勝負師のテーブル
一対複数、いや二対複数といった構図だ。リュウキの《カムラッド》は、足を止めたら終わりだと言わんばかりに回避機動を繰り返していた。
エリルの操縦する《カムラッド》も、充分に理解した上で動いている。付かず離れずの距離を維持しながら、敵の集団を数えていく。
「目標は二機、‘顔なし’の連中だが」
複数の《カムラッド》に混じり、後退を続けている相手を見据えながらリュウキは言う。
ミスター・ガロットが直接指揮する、顔のない部隊の事だ。その二機が中心となって、他の兵士を煽動している。この二機さえ追い払えば、随分とやりやすくなるだろう。
『それ以外の戦力、何も知らない《カムラッド》は二十機程ですか。時間を掛ければまだ増えますよ。続々とここに集結中です』
向こうからすれば、いきなり敵が増えたように思えるだろう。カソードF……セクション内部に侵入した《スレイド》は内部の防衛部隊に任せ、外にいる連中はこちらを注視するだろう。
狙い通りだが、無数の銃口を眺めるのはさすがにおっかない。
「派手にパフォーマンスして、視聴者の皆さんを引き付けましょうってな」
リュウキは軽口を叩き、いつものように平静を装う。だが、数えるのが億劫になる程の銃火が見えた瞬間、背筋が凍り付いたというのも確かな事実だった。
‘顔なし’が操縦する《カムラッド》が、こちらに撃ったのが契機となった。容赦なく降り注ぐ鉄鋼弾を、間一髪で避けていく。
『やはり、想定通りにやるしかないですね。狙いは甘いですが、数が数です』
エリルの意見は正しい。こちらが操縦しているのは、圧倒的な性能を誇るスーパー兵器ではない。ちょっとカスタムされた《カムラッド》でしかないのだ。延々と避け続けるのは不可能だろう。
「だな。一機がリロードしたら仕掛けるぞ」
狙いは甘い上に、フルオートで突撃銃を撃ち続けている。本当に、素人集団を集めてきたようだ。
となれば、再装填の隙を補うという発想もないだろう。ましてや、《スレイド》と戦った後だ。冷静に動ける兵はいない。
リュウキはその瞬間を待ちながら、操縦している《カムラッド》の装備を最適化する。
いつも通りの装備を積んできている為、そう複雑ではない。右手にCP‐23狙撃銃、左肩にES‐1ナイフ、腰に予備弾倉だ。いつもと違う点は、右肩にタービュランス短機関銃を固定していた。それに加え、いつも空けている左手にも短機関銃を握らせている。
普通の短機関銃ではない。むしろ、一般的な銃器の形とも少し違う。グリップがあり、トリガーがあり、銃身がある。しかし、グリップの底にも同じように銃身があった。二つの銃が、鏡合わせに接着されたような。そんな歪な形をしている。タンク型の弾倉がこれまた強引に付けられ、再装填は一切考慮していない。
フラッシュゲイル短機関銃……左手を覆うようにして備え付けられた二つの銃口が、その出番を待っていた。
「さて、どんなもんかねえ」
使った事のない武装だ。だが、こうした乱戦では有効らしい。
『そろそろです。準備はいいですか?』
エリルの《カムラッド》が右手に突撃銃、左手に大型拳銃の構えを取る。二つの照準を同時に操る、エリルだからこそ出来る戦術だ。
「おう。飛び込むか」
銃火がぱたりと途切れ、その時が来た事を分かりやすく教えてくれた。再装填の隙だ。散発的になった銃火を潜り抜け、二十以上はいるだろう《カムラッド》の陣形に接近を試みる。
前進を続けながら、リュウキの《カムラッド》は敵の塊に左手を向けた。その腕に握られたフラッシュゲイル短機関銃のトリガーを引き、惜しみなく小口径弾をばらまいていく。
二つの銃口から吐き出された小口径弾は、経験の浅い兵士を追い払うには充分だった。
その隙を逃さず、まずエリルの《カムラッド》が陣形に割って入る。交差と同時に両手の武装が弾丸を吐き出し、左右にいる敵《カムラッド》の手足が吹き飛んでいく。
その混乱に乗じて、リュウキの《カムラッド》も陣形に入り込む。左手にあるフラッシュゲイル短機関銃を、適宜周囲の敵《カムラッド》にお見舞いする。
殺傷や撃破が目的ではない。ワントリガーも引いてやれば、二つの銃口から吐き出される小口径弾が正面装甲を手酷く痛め付けてくれる。
敵の数は依然多いままだが、応射はぐっと減った。現在、自分とエリルの《カムラッド》は陣形の内側にいる。この時点で、陣形は機能していない。更に、味方への誤射を怖れて攻撃出来なくなる。
素人達がそれに気付き、陣形を破棄するまでの時間が勝負だった。
「一機でも多くぶん殴る!」
教本通りに接近し、愚直にナイフを振り回す敵《カムラッド》の斬撃を後退しながら避け、リュウキの《カムラッド》は至近からフラッシュゲイル短機関銃を叩き込む。
『損傷すれば、引いてくれますからね』
エリルの《カムラッド》は、陣形内を縦横無尽に跳ね回りながら両手の武器を撃ち続ける。エリルにとってば、敵《カムラッド》は止まっているにも等しい。正確に腕や脚、頭部を射抜いている。
いくら煽動されようと、自身の危機にはそれを優先する。ミスター・ガロットのやり方では、これが限界なのだ。
「ビジネスライクで大変結構。さて、そろそろ次の段階だろ」
混乱の真っ直中で、冷静に動けている奴がいる。これ以上の番狂わせは、あいつらが許さないだろう。
『ええ。ここからが本番です。やはり、あの二機がジャミングの中心です。通信機器を、それと分からない程度に阻害している』
完全な通信妨害ではない。現に、こうしてエリルとは会話出来ている。だが、緊急回線を用いても敵側と通信を繋げる事が出来ない。本来なら、敵味方関係なく至近の相手と通信を繋げる事が出来る筈なのだ。
「装備か? それともクラッキング?」
『装備かと。例の《カムラッド》、腰の辺りの装備が濃厚ですね。あれを何とかしない限り、コンタクトは取れません』
ちらとサブウインドウを見遣り、リュウキは覚悟を固める。《アマデウス》はカソードF周囲を巡回しながら、緊急回線でこちらに呼び掛けている。
この宙域にいる機体、全てに呼び掛けているのだ。その声が届かない限り、幾ら蹴り上げても逃げ出してはくれない。
「なら、あの玩具を取り上げるぞ」
この事態も想定していた。全てが最悪のパターンという劣悪さだが、その全てをひっくり返す為にここにいるのだ。
『了解。リハビリついでに叩きます』
エリルの頼もしい返事に、リュウキはにやと笑みを浮かべる。ここからが本番、腕の見せ所という奴だ。
「いいねえ。手札はジャック、ショウダウン!」
手札はJ、整備が終わるまでの間に、ただ遊んでいた訳ではないのだ。
二機のifが、二機のifに向けて銃口を向けた。




