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白い光に包まれたカムイ。白くてつかめない光はカムイを追い尽くす。
「……」
口を開けるも声が出ない。
なぜ? その疑問は過ぎに打ち解けた。この白くて靄のようなものがカムイ自身の声を封じているようだ。これでは、魔法を唱えることはできない。
と、いってもこの世界では魔法を使うのを禁止されている。たとえ、使えなくても使えるだろうとも違反であるのは変わらない。
(どうする…このまま、光に包まれたままでいいのか)
疑問が浮かぶが、この問題は即座に解決された。
なんと、包まれていた光がじわじわとカムイから去っていく。
白い靄が去った後、目に見えてきたものは深い洞窟のような空洞だった。天井から壁、地面にかけて岩のような外見で覆われていた。光がないのに周りの景色がはっきりと見えた理由はわからない。ただ、その空洞の中央には、ガラスのような透明の球体がくるくるとゆっくり回転している。
その回転する球体のなかには二つの眼球がギロリと赤い光を放った。その光は明らかにカムイに敵意を持った目だった。
「なんだよ…こいつは」
よくわからず、混乱するなかで背後から親しい声が聞こえてきた。
「ここはどこですかね」
「明らかに試験場ですニャ」
後ろを振り向くと、そこにはエルフの少女〈ミルカ〉と猫人族の女性〈エーミ〉の2人の姿があった。
「無事だったか!?」
カムイは2人に問うた。
「ええ、カムイさんこそ」
「その様子なら大丈夫そうだニャ」
戦闘態勢に構えていたエーミとミルカ。ほっと息をなでおろす。
「ところで、ここは…」
状況を把握できないルミカが問うた。
カムイは無言で顔を左右に振った。
「ここは、ギルド試験場ですニャ」
知っている様子で答えるエーミ。エーミが目先にはカムイの背後、つまり水晶に向けられていた。
水晶には今でもガッチリとこちらの方に赤い目を光らせて睨みつけている。
「武器を取りニャ」
腰に下げていた小さな杖を取り出すなり、杖を前に数度傾けて体勢を整える。
「どうして…!?」
カムイが聞こうとしたところ、背後から嫌な気配が刃でつくような痛さが伝わってきた。後ろを振り向くとそこには先ほどまで球体の水晶のなかでダンマリとしていた者が少しずつだが、姿がはっきりと見えるようになってきていた。その気配はこのもので間違いはないようである。
「これは…魔物なのか」
「構えてくださいカムイさん。コイツは、並大抵の通常魔物ではないようです」
ミルカがカムイに告げるなり、その者は結晶を破って姿を現した。ガラスが割れるような音は一切なく、その者が姿を現したときに冷たくて肌寒く嫌な感じになる風がそっと吹いてきたことでその気配に気づくことができた。
その者は暗くジメジメとした湿気を身に纏いながら赤い眼光をカムイたちに放てると同時に遠吠えのようなものを吠えた。
「オロロロヨヨヨ!!」
洞窟の中に響くその声は、生者であるカムイたちに襲われる警告のような鼓動が発した。
「気を付けてニャ! 敵の正体は不明ニャけど、希少魔物の可能性はありそうだニャ」
何かが飛びかかるような風がカムイの右横に通り過ぎていった。その嫌なにおいのようなものが隣に掠め取っていったような感じだった。
(なんだ!?)
「!? 危ない! 避けてくださいエーミ!!」
エーミがそのものに目を合わせるにも間に合わず、そのものはエーミの右肩を爪のようなもので引き裂き、3つの縦傷を負わせるなり、身軽な動きで3人の周囲を囲むかのように回る。
「痛ッ…!?」
エーミが左腕で裂かれた右肩に当て、左手には杖を握ったままだ。エーミが魔法を唱えることはできず。だが、これがギルド試験なら魔法というものは使わない方が得策だと思っていたのかもしれない。
エーミは杖を強く握るも、一言も魔法の呪文を問うことはなく、ただ痛みに耐え、周りに駆け出す敵に気を配るだけで精一杯だった。
「エーミさん、大丈夫ですか」
小剣を構えながら、エーミさんを少し離れたところから気にかけた。敵の動きは目に負えないに近い速さだ、捉えることはできないし、隙を見せたときエーミさんのように自身も足手まといになってしまうかもしれない。
「はは…先ほどは呼び捨てで言っておいて、大丈夫だニャ」
片方の目をつぶり、額から汗を流しているのが少なからずわかった。痛みに必死で耐えているようだ。治療魔法も唱えることはできない。
(エーミもミルカも動けない。なら、俺がやるしかない!!)
カムイは一呼吸をする。
(落ち着け)
「使うカギは2本。1本目は“飛”。2本目は“翼”。2つの力が1つになるとき、大いなる力が姿と変える」
カムイがそう口にするなり、前までは気づかなかったがカムイの背後から頭上に位置する場所から鋭いくちばしに切れのある爪、大きな鷲のような翼、布製の白い服装に緑色の植物の根を回しに使って着込んだ者が姿を現した。
その者はカムイが「“飛翼士ガゼ”」と、名前を呼ぶと同時に白い羽が舞いながらいくつかの色に分かれた明るい帯がカムイの体を纏い包んでいく。
そして、姿を現したとき、頭上の背後にいた者の姿と類似に近い服装で装着していた。
この姿を見て、ふと過去のことを脳裏に横切った。
これは、力を奪われる1年前、守護神がいる遺跡の中で出くわした一つの石像に姿かたちが似ていた。その者の名は古代語で〔ガゼ〕と名前が刻まれており、〔飛ぶ力だけでなく見えない風を味方につけた者〕と書かれていた。その遺跡には、カムイが生まれる以前からあり、周りの人々からは「神が眠る遺跡」と呼ばれていた。
その遺跡に守り続ける守護神から認められた時、遺跡に飾れられているすべての石像――召喚獣たちが力を貸してくれると、風の噂で知った。
「汝はなぜ、力を求めようぞ」
その守護神はカムイの頭の中に直接、伝えた。
(我は邪神を討ち、人々の悩みを解き放つため、修行をしている。邪神を討つための力がほしい!)
「なら、汝に説得できるような戦い方を見せろ」
守護神との戦いは休憩をはさんで半年ほど続いた。
結果的には、守護神の『説得できる戦い方』の方で頭を絞り込んだため、長時間、守護神に対して自分が知る限りの戦術、喧嘩、暴言、遊戯などで戦いを挑み、最後の服の着方の勝負で勝利した恥ずかしいことを見せつけた。
守護神から力を分け与えてもらい、その日から守護神とともに鍛錬することになった。
だが、あの日、守護神は「ちょっと用があるので、ココをしばらく見てくれないか」と、お使いを頼まれた。守護神が立ち去ってから何時間が経過したのであろうか、フードをかぶった者たちが姿を現し、今まで鍛錬してきた格闘技術・魔法詠唱・召喚技術などの根源となる力を奪われてしまった。
そのあと、時を超えて未来にきた。
奪われたと思っていたあの力がまさか、こんな形で姿を残すとは、あの守護神は賜物ではなかった。




