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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「鏡鑑と光芒」
249/352

渦の中

あらすじ



 《アマデウス》はダスティ・ラートへと至り、《フェザーランス》と共にこれを打ち砕く。ミスター・ガロットの仕掛けた策は、幾重にも渡る戦いと犠牲により霧散する。

 しかし、これは戦場の外で起きた出来事に過ぎない。

 戦場の中心、全ての元凶であり到達点でもあるその場所で、一人の少女が待っている。

 少年と少女の戦いが始まった。


 障害物のない宇宙では、直線距離こそが最短の道筋となる。故にリオ・バネットは、思うがままに《イクス・フルブレイド》で駆け抜けていた。目標は中枢、打倒すべきリリーサー、フィルと《スレイド》はそこにいる。

 レティーシャ・ウェルズとの戦いを終え、これからどう動くべきか考えていた。イリアの援護をする為に《アマデウス》を目指すのか、トワを迎えに行く為に中枢へ行くのか。何も考えずに決めて良いのなら、答えは明確だったが。そんな中、リュウキとエリルのチームと合流出来たのは大きかった。

 リュウキとエリルに《アマデウス》の座標を知らせ、そちらは任せる事にする。懸案事項の一つは片付いた。

 後は、出来る限り速くトワに追い付くだけだ。

 それ故に、《イクス・フルブレイド》はただ前だけを見据えている。

 消耗は少なくはない。青いウサギ……レティーシャの操る《カムラッド》はそれだけ手強かった。幾つかの武装を犠牲にしたが、まだ充分に戦えるだろう。

 目の前に広がる宇宙にもまた、少なくはない光が見えた。中枢に近付けば近付く程、敵部隊が点在しているのは当然の理だ。

 迂回している時間はない。迂回する必要すらない。

 どうするつもりかと問う《イクス》に、決まっていると返す。

「押し通る。トワを一人にさせられない」

 あの少女は、一人だと何をしでかすのか分からない。ちょっと過保護なぐらいが丁度良い。

 前方の敵部隊はこちらに気付いている。四機の《カムラッド》が、互いの射線が通るように陣形を組み直していた。中央を愚直に通れば、蜂の巣にされるという寸法だ。

「通らせて貰うけど」

 《イクス・フルブレイド》は、右手で持った剣槍ナインスレイの柄を短く持ち直し、空いている左手で左腰にあるトライデント粒子砲を掴む。右腰のトライデントは既に損失しているが、こちらはまだ無傷だ。

 トライデント粒子砲は有線接続されているが、本体の動きを阻害する事はない。適当に照準を付け、青白い粒子光を散発的に照射する。直撃するように撃ってはいるが、直撃は狙っていない。思っていた通りに、敵if部隊は攻撃態勢を解除して散開、自ら道を譲ってくれた。粒子砲を向けられて、避けない操縦兵などいない。

 第一陣をそうして潜り抜けるも、すぐに別のif部隊に捕捉される。ようやく上がり始めた銃火を、最小限の動きで避けていく。増速を繰り返す《イクス・フルブレイド》に、命中させてくるような凄腕はいない。

 その火線が進路を塞ぐ前に、《イクス・フルブレイド》は狭い範囲を跳ね回りながら左手を突き出し、トライデント粒子砲を一射二射と照射していく。おおよその方向だけ見当を付けて、回避機動のついでに粒子砲撃を叩き込んでいるだけだ。たったそれだけであっても、敵の動きは大きく抑制出来る。

 そして、足を止めればそれで終わりだ。前へ進み続ける《イクス・フルブレイド》に追い縋る為には、相手もまた進み続けるしかない。

「このまま突破する」

 粒子砲撃の牽制を続けながら、《イクス・フルブレイド》は最短の道を選び取っていく。問題はない。

 粒子砲撃で敵を無理矢理退かし、退かなければ右手にある剣槍ナインスレイで薙ぎ払う。その間も、速度を緩めるような事はしない。その攻防は、最早当事者にしか認識出来ないだろう。外から見れば、通り過ぎ様に全てが終わっているようなものだ。

 道を阻む敵は多い。正面から斬り掛かってきた《カムラッド》のナイフを間一髪で躱し、お返しに踵を叩き込む。

 しつこく追い縋る敵if、《ハウンド》達に向かって左手のトライデントを一時的に破棄し、左脇に並ぶ投擲ナイフを二つ投げ付ける。命中の確認はする必要がない。破棄したトライデントの有線を引っ張り、左手に再びその粒子砲を握らせた。

 《リンクス》が射出した誘導弾を、避け続けて最後に槍で斬り払う。

 《オルダール》が脇に抱えていた筒が光を吐き出す。横薙ぎに照射された粒子砲撃をするりと躱し、左手を突き出し粒子砲撃を返す。

 無数の光が無数の銃火を上げ、その殆どが《イクス・フルブレイド》に届かずに霧散する。

「……トワ、すぐに行くから」

 その光達に惑わされず、リオは前だけを。今も戦っているであろう少女だけを見据えている。二人で過ごした時間や、出撃前の何気ないやり取りが頭に浮かんでいく。扉を開けるなり髪を弄りたいと申し出て、了承も取らずにあの子は人の頭を弄り始めた。細い指がこちらの髪に触れる度、何だかむず痒い思いをしたのを覚えている。

 そうして出来上がった不格好な三つ編みは、今もこうして左耳の前で揺れていた。首から下げたエンゲージリングと、この不格好な三つ編みが、前に進む力を与えてくれている。

 剣戟の嵐を体現しながら、《イクス・フルブレイド》はたった一人の少女の元へと突き進んだ。

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