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アヤが剣を振り下ろす瞬間、カムイは手にしていた、折れてしまった残りの部分の剣ですかさずアヤの剣を弾く。運だったかもしれない、剣を弾いた後の驚愕のアヤの表情に俺は見ることができたのだから。
アヤは吹き飛ばされた剣を取り戻そうと、高くジャンプし、宙に舞う剣を左手で掴み取る。その隙を狙って、カムイは役職の力を開放した。
「使う鍵は4本! まず1本目、『縁を切り裂く“絶”』」
アヤは剣を受け取った後、うまく着地したあと、その声を耳にした。アヤはいま、カムイが何をしようとしているのか見当はつかない。だけど、何かやばいような気がしてならない。
「小僧!」
アヤは叫びながらカムイにこれからすることを阻止するなり、ダッシュでこちらに走ってくる。距離が縮められる前にすべての力を開放する必要がある。
これは時間との勝負である。
「2本目、『切り裂く鋼の結晶“刃”』」
カムイの周辺に半透明となって回りだす鍵の中から使いたいカギを目利きで探り当て、そのカギを探し出しながら名を呼んでいく。もちろん、呼び方は適当だが、名は絶対に呼ばなくてはならないもの。それが条件である。また、最近分かったのだが、カギを何度か同じものを使用していると鍵自体が傷ついてしまうようで、あまり同じ召喚獣を呼ぶことはやめた方がいいと知った。
「3本目、『光でさえも奪う“闇”』」
足元にそのカギがあった、それを拾い上げ名を呼んだ。アヤがちょくちょくと近づいてくる。もう、数秒と満たない間には襲ってくるだろう。急がなくてはならない。
「最後、『底知れない闇が光を奪う色“黒”』。この4つの力を集めたとき結晶となって姿を現す」
持っていた折れた剣でその結晶をたたき割る。そして、姿を現したのは―――
暗くて黒いもの。紫色の煙を周囲に漂わせ、その者は姿を現した。
それは、剣の姿だった。
(これは…、黒い剣!?)
一瞬躊躇した。けれど、目の前にあるのは剣それだけだ。止まっているカムイに向かって一太刀をアヤが剣を振り下ろす。カムイはとっさに目の前にあるその剣につかむなり、アヤの攻撃を掠るギリギリなところで撃ち返す。
「っく! こいつ…」
先ほどまでやられていたカムイの武器が変わったことで驚くほどの剣から伝わる強さ、あつさ、思いが一つとなってアヤの剣に牙となって襲い掛かる。その剣は黒く歪んだ瘴気のようなものを吐き、アヤはその得体も知れない剣で若干ながら不気味を抱く。
(この剣…黒剣か)
この剣は以前にも見たことがある。だが、どこで見たのかは記憶を探る時間が惜しいため、考えるのは後にする。今は、どうやってアヤに傷一つ負わせることができるか策略を練る。
黒剣に持ち構えた後、勢いが止まらない。その剣は身軽さでまるで風の抵抗さえも受け付けないほどの力強さを持っていた。一振りがとても軽く羽を動かしているような感覚だ。
見た感じでは約70センチの長さの剣。黒い瘴気のような霧を発生する見た目からして不気味な剣である。刃の色は黒紫色。
しばらく戦った後、椅子に腰かけていたギルドマスターのセンが「もうやめたら」と、声をかけてきた
もちろん、その問いかけは無視し「まだまだだ、これからだよ」と、諦めていない姿勢をとった。
すると、意外なところから
「やーめた!」
と、アヤが突然、剣を鞘に納めた。アヤは意外な部分で発揮したカムイを見て感想を抱いたのだろうか、カムイにこう告げた。
「君には長年鍛錬したと思わしき努力は認めるよ。けれど、君はモブ以下だ。わたしに剣の一切れさえもつけられないのなら、君はここから去ったほうがいい。これ以上続けても無駄だ。それに、君の仲間は愛想が尽きたのかもね、君の了承関係なく印を押したんだから」
意外な部分からの攻撃が入る。
「そんなことはしない!!」
即座に否定する。【学術国丙】へ向かうにもこの世界について教えてくれた、友に来てくれた仲間が裏切るとは信じられないからだ。カムイはアヤの言葉を否定したうえで、
「エーミとミルカとは数日前に出会った。仲間とはいえないかもしれない。けれど、一緒についてきてくれた。この世界のことを教えてくれたのも彼らのおかげだ。もし、黙って印を押したのであれば、その理由を教えてくれるはず。もし、それ以外であるとすれば、操っていると考える」
と、強い口調で言い切った。いえることは言った。
本当の仲間として触れ合ったわけではないけれども、
「っく、雑魚が…舐めた口を叩くな人獣の無勢が」
大きく歪んだ表情を見せ、アヤを右手で強く握りしめ、カムイに向かって切り込む。
それに対してカムイは宙に浮く剣が助け舟のように思え、それを手にするなり剣を垂直に流した。すると、先ほどまで傷一つ付けられなかったアヤを吹き飛ばし、風の渦のようなものが発生した斬撃によって、宙に浮いたまま回避できない状況で服や肌に傷が刻まれる。
アヤが着地と同時に、「それまでだ!」と、遠吠えのような合図がこの広場に知れ渡った。その声の主はギルドマスターであるセン本人だった。
だいたいを見届けたセンはカムイの役職に興味を抱いたようで、先ほどのことを詫びた。
「すまなかったね。君が言う通り、あの2人には洗脳魔法で印を押したけれど、誤解はしないでほしい。これはすべてギルドのためなんだ」
「あなたたちの言い分だろう。このギルドを抜けるには?」
皮肉な言葉を述べた後に止める方法を聞いた。
「それは無理だよ。半年ほどは所属しておかなくてはならない決まりだ。それに、君らだって経験やギルドランクを上げないとこの先、厳しいだろう」
もっともな意見だ。たしかに、どこかに所属しなくては、この世界については何も得られない。たとえ、エーミの情報だけを取り入れても限界がある。ならば、この世界についてよく知る住人に話しを聞いた方がより多く吸収できるだろう。
特に、ギルドに所属し、ランクを上げれば、【学術国丙】による専用機関を扱えるようになる。大図書館や魔法図書館、古来図書館、軍造基地、魔法研究学科など様々な分野で勉強ができる称号や署名ももらえる。ギルドに所属するということはそれなりにメリットが高く、今後の人生も大きく変わる。
ギルドに入ることはすなわち、人生にも社会にも貢献ができるということ。
「確かに…そうだ」
どこかのギルドには入らないといけない。だけど、仲間である2人は洗脳魔法によって奪われてしまっているため、ココから立ち去るわけにもいかない。
「…わかった。俺も『カスまみれの喫茶』に所属したい。条件付きで俺も入らせてはくれないか」
「条件とは?」
「このギルドに所属する代わりに、俺らの仲間に対して謝罪してほしい」
「条件が言える立場とは思えんがな……それは、こういった現状を作った本人に謝れよ…と」
右手で顎に当て、左手で足を組んでいる方の上へおく。センはチラッと視線を向けたさきにはアヤがいた。アヤは剣を鞘に納めるときだった。アヤはセンから視線を受けているのに気づいている様子で、センに『うぜえぇ』という目つきで返す。
この実態についての発端はすべてアヤによる策略。
この策略により2つの状態を把握することができるからである。もちろん、これらすべてがアヤによるものではないのだが、了承したのはアヤだ。謝罪するのは実行したアヤとなる。センはそう思っていた。
「センさん、対象が違いますよ。謝罪するのは策略をした私です」
先ほどまでゲームに夢中になっていたルゥイが立ち上がった。持っていたゲーム機は座っていた椅子の上に丁寧に置き、礼儀正しいともいえるほどきれいに礼をした。それは、誰にもできるようでできないものかもしれない。だけど、彼女がしたのは言葉では言えないほどきれいで美しい…カムイなりにそう感じた。
「先ほどはすみませんでした。2人を洗脳魔法で印を押したのは私です。元々、私の役職は『氷魔導士』ですが、そのほかに洗脳や状況把握・能力増加といった〔異常系統〕の魔法も使えます。2人には悪いと思いました。しかし、ここに誘ったセンから頼まれたのです。『カムイさんは強いわけでもないのに、十分に強い2人を束ね、話し合っている姿からして今まであったこともないほどの強者ではないか』と聞いたからです。このような状況にしたのは私の意思でしたこと。2人(アヤ、セン)には関係ありません。もし、気に入らなかったら、私を殴ってもかまいません。それは相当の価値で私を攻撃してください」
と、ルゥイは再び頭を下げた。
少女にここまで言わせるのは少し嫌な気持ちになった。
それに…何気にタイプ―――を殴るというのは大人げない気持である。
「別にいいよ、俺は俺で決めたことだ。それに、ギルドマスターであるセンからの依頼であるならば、君のせいじゃないよ。それに、新たな力に目覚めたという快感も得たから」
照れながらカムイはルゥイにそう伝えた。
(本当はもっと俺なりに処罰をしたいのだが、2人を人質に囚われているようなもの。これは相手がイイと言っても、容易に行動する訳にもいかない)
心の中で怒りを飲み込む形でこの場を終了した。
ギルドマスターの認可により、正式にギルドに所属することができた。
一方で、エーミとミルカさんの2人洗脳がまだ解けていないようで、ボーとしたまま上の空にいた。
「2人はどうやって戻るのですか!?」
カムイは魔法をかけたルゥイに訊いた。ルゥイはため息をし、「今日は無理でしょう。明日まで待ってください」と、言われた。どうやら、この魔法は『ギルドに所属するという署名の印を押す』という契約しかしていなかったため、それ以外の動作や行動などを命じずに頬っていたこともあり、2人は口をすることもなく、まるで人形のように、その場に佇むというおかしな状況に置かれた。
この不自然さにカムイは魔法の解き方を聞くも、魔法が解けるのは明日にならないと無理だと告げられた。カムイなりに魔法で解くという方法もあるのだが、あいにく洗脳魔法は複雑で相手の感情・性格・状況・生体など様々な分野で把握していないと洗脳できないのがこの魔法の特徴で、この世界にきてあまり日数が立っていないカムイにとっては容赦ないこの魔法を解くのは難しい事であった。
それに、洗脳魔法は階級で表せば上級ともいえる魔法の一種で、この魔法をかけたルゥイはかなりの実力者だと見受けられた。
だてに、あの戦闘中に箱をプレイしていたという余裕な気持ちでいたのも確かである。
結局、魔法は明日までということで、せっかくギルドに所属したこともあり、早速ギルドランクを上げるために町に出かけることにした。
魔法が解除されないいま、2人はどうしようもない。
2人とアヤが見ておくということで、カムイたちはここから西の方角にある【森林都市フェルメール】へ向かうことになった。
アヤが残された要因はひとつ。それは数分前の出来事である。
「着ていく服がないんだ!?」
アヤがセンたちに力んでいった。
「別に他の服でもいいだろう」
センが容易な考えで言ったのだが、これが彼女を怒らせることになってしまい、結局は赤く滲み、傷だらけになった服を修復するまでの間は、ギルドに残ると断言したのだ。
ルゥイが言うなり、彼女は常に1着しか持っておらず、いままで服装はないとされていた。
どれだけ貧相なギルドなんだと疑ったが、アヤは「絶対にこの服じゃないと嫌」と、女の子らしい可愛い表情で訴えたことで、ギルドに番をしてもらうことになった。
もちろん、2人を守る形で。
アヤには悪い事をしてしまったが、このことに関しては自業自得なのだとセンたちが言っていた。だけど、なんだが複雑な気持ちであるカムイでもあった。
西の方角にある【森林都市フェルメール】にはギルドの活動を報告する【学術国丙】があり、センたちは本日から新たに仲間が加えたことと、ギルドランク戦に出ることを報告するため、この都市へ向かうことになった。
朝頃に問題を起こした【学術国丙】はあくまで、ギルドの安定と役職の情報を知る・報告だけなので、【森林都市フェルメール】で実際に開幕するとされるギルドランク戦に申し込む形で参る。
この世界についてよく知り、今でも魔導に心掛けているルゥイとギルドマスターであり、少々問題があるセン。この世界についていまだに何も知らないカムイの3人がこれから起きるであろう問題をまだ知らない。




