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森林都市フェルメールの大図書館でルゥイの説明をもとに、この世界の資料を読み漁った。大図書館とはいえ、森林を神とあだなすこの街では木を使った材質事態を否定しており、紙やトイレットペーパーといったものは存在せず、科学技術により生まれた〔記憶球体飴〕といったものを使って、内容を覚えるといったものだ。
この技術はギルド〔STO〕が開発したもので、記憶したいものだけ、大図書館にあるラベルからシールを取り出して、特殊な装置の中で飴となって生み出す。
その飴を口にすることでその飴にインプットした知識を自らの意識の中へ溶け込ませるといったものである。忘れるかどうかは本人次第で、本や他人の意見から記憶をとるよりは空腹も満たすとして日々、活躍している。
また、価格は安く、庶民にも手を出しやすいのも売り文句である。
いくつかの歴史による飴を買ってもらい、その飴を口にしながら凝縮した過去の時代の文化の記憶を一気に取り入れる。本来なら脳がショートしてしまう幅なのだが、不思議なことに特に痛みも深く考えることもなく、大事な部分だけ取り入れ、そのほかは塵となって消えていく。
脳の力なのか、この召喚による力なのか、必要としている部分だけ吸収し、いらない部分は消えていく。
「これが――今の文化の技術なのか!?」
「そうよ」
ルゥイにはすでに過去から来たことは話しておいた。特に隠すこともないことだからだ。未来からとか異世界から来たからだという話ではまた規模が違うため、別の問題となるのだが。
「この時代の文明の結晶のひとつ〔STO〕よ」
得意げに鼻を上げる。
驚くほど記憶といったものが自身へ風によって流れていき、身体を包む布団のようなものが感じられる。これが記憶を形にしたものなのだろうか、けれど――。
飴を舐め終えてからひとつずつなのだが、過去の邪神の動きの光景がかすかに見えていくものがあった。死に絶え行く人々の記憶なのだろうか、うっすらと映る人影に知っている面影が映るのだ。
それが、誰なのかまだ分からないのだが、邪神と呼ばれていた者の正体と討滅した勇者の正体をこの記憶を蝕む飴によって口から吸収していく。
「一つ一つ、ちがう味にしておいたから飽きないはずよ。もし、不満があれば違う味にするわ。それに、代金はこれから開催される【ギルド式典】で稼いでもらうから」
にんまりと笑顔を見せるルゥイに少し不気味に微笑んだ。
あの、寂れ使うこともないような喫茶店を開業して行うのか、という疑問を浮かびながら飴を一個ずつゆっくり味わっていく。メロン味、イチゴ味、アップル味と舐め終わってからかえることに味が変わる。味が変わるというよりも、違う飴玉をしゃぶっているといった感じなのだろうか。
飴玉をしゃぶりながら、天井へ目を向けていたとき、誰かがカムイの肩を叩いた。
「―—ちょっと、よろしいでしょうか」
「う~ん?」
不機嫌そうに声をだし、その人物へ目を合わせたあと、誰か女の人のような声に呼ばれたようだ。ルゥイはカムイの前からどこかへと立ち去る。そこに見知らぬ男女がカムイの周囲に囲い込むのではないか。どれも険しい表情で、睨んでくる。
考えていることはやはり『種族差別』によるものなのか、それとも――。
「おい、お前…卑劣な方法で資格を受けたらしいな」
身に覚えない話である。彼らから資格という話が出たのは、学術国丙で受けた試験のことなのだろうか。
「卑劣な方法で勝ち取り、まさかこんな貧相なギルドに入るとは、とんだおかしな奴だ」
失礼気回りない連中だ。不満そうに「別に」と返した。
すると、その中のメンバーの一人がカムイの襟をつかむなり、「お前、何様のつもりだよ」と口が悪く、どこぞの悪人面のようなセリフだった。
いや、顔が悪人面に見えた。それに対してすこし苦笑いしてしまった。
「何が、おかしい」
「いや、すまない、ちょっとね」
慌てて謝ったが、どうしても笑いが胸の底からこみ上げて笑いが止まらなかった。
本来なら、相手との立ち位置で笑うなど卑劣なことはしないのだが、こればかりか相手の人相で笑いがこみ上げてしまう。
「こいつ、やっぱり俺たちをバカにしているんすよ」
「ああ、そうだな俺たちが一発、教えてあげないとな。新米には新米によるお仕置きを」
そう言いつつ、襟元をつかまれたまま、図書館の外へ追い出された。つかんでいた手を思いっ切り地面へ叩き出すかのように強く地面へ投げ飛ばした。
カムイは地面へ落下するのを少し、手に力を喰わせて頭からの落下を防いだ。
「危ないな」
首を左右に振り、先ほどまで覚えた知識を一旦頭の隅でおき、意識を集中させる。目の前にいる男女はどちらも人間だった。他種族はいず、ただ人間だけの集まりだった。
人種差別とギルド加入に対しての何らかの逆恨みなのであろう。
「お前、オレッチたちがあいさつを下す。もし、お前があがいた結果、卑劣な行為を見せたとき、オレッチたちはギルドマスターに報告し、お前を処分してやる」
「処分して終わりだよ、卑怯な奴め」
「ふん、大方大金かなにかで学術国丙に『うん』とうなずけさせたと見える。人間様に半人獣が負けるはずないんだよ。だから、何か秘策を考えたんだろう」
「そうだそうだ! 卑怯な半人獣!!」
「卑怯、卑怯、卑怯者!」
人間の男女がこだまするかのように大声をあげ繰り返す。人種差別はけっこう、心に痛みを負うものだな。
「なんだ、卑怯者って…」
「まさか、アイツ…」
周りからのささやき声が聞こえる。不思議と、大声でわめいている連中とは違う疑う声が聞こえてくる。もしかして、これが半人獣の聴覚の力なのだろうか。いや、いまはそんなことに関して考えている場合ではない。卑怯というのであれば、それを覆せばいい。
(だが、俺の力は着用することで力を発揮するもの。こんな人が多い場所でそれを見せてしまえば、今後の活動が危うくなる。けど――)
「あーれ? 黙り込んじゃってどうしたの?」
「こいつ、ビビっちまったんじゃねぇか!?」
「そうかそうか、俺らは怖いもんな、いまここで謝罪し、学術国丙に言って『嘘つきでした、捕まえてください』などと言ったら許してやるよ」
彼らの笑い声が再び鳴り響く。鳴りやまない罵声。これがいまの時代の象徴なのか、こんなにも差別する者たちが多いのか、ならば差別する事態を否定しなくてはならない。
そんな折だった、笑い飛ばしていたうちのメンバーの一人がこうささやいた。
「お前の仲間だっけか? あの子は眠ってもらったよ。あんたが大人しく従えば安全に返してあげるよ。どうする」
眠ってもらった? センかルゥイのいずれかだ。ルゥイはああ見えても腕はすごい。センですらも太刀打ちできない強さを持っていた。センも弱くはないはずだ。ギルドマスターを名乗っているのだから。いずれにせよ、ここで謝ったら何とかなるのだろうか。
少し諦めつつ、謝罪をするために膝を地面に付き、正座するなり頭を下げる時だった。
「そういえば、あのバンという男もすごかったよね」
(!?)
「ああ、そういえば居たな女も含めて半殺しにしちゃったけど、生きているかな~」
その言葉を聞いて、即座に頭を下げるのをやめて立ち上がる。
「おいおい、どうしたんだ?」
男の言葉も無視して、立ち上がるなり彼らを睨んだ。
その睨みは亡くなった彼ら(バンたち)の恨みと悔しさを目による怒りでぶつける形とした。その効果はどこか薄く感じていたものの、彼らはその眼光にすこし引いた。
「こいつ…俺様に牙をむくとは上等だ! おい、お前たち獲物を持て。コイツを切り刻めば終わりだ」
「ッ…そう、そうだな。ああ、やってやるよ!」
人間は武器を取りだし、カムイに向かって少しずつ近づく。カムイはそのまま動かず、睨みつかせながら召喚獣の呪文を口にする。
「使う鍵は3本。」
ゆっくりと宣言する。奴らに鋭い眼を光らせながら奴らの行動を少しでも阻害させる。半人獣は人獣と人間とのハーフであり、人獣の生命力も引き継いでいる。半人獣であれでも、その力はふんだんに見せることができる。
(見せるのは一部だけ。そうだ、一部だけだ。彼らの気持ちをこいつらに見せればいい、それだけだ)
心の中で唱える。全部見せる必要はない、一部だけ見せればそれでいいのだから。
「黒、刃、具の3本」
どこから取り出したのか、カムイの手にはそれぞれ違う文字が刻まれたカギを握っていた。
「な…なんだ」
「おい、コイツ…魔物なんじゃ…」
「そんなはずはない、この世界に魔物なんていないはずだ」
人間たちがそう急くのもおかしくはない。魔物のようなチートのようなそんな力だ。どんな形に生まれ変わっても、魔物と言いかえてもおかしい部分はないのだから。
「姿を見せよ、『黒剣ブラックソード』」
カギを手にしていたはずのカギがいつの間にか剣へと姿を変え、人間たちがおびえるなか見せたのだ。黒くどこかまでも黒一色に塗りつぶされたその剣は真っ黒な闇と言い直してもよい代物だった。
「お前…そんないいものを持っているとは言い度胸だな」
言いがかりをつけてきたメンバーのうち1人がそう口にした。この剣を見てなお、そんな景気づけたことを言えるのだろうか。理解できないものだ。そう感じながら彼らに剣をむく。
そんな時だった。
「だめです! ここで戦闘区域にしては!」
止めに入った者は頭部に小さな花を咲かせ、二つ羽をもつ妖精だった。身長は小学生の低学年ぐらいの大きさだろうか一回り小さく見えた。桃色の布製の服を着衣し、人間の前に飛び立った。強い口調で彼女は彼らをいいのける。
「ここは神聖な大樹様の前です。ここで戦闘するのであれば、妖精族はあなたたちを敵に回します!」
妖精はグッと手を強く握り、小さいながらも彼らの動きを止めた。
「ッチ、命拾いしたな半人獣」
人間は武器を仕舞い込み、図書室の中へは移動せず、妖精が飛び込んだ方角とは別方向へ続く道へ逃げるように去っていった。
それを見構えた後、妖精は振り返り「すみません、その物騒な武器を締まっていただけますか?」と、少女が問うてきたので「ああ、すまない」謝罪してから武器をカギへと姿を変え、光の粒子となって消え去った。その様子を見ていた、妖精は突然こんなことを言った。
「すみません。本来なら争いごとになる前に止めるべきでしたが、我々の部族が現在、人間との領域争いで揉めておりまして、止めるのを遅くなってしまいました」
妖精はペコペコと何度も頭を下げるのを繰り返す。カムイは頭を下げるのを抑え、「別にいいよ」と優しく告げた。あの人間たちがバンたちを殺した犯人だと分かったこともあって。
「そうですか。けれども、私はガイドでありながらも何もしていませんでした。部族との抗争とはいえ、他種族にも迷惑をかけるなんて、失礼気回りないです。ですから――」
妖精が言いかけた。少し口をもごもごとしながら思い切ってなのか、目をつぶり「私をあなたの下部にしてください!」と、まさかの発言をしてきた。
(えー…なに、この展開。おかしくない)
妖精もなんだか、自分が思っていたことと違うことを言ったらしく、顔を真っ赤にする。
「訂正です。あなたがこの都市に在宅中は、私はガイドとしてあなたのそばにいますという意味です」
「ああ、そうなの。よろしくね」
ホッとしたようなそうでないような複雑な気持ちになりながら、妖精をとりあえず仲間に加わった。
「私の名前はククです。よろしくお願いしますカムイ様」
そう、妖精が顔を真っ赤にしたままお辞儀をした。
名前をなぜ知っているのか疑問だったが、先ほどの力を使ったためか、少ししんどく重く感じていた。
図書館の扉から開いた。そこにはとても待ちくたびれた様子でルゥイが立っていた。
「おそーい」
ルゥイの素振りからして一人の女の襟元をつかみながら立っていたことから、捕まったというのはルゥイだったのだろう。けど、捕まったのは彼らの仲間だったようだ。これは傑作である。
「なに、笑ってんの」
「いえ、何でもございません」
謝るも、笑いが生じ、数秒間の間は止めることができなかった。




