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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「潜考と決別」
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ジャンク・ヤード


 《アマデウス》格納庫にて、イリアはがっかりな状態となったif達を見渡した。分かってはいたが、こうして向き合ってみるととても堪える。

「ここ、ジャンクヤードじゃないんだけどなあ」

 隣には整備士であるミユリがいた。彼女もぼやいているように、残骸一歩手前が集まるここの様相はまさしくジャンクヤードだ。

 問題は、このジャンクヤードにある残骸一歩手前達を、どうにかして使えるようにしなければならないという点だ。

「とりあえず、ミユリちゃん。一機一機状態だけ教えて貰っていいかな?」

 外観で得られる情報だけでは心許ない。プロの整備士の意見を聞いてみようと、イリアはそう切り出した。

「ああ。まずは一機目、一番分かりやすい奴から説明しよう」

 そう答え、ミユリは歩き出す。少し歩いた所に、確かに分かりやすい一機が床に固定されていた。

 両手両脚を失い、装甲の殆どは焼け焦げている。無事なのは胴体、操縦席周辺だけだ。

「こいつはエリルの使っていた《カムラッド》だ。まあ、見ての通りスクラップだ。この状態で生存出来たってのは、正直に言って奇跡だな」

 エリルの《カムラッド》は、リプルの《メイガス》から猛攻を受けた。粒子砲撃を何発も凌ぎ、かろうじて胴体だけ残った。

「修理とか整備とか、もうそういう領域じゃないな。使える部品を取って、後は破棄するしかない。俗に言う、新品用意した方が早いって奴だ」

 新品を用意する事すら、今は難しい状況にある。だが、この状態から修理するのは確かに不可能だ。

「新品かあ。まあ、追々考えるとして。次は?」

「こっちだ」

 また少し歩いた所に、その機体はあった。今度は吊され、空中で固定されている。

 胴体と右腕が、かろうじて無事といった所だろうか。頭部は千切れ掛け、他のパーツは殆ど失った。このifは《シャーロット》、自分が乗っていた機体だと、イリアはその黄色い装甲を見て思った。

「こいつが曲者だな。if《シャーロット》。イリア、お前が乗っていた奴だ。いや、しかし凄いな。現役時代でもこんなに壊した所は見た事がない。これはこれで貴重な光景じゃないか?」

 ミユリの言葉に、イリアは怪訝そうな表情を浮かべる。

「現役時代って言うのやめてよー。私ご老体でもなんでもないんだからさー」

 気持ちのいい笑い声をミユリは返し、満足したのか《シャーロット》に指を向ける。胴体に穿たれた、馬鹿でかい裂傷だ。

「手脚や頭なんてのは、まあ何とかなる。質は落ちるが、《カムラッド》のパーツを流用するとかな。問題はあれだ。大剣に貫かれるとかヘマをしたせいで、内部部品が明らかに足りない。こいつはこいつで、死んでないだけマシ案件だよ」

「むー、私にだけ当たりが強い……」

 それはそうと、内部部品の欠損は痛い。《シャーロット》の交換部品は、もう存在していない。次世代戦闘ifを目指して設計された《シャーロット》は、あくまで試験的なifだ。生産数は少なく、交換部品もまた少ない。

「ま、《シャーロット》と近しい規格の《オルダール》があれば、まだ上等ってとこだな。何にせよ、《シャーロット》はもう終わりだ。直した所で、《シャーロット》の皮を被った《カムラッド》か《オルダール》って訳だ」

 愛着がある訳ではないので、それでも構わないとイリアは頷く。問題は、まだ戦えるか否かだ。こちらの言いたい事を察したのか、ミユリはじっと考え込む。

「あれだな。リオの《オルダール》。あれももうどこかでスクラップになってるんだろうが。あれの交換部品、予備が幾つかあった筈だ。そいつで何とかしてみよう。足りない分は《カムラッド》からになるが」

 性能は下がるが、それは操縦する側が補うしかない。

「それでお願い。一機でも多く、動けるifを確保しないとだから」

「オッケー、じゃあ次だ」

 ミユリはそう答え、また別の場所に移動する。

 そこには、打って変わって綺麗な《カムラッド》が固定されていた。目立った損傷は見受けられない。

「リュウキの《カムラッド》。綺麗なもんだろ。被弾ゼロ」

「そりゃまあ、狙撃機が被弾してたらお話にならないでしょ」

 そう返しながら、イリアは穏やかに微笑む。リュウキはあの局面で、エリルを助ける為に撃った。それが、何よりも嬉しい。

「だが、無茶をした事に変わりはない。バッテリー周辺、電子回路がおじゃんになっている。取り替えないと動かない」

「あー。ま、そうだよねえ」

 《アマデウス》に装備された粒子砲を、強引に何発も撃ったせいだろう。規格外の兵器を使ったのだから、当然とも言える。

「これに関しては、それこそエリルの《カムラッド》から部品を持ってきて流用する。足りなければ予備から、だな」

 ならば、この《カムラッド》は修理も早く済みそうだ。それは有り難い。

「《アマデウス》から外した粒子砲だが、まだ付け直していない。船外活動も含むから、どこかで腰を落ち着けないと無理だな」

「分かった。あまり優先度は高くないから、後々だね」

 今はとにかく、使えるifを確保する。

 ミユリも分かっているのか頷き、歩き始める。格納庫の奥、恐らく、一番の問題と言ってもいいだろう機体の元へ。

 そこには、二機のプライア・スティエートが並んで立っていた。ハンガーに固定され、傷だらけの姿を晒している。リオとトワの乗機だ。

「まずは、リオの使っている《イクス》だ。見てくれ。再三の注意の甲斐はなく、左腕がない。肩からない」

 ミユリの言う通り、《イクス》の左腕は肩すらなくなっていた。焼き切れたような跡が、そこには残るのみだ。

「直、せる?」

 イリアはミユリに、恐る恐る尋ねてみる。ミユリはにっこり微笑んだまま、首を横に振って返した。

「そーだよねー」

 ミユリは鼻で笑い、両手を腰に当てて隻腕の《イクス》を見上げた。

「他の腕、たとえば《カムラッド》とかな。そういうのを付けても動くというのなら、やれない事はない、って感じか。だがそうなると、少し問題があってな」

 イリアは頷き、苦笑しながら肩を竦める。ミユリの言わんとしている事が、何となく分かってしまった。要するに。

「補給物資が全然足りなくなる、と。元々、ifの部品は不足しがちだったもんねー」

 味方と共謀し、幾つかは確保した。だが、正規の補給と比べれば明らかに足りない。騙し騙し使っていたが、こうも部隊が損壊するとは思っていなかった。何もかも足りない。

「そういう事。まあ、とりあえずこいつは保留だ。次はお隣。こっちもひどいぞ」

 《イクス》の隣、トワの使っている《プレア》だ。

 《プレア》は、かろうじて五体満足と言えなくもない姿をしている。

 まず、装甲の至る所が焼け爛れていた。左腕は繋がっているのが不思議に思える程に焼かれ、黒く変色している。その腕にあった装備も、ぐずぐずに溶けてしまっていた。

 右腕は、まだ無事な方だろう。だが、その腕に付けられた装備はひしゃげ、潰されている。

 両腕の装備は、粒子砲と粒子剣を切り替えて使用していたあの小盾のような兵器だろう。それが二つとも、使えるとは思えない状態になっている。

「見ての通り、全体的に損傷がひどい上に、こちらの技術じゃどうにも出来ない装備が二つ、やはり壊れている。そもそも、この左腕も本来なら交換したいぐらいだ」

 ミユリの説明を聞き、イリアは思わず溜息を吐きたくなった。もっとも、それはミユリも同じだったのだろう。先にミユリが溜息を吐き、ぽりぽりと頭を掻いた。

「対リリーサー戦備であるプライア・スティエートは、見ての通り修理を必要としている。参ったと弱音を吐きたくなる状況だな」

 確かにとイリアは頷く。修理したくても、どう手を付けるべきか分からない。これまでやってきた改良とは、根本的に違う。

「あの大剣……モノリスは?」

 《プレア》の横に懸架されている、馬鹿でかい大剣を指差してイリアは問いかける。あれは確かに、リプルの《メイガス》が使っていた物に酷似している。なぜ、トワはあれを持ち帰ってきたのか。

「状態はいい。粒子砲としても、大剣としても使える……とは思う。詳しくは、トワ嬢に聞いてみないと何ともだが」

 そう。肝心な事を聞こうにも、トワはまだ目を醒ましていない。丸一日経ったが、まだ眠っているらしい。

「二機のプライア・スティエートに関しては、トワちゃんが起きないと手を付けられない、かな」

 イリアの言葉に、ミユリは無言のまま頷く。

「問題は山積み。ここまで痛手を負わされるなんて。さすがに予想してなかった」

 深く溜息を吐き、イリアはいつもの自問自答を始める。もっとうまく出来たのではないか、これ程までの被害を出さずに、勝てる方法があったのではないか。

 いつもと変わらず、その答えは見出せそうにない。

「上々だろ。誰一人として死んでいない。一機でも破壊されていれば、私の仕事はそれだけ楽になってた。今、目が回るぐらいに忙しくて、本当に良かったと思ってるよ。違うか?」

 それは、ぶっきらぼうなミユリらしい激励だ。イリアはにやと笑みを返し、自問自答を保留とした。

「ううん。何も違わない。みんな頑張ったよ。次は、私達が頑張らないとね」

 そう言って張り切るイリアを、ミユリは鼻で笑った。

「お前も頑張ったろうが、イリア。胴体に大剣が突き刺さったってのは、本当にいただけないが」

「あれ、やっぱり私だけ当たり強くない?」

 ミユリはにやと笑って返し、イリアの肩を拳で小突く。

「休めと言われても休まないだろ。手伝えよ、艦長様。猫の手も借りたいとはこの事だし、出来れば猫よりは使える人材が欲しい」

 そして、ミユリは歩きながらそう言った。ミユリらしい物言いに、イリアはくすくすと笑う。

「はいはい、お手伝いしますよーだ。ああ、しますにゃあ?」

 ミユリの横に並んで歩き、イリアはそう返す。右手を猫の手にして、にゃあと手招いてみる。

「……気持ち悪いな」

「え、振っといてひどくない?」

 イリア渾身の猫アピールは、辛辣な一言で一蹴された。

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