14
この世界には役職で戦い方の技法がいくつか存在している。
代表的な名称は〔身体強化〕、〔具現変化〕、〔放出範囲〕、〔操作拡張〕、〔特殊系〕の5つの種類がある。それぞれに特化したものの名でよばれる。
【学術国丙】で見てもらえるのは役職だけであり、系統や得意属性まで調べてはもらえない。その辺は実務や戦闘対応・日常態度・会話などからして判明するもの。
得意となる系統を覚えておくことで、その系統に応じた自分に合った方法で成長をとることができる。
ちなみに、アヤの役職は〔赤剣士〕で〔具現変化〕系統の持ち主。
〔具現変化〕系統の主な技法は技自体でも能力自体でもなく、武器そのものに技を纏うことで発揮する能力である。〔具現変化〕を身に着けた者には以下の特徴があり、人によっては違うものの扱い方によっては強力にも弱力にもなる。
例えば、武器を〔剣〕とした場合、使用者が〔具現変化〕だった場合、以下の特徴が見受けられる。
剣の長さを変えたり、剣に属性を纏ったり、剣以外の武器に変化させたりとすることができる。使い方も行い方も本人次第だ。
ちなみにアヤの役職の赤剣士と名がついたのは、彼女は元“人斬り”だったことから来ている。血を全身に浴び狂気に満ちた表情で微笑、幾多の数だけ剣に血を吸い込ませたことで彼女を人は、“赤い吸血鬼”と呼んだ。
(さて、アヤが本気を出さないといいのだが…)
心配そうに様子を見るギルドリーダーのセン。彼女の素性を知る人は数少ない方である。
「この野郎!!」
ガキン!! キーン! チャキン!!
剣同士が弾く音が鳴り響く。
カムイはギルドリーダーから借りた剣を使ってアヤに積極的に攻撃するも、すべて剣ではじかれてしまいいまだに服に切り傷を負わせることもできないままでいた。
「はは! こっちだよ、小僧!」
少しながら楽しんでいるようだ。
まるで昔の自分を思い出すかのように、徐々に顔の表情が昔に戻りつつある。
「どうしたどうした!?」
アヤが剣を無造作に振り回し、ガードするのが手いっぱいで押される。どっちに来るのかどちらから反撃するのかカムイ自身は経験から知っているのだが、一般人並に低下してしまっている体力では防御して反撃するほどのスピードをもてず、苦戦を強いられた状態で、必死でアヤの攻撃を防ぐ。
それを見ていたセンが壁にもたれ、一本足が欠けてしまった椅子に座りながら2人の戦いぶりを鑑賞していた。
(やっぱり、ダメかな…。まあ、あの少年が負けても勝っても利益はある。しかし…、本当によかったのですか? ルゥイさん)
チラッとゲームに夢中になっているルゥイに目を見やった。ルゥイはゲームに熱中したまま、センのことを全く気にせずにプレイしている。
(けども、心が痛いなあ。ギルド解散を止めるとはいえ、ルミカさんやエーミさんに“洗脳魔法”でギルドメンバーとして印を打ち込ませるとはやはり、心が痛いなあ)
心の中でそう呟き続ける。
「気にすることないよ」
ピコピコとゲームをテクニカルに操作するルゥイが椅子の上でたいそう座りの状態でセンに横から話しかけた。目はゲームに集中しているが、口だけセンに慰めの言葉をかけた。
「全部、“アヤの策略”だから」
ガキンと剣同士が弾きあうなか、カムイは苦戦を強いられていた。
とにかく隙がありそうなところを打ち込むも、相手の素早い反応で返されてしまう。
(やはり、生身では勝ち目はないのか!? だけど、飛脚の力を使ったとしても、あれは剣で戦うよりも飛ぶといったイメージの方が近い…)
弾きあう火花を散らかせるなか、カムイはアヤにどうやって攻撃が与えればいいのか思考が飛び回る。
「どうしましたか? この程度ですか♪」
若干歌いながら余裕な顔をして剣を振り回し、カムイにわざと隙を見せつつ、攻撃する。まるで、子供が無邪気のように遊びまわっているようだ。
このような行動に対してカムイも少しキレ気味なのだが、方法が思いつかない。
(ガゼはスピード優先。だが、相手も力の半分も使っていないとしたら、ガゼで対抗できるのか?)
「どうしましたか? どうしましたか!?」
煽ってくる。いい加減になるほど煽ってくる。
だけど、反撃するほどの余地が見当たらない。
一旦、剣で相手の刃を弾くほどの強さで横一線に切り開く。思いがけない攻撃で一旦アヤは後方に下がる。そのタイミングチャンスを狙って、カムイは自身に【加護】魔法を加え、相手にも【状態】魔法を当てる準備をする。
(チャンスは一度きり)
唱える魔法は2つ。
「精神的にギリギリだけど、【鎖束縛/チェーン・リストリクションズ】」
鉄の鎖が地中から姿を現し、アヤの四肢に絡みつき、拘束する。鉄の鎖により対象を一時的に束縛する魔法。他に棘や木槍といった種類もあるが、そちらはイメージに時間が少々かかるため、今回は使わなかった。
「っく!! 姑息な」
四肢に絡みついた鎖をほどこうともがくアヤに対してカムイが続けて魔法で追い打ちをかける。
「続きまして、【透明武器/クリア・アーム】」
剣に魔法によって透明にする魔法。それは武器・あるいは自分自身、対象を透明にするための魔法の布をかぶせることでその対象を視界から消すことができる魔法の一種。
全身を覆うほどの魔力はない。
ならば、剣を透明にすれば多少は敵への攻撃に対して見えない刃として構築することができる。
(っく…、疲労が…やっぱり、生身じゃ魔法は宣言ありか)
少し足元がふらつく。めまいと疲れが同時にやってきたような感覚に襲われる。
「魔法でふらつくとは、やはり一般人程度だな」
四肢を束縛されたままにもがきながら吠え面を吐くアヤ。
束縛が解かれるまでせいぜい10秒を切ったといったところだ。あと数秒もしないうちに最初にかけた魔法が解かれてしまう。その前にアヤに少しだけでも刃が届けば…。カムイは足に力を込め、アヤに向かって突進をする。特に早いわけでもない。普通に駆けだす程度の速さなのだろうか、剣先を前に突き出す形でアヤに向かってダッシュする。
その剣が届いたとき、勝利は果たされる。
あと数値で届くところで束縛していた魔法が解除された。
「無駄だよ、小僧」
(!?)
明らかに不気味な笑みを口元に浮かべた。悪寒・吐き気、これは野生の感として動物の感として、カムイに働きかける。
それは、すなわち「――死――」を予感させるものだと直感した。
ただ、口元で笑みを浮かべているだけのアヤ。だけど、その時ばかりか、本気でやばいと悟った。
剣先を前に突き出し、足元はすでに宙に浮いていた状態だった。時すでに遅かったかもしれなかった。
斬り込む体勢を整えた状態で待ち構えたアヤの姿が目の前にあった。
いつのまにかかけていたはずの透明化魔法の効力が切れており、その剣はすでに姿を現していた。だけど、その剣の先はこの後数秒後に折られてしまうのは、カムイでさえも予想はしなかった。
刃がある部分が宙に飛ぶとき、カムイはアヤから腹に蹴りの一発をもらった。正確に言えば、蹴りを受けたと実感したのは吹き飛ばされた後だった。
そのとき、なにが起きたのかは全く分からなかった。
「がはっ!!」
地面に背中から着地する形で降りたち、吹き飛ばされた威力でさらに奥の方へと転がった。
おられてしまった剣に見入りながら、この剣でもう戦うのは無理だと感から教えられた。
「もうやめたら」
アヤがこちらに近づきながら、子供が無邪気に笑いかけるような顔をして、一歩一歩とカムイに近づいてくる。打たれた場所が悪かったのか、着地した場所がいけなかったのか、身体がうまく反応できない。アヤが近づいてくる中、もはや、力を使うしかないと思い描く。
そのとき、心のどこかで誰かの声が聞こえてきた。
その声は懐かしい、あの守護神からだった。
「あきらめるのか?」
それは思いでと言っていいのだろうか、それと近い感じで胸にこみ上げてくる。鍛錬とはいえ、数年ほど一緒にいた友のような感じだった守護神。それが、昔を思い出すようなものではなく、今まさに自分の心の中から呼びかけているように聞こえてくる。
「人間は弱い。役職で外れを引いたとき、絶望するだろう?」
「まあ、人それぞれですよ」
「…君の場合は特別だからね、“主人公補正”なんて、どこかの芸術に登場するような名前だからね」
「皮肉ですか?」
「いや、我も役職で“守護者”なんて、出て始めは仰天したものだ。けれど、それは自分の使命だと思うと、とくに深くは考えることはしなかったよ。それでね、外れの役職でも旨い役職でもようは、使う人によるものだよね」
「それで」
「君はどう思っているのかい? “主人公補正”に選ばれた感想は―――」
(あのとき…昔の俺は“主人公補正”として役職に認定されていた。鍛錬すればするほど成長し、いつしか仲間も必要がないほど成長していた。“主人公補正『急成長』”の役職だった。けれど、何者かわからない相手にすべて奪われ、挙句はこの時代に飛ばされた。そんなおれに、なにを求めるというのか守護神よ)
アヤが近づく音がザッザッと聞こえてくる。
この先の案はない。ここであきらめるという案もあるかもしれない。けれど、それを選択したときには俺自身でなくなっているかもしれない。
「ねえ、終わりにしようか!?」
アヤがとどめの一撃と言わんばかりに剣が振り下ろされた。
剣は折れ、動かない手足のなか、暗闇に包まれるであろうという場面で、もう一度だれかの声が耳元から聞こえた。
(我の名を呼べ! カムイよ!!)
そのとき、周囲の時の動きがゆっくりと動いているような感覚に襲われた。それは、周囲に飛びちらかう草や塵がゆっくりと舞い上がる光景だった。
その声の主に対して『君は誰? ガゼ…ではない…よね』と、心の底へその者に呼びかける。すると、『我の名を発生よ』と、返答した。そのあとに流れる名前を耳にするなり、もう一つの記憶を思い出した。
それは、あの神殿で見てきた石像の数によるものだった。
廃れることはなく、守護神が見守るなか、いつまでもきれいに磨かれ、汚されることなくその姿を現していた者たち。守護神に紹介されたのはガゼだけではなかった。そう、その名は―――




