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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「潜考と決別」
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おとぎ話の終演


 光の奔流がここへ届く前に、《プレア》は後退を始めた。私が動かしている訳ではない。そんな事を考えながら、トワはその手に身を委ねていた。飛び込んできた《イクス》が、《プレア》の胴を抱えて離脱しているのだ。残った右腕で、《プレア》を強引に抱え込んでいるようだ。

 胴を貫かれた《メイガス》が、無数の燐光と翡翠の線を振り撒きながら爆発していた。あれに巻き込まれないように、リオの《イクス》は動いているのだろう。

 《メイガス》が光と残骸に還っていく。そこにいる筈のリプルは、もうとっくに死んでいる。《プレア》の粒子剣で……自分のこの手で、殺したのだ。

 最期の爆発が、光と衝撃を伴ってここに伝わってくる。随分と手酷く使ったからだろうか。身体はうまく動いてくれそうにない。衝撃波に揺さ振られながら、《プレア》の目で《メイガス》を見続ける。これは、私が見届けなければいけない事だ。

「……リプル、これで」

 本当に良かったのだろうか。他に方法は思い付かないし、後悔だってしないけれど。それは結局、自分の我が儘を通しただけで。この結果が、本当に正しかったのか私には分からない。

 爆発の余波が通り過ぎ、燐光が翡翠の線と共にその色を失う。静寂が支配する宇宙の黒が、《メイガス》だった光を飲み込んでいくように思えた。

 後には何も残らない。《メイガス》がいた事を示す物は、もうここには一つもない。破片の一つすら残さずに、静寂の黒に包まれて消えてしまった。

 意識が水底に沈もうとしている。僅かに残っていた力がゆっくりと抜け、瞼が重くなっていく。頭の中に靄が立ち込め、考えるという機能を根こそぎ奪う。これではまた、シャワーも浴びずに眠ってしまう。

 ぼやけていく視界が《プレア》の右腕を捉えた。《メイガス》の胴を貫き、拉げたイグニセル粒子剣が見える。そして、その先に。

「あれ、は……」

 右手で握り締めていた物は、《プレア》が持つにはあまりにも大きい。長方形の剣身を持つ、無骨な大剣だ。

 リプルの《メイガス》が使っていた得物、モノリスがその手に握られていた。完全に同じ物ではないのだろう。細かな意匠が違っており、その剣身は深い青に染まっている。

「青い……モノリス」

 リプルが渡してくれた物だ。消えかけていく意識の中、それだけを思う。

 あとは目が覚めてから考えようと、トワは瞼を閉じる。だって、これで全てが終わった訳ではない。

 まだ、戦いはどうしたって続いていくのだから。





 ※


 トワと《プレア》の戦いを、ずっと見ていた。見ている事しか出来ないのだから、せめて目を逸らさずに。

 その戦いが終わった瞬間、リオはもう動き始めていた。眠っていた《イクス》を叩き起こし、《プレア》を抱えて一息に後退する。胴を貫かれた《メイガス》の爆発から逃れる為だ。

 かなり際どい所だったが、何とか間に合ってくれた。一際大きな爆発の後に、《メイガス》は完全に消滅した。恐らくリプル・エクゼスも、同じように消えていったのだろう。

 《イクス》は左腕を失ったものの、他は健在なようだ。こちらの状態はその限りではないだろうが、少なくともまだ動ける事は確かだった。

「トワ。いや……トワ・エクゼス、か」

 抱えたままの《プレア》は、動く気配がない。多分、寝てしまったのだろう。あれだけの戦いを繰り広げたのだから、そうなってもおかしくはない。

 この少女は自分の名前をトワだと決めた。決めた上で、エクゼスの名も受け継いだ。逃げずに向き合い、そして勝った。

「いつだってトワは勝つ……負けなんか認めないからね、この子は」

 《プレア》の右手には、青いモノリスが握られていた。《メイガス》の使っていた得物、あの大剣だ。それを手にしているという事は、きっとリプルもトワを認めたのだろう。常人には与り知らないような事柄だが、何となくそう思うのだ。

 二人目のリリーサー、リプル・エクゼスとの決着はついた。だが、これで全てが終わった訳ではない。

 まだ、戦いはどうしたって残っているのだから。

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