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ルゥイとカムイと別れたセンはひとり棒立ちしていた。
初めての仲間がいないという寂しいものが彼の体に覆われていた。
「ルゥイよー、一人にしないでおくれ」
センがそう呟きながら、ギルドを続けますという申請を【ギルド会館】に一人で向かう。
足をふらつかせながら久しぶりに一人で行動するという恐怖に背中からおんぶされた感じで重いと思いながら歩いていたころ、ふと看板に目をむいた。
そこには手配書らしく。写真ではなくいまだ珍しい手書きで書かれていた。
手配書の数は3枚で、それぞれには賞金額と難易度である英字が書かれていた。
「この絵は…」
目を疑いながら、目蓋をこすり、もう一度目を見やる。
絵には3人の人物が書かれており、そのうち2人は見覚えがあった。
『半人獣:名前不明 性別:男
詳細:道楽闘技場からエルフを連れて脱走。道楽闘技場は1年の復興金額を見積もられた。この者を捕まえた者には80000BD、5000RD。難易度、A
彼の姿は不明だ。だが、情報をつかめただけでもわずかながら金を支払う。
提供者:道楽闘技場の管理人』
「この人物は…まさか、カムイなのか」
疑わずにはいられないものだった。もう一枚にも見たことがある人物が描かれていた。
『エルフ:ミルカ 性別:女
詳細:道楽闘技場から半人獣により誘拐される。この少女の腕は一流で元暗殺者でもある。この者を生きて捉えた者には多額の報酬金を支払う。750000BD、8000RD。難易度、B+
提供者:道楽会員R』
「この子は、まさか、こんなにも」
金額がカムイよりも上なのである。難易度は低いものの、金額的に多いのは生きて捉えることが負担をかけているのかもしれない。
最後の一枚を取り出す。カムイやミルカと違って難易度は低く、RD・BDが低い人物が載っていた。
『種族不明:召喚師 性別:不明
詳細:とある西国にて召喚獣による被害が発生。ギルドの手助けにより被害は最小限に抑えることに成功した者の、この召喚師の行方はいまだに掴み取れていない。捉えた者には賞金を出す。わずかな情報を求む。
4000BD、1500RD。難易度、C』
最後の一枚は巷で噂されている召喚師についての張り紙だった。どうやら、最近でも悪さしたようで懸賞金が、少しだけ額が上がっていた。
「この召喚師はまだ捕まっていないのか」
3枚とも四つに折りたたみ、胸ポケットの中にしまい込みそそくさとギルド会館へ向かった。不穏と不安な気持ちが乱れ混じりながら、仲間に加えた2人をかくまうか、ギルドを捨てて2人を差し出すか、センなりに迷いを浮かべた。
その迷いも会館の入り口を入ったあたりで迷いは消えた。そこにはギルド(喫茶店)で待機しているはずのアヤの姿がそこにあったからだ。棒立ちし、どこか天上へ顔を上げている彼女に、センは迷うことを一次放棄して、アヤに近づき肩に手を乗せた。
「どうしら、そんなところで立ち止っちゃって」
やさしく問いかけたのだが、アヤは微動だにせず、天井を見上げ続けている。
「上に何かがあるのか?」
センもアヤの視線先にあるであろうものを見上げる。
「!?」
突然、身体が硬直した。センにとって不覚をとったと動かない体を別に心の中で深く恥を味わった。センが見上げた天井には召喚獣であるメデューサがいたのである。髪の毛はすべて生きる蛇に覆われ、光る眼光に目を向けたモノには石化を与えるという上級召喚獣である。
パチパチと拍手の音がすぐそこから聞こえてきた。
「やあやあ、相変わらず感が鈍いね、センくん」
(この声は…ビイード!)
聞いたことがある声だった。名前もすぐに思い出し、その名を叫ぼうにも硬直していて、身体も口も動かない。とっさに視線をメデューサから少し逸らしたことで全身石化にならずに済んだのだが、硬直しているのか石化してしまっているのかイマイチ判断がつかないでいた。
「君は知っているよね」
センの耳のそばまで口を近づき、囁く形でセンの耳とでゆっくり言葉を注ぐ。
「君の所に指名手配中の2人をかくまっていることに…。ギルマスがさぁ、ぼくよりも強い召喚獣で稀に存在する特殊な能力持ちだと、道楽の連中たちから聞き出したんだよね」
ニヤケながら不気味微笑む素顔を態々センの前に突き出す。数秒の間をあけ、再びセンの耳元へ告げる。
「ギルマスがさぁ、君の喫茶店へ様子を見に行ったんだよね。今ならどうなるだろうなあと、楽しみでたまらないよ。ギルマスが2人を捉えたら、さぞ面白い玩具となっているだろうな」
愉快に笑いあげながら再び拍手する。何度も拍手しながら会館に音を響かせる。
歯を噛みしめながら『欲しがるほどの人材なのか? あの2人は…ならば簡単に渡す必要もないよな』口が動かないさなか、センは心のどこかで容易く渡さないという思いが募ってきた。
「愉快愉快! ああ、ギルマス。早く帰ってきてくれよ」
「ふざけるな!」
ようやく口に出せたとき、硬直していた効果が切れたころだった。口を吐いたとき言葉は一言だったが、その意味を深く混ぜるかのようにして次の言葉を吐いた。
「俺のギルドメンバーに手を出すな、ビイート!」
「はん、弱者だったセン君。ぼくに勝てると思うのかな?」
余裕を交わしながら両手を左右に広げる。天井に張り付いていたメデューサがどうなったかは不明だ。けれど、武器を抜くことは禁止されている。だから、気迫でビイートを押し出す勢いに乗り出す。
「こら」
そこに、一人のメイド姿をした赤紫色の2つ網をした女性がビイードの頭に拳で軽く殴った。
「…ソサイア、痛いだろう」頭を右手で殴られた場所をさするかのようにしながら文句を言った。「自業自得です。ビイード。ギルマスが戻ってこられましたので、私たちはこれで回避します」と、なにやら首に下げたペンダントを取り出し、見つめる。
「それじゃ、センお疲れさま」
「お疲れ様です。セン殿」
2人は手を左右に振り、白い光の靄のようなものに包まれ、消えていった。その靄が晴れたときには何事もなかったように会館は静まり帰った。それと同時に、天井を見つめていたアヤは石のように崩れ去った。
「!?」
崩れ去った後からして、ソサイアかビイートのいずれかの魔法で造られた石造だったようだ。これに気づかず、彼らの罠にはまったことに対して悔しいことと弱い自分を軽蔑する。
「ソサイア、ビイード…なんで……」
拳を強く握り、なにやらけじめを自分なりに消え去った2人の後もそこから動くことはしなかった。




