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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「想望と憧憬」
176/352

染み付いた業

あらすじ



 残るリリーサー、フィル・エクゼスと戦う前に、《アマデウス》は交渉を仕掛ける。

 AGSの総合指揮官であるクライヴ・ロウフィード、通称ミスター・ガロットは何かを知っているだろう。ミスター・ガロットへの直通回線を奪取する為に、《アマデウス》は非正規部隊らしい手段を選択した。

 奇襲と強奪である。

 ミスター・ガロットは何を語るのだろうか。だが、まずは一つの戦いを越える必要があった。


 待つだけの時間は終わり、戦いは否応なしに始まる。それでも、逆の立場よりはずっと良い。こういうのは大抵、攻める方が有利だ。リオはそう考えながら、その思考の隙を突くつもりで動いていた。

 攻める側と守る側は本質的に違う。攻める側はスイッチを入れてから動くが、守る側は攻められてからスイッチを入れる。一瞬とはいえ、致命的な隙という奴だ。

『リオさん、《アマデウス》は指定位置で待機していますが。本当に、何の援護も必要ないんですか』

「うん。粒子砲撃なんて撃たれても、目立つばっかりだし」

 通信機器越しにリーファとやり取りをする。もうここは戦場だ。

 狭い操縦席の中で、微かな振動を感じながら。ハンドグリップに手を添えている。適度に力を抜いたままペダルに足を乗せ、計器の弾き出す数列を横目で追う。

 if《カムラッド》の操縦席に腰掛けるのは、久しぶりの事だったが。戸惑う事もなく、こうしていつも通りに動かせている。自転車と変わらない。一度感覚が染み付いてしまえば、意識せずバランスを取れるようになる。そんな例えが頭に浮かび上がってきたが、はてと疑問が浮かんできた。それこそ何年も自転車に乗っていないが、自分はちゃんと乗れるのだろうか。

 現在、《アマデウス》は後方で待機している。敵に、AGSに気付かれないように、余裕を持って離れて貰った。援護は受けられないが、そもそも必要ないだろう。

 後は、速やかに目標を無力化し、中継ポイントを奪う。AGSの通信設備、その中継ポイントだ。無人の施設、要するに馬鹿でかい接続機器といえば正しいのだろうか。

 それを基点にイリアがクラッキングを仕掛け、通信回線を一時的に掌握する。要するに、周囲の哨戒機を全て無力化すればいい。後は、イリアが仕事を引き継ぐ。

 メインウインドウには、暗い宇宙に幾つもの情報が投影されている。照準に武装、弾薬に距離に障害物、そういった情報が、一目で分かるように表示されていた。《イクス》の目を通して見るよりも、明らかに便利だというのに。電子ウインドウ一つ挟んでいるせいで、何だか少し頼りない。

「そうだ、リーファちゃん。リリーサーに動きはあった?」

 フィルと《スレイド》についてだ。唯一にして最大の懸念事項と言えるだろう。距離は遠いらしいが、念の為確認しておきたい。

『今の所はありません。戦闘状況から察するに、予定進路を進行中ですが。ここまで追い付くには、まだ時間があると思います』

「でも、出来るだけ急いだ方が良さそうだね。あまりここに時間は掛けられない」

 追い付かれたら終わりだ。相手はリリーサー、常にこちらの予想を上回っていると仮定した方がいい。

『そうですね。哨戒機を相手にする以上、増援が来てもおかしくはないですし』

 その問題もある。イリアがクラッキングを行う時間や、交渉を行う時間も考慮しなければいけない。

「……加減してる場合じゃない」

 小さく呟く。相手の練度がどの程度かは分からない。だが、手加減が通用する相手だとは思えない。また死を積み重ねる事になってしまうが。

 溜息を吐き、自嘲気味に笑みを浮かべる。殺人を躊躇っている訳ではないし、それを嘲笑っている訳でもない。頭のどこかで理由を付けて、仕方のない事だと認めてしまっている。そんな自分自身を省みて、どうしようもない奴だと嗤ったのだ。

 躊躇いはない。徐々に切り替わってきた意識に身を委ね、装備の状態を確認する。

 TIAR突撃銃、ヴォストーク散弾銃、SB‐2ダガーナイフが二本、ここまではいつもと変わらない。今回は更に、ブローダー大型拳銃二挺とSB‐8ロングスピアを一振り追加で用意した。

 ブローダーは大型の自動拳銃であり、至近であればifの装甲を容易く粉砕出来る。八発プラス一発しか撃てないが、二挺あるので実質九発プラス二発だ。再装填は煩わしいので、予備弾倉は携行しない。近距離戦での搦め手に使えれば上等だろう。

 SB‐8ロングスピアは、以前使った事のある六メートル強の長槍だ。これは、損失したE‐7ロングソードの代わりである。E‐7ロングソードは、前回の戦いで完全にへし折れてしまった。修復は不可能、折れた刀剣を打ち直した所で、強度の下がった劣化品にしかならない。それ故の代用品である。補給品の中にあって良かった。長い得物というのは、使い慣れてしまえば中々に強力だ。

「BFSもないし、手札は多い方が良い」

 全ての装備が正常に機能している事を確認し、いつものようには戦えないと気を引き締める。この《カムラッド》には、BFSが搭載されていない。ifの手足を自身の手足と同じように振るう。それを可能とするBFSは、自分にとって呪いであると同時に鋭利な矛でもあった。その力を忌避し、それでもそれに縋るしかない。

 《イクス》にも、似たようなシステムが搭載されているようだった。もっともあれは、手足のように操縦出来るなどという、生易しいものではない。最早、自分の身体と相違なく動かせる。いや、自分の身体以上だ。

 だが、今回操縦している《カムラッド》には何も搭載されていない。元々、リュウキの使っていたifを修復した物だ。予備のBFSはない。今までのように、直感的に殴り付けるような手段は使えないという事だ。

 今回用意したブローダー自動拳銃とSB‐8ロングスピアは、それを補う為に持ってきた。通常操縦のみでも、これで何とかなるだろう。

 万全の状態だ。全ての確認を終えた時、このifを用意したミユリの言葉が浮かんできた。その物言いがあまりにも正論だったのを思い出し、くすりと笑ってしまう。

『どうしたんですか、リオさん』

 その笑い声を拾ったのか、リーファがそう問い掛けてきた。

「ちょっと思い出し笑い。これの準備をしている時に、僕はミユリさんに言ったんだ。今回はあんまり、消耗しない方がいいですよねって」

 限られた物資しかない現状を顧みれば、自ずとそういう答えが浮かび上がってくる。だが、ミユリは肯定せずに怪訝そうな表情をこちらに向けたのだ。

「そしたら、‘お前が何も消耗させずに帰ってくる事なんてあるもんか。’って一蹴されて。うん、確かにって思ったんだ」

 ナイフの一本でも持ち帰れば御の字だろう。そういう戦い方しか知らない上に、それが一番速くて強いと知ってしまっている。

『私もそう思います。リオさんが乗った時点で、そうなるだろうなって』

 どうやら、それは全員の共通認識だったようだ。あっさりと返してきたリーファの言葉に、またくすりと笑わされてしまった。

 ちらとサブウインドウを見遣り、レーダーを確認する。これ以上接近すれば、さすがに敵も気付くだろう。

「そろそろ交戦距離に入るよ。片付けてくる」

 リーファにそう告げ、ペダルを徐々に踏み込んでいく。

 研ぎ澄まされた意識が、狙うべき目標を正確に捉えていた。





 ※


「リオ機、交戦に入ります。ここから先は、見守る事しか出来ませんが」

 リーファの報告を受け、イリアは小さく頷く。その通りだ。《アマデウス》は待機しているしかない。

「BFSを使えない状態で、あまり戦場に出したくはなかったけど」

 そう呟いたのはクストだ。つい本音が出てしまった、というような感じだった。

 確かにあのifに、BFSは搭載されていない。他のクルーはどう思っているのだろうかと、イリアはブリッジの中を見渡してみる。一人を除いて、同じような疑問を抱いているようだった。

「BFSがあればその分強いが。別に、必須って訳でもないぞ?」

 除かれた一人、リュウキがそう返す。むしろ、なぜそんな事を心配しているのか分からないといった様子だった。

 ブリッジクルーの中で、リュウキだけがif戦闘を熟知している。だからこそ、その結論に辿り着いたのだ。

「私も同じ意見。多分、エリルちゃんとかも同じように答えるんじゃないかな」

 イリアはそう答え、本来喜ばしい事ではないと胸中で続ける。

「リオ君は最短で勝てる手段を選ぶからね。BFSがあれば、その分速いってだけなんだ。場数を踏み過ぎてるからね」

 手元に銃があればそれを撃つ。なければナイフを振るう。それもなければ手近な物で殴る。それすらなければ素手で締め上げる。あれは、そういう類の戦いが出来る操縦兵だ。当の本人は、それを自覚した上で嫌っているけれど。

「まあ、こればっかりはifに乗ってないと分からないかも」

 難しい顔をしているクストに、イリアはそう言ってフォローする。

「始まるな。ま、見てれば分かるさ」

 操舵席に深く腰掛けながら、リュウキは望遠加工された映像を眺める。あまりにも遠い為、鮮明とは言い難い映像だ。それでも、リオの戦い振りを見て取るには充分だろう。

 一対多数、リオの得意分野とする戦場が、そこに作り上げられようとしていた。

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