22
センたちが襲われた後、無事に安全を確認したのち、会館で申請をした後のこと。
ルゥイと妖精のクク、カムイが図書館から少し離れた商店街の路地裏で、一人の女を捉えたルゥイが魔法により縄を手足に結びながら運ぶ。路地裏で人目がつかず十分に厚い壁に覆われた場所をククに訊き、案内されたこの場所で、ルゥイによって一人の女を拷問にかけるところだった。
「誰の命令ですか」
「知らない。わたしはただ依頼で引き受けただけです」
「ほう、それでは“誰”ではなく、依頼主は誰ですか」
それでも何も答えない女に対して、ルゥイは小さなカバンから一本の赤色のリボンを取り出すなり、「なにするの」と女が叫ぶのを無視して右手に結ぶ。そして、再び口にする。
「依頼主は誰」
「…知らな!?」
女が突然わめきだし、赤いリボンを結んだ右手に左手で押さえながら足をばたつかせる。その痛みからルゥイの後ろから観察していたカムイたちも右手に何か巻き付けるかのような痛みの幻覚を感じ、左手で押さえる素振りを見せる。
「大丈夫ですよ、私たちには無害です。このリボンは一種の口吐かせのようなものです。まあ、表通りに売っている代物ではないですが」
そう説明をし、再び女に質問をする。女は痛みから逃げるためか素直に答え始めた。
「私の名はリ――」
「名前はどうでもいいのです。あなたの依頼主と、襲った理由をお聞かせください」
「ッ!!」
女はルゥイに睨みつかせよう、顔を上げた瞬間、なにかおびえた表情を浮かべ怖がる。少し涙を浮かべる女にカムイは同情する気持ちに至るような気がした。
「……」
重く閉じた口を必死で開こうと、手で口の中へ突っ込み「依頼主は古い布切れを着た男…」と、そう口にした後、突然後ろへ倒れこんだ。
女は必死でもがくかのように暴れながら、喉元を両手で抑え込む。その様子からしてルゥイは察したようで、なにか魔法のようなものを唱え、女をゆっくりと眠らせた。ルゥイは女に縛った赤いリボンを取り外し、再び小さなカバンにしまい込むと、「センが危ない」と口走り、カムイたちを置いて突然駆けだした。
突然走り出したルゥイは、カムイたちを置いてどこかへと消えてしまった。残されたカムイとルル、女は、気絶してしまった女に訊きだす術はなく、バンたちの情報も聞きだせないものだと思っていた。
そこに「ようやく、魔女が去ったようだぜ」と、声がし、背後に目を向けるとそこには先ほどまで武器を向けていた男たちの姿がった。しかも丁寧に女を救い出し、武器を構えている状態だった。
「お前には、ここでつかまってもらうぜ」
「依頼の報酬だ」
男たちが何を言っているのかなんとなく理由が分かったような気がする。
ルゥイとは別でカムイたちを倒してどこの誰かから報酬を得ようとしているものだと。カムイはバンたちが殺した犯人でも男たちに少しながら恨みも心の底で抱いていた。
「どうした、怖気づいたか?」
男たちが問いかけるのも無視し、一人心の中で唱える。
(いま、ここでバンたちの想い、返せば… ルゥイはいない 知るものはここにいる者たちだけ ククには問題を起こさないように言われていた 知るものを最小限にすれば)
「おい、なにブツブツいっている」
男が声をかける。カムイが突然目開き、彼らに向かって断言する。
「誰一人返さないよ」
「なに!?」
「何様のつもりだ 小僧」
男たちの吠える姿もいまとなってこの役職を得た時点で周りが弱くとても雑魚魔物のような感じがしてならない。
「クク」
「はい」
「悪いけど、ルゥイを追ってくれ。俺は後で追うから」
「しかし…」
不安そうな顔をのぞかせる。
「大丈夫。問題は起こさないよ」
ククは何か不満そうになりながらもルゥイの後を追いかけ、空へ飛んでいった。残された3人の男とカムイ。ここにいる人間は男3人と気絶した女1人、カムイのみ。
他に見られることも知る人も限られる。
「ここで終えるのはお前一匹だよ」
「使う鍵は黒・刃・具の3本。黒く染まれよ、『黒剣ブラックソード』」
スラッと掲げるその刃は黒く染まる剣がカムイの手に何もなかったはずの場所から突然姿を現した。男たちも2度目だけあって大して驚かないが、その生み出す能力に少し違和感を抱きながら、武器を構える。
「黒い霧」
剣を斜め下に払うと同時に、黒い霧が周囲を覆いかぶさる。不気味な黒い霧が男たちを蔽いかぶさるとき、男たちは声を発するが声が出ないことに気づく。それに対して合図を送るも、すでに周囲は黒い霧に包まれ、あたりは何も見えない暗闇となっていた。
カムイだけ聞こえていた。男たちの声が。何をどうすればいいのか困惑する声と心臓の高鳴りに超音波のように音が聞こえていた。
「黒い斬撃」
そう口に唱えながら、剣を大きく縦に振り払う。すると、男たちの悲鳴も聞こえた。黒い斬撃自体を見ることはできなくても、鼓動により、男がどこにいてどこに移動したかを知ることができる。そのため、技を放った先で、男は見えない暗闇によってただ黙って斬られるしかない。もちろん、方角さえわかれば防ぐことだって容易いはずだ。だが、その方角さえ、男たちは知らないのである。
「最後に決めてあげるよ」
カムイはニヤっと笑みを浮かべ、静かに最後の男へゆっくりと近づく。
“黒い霧は暗闇にしてしまうだけでなく、音も消し去ってしまう能力がある。カムイが近づこうが、男はその姿を見ることも音を知ることもできない。たとえ、目と鼻の先にいても。
「黒死の心臓」
と、剣先で男の胸へ軽く触れる。男は嫌な予感を感じ、一歩下がり持っていた武器を振り回しながら叫ぶ。もちろん声も出ないのを知っていながらも。
(どこにいる みんなはどこだ!)
そう叫びながらあたりを見渡す。すると、突然胸に違和感を得る。男は胸に手を触れると、そこに本来あるはずの部分を失っていることに気が付き絶叫する。
その声をとても穏やかでハーモニーのように耳をしていたカムイはとても穏やかな気持ちに包まれていた。
男が倒れる音も聞き、“黒い霧”を解除する。
霧が晴れると同時に、姿を現したのは、両断された男の骸2体と、胸に黒い穴が開いてしまった男が倒れた骸だけが残されていた。
そして、女が目を覚ますと同時に、カムイは楽しそうに、女に止めを刺した。悲鳴が本来なら聞こえるはずの音はカムイによる力によってかき消され、誰も知らない間に4人の命が奪われた。
復讐を終え、カムイはいつもの平然に戻り、ルゥイとククの後を追った。
“サーチコープ”により、ククの居場所を知らせる魔法と“フェンシタ”による足が速くなる魔法で2人の後へ黙って追いかける。両方とも魔力範囲内に収まりきらず、途中途中で意識を失いかける。それでも、気力だけでククたちを探す。
間取り角を抜けると、そこにはルゥイとククの後姿を発見した。さらに“フェンシタ”で重複し、ルゥイの隣まで移動する。
「遅くなってすまない」
「よくついてこれましたね」
と、心配するルゥイにカムイは平謝りする。
突然駆けだした意味がよく理解できないまま、ルゥイに説明をしてくれるように頼むと、ルゥイは「手短に説明しましょう。センが襲われている可能性ありです」告げる。「心配だ」とルゥイと一緒にセンが入るであろうギルド会館へ向けて駆け出した。
ギルド会館にたどり着くと、そこには棒立ちしたセンの姿があった。
「セン!」
「マスター殿」
と、声を上げながら駆ける。その声に安心感を抱いたのかセンはルゥイに「大丈夫だったか」と、抱き付きたい気持ちとは裏腹のマスターらしい言葉で返した。
「こちらは大丈夫です」
「そうか、こちらも今終わったところだよ」
センとルゥイが軽く雑談する中、ククはカムイを呼び出し、先ほど何があったのかを尋ねていた。ククが立ち去り、一人残してきたことと争うことを禁じたはずである事態を再び招いたことに対してのことだった。ククから質問され、カムイは先ほどの出来事を説明する。もちろん真実でなくいくつか逸話を混ぜて口にし、4人を消し去ったことと能力を使ったことを秘密にして。
ルゥイとセンとの話を終えるなり、すぐにギルドへ戻って今後の予定の相談を立てるという話になった。




