29
カムイと出会った過去の出来事を過ぎ、何かを掴んだような気がしていたころ。
ひとりの青年が武道塔レモンシアターへ向かって歩き出していた。
「ここが、未来を知る鍵」
はるか真っ青な空を突き抜けるかのような高い塔を見つめながら静かに息を吐く。
彼の名はゼギア。かの遺跡を巡っては研究している考古学者である。そんな彼がこの地に訪れたのは数百年前に刻んだとされる石版に記されたことを確かめるべく訪れていた。
未来を予言する石版。
この場所でかつて邪神を倒した勇者がとあるミスをした結果、邪神とも思える力を秘めたものがこの地で災いを起こすと記されていたからだ。この内容を発見しただけで事実かどうかは不明確だが、仲間にも反対された中で訪れていた。
武道塔。数々の英雄たちや戦士たちが刻み歩いてきた栄光の階段。階を進むごとに称号と階級が与えられるほか、それ以外の賞金や景品なども与えられるとされている。
詳しいことは一応調べてあるものの、その未来を知るには誰かとチームを組み、災いが起こるかも知れない存在を誰なのかを知る必要があった。
そこで、チームを探すのだが、簡単にやられてしまっては調べる範囲は狭くなってしまう。なるべく強く腕が立つ人たちのもとで活躍しなくてはならない。そして、能力をあまり見せるようなほどのヘマをしないように心がけなくてはならない。
「えー!! 3人から4人いないと入れないの!?」
聞きなれない声が会場の入口からした。
そこへ向かってみると、背に剣を担いだ大男と半獣とも言える2人の姿が会場の人達ともめていた。話からすれば普段3人以上での参加のところを何らかの事情で2人できてしまったようだ。人数の足りなさかもめている様子。
もしかしたら、彼らと同席したら中の様子が知ることが出来るかもしれない。
そう判断したゼギアは2人と同行する決心をした。
「ねえ、ちょっと人が少ないのなら、ぼくも入れてくれるかな?」
少し怪しみに見られたのだろうか、警戒されているご様子だ。
「そんなに警戒されなくても、ぼくもこの会場に参加したいんだけど、仲間が傷ついてしまってね、代わりを探していたんだ・・・」
上辺らな嘘のような発言だった。けれど、2人にとっては予想外にもしない出来事のためだったのか、2人はすぐに快諾してくれた。
2人の事情は知らない。けれど、これで任務を実行できる糸を掴むことができた。そう思うゼギア。
「おかげさまで助かりました」
「ありがとう」
2人から返事を受け取る。
「なあに、大したことがないさ。ところで、2人は何しにここへ?」
事情を聴くわけでもなかったのだが、時間もあるため聞いてみることにした。暇を持て余す意味もあったのかも知れない。
「実はこういうことで―――」
彼らの話では、あまり知らないギルドのもとで、この塔で行われる試合に出て賞金を稼ぐ目的できたようだ。ある意味任務と少し似ている。ゼギアの任務は災いを見つけることなのだが、ここは試合を積んでいくことで上の階へ登れるシステム。多くの人と知り合うのにも上へ進まなくてはならない。
なら、彼らと同席しながら試合に勝利して進むこともまた同じ道。ゼギアは理由を聞いたあと、簡単に頷き、同じ目的だと告げた。試合を介して進むこの道の先で予言を知る手掛かりをつかむためにも。
実際に試合が出来ると聞いたのはそれから20分後のことだった。最初の1階目の試験は3回試合で勝利することが目標だった。試合は各階によって勝利条件が異なるのが、この塔のポリシーなのかもしれない。
どのみち多くの人たちと知り合うのはいいきっかけだと思った。
「いまから、試合だとよ。敵チームはギルド関係者のようだ。どれも知らないギルドだが、油断はできないな」
背に剣を持つ大男の名はセン。とあるギルドのマスターらしいが見た関係では強そうには思えない。むしろおびえている子羊のようにも見える。
一方で、半獣のカムイ。彼らかはちっとも魔力を感じない。一般人並とも言えないほどの力だ。このような力で試合に勝っていくつもりでいるのだろうかと不安をかしげる。
ゼギアは考古学者で戦闘向きの役職ではない。
だけど、ある程度戦えるように訓練は仲間の間で行っていた。実践で魔物とは別で人と相手するのは初めてなのかもしれない。少し緊張をはる。
「油断は大敵だな・・・」
「カムイ殿は毎回使えるものではないのだな」
「ああ、あの日(彼女の幻を見た日)を見た限り、能力自体は上昇している。だが、鍵自体が崩れているようで、何度家使用するといずれ使えなくなってしまうほどひび割れが激しい」
「そうか、やはりその力も制限はあったのだな」
「ああ、一応弱点を知ることはできたから、なんとかするさ」
「そうしてもらわないと、こちらが苦戦するからな」
なんの話なのかわからないのだが、あえていえることは1つ。カムイはなにか秘密ごとを抱えているようである。”能力”と発言したあたりから、役職に関係する能力なのだろう。
さらに”制限”とも言っていたことから、この力は何度も使用し続けないという限定的な技なのかもしれない。いずれにしても試合になれば分かることだ。
「では本日26試合目の2チームに登場してもらいましょう」
アナウンスが鳴り響く。
どうやら、待機上とか休憩中とか関係なしに呼ばれるそうだ。
「もう・・・か」
「行きましょう」
「ゼギアはなにか秘策は持っているのか?」
移動しながらカムイに声をかけられた。もちろんあると真顔で答えた。
戦闘向きな能力は使えない。けれど、それに近い能力は使える。通用するかどうかはわからないが。
「本日のメインとなるゲストは0(なし)! だが、無名とも言える2つのギルドがいま、対立する!! 明日を見るのは誰なのか? ここで明日も見ぬことができなくなってしまうのはどちらか、いざ試合に掛金をどうぞ!!」
高い絶壁のような場所に観客席が円形のように広がり、その中央とも言える円の中心に1つ小さな輪っかのようなものが浮かび上がる席があった。そこに司会者の姿が。
「まずは、東側! はるか南側から訪れたとされる砂の民『サンド』」
「ありきたり」
「掛金どうするかな~」
「強そうには思えないなぁ」
観客席から不満がざわつく。無名同士の戦いなのだがから、仕方がないがもう少し声を貼らないのだろうかと思ってしまうゼギアであった。
「続きまして、西側! その名のとおり『カスまみれの喫茶』ぁぁぁ!!」
「うわ、だっせー」
「ひでぇ名前だな」
「ギルマスの顔を拝んでみたいわ」
「入りたくないギルドNo.1にシフトチェンジ」
またもや観客席からブーイングの嵐が。ここまで無名同士の争いが醜いものかと改めて心に知る。
「さて、お互いの掛金を見てみましょう。3、2、1、Go!!」
ガシャ、ガシャと北側の壁に設置されたパネルが動き出す。
「これは意外と意外な結果だぁぁぁ!!!」
開かれたパネルには、『サンド』には400GR。『カスまみれの喫茶』には20RG。
これはひどい。ひどすぎて言葉が見つからない結果だ。これは誰が予想したことか・・・。
「うん。予想以内ですね」
「そうだな、これでサンドを潰して勝てば、その賞金は俺らに入ってくる」
2人の話からしてこれは想定済みだったようだ。おまけにこのシステムのこともよく知っているようだ。この試合で買った方にかけられた賞金額がそのギルドに入る。負けた方は残念ながら復帰できないほど、この試合に出ることができなくなることとかけていた賞金は1GRも戻ってこないことだ。
復帰できないという点においては不備がある。復帰・・・つまり敗北で、ギルド自体を解散させなくてはならないという条件が裏側に存在している。この試合で勝てなかったギルドは存在している理由もないという意味をつけられている。お金は手に入るがリスクが高いこの試合の方式では、よっぽどの腕自慢がない限りは参加しないというギルド内での暗黙ルールが存在しているのだが、この2人はそのことを知っていて参加しているのかどうかは僕自身で知る方法はない。
だけど、この2人が参加したということはそれなりの理由があってこそだ。
ぼくは、ただこの2人の力を見込んで参加したに過ぎない。ギルドも入っているわけでもない。負けても他のギルドに入部すれば再び出られるのだから。
「っふ。俺らの力を決めつけてやろうぜ! 兄ちゃん」
「油断大敵ですよ」
目をつぶる少年が声を張る。両腕には杖を握っている。あの中ではあの魔術師が一番危険だとゼギアは感じた。
「やかましい。俺らの兄弟の力が負けるはずがない」
少し小太りの兄弟。最初に口にした男の腹に「弟」という文字が書かれた服を着用しており、もうひとりには「兄」と書かれた服をきていることから、あれで兄弟を判別しているのだろう。
「兄弟と魔道士・・・か」
「様子からして2人は接近戦でしょう。あの魔道師・・・嫌な予感がします」
2人もわかっている様子だ。
考えていることはお互いもう知っているようだ。あの魔導師をさきに倒す。
「試合開始です!!」
司会者が声を荒げると同時にブザーが鳴る。試合が開始したようだ。
「先に行くぜ兄ちゃん」
「おお! フォーメーションAだ」
「分かりました」
兄弟が二手に左右分かれた。魔導師はそのまま待機し、なにか呪文をとなる。
「こちらも先に兄弟を迎え撃つ。ゼギア! 魔導師を頼む!!」
初対面の人に、一番厄介な相手を頼むとは・・・つくづく面白い人たちだ。だが、任せるということは信頼しているという意味もある。ああ、信頼していてくれてもいい。ぼくがあの魔導師を止め、君らに入れてくれたことを感謝して欲しいと。
「バーストエボリューション」
センの足元が赤く光る。ピリピリと肌に痛みが感じる。でも、弟は引くことはなくそのままセンに向かって持っていた斧を振り下ろす。
「アッシュグレイ」
もらったとも言わんばかりにその一撃がセンの頭へと振り下ろされた。
カシュっと地面に斧が突き刺さったとき、もう勝負がついたのだと思ったのは弟が反応した時だった。
「な! なに!?」
突然、弟の体から血が噴き出す。
弟の背後にいつの間にかセンの姿があり、剣をくるくると回転するとともに背中の鞘に戻すと、弟はそのまま地面へ倒れた。
「おとうとぉぉぉ!!」
目から涙が溢れ出す兄。
「バカが、自分のことに集中しろ」
「え?」
カムイが・・・カムイだったものが兄の腹になにか押し付けるかのようにしながら、前方へ吹き飛ばす。
ドォンと音とともに吹き飛ぶ兄は咄嗟に、体をひねり地面に着地する。
あわてて腹になにかされたのかと思い、兄は両手で触れるが、特に変化はない。
「き、貴様何をしたぁぁあ?」
「君はもう終わったよ」
カムイが捨て台詞を吐くも、兄はなにかされたのか理解できないまま、再びカムイに向かって斧を振り落とす。すると、今度は容赦なくカムイの頭部を叩き割った。
「ひゃ・・・やった!」
少し沈黙のあと、カムイは何事もなかったように兄を見つめ、「俺に、なにかしたか」と、問うた。兄は喚きながらカムイに向かって斧を振り回す。それでも平然なままカムイは抵抗することもなく、痛がる様子もなく、悲鳴を上げることもなく兄からの攻撃を受け続けた。
「うあぁぁぁぁ!!」
「残ったのはあと君だけだよ」
「そうみたいですね」
センとゼギアを目の前にして平然とする魔導師の少年。まるで分かっていたようなスぶりだった。魔導士の少年の周囲には見たことないクローバーやダイヤ、ハート、スペースの形となった札が魔導士の少年を取り囲んでいた。
「カムイ、そっちは終わったか?」
「ああ、バッチリだ」
そこには地面に倒れた兄の姿があった。兄は先程までうめき声をあげていたのに、今ではすっかりと大人しくなっていた。
「彼(兄)に、何をしたの?」
ゼギアは聞いた。他にも聞きたいことはあるのだが、先ほどの現状とともに事情を伺う。
「ああ、彼には幻覚で眠ってもらったよ」
「幻覚だと・・・?」
「これが俺の能力『魔法召着衣』。あの日(前にも説明したとおり)を境に、この能力が召喚獣を使う意外にもほかの方法で出来ることを知った。おかげでオリジナル(鍵)に頼らず、新たに作った鍵で変身することができるようになった。これが俺自身の能力だ」
さっと見せたその姿は確かに魔導服とも言えるローブのようなものを着込んできた。おまけに魔女のような三角形の帽子も身につけていた。
カムイが新たに身につけた能力『魔法召着衣・新』。召喚獣に頼ることなく自身の魔法の力で新たに鍵を作り出すことに成功した。この能力は魔法をあらかじめ魔力の塊として服に染みこませ、戦闘になった際に鍵を重ね合わせることでその服を召喚して着ることでその能力を使用するという方法ができた。
オリジナルと違って魔力の最大値はそう多くなることはないが、召喚獣による鍵の崩落や魔力の欠如などを防ぐことができた。
「そして、この服の名前は『幻覚の魔導服』だ。その名のとおり、俺に視線を合わせたまま、この服や帽子に向かって武器を振ると、幻覚の能力が発動する。ただし、1回限りだがね」
念のためなのか、1回限りを付け足すかのようにいった。
無限だとよいのだが、新しく作ったがまだ魔力が足りないことと習得して日が浅いこともあって1日1階が限度といったものとなってしまった。もちろん、こちら側は説明しても他にも手がいくつかある。それを承知で敵に話したのだ。
「なるほど、それが君の能力か・・・とても興味深いな。それが本当なら、世界各地に存在する召喚獣をもとに服を見せて欲しいものだよ」
少年はフムフムと顔を何度か軽く頷く。
ゼギアは見た目と違ってそんな特殊な方法で自身の魔法で服を作るとは今までのモノたちも考えていたものなのだが、カムイはカムイなりに同じ能力を応用する形で作り上げたようだ。
”自身の魔力を武具として服にする”
ゼギアはなぜか、カムイがほかの服になったとき、どんな姿をしてどんな能力を持つのかとても興味深く思った。それは、もちろんセンも同じ意見だろう。それに、いまここにいないほかのメンバーも。きっと同じように考えるのだろう。
「それで、どうしますか? ぼくを」
不気味に笑みをうかぶ魔導士の少年。幻覚作用がある魔道服のネタはばらした後、カムイからの対策は召喚獣を使った手しか残っていない、4種類の札によって取り込まれているにもかかわらず、少年は平然と自分の処罰はどうなるのかと聞いている。
「どう…って、負けを認めるなら、このまま何もしないさ」
と、カムイが両手を広げ手で何もしないと表した。
「そうか、なおさら負けられないな」
深くため息を吐く。
握っていた杖を指で回転させながら何かをつぶやく。
ドドーンと爆発音が周囲に響いた。それは囲んでいたであろう4種類の札が一斉に爆発したのだ。
「君くんが教えてくれたのだから、何もせずに帰るのもアレ…だしね」
そう言って杖を頭上に振り上げたとき、天井から火球が数えきれない数ほど増え、カムイたちがいる地上へと降り注いだ。




