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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「潜考と決別」
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少女はどこで眠るのか


 自室の中を覗き込み、リオは不思議そうに首を傾げた。既に着替えは済ませ、いつもの動きやすい服に袖を通している。

「あれ、てっきり寝てるのかと思ったけど」

 出撃後の処理、イリア始めクルー達への報告、そして《イクス》のメンテナンスと、かなり時間を使ってしまった。特に、《イクス》の状態チェックは大変だったのだ。プライア・スティエートの整備に、教本など存在しない。整備士であるミユリと共に、一通りの動作確認を行っていたのだ。

 リプル・エクゼス操る《メイガス》との戦いにおいて、《イクス》は突然機能を停止した。何があったのか、《イクス》は多くを語ろうとしない。元々そういう奴だと割り切り、こちらはこちらで確認作業に入ったのだ。

 結果は異常なし、問題なく動かすことが出来た。機能停止の原因は未だに不明だが、リプルの言動から察するに偶然ではない。

 それに、朧気ながら分かった事もある。正確には分かっていた事、だが。

 夢の奥で見たファルとリプルの戦いも、同じような結末を迎えていた。実際に自分がその立場になり、こうして落ち着いて思い返してみる事でようやく分かったのだ。

 あれは、リプルの用いる能力の類だろう。使用条件や制限、規模や効果の程はまだ不明瞭だが。次も必ず仕掛けてくる。

 リプルと《メイガス》に勝つ為には、その能力を何らかの形で攻略しなければならない。リプルとはどうあっても戦う事になる。だが、まだ攻略の糸口すら掴めていない。

「トワ、大体出撃後は寝てるのに」

 今は、恐らく不機嫌だろうトワを探している。なぜ不機嫌かと言うと、出撃後で眠いからだ。《アマデウス》へ帰還してから、恐らく数時間は経っている。諸々の処理で、気付けばこの時間だ。その間、ずっとトワを放置していた事になる。

 だから、トワは睡魔に負けて寝ているか、睡魔に抗って不機嫌になっているかだ。

「トワの部屋にも……いないか」

 自室隣に用意されている、トワの部屋も確認してみた。殆ど物置部屋と化しているこの部屋にも、トワはいないようだ。積み重なった洗濯物の間に挟まっていたり、床に寝そべっている訳でもない。

「トワの匂い、何となく分かるようになっちゃったな……」

 トワはあまりこの部屋を使っていない。それ故に物置部屋なのだが、こうして足を踏み入れると微かに匂いを感じられる。《アマデウス》のシャワールームにある、何て事はないボディーソープの匂いだ。自分も、他のクルーも使っているボディーソープだが。トワの身体から発せられる香りはどこか違う。どう言葉にしたらいいのか分からないが、とても落ち着くというか。凄く安眠出来るような香りというか。

「まあいいや、ここじゃないなら」

 医務室にでもいるのだろうか。あそこは、自分もトワもよくお世話になっている。出撃後に体調を崩して、向こうで面倒を見て貰っているのかも知れない。

 そう考え、医務室へ向かおうとする。最後にもう一度ベッドの上見ると、一つ気になる物があった。ベッドに近付き、その上着を拾う。

「これ、僕のだよね?」

 自分がよく着ている、灰色をした薄手のパーカーだ。別段気に入っているとか、大切な物とかではない。何となく袖を通すような感覚で、よく着ているのだ。

 最近見ないと思っていたら、こんな所に混ざっていたのか。

「本人に聞いてみればいっか」

 パーカーを肩に羽織り、今度こそトワの部屋を後にした。







「いや、ここにトワは来てないぞ。寝てるんじゃないのか?」

 医務室に到着したものの、アリサの言う通りここにはいないようだ。

「来ないって事は無事だって解釈しているんだが。リオは大丈夫なのか?」

「大丈夫です。多少眠いし気怠いですが。いつも通りです」

 時折訪れる頭痛は、放っておけば何とかなるだろう。だから、いつも通りだ。アリサの問いにそう返し、ここにも来ていないのかと小さく溜息を吐く。

「あとはシャワー中に寝てるか。それか移動中に寝てるか、かな」

「寝てばっかだな」

 呆れたようにアリサは言うが、疲れているトワならやりかねない。いつも大体おねむしてるのがトワなのだ。疲れているのなら尚更と言える。

「ちょっと探してきますので」

 アリサに断りを入れ、医務室を後にする。

「ああ。具合悪そうだったら引っ張ってきてくれ」

「そうします」

 本当に倒れていなければいいのだけど。トワはいつも大体無茶をするし。

 医務室から出て、どこを探すべきか考える。シャワールームだったら、そもそも自分が入る訳にはいかないだろう。

「そっちはリーファちゃんとかに頼むとして」

 他にトワが行きそうな場所、トワと行った事のある場所と言えば。

「展望室、ぐらいかな」

 誰かの私室にお世話になっていなければ、そこが一番可能性が高いだろう。

「行ってみて、いなかったら連絡してみよう」

 最初から連絡すればいいのかも知れないが、もし寝ていたら悪いし。そもそも寝ていたら絶対に出ないだろうし。

「……連絡するとしてもリーファちゃんかな」

 展望室にいなかったら、リーファに頼んでシャワールームを見てきて貰おう。

 今度は展望室に向け、足を進める事にした。

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