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悲鳴がした方へ駆け込むと、そこは月光が照らす中、かすかに見えたその光景は異常ともいえる光景だった。血と肉片となった死体。あまり面識がなかった仲間たちだったその姿を見て思わず吐き気を浮かべる。
自身に問い続け、吐くのをこらえた。
再び森の方から悲鳴が聞こえるとともに、俺はその場所へ無我夢中に走った。
闇に包まれた木々や草をかぎわけて進んだ先には、残された、もしくはそれだったものが捨てられる形でおいてあった。元は人であったその形が、見る影もなくすほど悲惨さに包まれていた。
異臭が立ちこむ中、かすかに生存者らしき小さい声が聞こえた。
男だ。
「おい、大丈夫か!?」
周囲に敵がいないかを自身なりに見渡したうえで、その男へ駆け出す。
足は食い破られたのか、激しく出血していた。両腕には抵抗した痕が残されていたが、動かすことは到底難しいほど深手を覆っていたのを見て確認とれた。
「ぅ・・・っ・・・」
「なにがあった?」
声を掛けるが、男は口にできないほど喉がつぶれているのか息ができないのかかなり苦しんでいた。俺はその男の口元まで耳を近づき、声を何とかしてでも拾うとした。
そこで、聞こえてきたのは男なりの最後の言葉だった。
「すまない」と。
この言葉を発した先は、肉片と骨となった地べたに捨てられたように転がる遺体のことを言っていたのかもしれない。魔物の特徴、姿、特性、属性などを調べる意図はつかめないままだった。
だが、この男が残してくれたのは、ある意味で複数の情報を残してくれたのかもしれない。
「この傷・・・すまないが、調べさせてもらうよ」
もはや息をしていない男に、礼をしてから傷口を一つずつ丁寧に調べる。
俺…カムイ自身の能力――役職は【印象召喚師】。触れたモノに対して一定の契約条件を結び、互いに了承したうえで刻印を打ち込むことで、その者を召喚することができる上位レア級の役職である。
この能力は少々厄介な部分があり、刻印を付けたものが死んでしまうと、契約破りとなり、カムイ自身に罰が下されてしまうという欠点がある。
なぜカムイ自身にだけ罰が下されてしまう原因はいまだにわからないが、刻印を埋めた最初のひとりとして罰を下す要因としているのかもしれない。
召喚するべき仲間を死なせた罰として、この能力が認識しているのだろう。
この刻印は例え、すぐに死亡したモノでも一時的にだが、生前の状態で復活させることができる。
せいぜい、数秒程度だが、この能力を使えば、彼から有力な情報をもらえるだろう。
「刻印を刻めさせてもらう。少しだけの情報を――」
と、優しげに男に告げながら刻印を刻むため印を書くのだが、バキという音ともに刻印は砕け散ってしまった。
一度でも砕けてしまった刻印は、ニ度目以降は通じない。
なぜ砕かれてしまったのかはだいたいが予想がつく。この男に封印もしくは契約を無効化にする魔法・加護を与えているか、他の者がすでに契約してしまっているかによる。
そのいずれかだが、情報を多く提供できなくなってしまった。残念ながら、男の傷跡からして形状を把握しなくてはならない。
10分は経過しただろうか。男の傷跡を見た後、カムイはひそかにこの傷跡の形状からしていくつかの魔物の形状を思い浮かべた。
足をかみ砕いた傷跡。これは、鋭い牙、もしくは大きな歯がある魔物によって引き裂かれたあと。
腕に残された複数の傷跡。これは魔物から身を護る際につけられた傷の跡のようだ。牙だけでなく大きな爪もしくは、鋭い刺のような皮膚に包まれた魔物によるものか。
最後に、頭と体に残された浅い複数の傷跡。服などを傷つけずに、直接内部に傷をつけているから、この形状は魔法系の魔物。風もしくは闇などの内部への切り裂く魔物の仕業だろう。
しかし、そこまでイメージは持って行けたが、いまいちそんな魔物など想像できない。
「困ったな」
悲鳴が聞こえてから何分経ったかはわからないが、あれから悲鳴が聞こえていない以上、魔物は慎重になったかもしくは逃げたか潜んだか。いずれにせよ、これ以上、魔物を探すのは危険すぎる。
とりあえず生存している仲間を探す方が先決かもしれない。
ゆっくりするはずがまさかの展開に落とされるとは思いもしなかった。
「まったく。魔物のせいで、ゆっくりできなくなった」
魔物に文句を言いたくなるような気分だ。
こればっかりは、魔物に当たっても仕方がない。魔物や他人がその人の空気を呼んでくるわけでもない。いつ襲われて襲ってどっちかが奪われる。そんな日常の中で、いるわけだからな。
朝日が昇ったころに、仲間を何とかして見つけることができないかと探っていたとき、一人の男を途中の茂みで見つけた。どうやら、誰かの罠にはまったようで、5メートル以上の木の上に紐に結び付けられたまま降りれなくなったかわいそうな男が、ぶら下がっていた。あいにく、身体に縛られた様子で、疲れた様子も痛がる様子もなかった。
「ああ、たすかったよぅ」
すこしドブとい声がしたが、年配というわけでもないだろう。
さて、この男になぜ、役職の能力や持っていたナイフで紐を切らなかったのかを訊いてみたところ。帰ってきた返事は「高所恐怖症」だったといった。それで持っていたナイフで紐を切ったりしなかったわけか。
さて、この男を態々助けた理由はこの男の役職がピンポイントだったからだ。
この男の名前はドンピッチという。
ふざけたような名前だが、彼が言うには名称正しき立派な男の名前だと張り切っていた。まあ、そこはスルーして、男の役職【ターゲットリンク】という。男なりの名称らしいが、能力というものがとても興味深いものだ。
ターゲットとなるリングを相手の体のどこかにつけておくことで、自身から周囲200メートルまでにいるターゲットの位置を知ることができる能力だといった。
この能力にピンと来た俺は、この男に他に生存している人がいるかどうかを探してくれるよう頼んだ。
結果、1時間後に生存した5人の男女と合流を果たすことに成功した。
「俺の名前はエンゲル。役職は【銃撃士】だ」
傘帽子をかぶった長身の男。顔がイケメンなのが、少々気に食わない。
「我の名は――。名も無き者ダイモンだ。役職は【斬剣士】」
名も無きとかいいつつ、名前を上げたこの男。何が言いたいのかさっぱりだったので役職を訊いた後はスルーした。もちろん他の人たちもだ。ダイモン(こいつ)はとにかく自慢話のようにして説明したがる性格のようだ。
「わ・・・わての・・・わての名はチハルていうねん。役職は【光魔導士】」
電球のような帽子をかぶり、妖精の羽衣のようなスカーフを纏ったような少女だ。
「俺の名はドンピッチ。役職は【ターゲットリンク】」
こいつは先ほど説明した男なので詳しいことは省略。
「ぼくの名はホル。役職は地味な【着物作成者】」
地味というほどでもないほどの立派な着物に巻かれた子供のような体系をした男だ。生産系のようで勝ち目はなさそうだが、【着物作成者】というのは少し興味深い。
「皆さんすごいね、私の名前はマサミ。役職は【幻想魔導士】。幻を見せる程度の魔法使いだけど、よろしくね」
まさかの人と出会ったと当初は思わなかったが、彼女は彼女なりの力を発揮してくれるのだとなんだか期待したい気持ちがあった。
「俺が最後か、俺の名はカムイ。役職は【印象召喚師】だ」
と、役職名を明かしたと同時に、みんなが驚きの声を上げた。
印象召喚師。あまり聞きなれない名前だからだ。この能力はどんなふうに使うのか、どんな力を持っているのか問われたたが、俺はこの能力をあえて仲間に詳しいことは説明せず、うその説明をした。
この仲間はあくまで、捨て駒だ。
説明するほど俺の能力は安っぽくないからだ。
もちろん、嘘の能力は以下のように教えた。
“俺の能力は、刻印を刻んだ者の役職の能力を上昇させた状態で、俺の近くへ召喚して登場することができる”と。もちろん、その者の能力を強化する能力なわけないし、俺の近くに呼び出せるわけではない。俺が“印”をつけた個所に呼び出せる程度の能力だ。
そこに、仲間が召喚されたとき魔物の攻撃が迫ったときは、残念ながらそこで死を迎えてしまう。なるべくそうならないようにしなくてはならない。それに、呼び出せる回数や時間は決まっている。もちろん、その辺も説明していない。
罰は俺自身が受けてしまうが、仲間を多く持ち、多くの手駒が増えれば、俺のゆっくりした時間を多く稼げるからだ。
当時の俺はそんなことを考えていた。




