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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「旋回と献身」
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約束の証


 やっといつもの調子を取り戻したトワと共に、いくつかの店を回ってみた。が、どれもトワの関心を引くような物はない。そもそもの話、トワは衣服に興味がないのだ。そして、これが似合いそうだという予想を立てられる程、自分に想像力はない。

 それでもトワは上機嫌な様子だったが、ただ店先をぶらつくだけで良いのだろうか。トワが楽しければそれはそれでいいのだが、何か出来ることがあるのではないかと考え倦ねる。その何かが、いまいち浮かんでこないのだ。

 気付けば服飾関係の店ではなく、装飾関係の店が並んだ区画に来てしまっていた。

 トワはアクセサリーが並んだショーウインドウを一瞥し、そのすぐ上のホログラム加工された店看板を眺めていた。

 アクセサリーに興味はないようだ。よく考えれば、トワが服飾や装飾関係に興味がないことぐらい予想できた筈なのだが、今になってその可能性に気付かされた。無難に屋台とかがある区画を歩いた方が、トワにしてみれば良いのかもしれない。

「ちょっと戻ろっか」

 電光掲示板の地図表示を眺めながら飲食店周りを探すが、トワが繋いだままの手をくいくいと引っ張った。

「どうしたの、何か欲しいものとかあった?」

 電光掲示板から目を離す。トワは何かをじっと見ている様子で、それはショーウインドウの中ではなかった。

「リオ、あれは何?」

 トワの目線を追っていくと、今し方店から出たばかりの男女が仲睦まじく歩いている所だった。しかし、トワが見ているのはその男女ではなく、その男女の笑顔の先にある物だった。

 その男女は身を寄せるようにして、互いの指にあてがわれた、左手の薬指にはめられた指輪を眺めていた。

「ああ、あれはエンゲージリングだね」

 その男女がカップルか夫婦かは分からないが、そう判断して間違いはないだろう。

「エンゲージリング?」

 トワはよく分からないとでも言いたげな様子でこちらに向き直った。

「そう、エンゲージリング。婚約の時に使う奴だよ」

 更にクエスチョンマークを浮かべるトワに、分かるように説明をしようと少し考えた。

「簡単に言うと、ずっと一緒にいようねって二人で約束する為の物だよ」

 それを聞き、トワが納得したように頷く。

「だからあんなに嬉しそうだったんだね。ずっと一緒なのは嬉しい」

 そう言って、トワは何かに気付いたように目を輝かせる。その目映いばかりの表情を見て、何か地雷のような物を踏んでしまった予感がした。

「リオ、さっき何か欲しい物があったか聞いたよね」

「う、うん」

 この展開は、あまりよろしくない。もうトワが何を言おうとしているのか分かってしまった。

「ここに入ってすぐぐらいの時に、何か欲しい物があったら買ってくれるって言ってた」

「ちゃっかり覚えてるんだ。まあ、その、言ってたね」

 トワはしんみりと頷く。確認は終わったとばかりに、トワが手をぐいぐいと引っ張りながらその店の方へ歩き出した。

「あれ買って欲しい」

「ちょ、ちょっと待って!」

 そこへ入店する前に足を止め、トワの動きを制限する。

「どうしたの、リオ」

 トワは怪訝そうな表情を浮かべながらも、何とかその足を止めた。

「その、指輪が欲しいなら買うから、何もここじゃなくても良いんじゃないかな」

 トワは首を横に振る。

「違うよ。私が欲しいのはエンゲージリングだよ?」

 まるでこちらが間違えてると言わんばかりの様子だったが、どう説明すればいいのか。

「えっと、そもそもエンゲージリングっていうのは結婚する時に使うような物だから、トワの思ってるような物とは違うよ」

「じゃあ結婚する」

「それ、意味分かって言ってないでしょ」

 こうなった時のトワは頑固だが、こればかりは譲るわけにはいかない。よりにもよってエンゲージリングに興味を持つなんて。

「分かってるよ。さっきリオが説明してた」

 トワは目を伏せ、握ったままの手に心なしか力が込められる。

「ずっと一緒にいるってことでしょ」

 目を伏せたまま、トワはどこか寂しそうに続ける。

「リオとは一緒にいたいから」

 その痛々しい姿につい頷きそうになってしまうが、そこはぐっと堪える。物が物だけに、そう軽々しく買おうとは思えない。

「とにかく、これは駄目だって。買わないからね」

 そう釘を刺すように言う。トワはそのまま押し黙ってしまい、さりとてそこから動く気配もなかった。

 無言のままでいるトワがさすがに心配になり、声を掛けようとする。

「リオは」

 しかし、沈黙を破ったのはトワの方だった。トワは様子を伺うように、顔を伏せたままこちらを見る。

「リオは、私のことが嫌い?」

 躊躇いがちに発せられたその言葉は、いとも簡単に心臓を貫いた。







 打って変わって上機嫌なトワを見ていると、してやられたような気分になってくる。

 トワは左手の薬指にはめられたシンプルな指輪を嬉しそうに見つめている。今はトワの右手と自分の左手を繋いでいるため分かりづらいが、自分の左手にもしっかりとその指輪は収まっている。

 このままではウエディングドレスも買わされかねないと自嘲気味に考えて、服飾関係の店舗が並ぶ区画を抜ける。そろそろレストランでも探そうと歩いているのだが、めぼしい店舗は見つからない。というよりも、うまく頭が機能していない。

 店員もさぞかしびっくりしただろう。まだ十七歳の、世間一般でいう所の少年が、同い年ぐらいの少女を連れて入店したかと思えばエンゲージリングを見せてくれと言い、実際に買っていくのだから。

 今思い返しても異質な光景であり、どう見えていたかは想像もつかない。金持ちの道楽とでも思ってくれているだろうか。

 状況がよく分からない。このエンゲージリングはトワの気まぐれで買うことになっただけであり、向こうは婚約する気で欲しいと言ったわけではないだろう。

 ならば、これだけ喜んでいるのはむしろ良かったのではないだろうか。だが、店を出た後にトワは何と言っていたか。確か「これでリオと一緒にいられるね」と、嬉しそうに言っていた。それも、頬を赤らめながら。

 あの反応はどちらかというと異性を意識した反応に見えなくもない。もし仮にそうだとしたら、トワは婚約について朧気ながら分かっていて尚これを欲しがったのか。

 いや、だがそもそもこれを買うきっかけになったのはどう考えてもトワの気まぐれであり、そこに深い意味は。

「リオさん」

 名前を呼ばれはっとなる。呼んだのはトワではなく、別の誰かだった。

「何を悶々と考えてるんですか、リオさん」

 気付けば目の前に私服姿のリーファがいた。上下黒のパンツスタイルで、相当に格好いい姿ではある。いつもは結わいている髪も下ろしているため、また違った印象を覚える。大人びているリーファが大人びている格好をするのはある意味当然の流れだが、当の本人はまだ十四歳の少女である。普段の制服姿の方が大人びて見えるため、むしろ幼く見えてしまっていた。

 リーファは腰に手を当てて、こちらに怪訝そうな表情を向けている。

「リーファ可愛いね」

 先にトワが口を開いた。リーファは溜息を吐いている。

「トワさんに可愛いって言われても、嫌味にしか聞こえないですけど」

 少し拗ねたような口調のリーファの気持ちは、分からなくもない。何せ当の本人が相当に可愛いのだ。トワにその気はないだろうが、そう捉えられても仕方がない。

「それより、リーファちゃんは何してるの?」

「私は皆の買い出しですけど、今はお昼休憩です。お二人は」

 そこまで言ってからリーファがじっとこちらを見る。何かに気付き、さっと背筋を伸ばした。

「ご結婚、おめでとうございます」

 そのままリーファは、教本に載っていてもおかしくはない程完璧な会釈をしてみせた。

「ありがと、リーファ」

「な、何普通に返してるのさ、違うってば!」

 良い笑顔で返事をするトワだが、意味が分かっているのだろうか。

「リオさん、意外としっかりしてるんですね」

「違くない、一緒にいる」

「だから違うってば。色々事情があって」

 リーファに説明しようとするが、意地悪そうな笑みを浮かべているのに気付く。

「挙式はいつですか」

「違くない」

「違うんだって、挙式も披露宴もないよ!」

 とにかく間違いだということを説明しなければ。どう話そうか考え倦ねていると、リーファがくすくすと笑い始めた。

「分かってますよ、何があったかは分かりませんが」

「もう。それならいいんだけど」

 またからかわれてしまったが、勘違いでなかったという事に一安心する。

 しかし溜息を吐く間もなく、繋いでいた手を強く握り締められる。

「違くない!」

「それ痛いから! 分かったからストップ!」

 力を緩めるトワだったが、なかなかに不機嫌そうだ。

「違くない」

「そうですね、トワさんが一緒にいてあげて下さい」

 ぶつぶつと不平の言葉をこぼすトワに、リーファが優しげな口調で話す。

 こくりと頷いたトワだったが、まだ納得していない様子だ。

「ほらリオさん。あと一押しです。トワさんの機嫌を直して下さい」

 いきなり振られて疑問の目をリーファに向ける。どうしろというのか。呆れたようにリーファは溜息を吐いた。

「嘘でも何でも、好きだとか愛してるだとか結婚しようとか言えばいいんですよ」

 しれっと言ってみせるリーファだが、それはただの公開処刑ではないか。気恥ずかしさから言葉に詰まっていると、トワが横から口を挟む。

「嘘ついたら怒るからね」

「うわあ、選択肢一個無くなったんだけど」

 目の前のリーファは好奇の目を向けている。からかわれているだけならと思ったが、隣のトワを見ると切実な目をしている。

「そんな泣きそうな顔しなくても……」

 結局の所、この二人にはかないそうにない。トワにこんな目をされたら、もうどうしようもないじゃないか。

「その、大丈夫だよ。一緒にいるから」

 トワはこくりと頷く。控え目な言い方だったが、納得してくれたようだ。

「へえ、顔赤くなってますね。トワさん可愛い」

 リーファが言うように、トワは頬を赤らめていた。結婚云々は真顔で言う癖に、こういう時は照れているのだからよく分からない。

「ほら、からかうのはおしまい。お昼休憩って言ってたっけ?」

 延々とこんなやり取りが続いてしまったら心が保たない。

「はい。お腹も空きましたし、いい感じの時間なので」

「そっか。僕達もお昼なんだけど、一緒にお店探す?」

 何気ない一言だったが、リーファはあからさまに顔をしかめた。

「リオさん分かって言ってるんですか。仮にもデート中なのに」

 これは失言だったかと隣を見るが、トワは特に気にしていないようだ。

「トワ、今からご飯食べるけどリーファちゃんと一緒でもいい?」

 トワは首を傾げる。

「いいけど、ダメなの?」

「ダメじゃないよね。そんな訳で大丈夫そうだよ」

 リーファは呆れたように溜息を吐く。

「まったく、これだからリオさんは。まあいいです」

 リーファは踵を返して歩き始めようとする。これは肯定のサインだ。

「あ、ちなみに」

 リーファが思い出したように振り向く。

「お店って決まってますか」

「いや、今から探すとこだよ」

 ふむ、とリーファは考える。トワは手持ち無沙汰なのか、繋いだままの手を振り始めた。スキップでもするつもりなのだろうか。

「では、私の知ってるお店でいいですか」

「うん、全然大丈夫」

 そう答えると、リーファは少し表情を変えた。呆れている、憐れんでいるというよりは、純粋に悲しんでいる表情だった。

「聞いておいて何ですが、デート中なのにその答えはやっぱりどうなんでしょうか」

 心配そうなリーファの一言はあまりにも正論だ。言い返す言葉もない。そして往々にして、この先の言葉は決まっているのだ。

「大体リオさんは」

 これである。デートだ何だと散々言っていたリーファが率先して雰囲気を壊しているという矛盾はさておき、これは食事中の説教は覚悟した方がいいかもしれない。

 それはそれで悪くない時間だと思う。何より自分達らしい気がする。

 トワと手を繋ぎ直し、歩きながらデート時における男性的特権とその行使について力説するリーファの後ろをついて行った。







 リーファの案内でたどり着いた所は、落ち着いた雰囲気のイタリア料理店だった。

 客はあまり入っていないようで、騒々しいということもない。その為、微かにクラシックが流れているのが分かった。

「ここは落ち着いて食事できますよ。他のセクションでも行ったことありますが、基本的に人がいません」

 席に座るなり、リーファがある意味失礼なことを言い出した。四人テーブルを囲んでいる形で、目の前にトワ、その隣にリーファが座っている。

「そっか。それお店として大丈夫なのかなあ」

 見渡しても怪しい所はない、雰囲気も悪くはない。何が問題なのだろうか。

「一定の客層はあるみたいですよ。何せ古風で、メニューも注文もタッチパネルじゃないですし」

「あ、本当だ。すごーい、メニューが本だ」

 手に取った厚みのあるメニューにざっと目を通す。今日のおすすめパスタとかでいいだろう。

「トワは何食べたい?」

 リーファから手渡されたメニューを、無関心に眺めるトワに声を掛ける。

「何があるのかがよく分からない。文字ばっか」

 トワは首を傾げてメニューをリーファに返す。

「トワさんは好き嫌いないでしょうし、適当に頼んでおきますね」

 リーファも注文を決め、タイミング良く表れたウェイターにそれぞれ注文していく。昔ながらのスタイルだ。

「懐かしいなあ。最近は全部手元で出来るから便利なんだけど、これはこれでいいよね」

「懐かしいって、リオさんまだ十七歳じゃないですか。年寄り臭い言い方しないで下さい」

 懐かしい物は懐かしいのだが。でも口は災いの元、ここは黙っておこう。

「まあリオさんらしいと言えばそうですが。ちゃんとデートしてるんですか」

「ちゃんとデートっていうのがよく分からないんだけど」

「まあエンゲージリング買ってるぐらいですから、それなりにはしてるんですよね、きっと」

 そこは突っ込まれたくなかったが、事実なのでしょうがない。

「説明がうまく出来なくて。大体結婚の説明をトワにするなんて難しいって」

 リーファは少し考える。

「男女が夫婦になることです」

「夫婦って何?」

 話を聞いていたトワが不意に質問する。

「結婚している男女のことで……」

 リーファは言葉に詰まる。

「結婚って何?」

 とどめの一撃、トワからの質問にリーファは押し黙る。

「じゃあリーファに教えてあげる」

 トワは続ける。

「結婚は好きな人とずっと一緒にいようっていう約束なんだよ」

 いつも教えられてばかりだからか、トワはちょっと誇らしげだ。

「まあこんな感じで、論破出来ずにずるずると」

「状況は分かりました。でも手っ取り早くていいじゃないですか」

 リーファは悲しそうな表情を浮かべる。

「リオさんはとにかく恋愛面に疎いというか奥手というか、本来ならリングの交換なんてあと数十年はかかります。もう後は既成事実でも作ってさっさと籍を入れましょう」

 打って変わって、リーファは意地悪そうな笑みを浮かべた。

「挙式には呼んで下さい」

「うん、分かった」

「トワは何で返事してるの、意味分かってる? あとリーファちゃん、僕はまだ十七歳なんだけど」

 リーファはすっと真顔になる。

「では事実婚ですね。披露宴には呼んで下さい」

「分かった」

「トワは意味分かってるの? あと事実婚に披露宴ってどうなの?」

 そんなリーファの意地悪トークを受けていると、頼んだ品が運ばれてきた。

 自分には本日のおすすめパスタ、カルボナーラが置かれ、トワとリーファの前には冷製パスタが置かれた。

「とりあえず食べちゃおうか」

 リーファはフォークとスプーンを器用に使って冷製パスタを食べている。フォーク一本で食べている自分とは上品さが違う。見よう見まねでやってみようとするが、どうにもしっくりこない。気付くとトワもリーファの食べ方を実践しようと四苦八苦していた。

「な、なんですか二人して」

 こちらの視線に気付き、リーファはぎょっとなる。

「リーファの食べ方綺麗だったから」

 トワが不器用にパスタを巻き取りながら答える。これはいいフォローだ。

「うん。料理って大体フォーク一本で食べるものでしょ?」

 左手にスプーン、右手にフォークを持ってそれぞれを巻き取りと受け皿のような使い方をしているようだが、どうも上手くいかない。自分は早々に諦めてフォーク一本で食べ始めていた。

「軍食じゃないんですから。まあ、どんな食べ方も個人の自由ですからいいんですけど。それに、本場イタリアではスプーンの助けを借りるのは子どもみたいと笑われますし。ああトワさん、それ手が逆です」

 リーファがトワにやり方を教えている。大したもので最初はぎこちなかったものの、数分後にはある程度まで見れるようになっていた。

「こう?」

「そんな感じです」

 食べ終わる頃にはすっかり板についていた。今日のトワは覚えがいい。

 デザートに運ばれてきたジェラートを見て、トワの表情が変わる。目を輝かせながら食べ始めたトワを眺めていると、リーファが小声で話しかけてきた。

「さっきの話なんですが」

 リーファの声色は真剣そのものだ。

「結婚でも何でもいいです。トワさんと一緒に、どこかで暮らすというのは良いことだと思いませんか」

 じり、と胸が締め付けられる。

「そうすればトワさんが戦う必要だってない。ちょっと日常生活は大変かもしれませんが、軍艦の中よりはずっと良いはずです」

 トワは戦いから遠ざかるべきだ。それは分かっている。では自分は、何度となくしてきたその疑問は、最早考えるまでもない。

「AGSはどうするの、トワを追ってるんでしょ」

 それでも真っ向から否定することが出来なくて、こうして正論を言うしかない。

「私達が止めます」

「無理だよ」

 その正論に真っ向からリーファは答えた。何の根拠もないというのに。

「無理でも何でも止めます。そうでなければ」

 報えない。胸中でリーファの言葉を続ける。その気持ちは充分すぎる程分かるが、それはこちらも同じ事だった。その生き方では何一つ報えない。

「いいえ、すみません。何でもないです」

 リーファはしゅんと俯く。お互いに押し黙ったままだったが、ジェラートを食べ終えたトワがぽつりと呟く。

「喧嘩したの?」

 首を横に振って答えるが、リーファは違った。

「リオさんにいじめられたんです」

 何てことを言うのだろうか。トワはこちらを見ると、容赦なく握り拳を振り下ろした。

 ごちんと冗談のような音が響く。弁明の余地無く処断された拳骨だったが、的確に頭部にヒットした。

「痛いってば!」

 たんこぶになっているだろう患部を押さえながら抗議するが、トワはふんと鼻を鳴らす。

「リーファをいじめちゃダメ」

 くすくすと笑い声が聞こえる。俯いたままのリーファから漏れ出た声だろう。

「リーファ、どうしたの?」

 トワが心配そうに問いかける。リーファが俯いている下で、笑っているのか泣いているのかは分からなかった。

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