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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「青嵐と窮愁」
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与えられた価値

あらすじ



 《フェザーランス》を退け、《アマデウス》はカーディナルへと急ぐ。そこで捕らえられているだろう少女を救い出す為に、ただ真っ直ぐに突き進んでいた。

 そして、少女を囲い込むもう一人の悪魔は。一つの答えを選び取ろうとしていた。それがもたらすだろう災禍など、誰一人として気付かないままに。

 望まれざる未来が、すぐそこまで迫っていた。

 Ⅱ


 光景が次々と切り替わっていくのは、自分がそれに感情を持ち合わせていなかったからだろう。感傷を抱いたままでは、何も出来なかったから。

 だから、今目の前で繰り返されている事についても、特別な感慨などなかった。死と再生のお話は、それ事態が大切な事だと分かっている筈だけど。こうも繰り返していると、何も感じなくなってくる。

 それは多分、あの子も同じだろう。私は早々に諦め、感情を押し込める事で今を保っていたが。あの子は、私を礎に今を保っている。

 お姉ちゃんお姉ちゃんと、いつも後ろをついてきては嬉しそうに笑っていた。あの子にはそれしかなかったのだ。それさえ信じておけば、あの子は戦えたから。私とは、少し違う。

 与えられた役割をこなし、与えられた家族を大切にし、けれど与えられた意味が何一つ浮かんでこない。そう、だから。あの子と私は違う。

 つまらない過去なんて、これ以上は思い出したくない。少しだけ、意識を外側に向けてみる。

 表層はあの子に取られてしまったから、こうして殻の内側に潜んでいるしかない。あの子は潤沢なリソースを用いて、強引に介入してきていた。何重にも渡るプロテクトで囲い、デコイによる欺瞞で凌いではいるけれど。正規のアクセス権を行使するあの子に、どこまで通用するのかは分からなかった。

 片っ端から私の表層を壊して回っているあの子は、それでも危害を加えるつもりはない。ただ単純に、いなくなってしまった姉を捜して歩き回っているだけだ。

 あの子は諦めていない。この夢の終わりまで、まだもう少し凌がなくては。

 多くの事を諦めてきた私だけれど。まだ、この一欠片だけは諦めたくはないのだ。

 ここは殻の中だから、本心しか存在し得ない。その想いを抱いたまま、じっとその時が来るのを待っていた。





 ※


 《カムラッド》の操縦席で、リオはじっと待機していた。フラット・スーツを着込み、両手は力を抜いたままハンドグリップに添えてある。予備電源のみで起動している操縦席は薄暗く、メインウインドウには何も映っていない。

 目的地であるセクション、カーディナルへは後一日で到着する。最短三日、万全を期すなら五日は欲しいとイリアは言っていたが、きっちりと三日目に到着するように動いた。さすがはイリアと言った所だろう。

 今こうして待機しているのは、不測の事態に備える為だ。カーディナルの近くは様々な航路が錯綜している。何が起きても不思議ではない。だからこうして、操縦席で待機していた。

『レーダーに感なし。今の所は問題ないですね、リオさん』

 通信越しに、リーファがそう伝えてくる。《アマデウス》が異常を察知したら、すぐさま自分が飛び出してそれを叩く。そういう作戦だった。

「そっか。それなら、それでいいんだけど」

 戦わずに済むのなら、それに越したことはない。無駄に消耗などしたくはないし、何よりこっちは急いでいる。

『そうですね。カーディナルでの戦闘は、恐らく苛烈になるでしょうから。AGSの暗部が相手になりますし』

 《アマデウス》の戦力だけでは、セクションの制圧は不可能だろう。必然的に、if少数による奇襲作戦を仕掛けるしかない。素早く目的だけを達成し、反撃される前に逃げる。

「カーディナル自体の防衛力は、そうでもないと思うけど。問題は、AGSの増援だろうね」

 カーディナルは、表向きは輸送基地でしかない。特別な防衛戦力を配置している素振りはなかった。

 しかし、周辺には軍事セクションが点在している。異常が伝われば、覆せない程の戦力差を以てこちらを粉砕するだろう。

『地理的に、あまり時間の余裕はありませんね。速度が肝要、またやきもきしながら皆を待つ事になりそうです』

 リーファらしい物言いに笑みをこぼし、その時の姿を想像する。リーファにとって、待つだけの時間とは、ただただ苦痛だろう。

「そうさせないように頑張るよ。トワが早く見つかればいいけど」

 無事でいるのかどうかすら、今はまだ分からないけど。

『……カーディナルでは、命の価値がゼロからスタートするんです。私が生きているのは、使い捨てにするような価値ではなかったから』

 こちらの不安を感じ取ったのか、リーファがそんな話を始めた。非合法の実験施設では、人権などあってないような物だ。代えの効く命と、代えの効かない命の線引きが、リーファの生死を分けた。残酷な事だけど。

『トワさんは、彼らにとっても価値のある対象だと思います。だから、無事だと思うんです。嫌な物の見方ですけど』

 別に、そう卑下するような事ではない。頭ごなしに無事だと信じるよりも、よっぽど納得出来る。

「あまり良い場所じゃないみたいだね。リーファちゃんは大丈夫なの? あんまり、近寄りたくない場所なんじゃないかな」

 リーファが小さく笑い、そうですねと肯定した。

『近寄りたくはないです。忘れられない光景が、忘れていない筈なのに込み上げてくる。でも大丈夫です。私が直接行って、滅茶苦茶にしてやりたい気分ですよ』

 リーファなりの強がりと強さを感じ、こちらも小さく笑い返す。

「余裕があったら、リーファちゃんの代わりに暴れておくよ」

『ダメですよ。トワさんの為だけに暴れて下さい。私の見立てでは、あの人結構な嫉妬屋です。時代が時代ならストーカー寄りの女の子なんですから』

 うん、その見立ては概ね合っているような気がする。

『だから、リオさんはトワさんの為だけに戦って下さい。勘のいいトワさんは、そのぐらい平気で見抜きますよ』

 うん、見抜いてきそう。怒られるのは別にいいけれど、落ち込まれたり泣かれたりするのは嫌だ。居た堪れなくなる。

『まあ、リオさんの事ですから。いざ始まってしまえば、余計な事は考えずにまっしぐらでしょうけど』

 よく分かっている。そうかも知れないと一人で頷く。

「多分、そうだろうね。今度こそ助ける」

 そう呟き、ちらと時間を確認する。大して進んではいない。到着までは、まだ少なくない時間がある。

 集中を切らさず、気負いもせず。ただじっと、カーディナルへの到着を待った。

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