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カムイたちがいる大陸とは別の大陸にある戦争で荒野となってしまった場所に一角の塔が無残に残されていた。その塔はかつて大陸で一番大きな城だったのだが、幾多の戦争のためか残されているのはかつて王女が君臨していた塔だけが残されていた。
この国の王女は花が好きであったようで塔の上には戦火も上がらない場所で花を植え豊かな平和なひとときを味わっていたという。その戦争も何百年以上続けるうち、その国も滅んでしまい、残された塔の上の花の楽園は〔楽園戦跡〕が保護する名目でそこに滞在するまで誰にも見られない楽園が存在していた。
昔のように荒れ果ててしまった大地と裏腹に塔の上には女王亡きあとも水は汚染せず、そこに住む小鳥や虫、植物たちは害することなく今でも生き続けていた。そこに目を付けたのが〔楽園戦跡〕のギルマスだった。数人と満たない人数を率いり、この地を守る名目でここをギルド拠点とした。
大地は汚染しきっており、1秒も息ができないという毒素に包まれてしまったこの大陸で塔の上で生活することで〔楽園戦跡〕は毒に悩むこともなく平穏なひとときを味わう。
あくまで拠点であり、寝泊りは各地の宿屋や家などで自由に過ごすようになっている。
戯れることなく小鳥たちに指で触れあいながら楽しむフォウ。彼女は生まれながら白銀の髪に黄金ともいえる瞳の色、氷の結晶型の瞳を持っていた。そのためか生まれたときから、両親から商人へ売り渡されギルマスに出会うまでまともな生活をしたことはなかった。
カビが生え腐りきった食事に、男たちが出す白い汁を飲み物代わりに飲まされ、黒く変色した服を着用されていた。フォウは会話することができず、文字を書くこともできなかった。
フォウの種族はリンと呼ばれる希少の種族である。リンは髪をマナの力を秘めているとされ、1本だけでも1日は活動し続けられるほどのマナを得ることができるとされ、道楽たちの中では2番に輝くほどの人気を施していた。金目になると睨んだ商人たちはフォウの髪が一定の量まで成長するのを待ち、その髪を抜いて売っていた。髪は伸びきるまで数十日ほどという酷なものを受けていた。
また、リン種族には涙も希少種とされていた。涙は治癒の効果があるとされていたからだ。フォウに何度も拷問し涙を無理やり吐き出されていた。
そんな生活を終わりがないものと感じていたある日、商人が当たり前のように手錠を外すと同時に、思い切って脱走した。商人のテントから抜け出し、噴水の影に隠れる。
冷たい水しぶきに耐え、逃げ場など知らない世界でフォウは噴水の水しぶきの中へ隠れるようにしながら怯えていた。そこに一人の青年が手を差し出し「大丈夫」と声をかけてくれた。
その手になんだか暖かい何かを感じ、その手に触れると同時に冷たい水しぶきから引き離すかのように引っ張り、青年の胸へ。青年の体に触れたとき、今まで感じたことがない暖かさを冷え切った心の底から温められる気持ちに至った。ギルマスと出会ったのが最初だった。
「これ、少ないけど」
と、差し出されたのは小さな四角形のお菓子だった。茶色に染まり所々に粉が舞う。その見たこともないものに触れながら、指でつまみあげ見つめる。
「それは食べ物だよ」
それと同じようなものを腰に下げていた袋から取り出し、自身の口の中へ入れる。その様子も見たフォウも同じように口の中に入れた。それは粉なのだが今まで味わったことがないほど深く甘く、ちょっぴりとしょっぱいものだった。味に感動したのか目からひとときの涙がこぼれた。
涙は虹色の光を発しながら落ちていく。地面に到着するころには何もなかったように消えてしまっていた。
「そんなにうれしかったのかい」
フォウにはその言葉の意味も捉えることはできないものの、青年の気持ちを少しだけ理解したかのようにうなずいた。
しばらくして共にいながら青年と軽く話しをした。とはいえども青年から一方的な会話だったが初めて人と人の交わる会話で楽しかった。夕日になるにつれ、青年はどこかへと立ち去ろうとする。フォウは青年の服にしがみつき、何か訴えるかのように必死で口をパクパクと広げる。
青年はフォウの頭にそっと手を置き、軽くなでる。
フォウは青年になでられたことに少し嬉しさを持つと同時に片言だが初めて言葉をこみ上げた。
「た……て」
“たて”その意味の意図はすぐに思いつくことはなかった。その疑問を訊こうと口を開掛けたとき、男女の声が同時にフォウの名前を呼びかけ、こちら側に駆け寄ってきた。どうやらフォウの両親らしい。
「なんではぐれたの!?」、「心配したんだぞ」と男女が話しかける。迷子だったんだなと思ったのだが、フォウの姿を見るなり、青年は嫌な気持ちと何か鋭い針のようなものが胸へ襲い掛かってきた。胸もとに手を置き、服を強くつかむ。フォウを見つめたまま表情を変えずに見送った後、痛みは消えた。
そして、フォウが発したあの言葉の意味と嫌な感じがしたものを胸に抱きながらフォウが去るまで見届けた。
フォウをひどく汚れた牢屋に足で蹴り入れると同時に男は痰を吐き捨てた。頬にかかる。
「お前は大事な商品なんだ。逃げ出してもらっては困るんだよ」
「ようやく見つけた。あのまま逃げていたら賞金首にするわけにはいかないからどうしたものかと思ったけど、案外簡単に見つかったよ」
鞭のようなものを取り出し、男はフォウに向かって叩き出す。
ビシっと音が牢屋中に鳴り響いた。何度も何度も。その音を繰り返し、フォウが動かなくなったころ、男は息を何度も繰り返し、汗に滲んだ手から鞭を女性に渡すなり、「もう逃げるなよ」と吐き捨て、牢屋の扉をけるかのようにしながら大きな音を立てて閉じた。男が去ると同時に、女はカギを閉め、フォウが逃げ出さないようにした。
フォウはもう声すらも体を動かすこともできないでいた。
足は血まみれになり、背中は真っ赤に染まり所々、傷ができており、そこから血が流れていた。痛みもつらさも何も感じることができないでいた。
「大丈夫か」
どこからか昼間にあった青年の声がした。目を開くとそこには2人の男女と青年の姿がそこにあった。牢屋から差し出された手を力が入らない細い手を指し伸ばす。細い手を引っ張る手とは別の手で青年がフォウの背中から抱き上げた。フォウは慢心な笑みを浮かべその青年を背中へそっと手を伸ばすなり、“ありがとう”という言葉を込めた。
それを見ていたソサイアとグリモア。2人は青年とフォウを見かねた後、「よかったな、ギルマス」とグリモアが告げ、「脱出の準備はいつでも大丈夫です」とソサイアがペンダントを片手で持ちながら告げた。
「ああ、脱出するぞ」
と、青年がそう告げたとき、フォウは今まで汚らしかった牢屋から綺麗なお花畑と小鳥、透明の水、青い空が広がる楽園の世界へ旅立った。
―数カ月後―
それが初めて青年〈ギルマス〉と出会った時だった。今ではギルマスの右腕としてサブマスとしてギルドを仕切る身となった。話すことも文字を書くことはできないでいたが、少しだけながらソサイアから教わる形で文字をかけるまで上達していた。
“ギルマスがんばって”と書いた紙にギルマスに見せる。豊かな表情でフォウの頭を撫でられ、嬉しそうに微笑む。
元ギルド〔カスまみれの喫茶〕に行く数分前のやり取りである。
白い靄が立ち込める中、姿を現したのはビイードとソサイアだった。楽しそうにはしゃぎながら飛び跳ねるビイートとは後目に、物事を静かに至ったように静かに歩み寄るソサイア。2人が帰還していたことに、ギルマスは何か成果があったものだとすぐに分かった。
「ギルマス! どうだった」
「こら」
「あ、痛!」
頭を殴られるビイード。殴られた箇所をさすりながらソサイアを睨みつける。気にもとめずソサイアはギルマスに報告を述べた。
「報告です。セン殿と知りえました。ギルマスの言う通り…やはり弱者でどこか抜けている箇所がありました」
「それでどうだ、お前なりの評価は…」
「はい、存じ上げますと。わたしよりもさらに下のハムベ様よりも弱いと感じました。セン殿は力といったものは何も得ていないというよりも、何も感じておらず自分の役職にでさえ、詳しいことを知っている節はございませんでした」
早口であったがソサイアなりにギルマスに伝える。それを不愉快な気持ちでソサイアを睨みつけるままのビイードが斜め横下から見つめていた。
「そうか、こちらもアヤにあったよ。力は上達していた。うれしいものだな…。センは相変わらずか…まあ、アイツはあいつだしな」
「ところで、ギルマスよぉ、今後の予定はどうするんだ? 別のギルドからの通告では、『ギルド式典』と『ギルドグランプリ』、『王討伐』の3つの指令が届いている」
黒髪の青年がギルマスに尋ねた。もちろん、そう尋ねられていたことを知っていたかのようにギルマスは「諸君に、指令を出す」と、外に出ている者を除いて、庭にいたメンバーたちを集結することもせずに、そのまま指令を下す。
「3タイトルのうち、どれに出場するかは諸君に任せる。だが、とても興味深いものは『ギルドグランプリ』だ。あいつも出るだろうかな」
“あいつ”と口にしたとき、誰なのかメンバー全員は一目で分かった。この大陸を支配し、英雄の子孫で大半のギルドを支配する王子“レーディ・A・フィアン”。毎年1位を飾るギルドの頂点のギルド。そのギルドマスターが出場し披露するグランプリ。
数年前から目をつけていたが“あいつ”と直々に合うこともなかった。今回は凄腕を集めたメンバーもいることからギルマスは待ち遠しかった。カスまみれ喫茶にいたころはトップにも入れなかったからだ。
ギルマスの久しぶりともいえる微笑ましい幸せ気分な表情を見て、メンバーたちは少しながら楽しげに笑みを浮かべ、今からでも待ち遠しい楽しみを抱き始める。
時間が遡る10分前、アヤの前に姿を現し無言で立ち去ったギルマスはアヤたちにこう告げて去っていた。
「ギルドグランプリで待つ」
と、この言葉に対してどのように行動をとるのかギルマスとしてもう一つのお楽しみである。それを今か今かと楽しんでいるようでつい口に出しまうほどだった。
「ギルマスがあんなに楽しそうにするなんて、今年のギルドグランプリは」
「さぞかし、面白味と愉快と爽快感が味わえるのだろうか」
「はたまた、新たな可能性を見出すことができるのか?」
メンバーたちは次から次へと口に出さずにまるで心が通じ合うかのように唱える。
〔楽園戦跡〕のメンバーはリーダー格を含めて38人いる。ギルマスとサブマスを除いても35人はいる。そこにリーダーは5人いて、部下たちをまとめている。
後衛支援役を務めるビイード。役職:闇魔召喚師。上級職に匹敵するもので、後衛からによる攻撃や効果には相手の前衛を崩す。性格からしてかなり冷酷な面もあるが、まだ子供である。
ソサリアもビイート同じ支援役を務める。役職:転移魔導士。1千万人に1人という確率の役職で、自分がおぼえた個所を正確に座標も記憶しておれば、そこに転移することができる魔導士。
救援役ロア。今回は不在。水晶玉に跨る少年。役職は浮遊魔導士。物を浮かせるといった能力を使用できる。仲間の救援には彼の役目を得る。
前衛攻撃役グリモア。大剣を2本同時に操ることができる筋力を図るギルドの戦力1位。オーガやゴーレムさえ一太刀で殲滅するという力技を披露する。
軍師役フェレート。今回は不在。役職は明かしていないため不明。ギルドに勝利をもたらすために力と知識を注ぐ。ギルドの中では最年長。
5人の配下にそれぞれ数人の強者を率いる。どれも名を知れ渡った者たちで構成されたギルドである。
ギルマスの配下にサブマスの2人もいる。1人は隠密行動のため不在で存在もギルマスだけが知る。もう1人はフォウ。フォウの治癒能力において使い方はかなり強者であることから前線に出ることはなく、常に塔を守る立場として居座っている。
過去の傷で足が動けなくなってしまった身体をギルマスは「拠点を守る王女になってくれ」と、フォウに頼み込んでいることから、フォウは自由が無くなってしまったけども、助けてもらった恩人のための力として役立てているのなら心から喜んでいた。




