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聖域ともいわれる大樹の周りには大樹と比べにならないほどの大きさの木がいくつかあり、その木の下には販売店や倉庫、宿といった日常的なスペースが執り行われている穴が人為的なものであけられている。この作業に対して、当初はこの地に住む民たちが怒りを表し、帝都やギルドに対して戦争を仕掛けたことがあるとされている。
帝都は科学を持ち入り、民たちは魔法で抵抗したものの、約10日という短い時間で戦争は終了した。
その戦争を終わらせたのはギルドの介入に寄るものだった。
当初は土地開発のために動いていた帝都と様々な拠点を置き、専用役職を中心においていたギルド連合が存在していた。帝都はこの地に来て、命の泉の価値を知り、この森全般を奪い去ろうとしたことから戦争が起きた。
そこにギルドが帝都のやり方に反対した者がいて、民に味方をとった。しかし、帝都を敵に回したところでギルドにとっては有利な部分はない。そこでギルド連合はマスター同士で話しあい、和解する作戦に出た。
結果的には、帝都の土地開発を中止する代わりに、帝都の一部である科学技術を応用して民に力を与え、民は帝都の繁栄のために生命の水とも呼ばれる泉の水を年に1度という回数で50ミリリットル程度を手渡すという約束をした。
しかし、この土地の戦争はココで一旦終焉を迎えたが、この水の価値観に気づいた欲深い者たちがひそかに集い、この水を狙って盗むようになったそうだ。当初は民だけで管理していたのだが、魔法防衛や人員不足のため、守り切れないことも多く、帝都に恩を渡したくないという反対意見も多かった。
そこでギルド連合が立ち上がり、クエストとして報酬を受け取る代わりにギルドから人員を派遣して、盗む人を捉えるという解決に向かった。
そして、今に至る。
ギルドの発展や科学の存在、魔法の劣化がこの世界にある。カムイは過去の人物であり、魔法の恩恵も多いが発動できる精神力が足りないのが残念な部分である。
だけど、このカギさえあれば魔法はカギに眠る召喚獣の力を借りればいくらでも使うことができる。周りから言えば『チート』なわけだが、これは友との誓もあって手に入れた力のようなものである。
カムイがギルド部員として正式に認められてから2日しかたっていないが、こうしてギルドに条件付きで加えてもらったのもあり、この世界においてのことも多く学ぶことができる。
「これを持っていてください」
ルゥイから分厚い本を手渡された。その本のタイトルは『歴史・文化・経験』という風に書かれていた。カムイでも読めるということは、この本は古代語で書かれているということである。
「この本は、今の言葉よりもさらに昔の言語を翻訳する前の本です。カムイさんが使う文字ですが、それは200年前に文字の改革によって変わりました。その本でなら、この世界についてのことや文化などを知ることができるはずです。なぜ、そのようなことを知っているのかというとあの2人の記憶を呼んだからです」
洗脳魔法は魔法なのだがそれこそチートのような気がしてならない。
「それでは、セン殿はこれから『正式にギルドをこれからも続けることができる』という証をもらってくるので、私たちはこの都市について少し知りましょうか」
「え…俺一人でいくの?」
「ええ、そうですよ。一人じゃ怖いの?」
「あ…えっと…その……大丈夫です」
「では、しっかり頼みましたよ」
「ええ…はい」
一人佇むセンを後に、ルゥイに手を引っ張られる形でカムイは彼女の後をただついていくことしかできなかった。それは、いつでも放せるほど小さい手なのだが、人に引っ張られるという感覚は久しぶりに味わったような気がしてならなかった。彼女が手を放すまでは、この手をつないでおこうと心なりにそう問いかけた。
森林都市フェルメールと呼ばれるこの大地は、木々の複数の根によって張り巡らされた道が自然の力によって何十年何百年と掛けて道が創られた。人工的なようなもので造られたのではなく自然そのものの力によって命の水を多く吸い取るつもりで木々が根を編み込み、人が通れるほどの道となって地上を橋のような技術を生み出した。この森そのものは人の手によってつくられたのではなく、人が後から介入して触れてはいけないものだと改めて触れた。
この地は生命そのものの力で造られている。
それは誰にも汚されたくはないであろうと思いを込めたような固い根っこが雨にも人が踏む足にも、武器による鋭い牙にさえ耐えうるほど強化した木々は今でも、この地を守っているのであろうか。
当時の民たちはこの森を帝都の介入に寄って汚されたくはなかったのだろう。
(俺がいた時代には、この森は存在していなかった――おそらく、邪神を打ち倒された後、瘴気が晴れたことで今まで汚染されていた土地が新たな力に目覚めてこのような綺麗な場所が生まれたのかもしれない)
右手を口元に当てそう思った。
持っていた本はすでに読み終えたカムイは、邪神が倒された日からこの時代にかけてこの一冊の本によって書き出された魔法のような化学のようなよくわからない本により、知ることができた。
この世界はエーミやミルカが言う通り、表向きには綺麗であっても裏向きには酷く汚れているものだとそう見えた。ミルカや俺のような暗い場所に閉ざされ、自由を奪われ、道楽たちの価値観として生かされている人も世界中にいる。バイやエーミのようにギルド申請することもなくその場で見世物のように扱われ散っていくそんな世界が今存在している。
それに、俺から奪ったあの力で邪神を打ち倒した謎の団体については、この本には載っていなかったが、邪神を討ち倒した人の名前と役職、邪神を倒すまでの記録のことはかかれていた。
名はニーア・A・フィアン。役職は吸収成長。他人の力を吸収し、自身の成長の糧として得る能力。彼は、この能力を知った時から『邪神を討つのは俺しかない』と使命を感じて邪神を討ち向かう。最初の1年では仲間を失い、多くの街も滅んだ結果となった。
その後、彼は自分の言うことを聞かない仲間を嫌うようになり、挙句の果ては最強の力を得るためにいくつかの邪神を討つために修行していた者たちを襲っては力を奪っていた。
当時、『邪神を打ち倒した勇者は世界でも認められる姫と結婚(裏向きには政略結婚)することを約束』されていた。相手の力を奪うその男の噂を聞いた姫はその男が邪神に敗れることを祈ったと。ところが、数年もしないうちに邪神はあっけにとられる期間で倒されてしまい、姫の願いは届かないまま王から結婚相手としてめでたく結婚した。
その後、邪神を打ち倒したことで平和を誰も喜びにあふれていたとき、その男は最悪な革命を世間に宣言した。
『俺は、邪神を討つのも長い時間を果たした。それはすべて人獣や妖精、亜人族による被害だった。俺はこの権力を使って、この力を使ってでも、人間以外の種族から人権を剥奪する』
もちろん、この意見に反対するものは大陸すべてにわたって王となった勇者以外がすべて的にわたり、勇者を倒すという戦争に発展した。
だが、邪神を打ち倒し、力を奪う男のことを世間に知らされていなかったこともあり、70日という期間以内に、勇者は敵対していた人たちをひれ伏せた。
この時から人々は彼のことを口々にこう呼ぶようになった。
人間からは『救世主』、『王の中の王』、『自由主義』など
他の種族からは『悪魔』、『邪神降臨』、『裏切り者』など
と、さまざまなところで彼に罵声や非難、歓喜などの声が上がった。
今でもこの一族は繁栄している。役職は名を変え『主人公補正』か『魔王/邪神補正』として、この世界の神として成り立っている。
本を閉じ、心の中でこぼすはずが「この男が、俺から力を奪った男」と、発言してしまった。
だけど、周囲に人はいず、その言葉を聞く者はいなかったことに少し安堵した。
だが、この男はすでに亡くなっている人物だ。子孫が生きているとはいえ、彼に被はない。だけど、この俺から力を奪い、このわけもわからない世界に飛ばされ、魔力も技術も源となる体力・精神力を奪われた今、俺は友人から譲り受けたカギしかない。
たとえ、仮邪神を倒したとして、この世界は平和になるのだろうか?
否。どのみち解決はしない。解決する方法とすれば、過去に戻ってニーアを倒すしかない。
でも、ニーアを倒すとはいえ、過去に戻る手段はない。この世界が科学や魔法が両方存在しているとはいえ、時代を飛ぶような技術が開発されているという情報はこの本には載っていなかった。
「もう少し、この世界について知ることが多そうだ」
一人でつぶやく。
ルゥイが連れて行った先にある大図書館とも呼ばれる大樹の中に組み込まれた本の図書。この場所でカムイ自身が空白となっていた時代と時間、文化をルゥイの元で情報を知ることにした。
厄介な「補正」能力を敵にして。
◆
カムイたちが【都市】に向かって数分後、【カスまみれの喫茶】にて、一人の男が来客下。
「よう、元気か?」
みずぼらしい格好でその男の前には、腰に深く座り込んだいけ好かない顔をしたアヤが丁寧に出迎えてくれた。
「“元気か?”ですか…あんたが去ったあたりからこのギルドはすっかり落ち込んでしまったよ。元ギルドマスターさんよぅ」
アヤは吐きながらその男に向かって蹴る。男は避けることもせず、足にもろけ破られ、バランスが崩れ床に転びこむ。
「…イテて、痛いな。アヤさんは相変わらずだね。でも、そんな姿を見れてうれしいよ」
「抜かすな! あんたが抜けた後、このギルドはどうなったと思う? かつては16人ぐらいいたメンバーが月々に去っていき、最終的には3人まで減った」
「原因は?」
「原因はって、あんただよ、あんたについていきたいと思った集団だ。あんたが去ってみんなも去った。それだけだ」
強い口調で元マスターに攻める。
元マスターは落ち着いた状態で、そのまま言葉を返した。
「ならば、メンバーが去ったのは私のせいではないね」
開け治った感じでついた。
「なに!?」
「メンバーが去ったのはマスターを渡したセン君が何もしなかったということだ。マスターの素質はないセンを頼んだんだけど、まさかここまで落ちこぼれるとは思いもしなかったね」
「ふざけているのか!?」
「ふざけてはいない。センが嫌なら他の人に頼めばいいはずだ。だけど、それをしなかったということはそれほどの価値しかなかったというわけだ」
「切り捨てたあんたがそれを言うか!」
「なら、なぜ君は抜けない。切り捨てたと思うなら去ればいい」
「っく…それは」
「ふん、去れないよね。だって、君の契約はこの“ギルドを守る式神”なのだからね」
いわれたくない言葉を聞いてしまった。
そう、アヤは元マスターの式神でマスターとなったセンを見守り、元マスターに報告する役目を負った式神なのだから。だから、このギルドからも元マスターのもとに帰ることもできなかった。ましては、逆らうこともできない。
「あれ、図星だったか。まあ、いいや。わたし…いや、今は俺だな。俺は新たなギルドを作った。【楽園戦跡】だ。ギルド復興後、ギルド戦で対戦するかもな」
「なぜ、ギルドが復興すると分からる」
「メンバーをさらに3人足したんだろう。なら、あとは2人足せばなる。それだけさ。」
そういうなり、元マスターの足元から白い霧が立ち込める。部屋中に覆う前にアヤは元マスターに逃がさないように駆け出すも、霧に覆われマスターの影もなくなった部屋にはアヤ以外の気配はなかった。




