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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「潜考と決別」
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相棒の選択


 《アマデウス》格納庫は、いつも通り乱雑に物資が置かれていた。勿論、乱雑に見えるだけでちゃんと整頓されている。そう本人は主張しているのだから、それはそれでいいのだ。そんなような事をリオは、積み重なったコンテナを前にして思っていた。

「ま、そろそろ私も話をしなきゃいけないって思ってた所だ。いつまでも宙ぶらりんじゃいられないしな」

 格納庫の主であるミユリは、そう答えて作業の手を止めた。

「別に、作業しながらでもいいんですが」

 あまり邪魔はしたくないと考えそう言ったが、ミユリは鼻で笑って返す。

「どーでもいい話ならそうするが。お前がする話は大抵どうでもよくない。《イクス》についてだろ?」

 相談がある、としか言っていないのだが。ミユリはもう、何の話をするのか分かっているようだった。

 ミユリが察している通り、今後の事を話し合う為に来たのだ。要するに、何を用いて戦うのか。それをはっきりとさせておきたかった。

「そうです。《イクス》の具合はどうですか?」

 今、格納庫には五体の兵器が並んでいた。まずはifが三機、イリアの《シャーロット》、リュウキの《カムラッド》、エリルの《カムラッド》だ。そこに、二機のプライア・スティエートが加わる。トワの《プレア》に、自分が乗った《イクス》だ。

 ミユリが適当なコンテナの上を陣取り、ちょいちょいと手招きする。とりあえず座れという事だろう。頷いて返し、そのコンテナに近付く。足を引っ掛けてよじ登り、ミユリと同じように腰掛けた。

 正面を見ると、丁度《イクス》と向き合うような形になっていた。細身のシルエットは、それだけを見れば頼りなく思えるかも知れない。だが、その手足は確かな力強さを感じさせる造形となっていた。施された装飾も最低限で、この騎士がただのお飾りでない事を証明している。

 実戦で鍛え上げられた直剣を、そのまま騎士の形にしたような。今となっては、そんな印象すら受けるようになった。

 《イクス》のツインアイが、こちらをじっと見ているような気がする。視線を合わせてみるも、何を語り掛けてくる訳でもない。

「整備と言っても、お前の使ってた《イクス》については損傷らしい損傷はないからな。各部位の手入れぐらいしかしていない。珍しく丁寧に使ったじゃないかよ」

 ミユリがにやと笑いながらそう言う。確かに、普段は派手に壊す事が多いかも知れないが。こちらも好きで壊している訳ではない。

「一発でも受けたら終わりでしたから。必然的に、全部避ける羽目になっただけです」

 フィルの《スレイド》もトワの《プレア》も。圧倒的な出力を誇る粒子兵器を所持していた。さすがに、あれを前にして一発受けてみる気にはなれない。

「それに、《イクス》の足が速かったので」

 思うままに動き、思うままに戦えた。《イクス》の機体性能は、《プレア》や《スレイド》のように目立つ物ではないが。充分に高く力強い。

「あのチート野郎、《スレイド》だったか? あれに一撃叩き込んだだけでも大したもんだと思うよ。エリルの《カムラッド》から交戦データは見せて貰ったが。あれはダメだ、まともにやったら勝てない」

 その意見に関しては同意だ。《スレイド》は間違いなく、一番の脅威として捉えられる。初戦と同じように勝てるのかと聞かれれば、それは無理だとしか答えられない。同じ手は二度と通用しないだろうし、警戒もされている。自分と《イクス》が姿を見せれば、《スレイド》は身構えるだろう。それだけで、こちらの勝機はなくなってしまう。

 それが、現時点での自分の考えだった。あれには勝てない。

「次に戦えばこっちが負けます。そういうギリギリの戦いでした。問題は、絶対に次があるって事です」

 フィルと《スレイド》は、絶対に追い掛けてくる。話し合いを試みるが、恐らく戦いになるだろう。脅威はそれだけではない。リリーサーは他にもいる。そして、その全てに勝つ必要があるのだ。それが出来なければ、トワとの約束もファルとの約束も果たせない。だから。

「僕は《イクス》で戦います」

 相手がAGSやH・R・G・Eだけならば、ifに乗るという選択もあっただろう。だが、リリーサーの有するプライア・スティエートとやり合うのならば、こちらもプライア・スティエートで出る必要がある。トワだけに戦わせる訳にはいかない。

 全力を以て敵を打ち倒すのならば、自分は《イクス》の力を借りる。そうでなくては、きっと勝てない。

「やっぱりそう来るか。反対はしない。リオ、他でもないお前がそう言うのなら、それが最適解なんだろうよ。ただ、一つ二つ先回りして話しておく」

 ミユリの返答に、こちらは無言のまま頷く。

「トワの《プレア》に、リオの《イクス》。現状、私達が持つ最大戦力と見ていい。ま、正確には最低限戦力って感じだが。チート野郎とぶつかり合うには、充分とは言えないだろ」

 ミユリの言う通りだと思う。トワの全力と自分の全力を合わせても、勝てるという確信は得られない。

「だから、お前が《イクス》を使う事については賛成だ。イリアも同意見だろうな。問題は二つ。まず、整備しようにもどうしたらいいのか分からないって事だ。交換部品もない。今はいいが、腕の一本でも落とされたらそれこそ打つ手がない」

 ミユリの言わんとしている事は、何となく理解出来ていた。これがifならば何の問題もない。損傷を修復すれば、そのifは戦力を百パーセントとして換算できる。

 しかし、交換部品も整備のノウハウもないプライア・スティエートではそうもいかない。損傷すれば損傷しただけ、一機辺りの戦力は低下していく。《プレア》と《イクス》、この二機は切り札となり得る存在だ。だがその実、戦いを重ねればそれだけ戦力としては低下する。百パーセントから、少しずつ削られていくのだ。その数字は、絶対に回復する事はない。

 使わなければ勝てないが、使えば後の戦いに勝てなくなる。要するにそういう事だろう。

「二つ目。継続戦闘能力の低さだ。プライア・スティエート自体は、どういう原理か知らないが無尽蔵に暴れ回ってる。が、その操縦者は驚く程に消耗していくだろ。一回戦う毎にぶっ倒れていたら話にならない。連戦になったらどうするんだ」

 ミユリの苦言はもっともだ。《イクス》に乗り、戦ったのはこれで二度目になるが。前回も今回も、異様な疲労感と睡魔に襲われた。自分だけではなく、トワもそうなのだ。プライア・スティエートは強力だが、乱用は出来ない。ミユリの言うように、相手が一機だけで来てくれるとは限らない。連戦だって充分にあり得る状況だ。

「《イクス》はいざという時、リリーサーとの戦いに温存した方がいい。そういう事ですか?」

 そう問い掛けると、ミユリは腕を組んでじっと考え始めた。

「それに加え、やるなら速攻だな。長期戦はしない。ま、何にせよ。そういう問題があるってのを理解してればいい。人類同士のいざこざはとりあえず脇に置いて、あのチート野郎を何とかする。だろ?」

 ミユリの言葉に頷いて返し、こちらの本題に入ろうと咳払いをした。

 《イクス》を使うというのは、今更ながらの確認でしかない。本当に大切なのはここからだった。

「ところでミユリさん。《イクス》のアップグレードをお願いしたいんですが」

 そう切り出すと、ミユリが真剣な表情でこちらを見た。

「あれのアップグレードだと。マジか」

「ええ。そんな大それた話じゃないんですが」

 ミユリは再びじっと考え、真剣な表情を維持しようとして。

「……へへ」

 結局にやついた笑みを浮かべた。ミユリはいつになく楽しそうな顔をしながら、視線の先にある《イクス》をなめ回すように見ている。

「《イクス》には、ifにあるようなハードポイントがありません。あれじゃ何の武器も積めない。《プレア》には固定兵装があるようなのでいいですが、《イクス》は徒手空拳ですから」

 手に持てるだけの武器で戦場入りをすれば、すぐに後がなくなる。いつも通りとまでは言わないが、最低限の武装は積んでおきたい。

「オッケーオッケー、兵装固定用のハードポイントな。他にリクエストは?」

 にやついているミユリにそう聞かれ、他に何かあったか考えてみる。武装が積めないのは不便だぐらいしか考えていなかったので、そう聞かれるとちょっと困ってしまう。

「ああ、でも」

 急を要する物ではないのだが。

「槍。結構振っててしっくり来たんですよね。槍が欲しいです」

 《スレイド》との一戦で、急遽使う事になった得物だったが。あれはあれで使えた。

「それ、あんまりアップグレードに関係無いな。まあいいまあいい、ちゃんと考えておく。さっき話にも出てたが、《プレア》の方はいいのか?」

 トワの《プレア》は、粒子砲兼粒子剣が既に装備されている。恐らく、これ以上は必要ないだろう。

「そっちはいいです。トワが使いますし、あんまり複雑じゃない方がいいかも知れないです」

 ミユリはふむふむと頷き、思い出したようにこちらをじっと見た。

「そういやトワ嬢がいないな。いつも狂ったように一緒にいるのに」

「そんな事は……うーん」

 狂ったようには余計だが、まあ確かに大体一緒にいるかも知れない。

 だが、今は別行動中なのだ。自分はミユリに《イクス》の事を相談する為、格納庫へ来た。トワにはトワのやりたい事があったから、今はそっちで頑張っているだろう。色々な事をしているのだろうが、まあ簡単に説明するのならば、そう。

「トワは今、おしゃれ磨きをしています」

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