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そして、現在。
「飛翼士ガゼ。風の力を身に着けた鳥人―――そして、守護人の贈り物『召喚獣を着る力』」
ようやく思い出したカムイは一言、心の中で守護神に「ありがとう」とお礼を送った。
もう時代は違うのだが、守護神から得られたものはとても暖かくきれいなものだった。
「カムイさん! それは――」
エーミさんの驚く表情を無視して、勝利を得た気持ちで敵に挑む。
「お前の速さに勝つ!」
そう決め込み、駆け出すものを捉えるべく足に力を籠め、翼を大きく羽ばたかせ、その者の体の一部でもつかむかのように手を伸ばしながら、その者に突っ込む。
(届く…―――!?)
と、思いきやそのものの速さは尋常ではなかった。つかめることはできないのだ。
なら、魔法という手もあるのだが、エーミのいうことが事実であれば、容易に用いるわけにはいかない。
ドンと音ともに敵がカムイの方に向かって突進してきた。
カムイは慌てることもなく、つかめるチャンスだとおもいその者の手足をつかむ態勢を整えるも、姿を確認することなく、腹に一筋の爪の斬撃がつけられ、背後へ回って行ってしまった。
「なに!?」
風を力に変えた〈飛翼士ガゼ〉でも捉えることができない相手だというのだろうか。カムイは戸惑いつつ、守護神からせっかくもらった力なのだから、その者につかめなくても動きの一点でさえ、止めることができたらいい。
「なら、爪斬撃!」
爪を伸ばした4センチほどの牙のようなもので、宙でひっかくとそれが斬撃となって前方一直線に飛んでいった。その斬撃が当たらないはずだったのだが、ミルカを襲うとした矢先に思いがけないミルカの小剣で攻撃を弾かれ、一歩下がったところで飛ばした斬撃がそのものに切り付けることに成功した。
「オロロロォォォン!!?」
まさかのあたり判定だった。その者は叫びを吠えると同時に、後退をする。カムイたちの攻撃から少し外れるかのようにして遠くから見つめる体勢に切り替えた。
「まさか、当たるなんて」
「すごいですよカムイさん」
「いや~ミルカのフォローのおかげだよ」
「ええ!? 私ですか!」
と、驚いていた。無理もないとっさとはいえ敵の攻撃を跳ね返すその力ぶりには仲間であるカムイも驚きである。
飛ぶ斬撃〈爪斬撃〉。ネーミングセンスはあとで考えるとはいえ、少しネーミングセンスがないような気もする。心に引っかかる名前であった。
「ところで、アイツどうしたの!?」
ミルカが尋ねた。敵は洞窟の壁のあたりまで下がり、こちらの気配を探っている。
「行動を探っているようですニャ」
エーミがミルカにそう告げた。
「なら! 次の技で攻撃したときに、左右から攻撃を攻めて片付けよう! いまなら、痛みで速度が低下しているはずだ」
「はい、わかりました」
「了解ですニャ」
合図とともに二人は左右に分かれて攻撃の準備を伺う。カムイはもう一度先ほどの技で正面に放つ。
(“〈爪斬撃〉”)
バッシュと吹き飛ぶ三つ目の爪痕の斬撃が前方へ向かう。
攻撃は敵に直撃を与えるはずだった。だけど、それは検証違いで会ったことと、敵の策略に見事に引っかかってしまった。
サッと敵の姿を消したと気づいた気には、ミルカに三つの斬撃が貫かれた。それは本来、敵に当たるはずだった斬撃で、方向からしてまだ余裕があったはずのミルカがまさかの切り付けられてしまった。
その問題となったのは、敵が一瞬という速さでミルカの背中から蹴り飛ばし、カムイが放った斬撃に直撃させたという数学の知識も得た敵の策略だった。
何が起きたのかわからないミルカにとっては、一瞬にして斬撃が目の前に迫り切り付けられたという衝撃的な瞬間をとらえたことだ。
このことに対してカムイは衝撃を受けた。
敵の策略とはいえ、敵が負傷しているとしても油断してはならない事だった。なによりも、相手が傷ついているからと言って見えているのは自分だけである。姿を見えない2人にとっては無理な作戦だった。
そのことに気づいたのはミルカが傷つき、その場に倒れたときに頭に電流が走ったような衝撃を受けて気が付いたものだった。
「ミルカ!?」
カムイがそう叫ぶも、声も動くこともしないミルカ。カムイは後悔とともに、敵に隙を見せてしまう。敵の素早さはカムイが着衣した状態でようやく見える程度、敵から目を背ければ、見えなくなる。敵からの攻撃は好きなようにさせてしまう。
バッと後ろに嫌な気配をたった。後ろに振り向く直後にそのものは姿を現し、カムイの背中から爪で切り付けようとする直後だった。
(しまった!?)
誰かがカムイの背後に立った。
そして赤い血しぶきが飛び立つ。ゆっくり顔を振り向くとそこには、大の字にしているエーミの姿があった。口からも背中からも赤い液体を垂らしている彼女の姿がそこにあった。
「エー…ミ?」
情けない表情と口でエーミに名を呼んだ。
エーミは血反吐を吐きながら、カムイに痛みでつらいのに言った。
「大丈夫ですか? カムイさん」
エーミの背中からはおびただしいほど赤い液体が流れ落ちる。それは、致命的なものだとカムイはすぐに知った。エーミが倒れる直後にカムイは見た。エーミの背後にそのものがもう一度、爪を上げ、振り下ろそうとする光景を。
(もし、このままもう一度、エーミに斬撃を受けたら…?)
そう、カムイはもう知っていた。エーミにもう一度、あの攻撃を受ければもう、助からないかもしれない。そうなるかもしれない。
「ダメだ! それ以上は!?」
零れ落ちる声とともに左手でエーミに触れる直後、その斬撃がエーミに襲われた。
そこに声も張れないほどのけたましいものが鳴り響いた。
目の前にはエーミが無造作な状態で倒れ、何も言うこともなくなった姿がそこにあった。
「エーミ??」
カムイはそう口にするも、エーミは答えることもかすかに動かすこともしなかった。
次にそのものはカムイに牙をむくかのように目の前で爪をさらけ出して豪快に切り付けようと上げた。そこにはカムイは逃げ出すチャンスはあったはずだった。
だけど、カムイは力を動かすほど冷静ではなかった。
爪が振り下ろされる直後、あのときと同じ守護神の声が脳裏に聞こえた。
―過去―
「そうか、君は一人なのか?」
かつて守護神に訊かれたことだった。
「仲間は多いほどわかれるのはつらいからね、それに一人だと落ち着くし」
かつてのカムイはそう答えていた。
仲間がいては自分にとっての策略が足手まといになるし、友達といったものなどいなくてもかまわないと思えていたころだった。
「一人でいて、寂しいと思わなかったのか?」
「そりゃ、寂しいと思ったこともあったけど、どんなにわめいたって友達なんて簡単にできるものじゃないぜ! 邪神に支配された世界ではさ」
カムイがそういうのは過去に起きたある事件によるものだった。
それはカムイを除いた6人の仲間たち。
白魔導士・黒魔導士・格闘家・料理研究師・銃撃士・召喚師。面白い仲間がいた。けれどみんな、邪神を討つ前に魔物によってカムイ以外のメンバーは殺されてしまった。
それ以降、仲間を作ることはなく一人でいるようになった。
あのとき、話しかけてくれた仲間たちを二度と、自分の目の前でいなくならないように、失わないように願いを込めて誓った。
「そんなことはないと思うよ、我は」
「え!?」
「だったら、我が君の友達になるよ」
「え?」
「ここには多くの召喚獣がいる。君が我と友達になれば、他の召喚獣も答えてくれるはずだよ。だって、それが我と戦って知ったものだしさ」
そのときの守護神はとても寂しそうに見えた。けれど、守護神は兜を常に外さない謎の人だったこともあり、一度も顔を拝んだことはなかった。けれど、その時ばかりは「友達ができたときの」記憶がよみがえったように感じた。
(そうか、わかったよ…守護神(友達))
目の前に迫りくる斬撃を逃れ、一歩後退したところでいま装着している状態の〈飛翼士ガゼ〉を解いた。それは、服を脱ぐと同じ感覚で脱ぐといった感じに近かった。
脱ぎ終えるとともに名を呼んだ。
「使用するカギは3本。1本目は“翼”」
カムイの周囲に覆い尽くす透明のカギが回りぬくその中から、文字が刻まれたカギだけ取り、その名を呼んでいく。
「2本目は“飛”」
友達となった守護神と話したかつての会話。一人だった自分に温めてくれた守護神(友達)。その人とはもう会えないかもしれないほど遥か先の未来に来てしまった。けれど、ここに誓った友達のカギがある限り、この誓は消えることはない。
「3本目は“嵐”」
最後のカギを拾い上げる。集めた3本のカギでロックを解除するかのように回すと以前よりも少し大きめな結晶が姿を現した。結晶はまるで優しい風に包まれているかのような気がした。
「3つの力を併せ持った時、さらなる力が覚醒する!」
姿を現したのは〈飛翼士ガゼ〉と違い、新たに上下に司る大きなエメラルド色の翼と左右に持たされた小剣を握るそのものの姿があった。その名は―――
「召喚着衣“飛脚士ガゼ”!!」
新たな力に覚醒したカムイ。召喚中は召喚獣の名を呼ぶことにした。それが友達の礼儀のようにも感じたからだ。
「我の名は、ガゼ!」




