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西の方角にある三大都市の中にでも匹敵する都市がある。三大都市の中でも代表的にも挙げられる神秘の森と神が住む泉、農作物が毎月のように採れるとされる幻想の国の代表のひとつ【森林都市フェルメール】。
この都市には太古、魔物と人間との戦の間で流された血により木々が育ち、血や肉から得た養分で成長した木々たちがここに訪れた人々に安楽の果実を落とすようにして人が集うようになったともいわれる伝説がある。
「この都市には毎年、種を運ぶ風が舞い上がり、それを祝う祭り〔豊祝〕というものがある。その日にだけ採れたての手の果実や材料などが豊富に漏れ出し、あたり一面に店が一斉に開花する。その店に売られているものがどれでも2割ほど安く販売される」
センは生きがいいように紹介した。この都市について。ルゥイも負けじと言わんばかりにこの都市についての伝説や魔法・科学といったものを教えてくれた。
「この都市には科学といったものはあまり存在せず、昔と変わらず魔法といったものを使って環境を安定しています」
「そのため、魔法狩が起きたのもこの地域では多いとも噂だぜ」
乗っかる形でセンが割り出した。
「この都市では毎年、魔法を批判する者たちによって無差別に殺害する事件も発生しています」
綺麗なだけ、その裏には酷い悲劇もあるものか。
「それでね、今回のギルドの初仕事としまして、カムイさん用にぼくたちからプレゼントがあるのですよ」
「プレゼント?」
「おおう! オレッちのおごりだ」
何のおごりなのかわからないけれど、これがギルドというものなのか、少々不安であった。
この都市では、人間だけでなく爬虫類や昆虫、人獣、鳥獣といった様々な種族が混ざるようにして歩いている。この都市では差別といった概念はないようにも見受けられる。
「カムイさん。あなたの役職を見た限りではかなりのレア中のレアです。稀ともいえるし、神ともいえる確率のものだとぼくは思います」
左隣にいたルゥイが囁く形でいった。この世界において確認されている役職は約700万ともいわれている。ルゥイのように○魔導士と呼ばれているだけでも90万はあるとされているからだ。
この役職は【学術国丙】によって決められるもの。後で変更するときには、もう一度、試験を受ければ再度確認と一緒に名前も変更ができる。
役職はすべてその人の人生の一部として渡される称号のようなものらしい。
「ところで、カムイよう」
センが突然、声をかけてきた。
「ん?」
「ルゥイの通り、その役職は貴重だ。だけど、〔魔道召着衣師〕という名前だったら〔召喚師〕や〔装着師〕とどう違うんだ? どれも一緒のような気がするんだが」
隣で聞いていたルゥイがため息を吐き、口答えをする。
「あなたはバカですか?」
「はあぁ?」
「どれも違うじゃないですか。いいですか、〔召喚師〕とは魔道によるこの世界とは別の世界へとつなげた道によって開けられた場所から魔獣や妖精、精霊といったものを呼び出すのが〔召喚師〕です」
〔召喚師〕は、ルゥイが言ったように、この世界とは違う世界から呼んだ者たちのことを召喚獣と呼ぶ。また、その召喚獣は姿や系統によって呼び方も変わってくる。
例えば、カムイが使う〔ガゼ〕であれば、姿からして鷲のような鷹のような姿をした鳥獣だ。この場合は獣として判定され、召喚獣と呼ぶ。
今日手に入れた召喚獣〔絶剣〕は、武器の姿をした召喚系統。武器や防具といった姿で現れた召喚獣は獣とは呼ばず、召喚具と呼ばれる。
他にもよび方が異なる。キノコやイーターといった人型でも獣でもない系統のことを召喚魔と呼ぶ。これは魔獣や魔道から魔という言葉をとってつけられた名だ。
人型でなおかつ人語を語れるものに対しては召喚師と呼ぶ。これは召喚した者にも召喚師と呼ばれるが特に大差がないため、両方で呼ばれる。また、召喚で呼び出された召喚師は、友に生活ができ仕事も活動することもできるとされ、人権が与えられている。
これは邪神が打倒された後に創られた法律のひとつでもある。
「―――以上です。私が説明する範囲はここまでですよ。ったく…センもマスターなのですから、こういうのは知っておいてくださいよ」
ため息を吐きながらあきれ顔をする。
少し戸惑うのだが、センはとりあえず笑った。笑うことでごまかそうとしているのは見え見えだった。
【森林都市フェルメール】は中央に神と同等の力を持つとされる大樹があり、その周囲には5つの泉がある。その泉はどこから湧き出ているのかはわかっていないが、この水は【命の水】とも言われており、〔ポーション〕や〔エーテル〕など作られる原材料となる。
また、高度な【命の水】を使ったものを〔エリクサ〕とも呼んだ。
この都市では人間という比率は少なく、すれ違う人々も皆人獣やエルフ、ドワーフ、ウルフ族といった様々な種族と出会った。彼らは陽気な部分があり、すれ違うたびにあいさつをしてきた。
もちろん、あいさつは返すものであり、こちら側も丁寧にあいさつをした。
「ところで…」
「なんだい」
センが答えた。
「セン! ギルド戦とは、いったいどうなんだ?」
相手はギルドマスターのはずなのに、きつい言葉で上司に関係ない口調で吐く。
「ッ…上司となるものに対してギルドマスターと呼べ。それが礼儀であろう」
当然のはずだ。上司に対してまたは新人で入ったばかりの者がいきなり、呼び捨てで名前を呼ぶなど失礼気回りがない。
「…これは、失礼しました。ギルドマスター殿」
少し間をあけて訂正した。カムイなりに少し強気で言ったことに対して反省を促した。カムイは上司となるものにつかえたことはこの時代に飛ばれる前、仲間を失う前まで上の人に対して物事を言うことはなかった。だけど、ミスを犯したことと上司のミスもあって、たとえ上司であろうと呼び捨てで無様に吐きかけることもするようになっていたことに少し恥を負う。
「まあ、よい。資料を見ていないのか!?」
「はい…資料といったものを受け取っていなかったもので、なんとも――」
「当然です。何しろ、セン殿はなにも渡してはいないじゃないですか。それとも無知なだけなのでしょうか」
「な!? 新人には新人に…だな」
「それは、新人に失礼な行為ですよセン殿。あなたがマスターとは私は恥をしてしまいます。なので、カムイ殿――」
間をあけ「マスター殿とは言わず、センと呼び捨てで構わない。」と、上司であるセンを無視して呼び捨てで言うようにカムイに告げた。
「え…えっと」
少し戸惑うも、「はい、セン殿」とカムイは言い直した。「では、私の名も呼び捨てで構わない。なぜなら、メンバーは弱小ギルドだ。呼び捨てという失礼な行為ではない。無知であるセンがマスターという名でよぶ必要もないのだから」
そこまで言うと、センは「訂正し…ろ…」と、言いかけた途中でやめてしまった。ルゥイがセンに向かって何かをつぶやいているのが分かるがそれは単語なのか呪文なのかはっきりと言葉を理解することはできなかった。
「さて、バカの相手で遠回しになりましたが、質問は私が受け取ります。ギルド戦とは、すなわちギルドとギルドの戦いのこと。ギルドとの戦い方に関しては4つの方法があり、ギルドから限られた3人のメンバーどうして戦う〔TP〕。これはある程度の実力を持った者か異名を持った者たち同士で戦う試練」
TPつまり、3人編成したパーティで異名同士の戦い。ギルドには様々な人が集まり、また数々で得た称号が皆に広まり、異名といった痕跡で残される。それを得た実力者同士がギルドを賭けて戦う試合といったもの。
「2つ目は、ギルド全員で戦う試合です。こちらは主に年に1度のイベントで活躍します。魔法と科学の組み合わせで生み出した結界を人員によって張られます。結界を破られたものはその場で終了し、転送されます。ギルド同士の熱い戦いとなるため、毎年になると名があるギルドが勝ち残り、その名を広く伝わります。ぼくたちは毎年ギルド人数不足と戦力のなさからして、予選にでさえ、行ったことはありません」
「なんか…すまいない」
虚ろにセンは顔を両手で隠す。
「別に、セン殿の責任ではないですよ」
センに支えの言葉を述べた。
「続きまして、3つ目です。これはギルドレイドと呼ばれまして、総勢で8名のメンバーで構成された人員でレイドボスと名がついたボスを狩る試合です。これはルールの下でボスをどれくらい倒したかを競います。ルールは毎回異なるので、何とも言えません。やはり、実力者はそれなりの経験を積んでいるためか、数分足らずで勝利しています。最高記録は〔グランダム王冠〕ギルドの18秒ですね」
18秒。結構早い時間で討滅したというわけか。かなり強者ギルドのようだ。
ギルドレイドはカムイがいた時代から耳にしていたもので、ある程度は知っていた。ただ、メンバー構成人数が違うなとは思った。
カムイが時代にはギルド人員は最低で6人。最大で12人と多くも少なくもあった。これは、各ギルドの人数もあるが、なによりも戦力差や攻略差によって毎回変わっていたからだ。
レイドボスは場所によって強くなったりもするし弱くなったりもする。それはこちら側も同じ、環境に応じて性能や状態は変わってくる。これもギルドの対策次第で変わってくるもの。
「新人のカムイくんに問題です。」
「また、唐突に…」
「我らのギルドは順位何位だと思うかね」
センが楽しそうに問題っぽく出してきた。
「さ~、最下位ですかね?」
外れだと思いながらそう答えた。その回答を聞いたセンはガックシと肩を下げ、通行上にあった大きな株のそばまで近づき、愕然と腰を下げ顔も下げた。
「あたりだよ、少年くん」
左腕を上げ、両目を覆うようにして隠す。涙声なセンはそうとうショックだったようで、慌ててルゥイが駆け付け、センを慰めていた。だてにギルド名が【カスまみれの喫茶】と名乗っているだけのことはあるとカムイなりに心の底で思った。
「ようよう、お前ら何してんだ!」
センが落ち込む中、そこに見知らぬ3人の連れ添う男女が歩いてきた。
「ホムラ…か」
「面倒なときに嫌な奴に遭いましたね」
「おいおい、久しぶりの再会に失礼じゃないか? 弱小ギルドの諸君」
煽ってくる男、ガサツで元気が取り柄といえるような感じだ。いけすかなヤツだと直感した。
「それは失礼ですよホムラ。彼らだって頑張っている方ですよ。それよりも、今日ギルド解散だっていう話だし」
オネエのような口調でホムラに注意を促しながらもギルドに対していやらしいように見つめるフードマントを着用した魔導士のような風格の男が告げた。
「ほうそうか、とうとうギルド解散か…」
「かわいそうにねえ、とうとう人員には巡りえなかったか」
カムイと同じような種族の女、纏わりついたような毛皮の服を着、少し半裸な戦士職の女がこちらに向かって煽ってきた。
「面倒くさい」
ルゥイがそう小さく呟いた。
「はて、君はそこのギルドに勧誘されたのかな?」
カムイに視線を向けてそういった。
「ああ、そうだ」
笑い声がした。笑うのをこらえているようでオネエのような魔導士が言った。
「そうか。なるほどねえ、ギルド解散はあきらめたということか。ねえ、あたな(カムイ)、私たちのギルドに入らない? そこにいる弱小ギルドよりも。あたいらの方がふさわしいと思うわ」
「そう?」
「そうよ、きっとあなたも気に入るわ。なんだって、昨年のギルド戦では309位だったのよ」
「……」
女とホムラが黙った。
「あれ? あたし何か失礼なことを言った?」
「―—まあ、どうでもいいや。もし、興味があったら〔レギレリ〕においでね」
と、ルゥイたちを侮辱な視線を扇ぎ、カムイを勧誘する目的もあり、ギルドの座標を示した磁石をカムイの手にやさしく載せていった。
彼らは去っていった。センたちが来た方向へ。どうやらやることを終わらせて帰るようだった。
カムイの心の中で何かがゆがむ。
(なんだ、この感情は)
係わりたくないという嫌な気持ちをこみ上げるなか、彼らを無視するわけにも否かいという建前の気持ちが両者を混ぜ合わされる。センは明らかに、この人達のような無駄なテンションを上げるような人たちは苦手としていた。それは明らかに、そういった人たちと馴染むという心がけは苦手と等しいものだと。
カムイからすれば過去の自分をセンの今の状態と似ているような気がした。でも、それはセン自身が本当にそのような状況なのかはわからない。人の気持ちになるという考え方はイメージや感覚があっても、相手のことまで自分で感じたような感覚とはいえない。
辛さも悲しみも喜びも叫びも、人によって感じ方は違うものだ。過去の俺に似ていると錯覚したかもしれない。そう思うことにしよう。今は今でしかない。
彼らを黙って睨むだけしかできなかった。ルゥイは腰につけていた小さなカバンから平然と箱(?)を取り出し、振れる。その箱のようなものに指を何度も押していた不可不思議な少女と当初は思っていた。
センの話ではゲームという道楽のようなものらしい。だが、そのゲームとやらを俺に見せてくれたことは1度きりだ。あの時は席の関係上で見てしまったが、あの時以降はルゥイがゲームをしている様子を見ていない。
この世界に来てから、科学と魔法がどのように存在して、発展しているのかもいまだ不明確だ。そもそも魔法文明や科学文明を発展した街や模型など見ていないからが大きな理由かもしれない。
彼らが見えなくなったころ合いで「さあ、行きましょうか」と、優しい目に戻ったルゥイ。泣きべそをかきながらセンがルゥイの後を追うように歩めると同時にカムイも歩んだ。そのとき、背後から彼らが愚痴をこぼしていたのをかすかに聞こえた。それは――
『凍結の魔女め』
その意味を理解したとき、俺らは第2段階の問題に直面する時だった。




