欠片の日々
《アマデウス》はその設計思想から少人数での運用を基本としている。それは有事だとしても変わらず、それ以外では尚の事少ない。
にも関わらず、今このブリッジにはほとんどのクルーが揃っていた。性格にはブリッジクルーと呼ばれる人員であり、操縦兵や軍医、整備士を除いた状態ではあったが。
もっとも、人のことは言っていられない。私、リーファ・パレストも今現在休憩中の身なのだから。
「ねえ、リーファちゃんは例の子と会ったんでしょ? どんな子だった?」
名前を呼ばれ、その方向へ振り向く。それぞれブリッジクルーであるギニーと、興味津々といった様子のリュウキがそこにいた。
「どうと言われても。この狭い艦内にいるんですから、自分で確かめた方が早いと思いますけど」
素っ気ない返事だが、いつもの事なのでお互い気にも止めずに会話が続く。
「あれだ、可愛いか可愛くないかだけ教えてくれればいい。それで満足するから」
そう応えたのはリュウキ・タジマ。名前の通り日系の顔立ちをした男性で、操舵士として配属されている。だが、彼はそれ以外の役職も難なくこなしてみせる。実際、前の艦では操縦兵として配属されていた。器用な人なのだろう。
「それは、ちょっと露骨過ぎない?」
やんわりと突っ込みを入れた男性がギニー・グレイス。金髪碧眼と絵に描いたような容姿を持つ彼は、良く言えば優しく悪く言えば気弱な人だ。知識は豊富であり、武装管制を担当している。
「まあ、控えめに見ても可愛いですよ。それ以上に変わった人ですけど」
実際、容姿だけを見たら可愛いのだからそう答えるしかない。小柄だが、すらっとして無駄のないスタイルをしている。若干無防備過ぎるが、それも可愛く見えてくるのだから大したものだろう。リオがあの子を連れてきて一週間経ったが、未だに不思議な子、という印象が大きい。
「なんて言ったっけ、名前」
そう言い、リュウキが考え込む。
「トワって今は名乗ってます。リオさんが付けました」
「なんか、変わった名前を付けたね」
ギニーはそう答えるが、リュウキは違う印象を覚えたようだ。
「トワ? 永久か。あながち間違ってなさそうなのが怖いわな」
小さくリュウキが呟く。意味は分からなかったが、怖い、というのは何となく理解できる。
遺跡から人が出てきた。そんな事例は今までにない。警戒するのは当然であり、本来なら野放しにするべきかも疑問に思う。だってそれは、そもそも人かどうかすら分からないのだから。
「私の決定は不服だった? リーファちゃん?」
後ろから伸びた腕が私の身体を抱き止める。声の主はイリア・レイス。言わずと知れた《アマデウス》の艦長だ。
「あまり言いたくないですけど、納得しかねます。素性も分からない人が、自由に艦を歩き回るなんて」
敵のスパイを警戒しているわけではない。リオの報告はきっと正しいのだろう。だとしたら、余計トワが何者なのか分からない。
「うーん、そうだよねえ。しかも、一緒にシャワー浴びてくるように頼んじゃったし」
「そうですよ。私、髪の毛引っ張られたんですから」
「うん、言ってた言ってた。‘綺麗な髪をしてたから気になった’って。凄い怒られたとも言ってたけど」
イリアは笑いながらそう答えるが、笑い事じゃない。
「あれは怒りますよ。力の加減を知らないんですから。本当に痛かったんですよ」
「うんうん。それ以降、トワちゃん髪引っ張った?」
「それは……引っ張ってないです」
その一件以来、トワが髪を引っ張ることはなかった。他にも色々やらかしてはいるが、言えば分かってくれる事も多い。
「分からない尽くしだけど、悪い子じゃない気がするんだよね」
「それは、私だってそれぐらい分かります。けど、その分からない尽くしが困るんです」
きっと、悪い人ではないのだろう。しかし、それを無条件に信じられるほど自分は純粋になれない。
「艦長は」
だからこそ欲しいのだ。信じられるだけの証拠とか、根拠が。それは、私だけなのだろうか。
「信じてるんですか、何の疑いもなく」
上を向き、イリアと目を合わせる。
「うん、多分ね。信じてると思うよ」
それは、本当に魅力的な笑顔だった。この人はいつもこうだ。本当に。
「お人好しですね、艦長は」
でもそれは、紛れもなくイリアの魅力なのだろう。そして、そのお人好しを貫けるだけの力量もある。
「そうなんだよね。よく怒られるけど」
あの人に、とイリアは指を差して見せた。それと同時に扉が開き、同じくブリッジクルーであるクストが入ってきた。
「イリア、その指は何?」
冷ややかな目でイリアを見るクスト。落ち着いている女性で、イリアとは正反対のタイプかもしれない。
「私の好きな人を指差してるのよ。嬉しい?」
イリアの言葉をはいはいとあしらい、クストは艦長席の隣に腰を下ろした。そこは副艦長席であり、クスト・ランディー副艦長の指定席でもある。
「書類の偽装は終わったわ。上にも報告済みだし、暫くは何の問題もないわね」
「さっすが、クストちゃん頼りになる! 大好き!」
そう言うや否や、イリアはクストの方へ駆け寄り抱き締めようとする。クストは手慣れた様子でそれを捌いている。
正反対の二人は士官学校以来の付き合いらしく、とても仲が良い。イリアが言うには相思相愛らしい。
「書類の偽装って、何ですか」
その二人に向かって疑問を投げ掛ける。
「うん。あの拾った女の子、トワちゃんについて。宇宙空間で漂流してた民間人にしといたの。まあ、嘘じゃないしね」
イリアがあっけらかんと答える。本来軍人としてあってはならない事だが、割とイリアはそういうルール違反をする。無計画に見えて計画的なイリアは、他にも色々な手段があるらしい。ここのクルーもイリアが手を回して集めているし、そもそも私を助けたあの時だって、一士官としての範疇を越えていた。
「それで、これからどうするの? 普通なら最寄りのセクションまで行って、そこの軍部に預けて終わりだけど」
クストがイリアに問い掛ける。それは、私も気になっていた。
「出来れば、預けたくないなって。まあ、民間人として通れば簡単に保護出来るからいいけど。まだ分からないけど、そうはならない気がするんだよね。だから」
イリアが艦長席に腰掛け、子悪魔的な笑みを浮かべる。同性でもどきりとするような笑みだ。
「上の指示通りにはやらない。少し遠回りして中立のセクションに行くよ。時間稼ぎしとかないとね」
まったく命令を守る気のない言葉だ。もう慣れっこではあるし、それによって救われた事は忘れていない。
「まずは情報がないと、確かに判断できないわね。所属しているとはいえ、AGSを大きく信用出来るわけでもないし」
クストが頷きながらそう答える。それはその通りだろう。他ならぬ自分は、それをこの身で味わっているのだから。
「そう、情報は欲しいよね。あと下着も」
イリアの受け答えにクストが顔をしかめる。それに気付き、イリアは慌てて訂正した。
「私じゃないよ、トワちゃんのだって! 服は私のでもブカブカなだけで着れるからいいけど、下着はサイズ合わないもん。リーファちゃんのだとちっちゃ過ぎたし」
それを聞き、クストは溜め息をつく。確かに、トワ用の衣服は早いところ調達しておきたい。なぜなら。
「で、今トワの下着はどうしてるの?」
クストがそう聞くが、その答えこそ衣服を調達したい一番の理由だった。
「え、私の貸してるけど? 服と一緒で」
イリアのあっけらかんとした答えに、クストは無表情のまま固まる。横で聞いていたリュウキが思わずイリアを振り返り、ギニーが飲物を吹き出した。
「え、何よ。年頃の子にノーパンで過ごせなんて可哀想でしょ。恥ずかしいよ、きっと。何か間違ってる?」
やはりイリアは変わり者というかなんというか、少なくとも世間一般からかけ離れている。
「ちょっと、何か言ってよみんな」
キョロキョロと周囲を見渡すイリアに向けて、一言呟いてみる。
「間違ってないですけど、間違ってるんですよ」
※
《アマデウス》後部とも呼べる場所に、その区画はあった。正式な名称はないが、クルーの間では展望室と呼ばれている。もっとも、今見える景色は絶景とは程遠い、うすら寒い宇宙のみだったが。
そんな虚無を感じさせる黒を何とはなしに見つめながら、リオはこれまでの事を考えていた。
少女を、トワを拾って一週間経った。戦闘らしい戦闘もなく、ほとんどの時間をトワと過ごしているが、彼女が何者かは分からなかった。
言語に関してもそうだった。最初は苦戦したものの、あっという間に習得し今では会話できている。教え方の問題ではない。まるで、忘れていたものを思い出していくように知識をつけている。
会話できると言っても、僕達と出会う以前の事はよく分からないという。色々な話をするが、どれも本質的にトワを意味するものではない。何者かは、結局分からなかった。
気ままな所も変わらない。説明の甲斐があってか、トワは自分の部屋を覚えた。未だにこちらの部屋に我が物顔で入ってくるが。
この前もそうだ。眠っていた所、何の迷いもなくベッドに侵入していた。起きてみたら目の前でトワが寝息を立てていて、困惑し何故かリーファに連絡したのを覚えている。
一回鍵を掛けてみたが、壊されそうになったのでやめた。電子ロックという認識はないのか、無理矢理こじ開けようとしていたのだ。もう僕の部屋は完全にトワのテリトリーと化している。
変わった子だが、素直な子だった。何者かは分からない、だが悪い子ではないように思えた。少なくとも嘘はついていない、つけないように思える。
純粋な子なのだろう。子どものように邪気がなく、なぜかこんな自分によく懐いている。嬉しい反面、自分にはやはり荷が重いと感じる。そんな真っ直ぐな好意に、瞳に。自分はそれに値しない存在だと気付かされる。
壊れている自分には、過ぎた想いだ。子どものように真っ直ぐなトワの感情は、僕の本来の姿を見てどう感じるのだろう。
既に壊れている自分は迷いもなく、いとも簡単にトリガーを引ける。自分が生きる為に、今まで何人殺してきたのだろう。いや、生きる為ならまだいい。生きるでもなく死ぬでもなく、そんな人間が迷いもなく人を殺す。それ自体が間違っているのに。
トワと初めて会ったあの遺跡でもそうだ。得体の知れない恐怖心に苛まれ、銃を突き付けた。安全装置が無ければ、あの時点でトワは死んでいた。
結局あの恐怖心が何だったのかも分からない。やはり、自分は壊れているのだろう。
いつもの答えに辿り着き、溜め息を一つだけ吐いた。考えても分からないものは分からないままなのに。
そんな思考のやり取りの中、足音が聞こえ振り返る。トワがぺたぺたと足音を響かせながら、こちらへ駆け寄っていた。
「リオがいた」
その見た目から、イリアの物だろうと思われる服を着ている。イリアはまさしくモデル体型とも言うべきスタイルの持ち主であり、トワは小柄でスレンダーな見た目をしている。となれば、必然的にトワが着ている服はぶかぶかに見える。
トワはウサギの描かれたぶかぶかの白いTシャツを着て、同じくぶかぶかの青いショートパンツをベルトで無理矢理固定していた。洒落たデザインの黄色いスリッパをつっかけているトワは、色白な肌を微かに火照らせていた。先程までシャワーを浴びていたのだろう。
「トワ、ちゃんと髪乾かした?」
トワが首を横に振る。その答え通り、まだ湿り気のある髪が律儀に振れていた。
「風邪引くよ。面倒でもちゃんと乾かさないと」
こくりと頷きながら、トワはタオルと呟き周囲を見渡した。ここにタオルはないし、持ち合わせもない。どうするのか見ていると、トワは何の迷いもなく着ているTシャツを捲り、それで頭を拭き始めた。
白いお腹が露になったまま黙々と頭を拭いている。その大胆な行動に、暫く思考停止する羽目になった。
「トワ、見えてるから!」
トワの手を握りTシャツごと下ろす。その動きを受け、トワはよく分からないと言わんばかりの表情をしている。
「何が見えてるの?」
トワが小首を傾げながら聞いてくる。幾らか乾き始めた髪が、肩口を擦りさらさらと音を立てる。
「お腹。恥ずかしいからそれやったらダメ」
内心どぎまぎしながらそう答える。本当に、羞恥心ぐらいは持って欲しい。
「ふうん。じゃあこっち使う」
むんずとこちらの着ている服を掴む。嫌な予感はしたが、それに対処する前にトワは服を手繰り寄せていた。そのままごしごしと頭を拭き始める。
「トワ、違う! どっちも使っちゃダメ!」
無理矢理引っ張られ、体勢が崩れそうになるが何とかその暴挙を止める。トワは悪びれた様子もなく、ふうんとだけ呟くと隣に並んだ。
「本当に、子どもみたいなんだから」
横で暗い宇宙を見ているトワの眼から、感情を読み取ることは出来ない。それでもその無邪気な様子は、自然とこちらの警戒を解いていく。
「リオ」
そう呟きながら、トワはさり気なく手を握ってきた。仄かに温かく、思いのほか柔らかい手がぴたりと手の中に収まる。
「私が子どもだったら、リオも子どもだよ」
相も変わらず表情は乏しかったが、どこか嬉しそうにこちらを見ている。そのふんわりとした雰囲気に、先程までの問いはすっかり鳴りを潜めていた。トワが何者か、それに自分が値するのか。情けないことだが、こうやって一緒にいるときは何も迷わないで済む。
「そう思うんだったら、もうちょっと女性らしくした方が良いと思うよ」
その一言に、トワは再び思案顔に戻った。
「女性らしいって、何?」
頭の上に見事なクエスチョンマークを浮かべながらトワは尋ねる。
「勝手に部屋に入ったり、いきなり組み付いてきたり、人の仮眠を邪魔しない。まだまだあるよ」
厳密には女性らしさとまったく関係のない言葉がすらすらと出る。それを聞き、トワはじっと考え込む。暫く考え、結論が出たのかこちらの肩をぽんぽんと叩いた。
「女性らしさは諦めることにした」
吹っ切れたと言わんばかりにこちらを見ているトワは、とても満足そうに見える。
「諦めるんだ……じゃあ黙ってベッドに入るのだけはやめようよ」
それを聞いたトワは、心底不思議といった様子で首を傾げた。
「だって、リオだっていちいち起こされたくないでしょ」
「それはそうだけど。あ、入ってくるのは確定なんだ」
ささやかな抗議は届かず、トワはいつものようにやんわりと押し通して見せた。暴君である。
不意にトワが通路の方を向いた。その方向からかつかつと靴音が響き、小柄な少女が少し疲れた顔を見せながら現れた。リーファ・パレスト。《アマデウス》の通信士、要するにオペレーターである。十四歳の彼女は、いつも通り紺色を基調としたAGSの制服を着込んでいる。十四歳相応の見た目を気にしている反動なのか、制服をしっかりと着こなしているリーファだったが、そのぴっとした制服が逆に少女らしさを強調してしまっている。短い髪は似合わないからと今も昔も一貫して長い髪を好み、よく手入れされた長髪は、今は後ろで束ねてあった。
「トワさん、着替えるなり飛び出していくんですから。やっぱりリオさんでしたか」
そう言うなり、リーファは展望室の壁にもたれ掛かった。そのまま調整豆乳のパックにストローを突き刺し、無言で飲み始めた。
「リーファちゃん、何か疲れてない?」
待ってましたとばかりにリーファは指を差す。突然差されたトワは訳も分からず、その細い指を見ている。
「トワさんとシャワーに入ると疲れるんです。私はもう嫌です」
不満だと言わんばかりに、音を立てて調整豆乳を飲むリーファ。よく聞く、というよりも毎回聞く言葉だが、何だかんだ言って結局は引き受けてくれるのがリーファの良いところである。
「まあ、大変そうだなあ、とは思うよ」
「他人事じゃないんですよ。リオさんが拾ったんですからリオさんが面倒見て下さい」
そう言われても、さすがに出来ることと出来ないことがある。しかし、リーファはいつもと変わらない様子で、しれっと呟いた。
「別に、リオさんとトワさんが一緒にお風呂に入ったって問題ない気がしますが」
先程までの疲れ顔はどこに消えたのか、意地悪くにやりと笑うリーファがそこにいた。暴君である。
「問題あるって。トワ、頷くのやめなさい」
こくりこくりと頷いていたトワに注意喚起するも、当然のように無視される。
「問題ないよ」
トワは心なしか瞳を輝かせながら言ってのけた。この娘は無自覚でこういうことを言い出すから質が悪い。
「問題あるって。この話やめようよ」
「そうですね。でもリオさん。トワさんの肌、凄く綺麗なんですよ」
意地悪リーファは絶好調のようだ。
「そういう情報、いらないから。あの、一応言っとくけど僕男だからね」
それも十七歳。思いっきり年頃だろう年齢なのだが。
「分かってます。特に背中のラインが綺麗ですよ」
何を分かっているのか話を継続させる意地悪リーファ。
「それはちょっと気になる。ちょっとトワ! 脱がなくていいから!」
こくりと頷いてTシャツに手を掛けるトワを制止する。
「はあ、もう。リーファちゃん」
「ごめんなさいリオさん。ちょっと面白くって。でも」
くすくすとリーファが笑う。普段あまり感情を表に出さない子なので、それはとても珍しいことだった。
「生き生きしてるリオさんが見られて嬉しいです」
それは、きっと本心から来る言葉なのだろう。リーファとは《アマデウス》に配属される前から、一年近く一緒に仕事をしている。だが、自分はいつだって生きるでもなく、死んでもいない抜け殻のような人間だった。そして出会った当初、リーファも同じような眼をしていた。だからこそ、きっとリーファは自分自身のことのように喜んでくれているのだろう。
「まあ、リオさんなら余程のことがない限り間違いは起こさないでしょうし。賭けても良いですよ」
「どうでもいいけど、誰が間違いを起こす方に賭けるの?」
リーファは少し考え、ぴっと指を差す。再び差されたトワは、やはり訳も分からず指の先を見ている。
「適役がいますよ。トワさんが間違いを起こす方に賭ければいいかと」
「いいかと、じゃないよ。何も良くないって」
肝心のトワは少し考え込み、一度だけ頷いた。
「よく分からないけど、それでいい」
トワはぐっと拳に力を入れる。心なしかやる気に満ちた瞳がこちらを見据える。
「それで、リオ」
溜めに溜めたやる気を一瞬にして抜き、トワはふわりと首を傾げた。
「私はどうすればいいの?」
私は知りませんと言わんばかりに調整豆乳を飲みながら視線を逸らすリーファに、真っ直ぐこちらを見つめるトワ。
整った目鼻立ちをした顔を見つめ返し、その小さな唇に目が移る。脳裏に一瞬だけ‘どうする’が浮かび、その不謹慎な妄想を思いっきりかき消そうとする。
「ねえリオ。どうすればいい?」
尚も無邪気なトワの問いに、しどろもどろに答えることしかできない。脳裏に浮かんだ光景は、まだ少しの間、消えそうになかった。