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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「想望と憧憬」
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私の我が儘を


 再び一機と四機が……或いは一騎と四騎が入り交じっていく。

 一騎はトワと《プレアリーネ》、右腕に携えた大剣モノリスで被弾を防ぎながら、左腕に括り付けられたガトリング砲でそこかしこに銃弾をばらまいている。

 四騎は幽鬼の群れ、プライア・クライスだ。

 槍騎士《ドゥエイン》、弓狩人《ヒースコート》、暗殺者《ジギス》、盾騎士《ヘイゼル》の四騎だ。

 疑似重力下でありながら、《プレアリーネ》は空中を自在に飛び回っていた。ただ飛んでいるだけではない、自在に飛び回っているのだ。

 端から見る者がいれば、《プレアリーネ》だけ重力の影響を受けていないと錯覚してもおかしくはなかった。空中を滑るように飛翔したかと思えば、その場からろくに動かずに姿勢を変更して見せる。

 《プレアリーネ》の持つ推力と、全身に付けられた制御翼がもたらす戦闘機動だった。トワの思い描く位置へ、思い描く速度で到達する。トワの思考と《プレアリーネ》の性能が、完全に合致しているからこそ可能な動きだ。

「みんなには悪いけど、私は戦わなきゃだから」

 四騎は未だに陣形を意識したまま、それぞれの得意な距離に入ろうと動いている。あのプライア・クライスに主はいない。損傷を修復する事も出来なければ、個々に戦う事も難しい。それぞれが記憶する‘勝ち方’を、延々と繰り返す事しか出来ないのだ。

 左腕が弓と化した狩人、《ヒースコート》が次々に矢を放つ。一つとして同じ物のない(やじり)が、綺麗な放物線を描いて迫る。

 両手の盾を油断なく構えている《ヘイゼル》は、いつでも《ヒースコート》を守れる位置にいた。

 無数の矢を隠れ蓑に、小柄な暗殺者である《ジギス》が接近を試みている。

 それら全てを無視し、真っ直ぐに突っ込んでくるのが槍騎士《ドゥエイン》だ。

「戦わないと。じゃないと、リプルに失礼だもの」

 私の我が儘で命を奪った。この我が儘は間違っていないと信じているからこそ、迷わずに戦ったのだ。それはここでも変わらない。

 だから戦うのだ。迫る無数の矢をかいくぐり、《プレアリーネ》を敵の包囲網に飛び込ませる。回避した傍から矢は複雑な軌道を描き、こちらの背を貫こうと飛翔し始める。自身と《プレアリーネ》の感覚だけを頼りに、それすらも避けていく。そして避けながらも、目的の位置には滑り込んだ。

 注意すべきは正面、槍騎士《ドゥエイン》が猛烈な踏み込みを見せる。踏み込みと同時に突き出された槍の穂先が、真正面からこちらを貫こうとしていた。

 《プレアリーネ》は、右手で引き摺るように持っていた大剣モノリスを、盾代わりに構え直す。

 そして大剣と槍がぶつかり合い、互いの姿が見えなくなった瞬間に一騎は動いた。

「イグニセル!」

 《プレアリーネ》は大剣モノリスを手放し、持ち前の高速機動で《ドゥエイン》の側面に回り込んでいた。そのまま、右腕に今もあるイグニセル粒子剣を起動する。

 交差と同時に一閃、極小の粒子剣が《ドゥエイン》を肩口から斬り捨てた。

「……少し浅い」

 しかし、《ドゥエイン》は完全に断ち切られた訳ではなかった。身を捩り、自ら落下する事によって致命傷を避けていた。

「でもいい、これで」

 右腕のイグニセルを停止し、空中で回転するモノリスを右手で拾い上げる。《ドゥエイン》が立て直すまでに少し時間が掛かる。それまでに、他の三騎を叩く。

 新たに追加された矢と、しつこく追い縋る矢をそれぞれ躱しながら、《プレアリーネ》は《ヒースコート》へと距離を詰めていく。

 その真横から、短剣を投擲しながら《ジギス》が迫る。更に、援護と言わんばかりに盾騎士《ヘイゼル》が胴を露出し、粒子砲撃を加えてきた。

 短剣をモノリスの一振りで弾き、急速上昇を仕掛けて粒子砲撃を躱す。そして、相手が追撃の態勢に入る前に右腕を振りかぶる。

「これで」

 狙いは尚も短剣を投げ付けようとしている《ジギス》だ。

「おあいこ!」

 右腕を振り下ろし、握っていたモノリスを思い切り投げ付けた。青い燐光を纏ったモノリスが、信じられないような速度で《ジギス》に直撃する。直前に《ジギス》が投擲していた短剣を、全て弾き飛ばしながらモノリスは当たってくれた。だが、《ジギス》はモノリスが命中する一拍前に短剣を構え直している。致命傷にはなっていない。

 だが、モノリスの質量は無視出来ない。吹き飛ばされていく《ジギス》を見送りながら、厄介な二騎を無力化出来たと頷く。

 盾を構える《ヘイゼル》目掛け、一気に距離を詰めていく。真正面から撃たれる粒子砲撃は、最早妨害にも援護にもなっていない。

 《ヒースコート》の矢も同様だった。閉所ではともかく、ここは人工とはいえ広い空の中だ。幾らでも動ける余地はある。

 回避を続けながら、《プレアリーネ》は左腕を突き出す。残弾の少ないガトリング砲が、なけなしの銃弾を《ヘイゼル》に浴びせていく。

 《ヘイゼル》は防御に徹し、両手の盾を硬く閉じる。放った銃弾は、どれ一つとして傷を付ける事なく弾かれていく。

 そして、《プレアリーネ》が《ヘイゼル》の正面に到達した瞬間、遂に弾丸を吐き出す事を止めた。六つの銃身はがむしゃらに回り続けているものの、撃ち出すべき弾がないのだ。

 それを隙と捉えたのか、《ヘイゼル》が両手の盾を開く。胴に光が灯り、致死の光がこちらを貫くその前に。

「捨てていいって言ってたし」

 肉薄しながら、《プレアリーネ》は左腕を振り抜く。模範的なストレートパンチと共に……回転し続けるガトリング砲の銃身が、《ヘイゼル》の胴体に突き立てられた。独りでにアタッチメントが外れ、人様の胴で拉げたガトリング砲が軋んだ音を立てる。

 粒子砲を撃つタイミングを失った《ヘイゼル》に、《プレアリーネ》は右脚で蹴りを叩き込む。盾で防ぐも、衝撃で《ヘイゼル》との距離が離れる。

「戻って、来て!」

 《プレアリーネ》の右手をかざし、離れていったモノリスを強く意識する。振り払われ、地面に突き立てられたその大剣を意識のどこかで操作する。

 リプルがやっていた事だ。それに、フィルは同じように無数のハチェットリーフを操作している。自分が出来ないという理由はない。

 青い燐光が瞬き、モノリスが地面を滑る。《ヘイゼル》の真下まで地面を削ると、放たれた矢のように飛び上がった。

 高速で飛来した大剣モノリスは、《ヘイゼル》の下方から上方へと突き抜けていった。死角から大剣を通されたのでは、盾も甲冑も意味がない。灰色の燐光を吹き出しながら、《ヘイゼル》はばらばらに瓦解していく。

 その破壊の渦を突き抜けながら、《プレアリーネ》は飛来したモノリスを左手で掴む。

 そして、その勢いのまま《ヒースコート》に突っ込んでいく。

 《ヒースコート》は距離を取りながら、冷静に矢を放つ。

 《プレアリーネ》は右腕のイグニセル粒子剣を起動し、極小の粒子剣でその矢を斬り払う。そしてそのまま、《ヒースコート》にその刃を叩き込んだ。

 左腕を犠牲にして、《ヒースコート》はそれを凌ごうとしていた。その瞬間、《プレアリーネ》はあっさりと右腕のイグニセルを停止した。粒子剣を消し、右手でとんと《ヒースコート》を押しやる。

「これも」

 そして、大剣を振るうのに丁度良い距離を稼いだ《プレアリーネ》は、左手に携えた大剣モノリスを横一文字に振り抜いた。

「見て覚えた」

 最も剣が効果を発揮する位置での斬撃は、確実に《ヒースコート》を捉えた。狩人は両断され、灰色の燐光に変換されていく。

 放たれていた無数の矢も、一斉に燐光へと変わっていく。

 その光の雨を押し退けるようにして、短剣を構えた《ジギス》が後方から近付いていた。短剣を矢継ぎ早に投擲しながら、それをも上回る速度で《ジギス》は迫る。

「おしまいに、する」

 左手に持ったままのモノリスを後方に向け、何の援護も受けられなくなった《ジギス》に粒子砲撃を放つ。投擲された短剣は、呆気なく光の帯に消えていく。その一撃を避けた《ジギス》が、右手の短剣を突き出すようにして飛び込む。

 回避しながら前進し、クロークの一部を粒子光に焼かれながらも、《ジギス》はこちらに詰め寄った。

 その刺突を、空中に静止したまま姿勢を変更、際どい所で躱す。制御翼が複雑に傾き、その場で回転するようにしていなしたのだ。

 空いている右手を伸ばし、《プレアリーネ》は《ジギス》の右腕を掴む。抵抗される前に、《ジギス》自身の推力を利用して体勢を崩す。

 空中で、前につんのめるようにして《ジギス》は距離を離す。その、一瞬だけ無防備となる背中にモノリスを向ける。

「これで、おしまい」

 左手で構えているモノリスの切っ先から、粒子砲撃が吐き出される。距離が離れていようと関係がない。光の帯は光速で照射され、体勢を立て直す間もなく《ジギス》を焼き払う。後には夥しい熱と、灰色の燐光だけが残される。

 また、私の我が儘を押し付けた。地面に落ちたまま動かない《ドゥエイン》を一瞥し、こちらをじっと見据えたままの《スレイド》を見遣る。《スレイド》は地表近くで静止していた。赤い装甲のままであり、フィルの意思を反映していると分かる。

 フィルと《スレイド》は、本当にただ見ているだけだった。援護もせず、まるで何かを見極めるように。

『綺麗ね。まるで踊ってるみたいだった』

 全てが終わるのを待っていたのか。フィルはそんな言葉を掛けてきた。

『お姉ちゃんはね。もっとこう、無駄がないんだ。それはそれで綺麗だけどね』

 淡々と、事実だけを述べる声だ。フィルの発していた殺気は、とっくに薄れていた。

『私のお姉ちゃんは、どこに行っちゃったのかな。目の前にいるのにいないなんて。ひどいよ』

 もうどこにもいない。二度と会えないし話せない。

「フィル、逃げないと。《スレイド》だって分かってるんでしょ」

 フィルを守る為に《スレイド》は戦っている。このままここにいれば、それが果たされないと分かっている筈だ。

 しかし、《スレイド》は何の返答も寄越さない。フィルも同様だった。

「そう。じゃあ、やっぱり無理矢理連れていく」

『ふうん。一緒に死んでくれるの? お姉ちゃんじゃない貴方が』

 諦念に沈んでいても尚、黙って従うつもりはないと《スレイド》は身構える。赤い《スレイド》、その右手の実体剣が再び展開され、‘死ぬまで戦ってやる’とでも言いたげな笑みを浮かべ……浮かべているように感じた。

「やめてよ、フィル……」

 今すぐにでも逃げないと、全員ここで死ぬ事になる。このセクションに仕掛けられた物は、それだけの破壊をもたらすのだ。

『いやだ。やめないもの』

 戦いを始めようとする《スレイド》に合わせて、こちらも大剣モノリスを構える。

 逃げないといけない。でも、背中は見せられない。全てを捨て去ったとはいえ、フィルと《スレイド》は今尚強いままなのだ。

 あれに勝って、みんなで逃げないと。

『本当に逃げないんだ。じゃあ斬るよ』

 《スレイド》が動き始めた。上昇し、《プレアリーネ》と同高度まで一瞬にして跳ね上がる。右腕だけではない。左腕の実体剣も展開し、どこか億劫そうに距離を詰めてくる。

 両腕の実体剣が振り抜かれる。緩慢な、けれど相応に重い一撃を、《プレアリーネ》は大剣モノリスで防ぐ。

「やめてってば! 死んじゃったら、話すことも何にも出来ないんだよ!」

『やめないったらやめない!』

 焦燥が募っていく。地表が……その先に位置しているセクションの中心が、気になって仕方がない。《スレイド》の剣戟をその都度凌ぎながら、時間がないのだと違和感の理由を考える。そこかしこに仕掛けられた、死を撒き散らす災厄が。目を覚まそうとしているのだ。

 フィルも《スレイド》も、分かっている筈なのに。

「……ああ、もう!」

 《プレアリーネ》は、大剣モノリスを正面に構えたまま徐々に後退していく。振るわれる剛剣を防ぐ度に、高度が少しずつ下がっていく。

 また、《スレイド》の実体剣が逃がさないと言わんばかりに叩き付けられた。

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