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新世界~魔導召着衣師~  作者: 匿名(未定)
弱者と新たな 力
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 某歴420の夏、力を極めようと守護神たちが守り抜く神殿で鍛錬していた。

 そこに、数十人のフードをかぶった者たちが現れた。彼らは続けざまに「邪神を封印しろ!」と吠えていた。その者は「違う! 俺の名はカムイだ! 邪神じゃない」と訴えるも、だれも耳にしなかった。

 それだけでなくなにかを唱え始める。

 地面に魔法陣が現れるのを目にして、とっさに魔法で魔法陣を吹き飛ばす魔法を放ったも、その魔法は無力化された。

「なに!?」

 驚くのもつかの間、魔法陣から鎖が無数に飛びたち、カムイの全身を縛り上げ、魔力を吸われていく。どうすることもできず、フードの者たちに訴えた。

「なぜ、こんなことをする! 俺はただ、鍛錬していただけだ! 邪神を打つために」

「邪神の遠吠えは聞かぬ」

 フードの者たちはそう告げると同時に手を上げた。魔法陣はカムイを追おうと同時に、鎖が強く縛り上げていく。痛みと我慢ならない精神の弱まる一方で、意識も少しずつ薄れていく。

「俺は…邪神…じゃ……ない」

 声にならない言葉を最後、意識が完全に途絶えた。


 目が覚めたときには、見知らぬ天上にあおむけの状態でベッドの上に寝ていた。

 カムイはゆっくりと起き上がると、目の前に鏡があった。

 鏡はカムイを一回り蔽えるほどの大きさだ。

 その鏡に映し出されていた姿にカムイは驚愕した。

「これが…俺?」

 口が閉じない。目も疑わない。

 見たそのものが、もはや人獣と言えるほどの姿をしていたのだから。

 犬のような耳が頭部から生え、鋭い牙は口の中から見えた。目は鋭く獲物を狩るかのような目をしていた。だけど、それ以外の部分は人間で変わらない。

 服装はひどい状態でシャツ一枚とパンツ一着、焦げ茶色く薄汚れていた手袋だけだった。

 外観とは裏腹に犬のように鋭い口ではなく普通に人間と同じような口だったのは少々驚きを抑えられた。牙だけが鋭いといった感じで、口を開けば獲物を狩る

ウルフ系のモンスターだと疑われてもおかしくはない。

 ウルフというよりもハーフウルフといった感じだろうか。

(そういえば、魔力はどうなったんだ?)

 カムイがふと気にしたことだ。

 あの時、フードの団体によって魔力を奪われていた。魔力が減れば精神的にも押さえつけられなくなるほど弱くなる。1回の弱い魔法で火をつけたとしても、それだけでめまいが起きてしまうといったのを幼いころに感じたことはあったが、魔力が食われた場合はどうなるのだろうか。

 カムイは自身の魔法がどのようにして変わったのか、確認してみることにした。

「えーと…魔法を唱えるのは半年ぶりだな。上級だと危ないから、下級中の下級魔法で試してみるか…」

 カムイは目をつむり、水のモーションを浮かべた。

(水は液体で、触れれば冷たく、冬の寒さでは体温を奪っていく。水は落ち着きがなく、揺らせばその方向に従って動く。水の味は…)

「我が魔法の四季において命ずる『アクアター』」

 手を伸ばせた先で一滴の水が天井から床へと零れ落ちた。

 それだけの魔法だ。

「これだけの魔法を使っても精神的に不安定がないということは、この魔法は大丈夫ということか」

 カムイが今使った魔法は『アクアター』と呼ばれるもので、子供がいたずらように使うコケ落としの魔法だ。ただ、高い場所から低い場所へ一滴の水を垂らすといった魔法だ。

(次に、少し上位な魔法を使ってみるか)

 カムイは次の魔法を唱えることにした。6歳ころから習うとされる魔法で、加護の魔法だ。

 【加護】魔法は、対象に保護としてパフといった感じの魔法で弱い部分を支えるといった感じの魔法のことだ。魔法にはいくつかの種類があり、攻撃魔法であれば【妖術】、武器で殴るだけの技なら【武術】、対象の傷を癒すなら【治療】といった感じだ。

 基本的に四季…4属性が存在し、この魔法の組み合わせで他の種類の属性も魔法として使える。四季を覚えるのはだいたいで11歳まで、それ以降はそれ以外の属性による魔法の鍛錬で属性を得ていた。

 ようは組み合わせだ。水と火を組み合わせて熱に、水と土と風で氷にといった具合だ。

 四季属性は火・水・風・土の4属性。組み合わせに関しては数えきれないほどの属性が存在する。

「さて、ここは部屋だったな、火や水といった上位系だと、危ないような気がするな。7歳程度の魔法で試してみるか」

 カムイは手を胸の前で組み念じた。

(感覚は、水を触れた感じで――風は自身の周囲を回っている…いや、通り過ぎていくような感じで)

 ある程度のイメージを固めるなり、魔法を唱えた。

「『アクアビューティネ』」

 水が球体の形状に変えていき、カムイを覆うようにしてまとまった。

 風で形状を作り、中に空気を創りだす。水で周囲を覆わせる壁のようなもので役割を与えて完成する魔法。

 細かい砂や石など投棄物を防ぐ魔法のようなものだ。

「く…」

 めまいだ、意識が遠のく。

(まさか、魔力が7歳程度まで下がっているのか? うそだろ…)



 次に目覚めたときには、仲間らしき人物によってどこかへ連れ出されている光景が見えた。片方ずつ腕を持ち上げ、足を引きずる形でカムイをどこかへ連れて行こうとしていた。

(なんだ)

 カムイでもよくわからず、ただ相手の意思に合わせることにした。

 いま、じたばたしていても、どうにもなるわけではないからだ。

「つきましたぜ、お頭!」

 ごつい男が目の前に腰かけている。その男は身なりからして貴族のような育ちであることが分かった。上等な毛皮の服に、ドラゴンと思わしき翼を丸めて作り上げた置物、エルフのような風貌を持つ女性を従えさせている。

「ほうか、こいつか…」

 男はニヤと口元に笑みを浮かべるなり、カムイに向かってこう告げた。

「お前さんは、どこから来た? 見たところ…何も来ていない一般人モブといった感じか?」

(いま、モブって、言ったよな)

「まあ、どうしようかというわけでもなく、明日はお前の最終回だ!」

(えーー!!)

「今日はゆっくりしていきな。明日はお楽しみ会を開いているからな」

 男はエルフが持ってきた器の上に備えた骨付き肉を豪快に手で取ると、肉にかぶりついた。

 カムイはただ、黙ってみていたが、エルフは逆らうこともなく、男に従っていたようだった。いや、させられていたようだ。エルフはハーフウルフと同様で希少種だ。

 めったに人間の手によって従われることはしないはずだ。

(誇り高きエルフはどうした…)

 カムイはそう頭に浮かべながらエルフの方へ目を向けていた。



 男の手によって、無造作に牢屋に押し込まれた先で、先ほど連れ出してきた男が事情を説明してくれた。

「お前さん、お頭に気に入られたようだな。明日は、闘技場だ。勝てば、自由を得る。負ければ自由はお頭のものだ」

 つまり、明日は賭け試合のようなもので、勝てれば自由が手に入り負ければ、あの豪快な男のもとで一生、束縛された状態…いわば、奴隷のような働きで過ごせということか?

 あのエルフもそうして囚われたのか?

「……」

「どうした、怖気ついたか? まあ明日は楽しみにしているよ」

 男は笑いながら牢屋を後にした。


 男が去った後、牢屋にはカムイしかいない。

 カムイは明日の試合のことについて考えていた。

「負ければ、あの男の元で…俺の鍛錬で上級をも超える魔導士・武闘家にも慣れたのに…それが、邪神だと言われて地に落ちた挙句、賭け試合に放り出されるとは思いもしなかった」

 さらに、カムイにとっての致命的な点は魔法が使えないということと、人間ではない半人獣となってしまった自身について格闘技が通じるかどうかの問題である。

 ましてや、魔法で名を上げたカムイにとって武闘家で戦うなど4年ぶりなことでもあった。

 魔法は遠くにいても近くであっても上級の【加護】や【特異】など覚えてしまえば、チート並みに無双ができていたからだ。それだけでなく鍛錬で得た3年間の努力の結晶の精神力もあって、魔力は無限大ともいえるほどだった。

「今にして思えば、あの時が光り輝いていたな…」

 過去のことを思い浮かべた。

 あの時は無双でいたからよかったが、今は弱者ともいえるほどの力不足の状態だ。

「さて、どうするか」

 魔力は7歳程度、武闘家は、相手の状況次第で使えるのは難しい。なら、どうする。

(いま、ある力は―――)

 イメージ的にも思い浮かばない。

 今自分にとってあるものは何一つも思いつかない。


 結局、試合開始まで考えていたが結局のところなにも思いつかなかった。

 試合会場は金持ちがたらふく金を叩いて作らせたかのような5メートルほどの高さの壁と、砂埃が舞う地面。壁の上には興味津々な者たちが見つめている光景だった。

「く…金持ちの道楽か」

 砂埃が舞う中、姿を現したのは昨日会ったエルフの少女だった。

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