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背中に剣を背負った人間の男に誘われ、カムイたちは案内されるまま、男が向かう場所まで歩かされた。男がいうにはギルドを数か月前に立ち上げたものの、当時の加入したメンバーは脱退。加入してくれるメンバーもいたが、他のギルドから誘われてしまい、最終的にギルドマスターと数人のメンバーだけが残されたこと。
男は朝方の【学術国丙】で、ギルドを解散させる話に持ち込まれ、問題を起こしたというわけだ。
「朝方は見苦しい場面を見せた。すまなかった」
男は照れ臭そうに言った。
「なぜ、あんなことをしたのですか」
ミルカが尋ねた。
「忠告されたんだ。あのままだと、ギルドは解散してしまうと」
男は寂しそうに言った。せっかく手に入れたギルドをこのまま解散させられるのは寂しいものだ。
「実は、ギルドを見てもらいたいんだ。君たちは無事にギルド試験に受かったんだろ。なら、ギルドを見ていくことも可能な時間があるはずだ」
本当は、ギルドを設立するつもりで試験を受けにいったのだが、設立となるには実績と経験がいるとの話があった。当初の目的は破かれてしまったが、ギルドに所属するための役職を知ることができたから、まあ良しとするとちょうど考えていたところだった。
「ついたぞ、ここだ」
男が案内した場所は、明るく言えば庭付きの喫茶店。悪く言えば廃墟なみに荒れた家屋といったところだ。
「…荒れて…ますね」
「ここが、ギルド?」
「私が見てきたギルドよりも遥かに寂れている光景を見たのは初めてニャ」
仲間たちが感想を述べた。
見ただけで、本当に営業していますか?
と、問いかけたくなるほど荒んだギルドだ。
「あれ~お客さん?」
店の奥から顔を出したのは人間で性別は女性だった。ジャージ姿の丸眼鏡をかけ長髪の焦げ茶色の髪型をしている。瞳の色は紫といったところだ。
その女性は紙コップに付いたストローから飲み物を吸い上げるなり、見下すかのようにカムイたちを見つめた。
「へえー。半獣とエルフ、猫人族か…珍しい組み合わせだな」
女はそう言い、ギルドマスターである男に駆け寄り耳もとでなにか話しかける。男はただ頷くだけで、女が立ち去った後、すかさず男がカムイたちに向けて謝った。
「すまない、アヤはああいう性格なんだ。決して嫌っているわけじゃないんだ」
奥の方へ姿を消す女。古びた喫茶店では、奥の部屋の光は見えず、手前である割れたガラスのあたりまでは光が差し込む明かりでようやく見える程度。
この喫茶店がもとはどんなギルドだったのか、いまとなっては想像しにくいものだ。
「どうする? ここのギルドを見ていきますか」
ミルカがそう尋ねた。カムイは軽くうなずき了承した。
玄関があった場所は屋根が朽ちてしまい、崩落している。また、床も穴が開いており、うかつに玄関から入ることはできないだろう。それに玄関であるはずの扉には強度を勝る鉄板のようなもので塞がれていて入ることはできない。
「どこから入るのですか」とカムイが訊くと男は『こっち』だよと男は手招きしてカムイたちについてくるように仕向けていた。
男は割れてしまった窓から上るかのように窓際から足をかけて中に入る。
「入り口はここだけだ。足元に注意しろよ」
男はそう警告した。男が下りたさきにはガラスの破片は片付けられていたこともあり大丈夫だったが、男が下りた場所以外に足を踏み入れた時、ギシギシと床が刻む音が聞こえた。
「そっちは床が抜けるから」
男の注意を聞き、床から足を放して男の後を追いかける形で移動方向を変えて進んだ。
腐ってしまったのだろうか、床を修理した跡がくっきとわかるほど上から板で張り巡らされていた箇所がいくつかあった。どれだけの年月が経ったのだろうか、どれくらい使い古したのだろうか、この喫茶店にはきっとギルドの思い出が積もって結成された痕跡なのだろうか。
壁と天井の隅には蜘蛛の巣が張り巡らされており、かなり掃除していない様子もうかがえる。
天井には割れた丸い光のようなもの(のちに電球)が見るも無残に割れていた。
当たりを見渡しながら進んでいくと、明らかに一か所だけ板で修理していない個所があった。その部分には一人ほど通り抜けられるほどの穴が開いており、奥から嫌な気配の風が通り抜けていく。
エルフの娘“ミルカ”が呟いた。
「魔物のにおいだ」
「ああ、そうらしいな」
この穴の奥から魔物のにおい。おそらくダンジョンが結成されてしまったのだろう。ダンジョンにつながる直接の通り道。ギルドからはいれるダンジョンなどあまり聞いたこともない。
だけど、カムイの感とミルカの気配のにおいで感じたあたり、この洞窟の先には魔物が巣となって暮らしているのだろう。
この世界では不明確だった。
魔物はどのように生活し、どのように一生を得るのか。
カムイがいた時代には邪神が誕生した日から魔物が出没し、人々に被害を出すようになった。その時に“銀影騎士団”というギルドが誰よりも先に誕生した。そのギルドは魔物から人々を守るという名案で作られた。
人々を守る代わりに報酬は得ず、その代りに自分たちが生きていくための方法や技法・技術などを教えてもらいながら暮らすといった方針だった。
そのため、他のギルドよりも高いお金でせしめられたり縄張りで追い出されそうになったり暴動を起こしたりとするギルドとは違うやり方で生計を立てていた有名なギルドだった。
カムイも鍛錬する機会に入る前にそこのギルドから勧誘されたが、当時は仲間もいてギルドは必要ないと考えていたからその案件は断っていた。
そして数日後には仲間を全滅させてしまった事件を起こしてしまったわけだ。
カムイがいた時代には魔物がいた。けれど、魔物は何を得て生れ落ちるかはわからなかった。植物のように人間のように種から生まれるもの。季節に応じて変わるものと同じように考えていたわけだが詳しいことに関しては魔物のことを調べようと思う者はいなかった。
現在、この世界では邪神はすでに遠い時代に討ち取られ、魔物は消えてしまったのだと思っていた。だけど、あのギルド試験といい魔物を使役するほどのところまで変わっているのだとすれば、魔物がどのように生まれ、どのように生活するのか判明しているのではないだろうか。
そんなことを考えていたところに背後に違和感を得た。
「ちょっといい」
背後に振り向くとそこには先ほどの女性がいた。女性は相変わらず上から目線で汚れた目で睨みつけてくる。
「そこは私たちの特権よ。あなたたちには関係ないわ」
女はそういうなり、無造作に置いてあった椅子を拾い上げ、カムイたちを睨みつけるかのようにしながら椅子に腰かけた。
女はカムイたちがその穴から立ち去るまでずっと睨みつかせていた。
女の最初の印象は仲間たちからみて
「失礼なドロ女豚」
「人様を上から目線とは失礼すぎるニャ」
「さすがに差別的な視線だ」
と感じた。
男が案内するなか、カウンターのよこに一回り大きな扉があった。扉といったものはなく、ただ空いていると思わせる空間がそこにあった。その部屋に入るなり、地面に倒れてしまっている木製の扉を発見した。
扉は残念と思わせるほど腐敗しており、キノコらしきものが生えていたりコケが扉の上部分だけ生えていたりと不気味に見えた。
「ここで、このギルドについての方針と説明会を行います」
男は着席するなり、「どうぞ」といって、開いている椅子に向かって平手にして差し出した。
エーミもミルカも椅子に着席するべく、近くにあった扉の近くの椅子に着席する。残った椅子は2人が座った石よりも手前にある1つの席と男と見合わせることになる席が空いていた。
もう一つの席にはすでに先着がいて、椅子に腰かけながら箱のようなものを両手でつかみ、指で何かを弾くかのようにしながら夢中になっていた。
カムイがその様子が気になり、その者の後ろに向かって歩き出すと、その者が口にした。
「我の後ろに立つな半人獣よ」
その声の主は女性のようだが低くて冷たいような印象だった。
見た感じでは子供っぽくて少年のようだった。薄い青色と銀色と組み合わせたかのような髪色をしており、中心から先へ行くにかけて紙の色は水色に変わっていた。
マフラーで口元をあて、たいそう座りで椅子に腰かけるその様子からして、『変わった少女』という印象を持った。
「いつまでそこにたてつく。我に興味でもあおりか、ならば―――」
手に持っていた箱から右手を外し、腰に隠していたであろうクナイを取り出す。そのクナイで「今に刺すぞ」という怖い目つきで睨みつかされた。
「す…すまない」
慌てて平謝りして、男と対当する席に座った。
その少女はクナイを再び隠すなり、その箱の興味を持つように見つめていた。
「さて、ギルド【カスまみれ喫茶】にようこそ。諸君」
男は歓迎の手を広げた。
別にまだ入った訳ではないのだが…。
「本日は見学としまして、我らのギルドの簡単な自己紹介をします。そのあとにギルドの方針と説明をしまして、最後にこのギルドの感想と入りたいか入りたくないかを検討していただきたいと思います」
男は慣れた口調で上手い具合に説明していく。
「まずは私の名前ですね。セン・リュシラと申します。役職は大剣士です。現在、ギルドマスターとさせていただいています」
男はそう紹介した後、出入り口にもたれかかる赤髪の女性に振った。
「はー…、私の名はアヤ・グアイヤ。役職は赤剣士です。詰まんない事には本当に興味はありません。それに自分と対等な種族以外にはとことんと例外をぶちかますのでよろしく」
女は紹介するなり、膨れてしまい出入口の扉に八つ当たりするかのように蹴飛ばし、そのまま外の方へ出て行ってしまった。何が気にいならかったのは、それはカムイには心当たりはない。だけど、アヤなりに嫌なものがあったのかもしれない。
「最後のメンバーを紹介します」
センは先ほど箱を見つめながら遊んでいた少女に手を差し向けた。少女は箱に夢中になりながら自己紹介をした。
「我の名はルゥイ。役職は氷魔導士。氷や結晶といったものに関しての魔導士です。はい」
箱からピロロ~ンと音が鳴ると同時に「よし! レベルアップだ!!」と片手でガッツポーズをとった。
その可愛いらしさからして先ほど牙をむいたような感じには見えなかった。
「さて、以上がメンバーだ。では、あなたたちの名前と役職を教えていただけないかな」
カムイたちは頷き、センに近い場所に座っていたミルカが立ち上がり、先に答えた。
「私の名はミルカ。種族はエルフ。最近、更新しまして役職は暗殺者です」
その隣にいたエーミが立ち上がり、ミルカが着席する。
「私の名は、エーミ・ミフィトですニャ。役職は癒魔導士ニャ。他者に眠りの魔法や治療する魔法を放てるニャ。それ以外に攻撃や加護も多少ニャりに使えるニャ」
と、紹介した。
この世界では魔法は使ってはいけないはず。堂々と紹介しても大丈夫なのかと疑った。
「では、最後に半人獣に紹介していただこうか」
男が差した先にはカムイがいた。カムイは過去の出来事・能力のことは話さないと思っていた。だから、できるだけの範囲で紹介しようとした。
カムイは立ち上がり、着席し終えたエーミを見た後、カムイは口を開いた。
「俺の名はカムイ。種族は半人獣。役職は……」
「どうした?」
口が濁る。センの心配そうに尋ねられた始末だ。
(どうする? あの中二病(?)のようなものを発言するのか? 周りの人たちから耳にするなり、俺だけ変わった役職だ。もし、こんなこと言って大丈夫なのか!?)
カムイは唾をのみ込み、一呼吸をした。
「俺の役職は“魔道召着衣”だ」
当たりの空気が止まる。そりゃそうだ。ふざけた名前だ。むしろそんな役職の名前だから、周りからいろいろと言われそうな気もする。
部屋の中ではゲームの音だけが鳴り響いていた。そこにピロロ~ンと音が鳴る。『レベルアップ』の音だ。




