私の名前
自分の事があまり好きではない。だってこう、肝心な時に身体が動かなくなるから。
トワは切れかけた意識を懸命に繋ぎ止め、両手で自身の鼻を拭う。フラット・スーツのグローブが、滑り気のある血で汚れていく。呼吸をする度に、身体の内側から痛みと血が押し寄せてくる。
多分、身体のどこかが壊れてしまったのだろう。リプルの《メイガス》と戦い、この岩石に叩き付けられた。その時に受けた衝撃は、これまでにない一撃だった。咳をすれば鉄臭いし、呼吸をすれば咳が出る。気を抜けば眠ってしまいそうになるのに、痛みだけはじくじくと内側から湧いてくる。
『それで、どうするの? 諦めるのか続けるのか。私からは、もうおしまいに見えるけど』
リプルの声が聞こえる。《プレア》の目を開き、悠々と佇む《メイガス》を見据えた。あれだけの攻防を繰り返して尚、《メイガス》は無傷のままだ。銃撃も斬撃も、全て修復されてしまった。
紫色の装甲が、光を受けて妖しく煌めいている。肥大化した両腕に、細身の胴体に脚、帽子を被ったような造形の頭部、異形のプライア・スティエートと呼ばれている理由が分かるような気がした。
《メイガス》は右手で、長方形の剣身が目立つ大剣……モノリスを銃のように構えている。その切っ先はこちらに向けられており、気が変わればすぐにでも撃ってくるだろう。
こうして見上げていると、ファルの気持ちがよく分かる。何度も戦い、何度もこうして負けた。どんなに追い詰めても、管理者権限を使われてしまえば打つ手はなくなる。だから、結末は変わらない。身動き一つ取れないまま質問をされ、それに答え殺される。そんな事ばかり、繰り返してきたのだ。
『……トワ』
リオの声が聞こえる。隣に倒れている《イクス》の中で、彼もまた意識を繋ぎ止めているのだろう。自分がこんなにもつらく、目を閉じてしまいそうになっているのだから。きっとリオも、同じぐらいつらいのだ。
でも、私は少し違うとトワは微笑む。声を聞いて、ちゃんと見ていてくれると知って。それだけでも、まだ立っていられると心の底から思うのだ。
手放したくない、奪われたくない。まだ、二人でやりたい事が沢山あるから。
「……大丈夫だよ、リオ。だって、そう。それが……私の名前だもの」
《プレア》の脚で立ち上がり、真っ直ぐに《メイガス》を見据える。勝てる理由なんて始めからなかった。ただ、終わりたくないと身体を動かすのだ。難しい事は何も分からないけれど、それだけははっきりとしている。
『さあ、どうするの? 答えてよ、ファル・エクゼス』
答えてもいいけれど。大事な所を、リプルはずっと間違えている。
「違う。何度も言ってるでしょ」
身体の痛みも、向けられた銃口も、それがもたらす終わりも。全てかなぐり捨てて《メイガス》を、いやリプルを睨み付ける。
「私は、トワ。トワ・エクゼス!」
もはや自分はファルではなく、リリーサーでもない。だけど、その括りから逃げる事は出来ない。きっともう、ただのトワではいられないのだろう。だからこそ、二つの名前を一つに括って。それを、固有識別認証だと叫ぶのだ。
「ここまではファルの戦い。ここからは、私の戦いなんだから!」
痛みを無視し、リプルに向かって声を叩き付ける。意志を命を言葉に込めて、もう知らない振りなんてさせない為に。
リプルは何も応えなかった。それでも、今までよりずっと良い。違うと否定するでもなく、意味が分からないと切り捨てる訳でもない。諦めたように笑うでもなく、全てが嫌だと目を閉じている訳でもない。
頭の奥底にある、ここではないどこかを強く意識する。リリーサーでしか届かない、扉の向こう側を暴き出すのだ。私の名前を用いて強く深く、でもその手を掴まれないように。
《プレア》ではなく、自身の目を開いた。暗かった筈の操縦席に、青い燐光が満たされていく。
《プレア》の装甲から、蛍火のように青い燐光が舞っているのだ。それらは宇宙の黒にいずれ溶け、いつか消えてしまうけれど。確かにここにある。
強引に力を引っ張り出し、身体の内側を治していく。リリーサーの使う特殊機構、フィアリメイジを限定的に解除した。でも、これは万能ではない。リプルがやるような、完全な復元は出来ないだろう。
正確には出来るだろうが。それをやった瞬間に、‘向こう側’へ連れて行かれる。《プレア》の修復は出来ない。武器も直してやれない。自分の身体の不調すら、死を免れる程度の修復が限界だろう。壊れた内蔵を、かろうじて動かせるようにして。後の痛みや不調は、自分自身で何とかするしかない。
手に入れたフィアリメイジを、またゼロに戻す。いつまでも抱えていたら、それこそ戻れなくなる。
『……それが何? それ、私に勝てる理由になるの?』
リプルの声は冷え切っており、怒っているようにも聞こえた。こちらの決意に意味なんてないと、そう言われているような気がする。《メイガス》はまだ、モノリス粒子砲をこちらに向けていた。
その銃口を無視して、《プレア》を《イクス》に向かって歩かせた。隣で倒れている《イクス》の右手は、今も一振りの剣を握り締めている。決して離さず、最後まで抵抗しようとしたのだ。
「リオ。これ、借りるね。あ……リオのだから、勝手に持っていっていいんだっけ」
くすりと笑いながら、《プレア》の右手を伸ばす。《イクス》の持っていたE‐7ロングソードをするりと奪い、右手で柄を握り込む。軽く振ってみるも、想像していたよりも重く感じる。粒子剣とは、大分勝手が違うようだ。
「うん、でも大丈夫」
足下の岩を軽く蹴り、《メイガス》の正面まで上昇する。いつまでも上から見られているのは嫌だったのだ。
『不格好な剣が一つだけ。それで何が出来るって言うの?』
「……リプルはさ、質問してばっかだよね。どうするのとか、理由とか、今度は何が出来るのかって」
リプルの《メイガス》を見据え、その内奥にいるリプルと視線を交わす。
「そういう、難しい事ばっかり聞いて。結局、私はそういうの分からないんだよ。ほんの少ししか生きていない私には、分からない事ばかりだった。だから、答えられるとしたら一つしかないの」
ファルの心を、代わりに伝える事も出来る。ファルのように振る舞い、ファルのように戦う事も出来る。でも、それは本当の意味で私ではない。だから、ここで戦っている私が紛れもなく私でしかないのなら。
「リプル。貴方の質問、まとめて答えるね。私は……」
右手に握ったE‐7ロングソードを、振り抜きながら構え直す。そして、《プレア》を再び《メイガス》に向けて直進させる。止め処なく溢れる青い燐光が、宇宙の黒を仄かに照らしていく。
「私は、全部諦めたくない!」
前だけを見据え、《プレア》を真っ直ぐに飛び込ませた。青い燐光がその軌道をなぞり、右手で握り締めたE‐7ロングソードにも纏わり付いていく。
『方法も何もない、という意味? 呆れたわ』
リプルの《メイガス》は、モノリス粒子砲を気怠そうに構え直す。銃口に粒子光と翡翠の線が灯り、その威力を発揮する事を視覚的に伝えてくる。
『心持ちで勝てるような戦いじゃないって、分からないものかしら』
リプルの声は半ば無視し、モノリスの銃口にだけ集中する。撃たれるその一拍前に、《プレア》を少し傾けた。
モノリス粒子砲が光を吐き出す。一条の粒子砲撃が《プレア》の真横を掠めていく。夥しい熱を、溢れ出す青い燐光がねじ曲げた。この光の届く距離ならば、私が優位を取れる。
「だから……」
《プレア》は再度加速し、‘青い燐光を踏み付ける’ようにして一瞬で間合いを詰めた。リプルと《メイガス》から見れば、瞬時に目の前に飛び込んできたように見えたことだろう。
《プレア》は右手で握ったE‐7ロングソードを上段に振り上げ、《メイガス》の頭部を見据える。
「分からないって言ったでしょ!」
右手を強引に振り下ろすようにして、《プレア》はE‐7ロングソードを振り下ろした。剣技も何もあったものではない。ただ力任せに、剣を叩き付けたのだ。
『なら終わりにするわ、ファル!』
リプルの《メイガス》は、急接近に怯む様子もなくモノリスを大剣として振るった。モノリスを盾のようにして構え、振り下ろされるE‐7ロングソードをかち上げるように剣身を振り上げたのだ。
《プレア》の体勢を、一撃で崩す為の剣技だろう。E‐7ロングソードごと右腕をかち上げ、隙を晒した胴体を返す刃で薙ぎ払う。多分、リプルはそんな事を考えている。
「終わりになんかさせない、私はトワだから!」
下方から迫る大剣の剣身と、《プレア》の振り下ろしたE‐7ロングソードが衝突した。《メイガス》の肥大化した両腕が、それに見合った膂力で大剣モノリスを押し上げる。そのタイミングを逃さずに、《プレア》の姿勢を変えておく。かち上げようとする力を利用し、思い切り上方に《プレア》を飛び退かせた。
『距離を取りたいの? 叶えてあげる』
リプルの《メイガス》は、こちらにモノリス粒子砲を突き付けながら後退を始めた。宣言通り距離が離れていくが、もう一度詰め寄ればいいだけの話だ。
右手で握ったE‐7ロングソードを逆手に構え、再び《プレア》を加速させる。尽きる事のない青い燐光が、その背中を押してくれている。
《メイガス》は素早く後退を続けながら、モノリス粒子砲に光を灯す。翡翠の線が溢れ、銃身を作り替えているだろう事が見て取れた。
粒子砲撃が放たれる。一条の光、四条に分割された光、不規則に動く八つの線、矢継ぎ早に放たれる多種多様の粒子砲撃を、《プレア》は一拍前に動いて躱す。何となく分かる、どこからどう撃たれるのか、どんな死が待ち受けているのか、どうすればそれを避けられるのか。ファルの記憶が、《プレア》の目が、それを私に教えてくれている。
「そんなの、意味ないんだから!」
放たれる粒子砲撃に合わせ、《プレア》を四方八方に跳ねさせる。姿勢を変え、青い燐光を蹴り飛ばし、速度を一切殺さずに粒子の網をくぐり抜けていく。ただ加速しているだけではない。適宜青い燐光を蹴り付ける事によって、瞬時に距離を詰めていく。
今の《プレア》は青い燐光を振り撒きながら消え、すぐまた現れては消えていく。そんな風に見えている筈だ。
『意味はあるわ。だって』
近距離間合いまで詰め寄った《プレア》が、右手を思い切り前に突き出す。逆手に構えたE‐7ロングソードで、すれ違い様に斬ろうと動いたのだ。
しかし、その一撃は大剣と化したモノリスで呆気なく防がれる。
『どこから飛び込んでくるのか、手に取るように分かるもの』
《メイガス》は粒子砲撃を使い、《プレア》の行動範囲を狭めている。どんなに速く動いても、リプルの《メイガス》は斬撃を凌ぎ続けるだろう。
《プレア》は《メイガス》と打ち合おうとはせずに、ただ斬撃だけを当てて横を通り過ぎる。逆手に構えたままであり、小難しい剣技を使う必要もない。ただ右手を突き出し、速度を乗せて刃を走らせる。どうせ、力任せに振る事しか自分には出来ない。リオのようにうまく使えなくとも、《プレア》の速度を合わせれば充分に威力は出る。
「もっと速く、一つを二つにするぐらいに」
一撃を二撃とするぐらいに速く。《プレア》は身に纏った青い燐光を蹴り付け、《メイガス》の周囲を飛び交う。ただ跳ね回っているだけではない。右手で握り、逆手に構えたままのE‐7ロングソードを、すれ違う度に振り抜く。
すれ違うその瞬間に右手を突き出し、《メイガス》の四肢を狙う。《メイガス》はそれを引き離そうと、大剣モノリスで斬撃を防ぎながら動き続ける。通り過ぎる《プレア》に対して、逆方向に跳ねる事で距離を稼いでいるのだ。
《メイガス》の動きも充分に速い。だが、それ以上の速度を以て《プレア》は周囲を飛び交い続ける。遠目から見れば、静止した《メイガス》が《プレア》の攻撃をただ凌いでいるように見えるだろう。だが、実際は《メイガス》も激しく動き回っている。それぞれの位置を入れ替え、《プレア》の斬撃を《メイガス》の斬撃が弾き飛ばす。
『ずっとそうしているつもり? どんなに速く動いても』
《プレア》が再び飛び込み、通り過ぎ様に斬撃を加える。それを《メイガス》の大剣モノリスが防ぎ、一拍と置かずに飛び込んできた《プレア》の斬撃をも同じように弾き飛ばす。
『守りにおいて、この剣を穿つ事は出来ないわ』
言葉を返す余裕はなかった。限界を超えた挙動を、延々と実行しているのだ。少しでも足を止めれば、もう動けなくなると分かっているから。
何度繰り返してみても、一撃を二撃と為しても。《メイガス》の装甲に傷を付ける事すら出来ない。
『つらいでしょう? 終わりにするから。管理者権限』
寂しげに、それでもとても優しげに。リプルがそんな言葉を掛けてくれた。見ていられないのだろう。勝てる筈のない戦いを繰り返している妹を、これ以上見たくないのだ。
「でも違うんだ。だって私……もうトワだから」
リプルの《メイガス》から発せられた強制停止信号は、《プレア》をすり抜けて霧散していく。ファル・エクゼスの席は、もう私の名前に変えてしまった。そこへ紐付けられた《プレア》に、その命令は届かない。
動きが鈍る事もなく、《プレア》は《メイガス》の脇をすり抜ける。
『……効かない? 貴方、本当に』
リプルの声は驚いているように聞こえた。だが、《メイガス》自体は冷静に《プレア》の姿を追っている。目で追い、姿勢を変え、《プレア》を真正面に捉えていた。
「おしまいに、する。つらいと泣いてる貴方を。私が……私の我が儘で!」
反転し、弾け飛ぶように《プレア》は《メイガス》に猛進する。今まで繰り返してきた一撃と同じく、一切の迷いをかなぐり捨てて右手を突き出す。
これまでの攻防と同じように、その一撃をリプルの《メイガス》は難なく防ぐ。しかし、今回は少し違う。《プレア》は通り過ぎず、その刃で強引に大剣モノリスを押し返そうと力を込める。
『力比べなんて、そんなもの』
そう、《メイガス》が勝つに決まっている。《メイガス》は大剣モノリスを振り抜き、無謀な鍔迫り合いを挑んだ《プレア》を弾き飛ばした。見る見る内に距離が開いていく。
でも、私が戦うのはここからだ。素早く体勢を立て直し、右手で握り締めたE‐7ロングソードを逆手から順手に持ち変える。通常の剣として振るう為に、構え直したのだ。
「行くよ、《プレア》!」
輝度の増した青い燐光を蹴り飛ばし、《プレア》は一気に最高速度に達する。それでも、懐に入るにはまだ距離があった。
『こんなの、簡単に射抜けてしまうわ』
リプルの《メイガス》はモノリスを粒子砲として構え、間髪入れずに砲撃を放った。通常の光から、拡散する光、道を塞ぐようにして放たれる無数の線が、《プレア》を貫かんと宇宙の黒を照らしていく。
それらは全て、避ける事の出来る砲撃だ。自分にはとっくに見えている。
青い燐光を蹴り、瞬時に加速をしながらそれらを躱す。避け、迂回し、恐らくはリプルの思い描いている位置へと《プレア》を飛翔させる。
棚引く青い燐光が、複雑な戦闘機動の軌跡をそこに刻んでいく。その終着点は《メイガス》の足下、下方の位置だった。
『見えているでしょう? さようなら』
リプルの《メイガス》は、素早く姿勢を変更するとモノリス粒子砲を《プレア》に向かって突き付ける。構えと同時に放たれる粒子砲撃は、無数に分割された光のシャワーだ。
これまでの砲撃とは違い、直進しながら避けられるような物ではない。攻勢を捨て、持てる全機動力を以て真横に飛んで初めて避けられる。だが、それをした瞬間に《メイガス》は動くだろう。回避した時に生じる隙を、見逃すようなリプルではない。
「……見えてるもの、全部」
この瞬間の為に、限界を超えて攻勢を続けたのだ。
《プレア》は直進を選ぶ。回避はしない。その代わり、右腕をまた大きく振り上げた。
振り上げた得物、E‐7ロングソードに青い燐光の全てを注ぎ込む。この光がある場所は、私が優位となる。私が全てを決められるのなら、そう。
「その剣を、そのまま貰うから!」
青い燐光が輝度を上げ、E‐7ロングソードから噴出していく。その光は、一つの剣を形作っていく。E‐7ロングソードを中心に据えた、青い燐光で形成された大剣がその手に握られていた。
その大剣はモノリスに酷似している。それもそうだろう。これは、モノリスを真似て作り上げた物だ。《メイガス》の剣に負けない剣なんて思い浮かばない。だから、同じような物をぶつけてやるのだ。
《プレア》が青い大剣を振り下ろすのと、《メイガス》がモノリス粒子砲を放つのは同時だった。
無数に分割された光の散弾は、青い一振りによって霧散していく。
「……リプル!」
『ッ!』
《メイガス》は僅かに距離を取り、再び粒子砲撃を放つ。極大の粒子砲撃、分割もせず、湾曲もしない。純粋な破壊だけを目的とした致死の光が《プレア》に迫る。
意思を込めた声は、最早言葉にすらならない。ひどく痛む喉の奥底から声を上げ、《プレア》の右腕で青い大剣を盾のように掲げる。
《メイガス》の放った極大の粒子砲撃が、青い大剣の剣身とぶつかって夥しい光と熱を撒き散らす。その熱は《プレア》を炙り、幾つかの装甲を無惨に焼きながらも、致命傷を与える事は出来ない。
《プレア》はそのまま直進し、極大の粒子砲撃を押し返しながら《メイガス》の真正面に飛び出した。近接の間合い、互いの剣が届く、必殺の間合いだ。
『無駄よ、トワ!』
リプルの《メイガス》は、粒子砲撃を中断しモノリスを大剣として扱った。右手を僅かに引き、神速の突きを繰り出したのだ。翡翠の線がその剣身を走り、《プレア》が盾のように構えている青い大剣を一撃で穿つ。
既に朧気となっていた青い大剣は、その突きに耐える事は出来ない。青い燐光は霧散し、中枢に位置するE‐7ロングソードも粉々に砕かれる。
だが、そこで怯んでいる筈の《プレア》はいなかった。
『え……?』
「イグニセル、実行!」
《プレア》は《メイガス》の突きを、僅かに身を逸らすだけで回避していた。青い大剣を手放し、徒手空拳のまま内側へ、懐へ。神速の突きをも凌ぐ神速の踏み込みで、遂に《プレア》は《メイガス》との距離をゼロにした。
イグニセル……《プレア》の両腕に装備された、小盾にも似た粒子兵器だ。左腕のそれは完全に破壊されたが、右腕のイグニセルはまだ動く。損傷を承知で、強引に動かしているのだ。最早粒子剣とは呼べず、極小の刃は粒子の拳と表現した方が正しい。
《プレア》は右手を僅かに引き、弱々しい光を灯したその拳を握り込む。右腕のイグニセルは、強引な使用によって炎と雷光をも吐き出していたが。小さな粒子の刃は、確かにここに灯っている。
「ッ!」
迷いはしない。トワは、《プレア》は《メイガス》の胸に飛び込むようにして右手を胴に叩き付けた。展開されていた極小の刃は、弱々しく見えても確かな破壊を以てその胴を穿つ。
全ての意思と答えを乗せたその拳は、穏やかな笑みを浮かべた少女を……リプル・エクゼスを一瞬にして焼き払った。




