから、ゆっくりと両手の力を抜いていった。

「お喋りはそこまでだ。望みは薄いが、生存者を探した方がいいと思う」

 何せ、あの《オルダール》は操縦席を真っ二つに両断しているのだ。そうでない機体でも、執拗に弾丸が叩き込まれている。生存は絶望的だろう。

『えっと、カインさん。今の《オルダール》、操縦兵がもしかしたら脱出しているかもしれません。こちらの角度から、少し見えただけなのですが』

 場の空気が凍り付く。まだあの中身が生きているかもしれない。その事実だけで、意識が自然と張り詰めてくる。

『方向はどっちだよ。あいつがやったのと同じように、アイリーンと同じように操縦席ごと切り裂いてやる』

「条約違反だ、気持ちは分かるが落ち着け。奴の捜索は、出来る範囲でやればいい。まずはこっちの生存者を探そう」

 殺気立った声を上げる操縦兵を説得する。脱出後に意図的に攻撃するのは条約違反であり、宇宙漂流の状態にある者は誰であれ助けるということになっている。それに、本音を言えばもう関わりたくはなかった。関われば、確実に死が近付いてくるような気がする。漠然とした不安は拭えない。

『誰も生きちゃいないだろ! あの野郎のやり口は、真っ直ぐ皆殺しだったんだからよ!』

 それが戦争だと、言ってしまうのは簡単だ。だが、それが通らないと思ってしまう程、《オルダール》の戦闘は徹底していた。人の心が介在する余地など、存在していないかのように。

「落ち着け。とにかく」

 再び操縦桿を握る手に力を入れる。言葉を切ったのは、警告音が場を支配したからだ。

『アクティブレーダー波、数回に分けて打ってる。隠れる気なんてないみたいだ。逆探知出来る』

 一瞬で情報が共有される。新しく形成されたサブウインドウのレーダーには、周辺の状況と猛進する光点一つが映し出されていた。

「敵と見て間違いないな」

『機種は不明だがif、また一機だけだ。馬鹿みたいに足が速い』

 先程の《オルダール》といい、どうもこの戦闘は状況が読めてこない。

「囲うぞ。要領はさっきと変わらん。四方から撃つ、的を絞らせるな」

『了解。もう沢山だ。ここで終わらせる』

『クッソタレめ、叩き込んでやる』

 四機のifによる波状攻撃、普通ならば対応など不可能だ。普通ならば。

『え……?』

 何かが目の前を通っていった。遅れて鳴り響いた警告音が、その正体を告げている。慌ててトリガーを引くが、その火線は届かない。

「黄色のif、か?」

 戦場とはかけ離れた黄色の塗装は、自然と目に付いてくる。だというのに、その動きはどうも捉えきれない。

『当たらねえ! デタラメじゃねえかよ!』

 悲鳴にも似た声が聞こえる。こちらの包囲網に飛び込んだ敵ifは、いとも簡単に通り過ぎていった。被弾した様子はない。

「位置を割り出せ、このままでは」

 そう指示を出そうとするが、全て遅過ぎたのだ。丁度反対側に陣取っていた味方の《カムラッド》の正面に、その《黄色のif》はいた。

 何の反応もできはしなかった。《黄色のif》は片手で保持した散弾銃を、もう《カムラッド》に向けていたのだから。

 散弾銃から吐き出された一粒の弾丸は、《カムラッド》の頭部をいとも簡単に貫いた。

 散弾ではない、スラッグ弾と呼ばれる弾丸だ。散弾が面でもって敵を制圧するのなら、スラグ弾は点でもって敵を粉砕する。扱いは難しいが、充分な威力と貫通力を持つ。

 頭部を失った《カムラッド》は距離を取ろうと後方へ跳ねるが、次の瞬間には両手が宙を舞っていた。

 《黄色のif》は、間髪入れずにナイフを二本投擲していた。それらは完璧なコースを飛来し、《カムラッド》の両手を切り飛ばしたのだ。

『う、うわあああ!』

 頭部と両手を一瞬にして奪われた《カムラッド》、その操縦兵の叫び声だ。

 殺される。あの間合いからは逃げられない。そう確信できる程圧倒的だった。しかし、《黄色のif》は手を下すことなく物陰へ消えていく。

『だ、誰か! 助けてくれ!』

「落ち着け、大丈夫だ! 緊急カメラを起動しここから離れろ!」

 次が来る。まだあの《黄色のif》は退いてはいない。

『《マリーゴールド》だ、間違いねえ。あれだけデタラメに動いてやがるのに、人を殺そうとしない』

「《マリーゴールド》? 討伐コード付き、指折りのエースか」

 滅多にないことだが、特異な目標には名前が付けられ、脅威として判断されることがある。一般的に討伐コードと呼ばれる物であり、そのほとんどが異様なほどに強い。

『話が違うぜ、《マリーゴールド》は引退したんじゃないのかよ!』

 もし今対峙している《黄色のif》が《マリーゴールド》だとすれば、対抗する術はあるのだろうか。

「今はいい、迎撃体勢を整えろ。近付かれたら終わりだぞ!」

 注意を促し、自らも周辺に目を光らせる。何処から飛び出してきてもおかしくはない。しかし《マリーゴールド》もこちらを把握していない以上、条件は同じ筈だ。

 索敵を掛けるべきか、このまま待つべきか。悩んだこの数秒が致命的な隙だった。

 もう一機の《カムラッド》の背後、その岩石群の中から二本のナイフが飛来し、警告する間もないまま直撃した。関節を狙った致命の一撃、《カムラッド》の両手が切り離される。そのまま躍り出た《マリーゴールド》は華麗に反転し、その散弾銃を《カムラッド》の頭部にあてがった。

『は……はあ?』

 やっと事態に気付いた《カムラッド》の操縦兵だが、結局何の動きも出来ないまま頭部を吹き飛ばされた。

 これでもう、まともに戦えるのは自分の《リンクス》と残る《ハウンド》のみだった。

「動き回れ! 足を止めたら終わりだ!」

 先程の《オルダール》も化け物だったが、この《マリーゴールド》も化け物に相違ない。もう一片の勝ち筋も見えてこなかったが、ここで止まるわけにはいかない。

『この地形で、どう動けばいいんだよ!』

 《マリーゴールド》は身を翻し、《ハウンド》へ急接近を仕掛けていた。援護をしなければと動くが、その前に勝敗は決していた。

 《マリーゴールド》が《ハウンド》と交差した一瞬で、《ハウンド》の両手は宙を漂っていた。後ろ手に構えた《マリーゴールド》の散弾銃が間髪入れずに頭部を吹き飛ばし、《ハウンド》はふらふらと戦線を退く。

『デタラメだろ、こんな!』

 両手と頭部を失ったifなど、足の付いた棺桶でしかない。《ハウンド》の操縦兵ががなり立てるが、もう彼に出来ることなど何もなかった。

 そして、それに構っている余裕もない。一直線に突っ込んでくる《マリーゴールド》へ散弾銃を向けた。

「当たるのか……?」

 祈るような思いでトリガーを引くが、その頃には既に散弾銃はナイフに貫かれていた。今の《ハウンド》との攻防で、既に投擲されていたのだ。

 まだ武器はある。細かな破片などお構いなしに《リンクス》を後退させ、距離を少しでも稼ごうとする。その動作のまま右手で拳銃を、左手でナイフを構えた。

 猛進する《マリーゴールド》へ拳銃を向け、何度もトリガーを引く。拳銃と言えども、ifの用いるそれは立派な兵器だ。当たりさえすれば動きを止めることぐらいは出来る。

 しかし、続けざまに放たれた弾丸は掠りもしない。《マリーゴールド》は最小限の挙動でその銃撃を凌いだ。

 そのまま《マリーゴールド》は、散弾銃のレシーバーをスライドさせた。ポンプアクションと呼ばれる、散弾銃特有の動作で、排弾給弾を手動で行うことを意味する。つまり……

 流れるように撃たれたスラグ弾が、拳銃ごと右手を吹き飛ばした。とにかく《マリーゴールド》から離れなくてはならない。それしか思い浮かばず、またそれすらも出来なかった。操縦席に鈍い衝撃が走る。《リンクス》を後退させ過ぎて、背を岩石に打ち付けたのだ。

 立て直す暇さえない。今度はナイフごと左手が吹き飛ばされる。両手を失い、立ち上がったサブウインドウには接続エラーが立て続けに表示された。

 最早出来ることなどない。散弾銃のレシーバーがスライドする時の独特な音が、ここまで聞こえてくるような錯覚を覚える。《マリーゴールド》はその散弾銃をこちらに突きつけ、次の瞬間には閃光と衝撃を受けてメインウインドウが黒一色に染まった。頭部を吹き飛ばされたのだ。

 エラーを吐き出し続けるメインウインドウに、外部接続のシーケンスバーが表示される。ハッキングされている事は分かったが、こちらから出来ることは何もない。ただされるがままに、そのバーが横に延びていくのを眺めていた。

 シーケンスバーが端に到達し、数値が百パーセントを指し示す。サブウインドウが続いて立ち上がり、恐らく目の前にいるだろう《マリーゴールド》とのホットラインが開かれた。

『これ繋がってる? 繋がってるよね。私は一応AGS所属の、イリア・レイスって言います。ちょっと質問があるので聞いて下さい』

 若い女性の声が響く。この声の主が《マリーゴールド》の操縦兵なのだろうか。

『今さっき貴方達が撃破した《オルダール》、操縦兵は脱出したと思うんだけど、流れていった方向を知りたいの。知ってること全部教えて』

 交渉術も何もない、これはただの問いかけに過ぎない。嘘を言ってもいいし、黙っていてもいい。

 相手が本当に《マリーゴールド》なら、殺されることもないだろう。もっとも、この女はそれを理解した上で問いかけているのだろう。殺さないから脅しもしない。ただ教えてとだけ請う。

「こちらも全部見ていた訳ではない。脱出装置を使ったと分かったのは、お前が殴り込みに来る寸前だった。大まかな位置しか分からない」

『それでもいいから。お願い』

 サブウインドウを立ち上げて、幾つかメニューを操作していく。

「どうせハッキングしているだろう。このデータを持って行け。あの《オルダール》との戦闘データだ」

 今こちらが出せる最大の情報はそれぐらいな物だろう。下手な主観を話すよりも、これを解析した方が得られる物は多い。

『ん、ありがと。本当に助かるよ。それじゃあ』

「待て。二つ程聞かせてくれ」

 そう。聞きたいことがあったからこそ、ここまで協力しているのだ。

「まず、あの《オルダール》は何だ。普通じゃない」

 沈黙が続く。答える気がないのか、答え自体を知らないのか。

『私から言えるのは、彼は私の部下だってこと。普通とかそうじゃないとかは、私には良く分からない。私も普通じゃないって良く言われるから。もう一つは何?』

 納得出来る答えではない。だが有無を言わさぬその口調から、もうこの話題は終わりだと言っているような気がした。もう一つの疑問を問い掛ける。

「お前は、本当にあの《マリーゴールド》なのか」

『そう呼ばれてるらしいね。あまり好きな名前じゃないんだけど。花言葉がどうにも気に入らなくて。質問は終わりだよね。じゃあ、もう行くよ』

 外部通信が切断され、操縦席内に静寂が戻ってきた。

 損傷状況の確認や緊急用カメラアイの起動、そして撤退などやることは沢山あった。が、どうにも身体が動いてくれそうにない。

 化け物じみた《オルダール》との戦闘に、あの《マリーゴールド》との戦闘、息つく暇などありはしなかった。座席にゆっくりと身体を沈ませていく。

 緊張の糸が切れた身体は、暫く動きそうになかった。





 ※


「ここね。方向はこっちの筈」

 リオが撃破された地点へ行き、イリアはその状況を頭に思い描いていく。先程手に入れたデータを元に、詳細な状況分析を行う。

 乗機の《シャーロット》でその最期を再現するように動いた。どのような慣性が掛かっていたのか、大まかに把握していく。

「脱出装置を起動させたのなら、if後方から弾け飛んでる筈だから」

 後方を振り向かせる。岩石群が広がっていたが、見た所そこで止まっている様子はない。何度かアクティブ・レーダーを打ってみたが結論は変わらなかった。

「この岩まみれの中を、直撃なしで慣性で飛んでいったってこと?」

 脱出装置起動後、if後方の装甲と各種推進器は全て排除され、操縦席とその周りの隔壁が後方に弾け飛ぶ。それは慣性に流されるまま直進していく。その後は操縦兵の判断で減速を掛けたり、救難信号を発したり出来るのだが。基本的に向きを変えるようなことは出来ない。

 通常、この局面で脱出装置を使えばいずれかの岩石に直撃して停止している。その場合生死は絶望的だが、その残骸がないということは。

「脱出失敗してるか、岩石群を運良く回避出来たって事だよね」

 その運の良さがどれ程の奇跡かは計算出来そうにない。まさに、針に糸を通すような物なのだから。

「もし脱出していれば、考えられるルートは三つ」

 岩石群自体もゆっくりと慣性で動いている。それらの状況も考慮した上で、岩石群という針に糸を通すには、その三つの軌跡しか考えられなかった。

 それらを頭に叩き込み、リオの現在地を演算していく。今すぐ追い掛けたい衝動に駆られるが、依然としてこの周辺にはH・R・G・EのBSが漂っている。まずは離脱しなければ、《アマデウス》自体が危ない。

 ふと視線を泳がせると、そこには一本の長剣が突き刺さっていた。E‐7ロングソード、リオが振り回していた長剣だ。それがまるで墓標のように見え、嫌な未来を脳裏に描かせる。ふと思い付き、そのE‐7ロングソードを引き抜いた。

「よし。これでお墓はなくなったよ、リオ君」

 後は自分の頑張り次第で、何とか届くかも知れない。他ならぬリオ自身の頑張りと、それら全てを統括する幸運があれば、という前提だが。

 どちらにせよ、まだ手遅れではないと。そう信じながら、イリアは《アマデウス》へと帰路を取った。

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