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刃‐ブレイド 悠久ニ果テヌ花  作者: 秋久 麻衣
「少年と少女」
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建て付けの悪い未来

ifという人型兵器で戦闘を描きつつ、少年と少女にスポットを当てて書いています。自分の好きなジャンルで好きな事を書いている為、多少押しつけがましいかも知れません。

連載小説で長編です。一ヶ月に一回の更新ペースでやらせて貰っています。

不特定多数に投稿、というのは初の試みですが。楽しんで貰えたら幸いです。



主要登場人物



AGS所属 武装試験艦《アマデウス》

イリア・レイス   同BS艦長。少佐。20歳。

クスト・ランディー 同BS副艦長。中尉。20歳。

リュウキ・タジマ  同BS操舵士。少尉。21歳。

ギニー・グレイス  同BS武装管制員。少尉。21歳。

リーファ・パレスト 同BS通信士。特例准士。14歳。

アリサ・フィレンス 同BS軍医。曹長。23歳。

ミユリ・アークレル 同BS整備士。曹長。23歳。

リオ・バネット   同BS‘if’操縦兵。特例准士。17歳。



白い少女        詳細不明。



簡易用語集



「勢力」

 AGS

 大企業、ロウフィード・コーポレーションの設立した戦闘部署。現在、《アマデウス》はこのAGSへ所属している。


 H・R・G・E

 大企業、ルディーナの設立した戦闘部署。AGSとは敵対関係にある。


「メカニック」

 if

 イヴァルヴ・フレーム。全長八メートルの人型搭乗兵器。現代戦の主軸を担っている。端的にアイエフ、と発音される事が多い。

 本来イヴァルブのスペルはEVOLVEだが、あえてスペル違いのIVOLVEが使用されている。開発時に皮肉と期待を込めて、‘もしも’という意味を持つifを略語にしたかったからだが、開発後もそれが使用されている。

 

 BS

 ベースシップ。ifを含む、兵器を運用・展開可能な戦艦。


 セクション

 宇宙居住区。ドーナッツ型に連なった居住ブロックに、棒状の管制ブロックが組み合わさって構成されている。トーラスダガータイプと言われ、ドーナッツの中心に棒が通っているような見た目をしている。宇宙居住の礎である。


 それは機械を通した光景、だからなのか。紛れもなく現実だというのに、それが自分の世界と結び付いてくれない。いや、光学処理された映像だから、これは実際の光景ではないのか。

 呆気ない……それが‘まとも’になって初めて抱いた感情だった。目の前のメインウインドウには胴体を潰され、ただの鉄屑と成り下がったヒトガタが地に伏せていた。

 華やかな赤が視界に踊る。炎が黒煙を纏いながら赤を踊らせている。その夕日を思わせる光景から目が離せなかった。正確には、赤そのものから目が離せなかった。炎の赤ではない、あれはもっと直接的な命の赤だ。

 正面には八メートルの巨人を受け止め、中央から拉げた学校が見える。視界を横に回していくと幾つもの家屋が見え……可愛らしい黄色の屋根に不釣り合いな弾痕を携えて、恨めしそうに暗い穴をこちらに見せていた。

 瞬間、ずれていたピントが静かに合わさり、吸い寄せられるように赤を映した。

「ああ、そうか」

 これは、この所業はこの赤は……。




少年しょうねん少女しょうじょ


 Ⅰ


 目覚めはいつも、思いの外穏やかに訪れるものだ。悪夢であることに疑いの余地はないが、あの‘光景’を見ても静かに目が覚める自分はきっと正常ではないのだろう。

 そう青年は、リオ・バネットは悪夢を清算し、ゆっくりと目を開けた。まず見えたのは中空を漂うヘルメットで、無重力の中をゆったりと旋回し続けている。その安定した自転を右手で無理矢理止め、本来の使い方通り頭から被った。目の前には無機質な黒を映したメインウインドウがあり、両手が置ける位置にはごつごつとした操縦桿、ハンドグリップがある。

 どれぐらい寝ていたのだろう。慣れた手付きでシステムを立ち上げ、待機モードへ移行させた。メインウインドウには格納庫が映り、無機質な灰色の壁に赤色や黄色で様々な注意書きが記されている。

『時間です、リオさん』

 少し靄の掛かっていた頭に、まだ幼いと言ってもいい声が入る。通信士、つまりオペレーターを務めるリーファ・パレストの声で、今はブリッジの通信管制席に文字通り収まっているのだろう。軍艦の椅子は、十四歳の少女には大き過ぎる。

「うん、起きてる。作戦は予定通りかな」

『はい。あと、一応これも仕事なので伝えさせてもらいます』

 そう言い、一拍溜めた後にリーファは切り出した。

『今回のミッションはポイント・レイバンに発見された遺跡の調査です。まあ、上が求めているのは発掘品の有無でしょうけど』

 作戦内容に関しては改めて言われるまでもないが、このタイミングで伝えるのもオペレーターの職務だ。簡単な相づちを返し、自分の矛でもあり盾でもあるこの機体の状態を確認する。

 if……イヴァルブ・フレームと呼ばれるこの人型兵器は、現代戦の在り方を示す全長八メートルの‘機動’兵器だ。今使用しているのはif‐01《カムラッド》と呼ばれ、型式番号通り最初期の機体ではある。しかし汎用性と生産性に優れているため、今も戦場の中心にいるのはこの機体だ。

 2070年現在、未だ人類の大半は戦場と共にあった。国家という枠組みは取り払われ、企業が台頭する世界となった。しかし結局の所、そうして生まれたのは新たな確執であり、新たな戦場の在り方だった。

 世界を牛耳っている大企業、その一つであるロウフィード・コーポレーションに自分は属していることになる。正確には、ロウフィード・コーポレーションの設立した戦闘部署、AGSに配属されている身だが。

 戦場である以上、敵と呼ばれる存在も当然ながら存在する。ロウフィード・コーポレーションと同じ大企業であるルディーナ、正確にはその戦闘部署、H・R・G・Eだ。

 しかし、今回の作戦行動ではそういった敵性分子はいないだろう。ただ探索をして、報告書を作る。それだけの仕事だ。

『リオさん、作戦開始です。発進を』

 何も問題はない。格納庫の床、下部ハッチが左右にスライドし、深淵を思わせる宇宙の黒を映し出した。灰色の床にぽっかりと空いた黒、いっそ穏やかにさえ見えるそれは、絶対的な存在感を見るものに訴えかける。今となっては、ほんの見慣れた光景に過ぎない。

「リオ・バネット、作戦開始します」

 下部ハッチから流れるように外へ出る。白亜の母艦、《アマデウス》を一度だけ見据え、次に目標だろう岩石群を捉える。

 何も問題はない。その岩石群へ向け、リオは《カムラッド》を一直線に飛び込ませた。





 ※


 迷いがない、そうとしか感じられない軌道を描きながら、リオの操る《カムラッド》は岩石群に向けて文字通り突撃を始めた。もっとも、ここから見えるのは広域レーダーに映し出された光点だけで、その自殺行為を実際に眺めているわけではないのだが。

 溜息を一つだけ、リーファ・パレストは周りに気付かれないように吐いてみた。あんな操縦の仕方では、いつか本当に死んでしまうのに。

「はあ、もう。あれじゃあ岩にぶつかって死んじゃうよ」

 後ろから心配そうな声が聞こえる。艦長であるイリア・レイスの声で、わざわざ振り向かなくても表情は察することができる。多分イリア特有の、上唇を軽く噛む拗ねたような表情だろう。喜怒哀楽がとんとん拍子で表れるイリアは、声色だけでも感情豊かに聞こえるものだ。

「そうですね、注意ぐらいはしておきましょうか」

 イリアに同意するようにリーファは呟き、リオへと通信を繋ごうとする。大体、リオは人に心配を掛け過ぎるのだ。自分より三つも年上なのに、どこかフワフワとして掴み所がなく、それでいてやんわりと周囲を拒んでいるというか。

 その理由も必要性も理解できる。リオは諦めているのだろう。悲しい推論だが、きっと生きるということ自体を。

 そうリーファはいつもの答えに辿り着く。が、それでも生き抜いてしまうリオは、いったいどんな思いでいるのだろうか。

 それはリーファには想像も付かない領域であり、考えたところで何が出来るわけでもない。それでも、そんなことを考えずにはいられなかった。

 しかし、一向に繋がらない通信に現実へ戻されたリーファは、怪訝そうな顔をコンソールに向けた。岩石にぶつかって四散したわけではない。リオの生存を示す光点は、今も爛々と光りながら岩石群を突破している。

「艦長、通信が」

 後ろ手に振り向き、リーファはイリアと目を合わせた。この程度の岩石群で、通信を阻害される事はない筈だ。

「妨害されてるね、アレに」

 いつになく神妙な表情で、イリアは広域レーダーを指差した。それが何を示すのか、改めて見なくても分かる。

 岩石群の中でも一際大きく、それでいて存在感が希薄に感じられる。人の枠を超えた存在故に、人の身には認識できないのか。

「遺跡……」

 知らず知らずに呟いた言葉は、空気に染み込んでいくように消えていく。再び広域レーダーに目を移すと、リオを示す光点もまた、targetと標された巨岩に染みていくように消えていった。

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