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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この先輩は何が何でも滅ぼすべきだ

作者: 矢光翼

 一日一筆複数連題です!

お題「S変態男とドM貴公子【シリアス風学園ギャグ】」「無謀な経験で手元に残った数少ないこと」

 この学園で一番の覇権を握っているのは、変態撲滅委員会、通称「HBI」。

 そのリーダーとして幼いころから貴公子として教育を受けてきた僕、左振さぶりが就任した。僕はまだ一年だが類稀なる撲滅の腕が評価され、全学年に納得されたうえでリーダーを賜った。決して貴公子ゆえの財力だとかそういうものではない。そもそも僕の両親はこの学園において何の権力も保持していないただの総理大臣とその妻だ。

 そんな僕がこの団体に入った理由は単純。この世界から変態を滅殺するため。特に何の恨みもないが見てると虫唾が走るし「変態は生かすな」と幼いころから教育を受けてきた。つまり貴公子ゆえの変態嫌いなのだ。そして就任直後、僕はこの団体が覇権を握るきっかけとなった男と遭遇する。


 この学園で一番の覇権をに握っているのは、変態撲滅委員会、通称「HBI」。

 その標的として入学直後から指名手配を受け続けてきた俺、大樅おおもみは今非常に憤慨している。中学の頃この類稀なる性格が功を奏しクラスはおろか学校中から「変態の極み」と呼ばれ、一部では王として崇め奉られてきた。決して意識的にそうなろうとか思ったわけではない。そもそも俺と喋った人間のいくらかは勝手に俺に服従ししつこいまでに俺に教えを乞うのだ。まぁその姿を見るのが楽しいから放っておいた結果今のような状態になっているのだが。

 そんな俺が憤慨している理由は単純。HBIのリーダーが変わったからだ。今までのHBIのリーダーは堅物女で、会う度に部下を使って羽交い絞めにして来ようとするものだったから俺は数多の言葉を用いて自ら行動を起こさないことを毎度毎度責め詰り続けていた。その際悔しそうに眉をしかめ部下に撤退を命じて自らも去っていく様を見るのが学校で唯一の楽しみだったのだ。それがどうだ。先日、入学したばかりの一年生。しかも男がリーダーに就任した。今までの堅物女はすでにHBIを抜けたと風の噂で聞いた。俺は就任式直後、手当たり次第に目につくものを責め詰って八つ当たりをしていたが、そこでHBIの新たなリーダーに遭遇する。


「おい」

「何だよ今俺は忙しいんだけど」

「お前、いや、先輩はこの学園で指名手配されてる方ですよね?」

「おや、よく見れば君は先ほど就任式を終えたばかりの新リーダー左振くんじゃないか気づかなかったオーラがないなぁ俺としてはあの堅物女の方がいいんだが」

「覚えていてくださっ」

「それに今君は初対面の僕に向かって『お前』と言ってきたよねあれぇ?指名手配で俺のこと名前から学年まで知ってるはずなんだけど容赦ないなぁ俺君の自己紹介は聞いてなかったけど噂では貴公子らしいじゃん?貴公子って物腰柔らかな爽やかボーイなんじゃないの高圧的でふてぶてしいのは漫画の国の貴公子様なんじゃないの?」

「そ、れは失礼しました」

 ...へぇ。いい顔もするんだな...おやおや?これはもしや弄り甲斐があるんじゃ?

「あなたは」

「なんだい」

「変態の極みと呼ばれそれを正すことなくここまで育ってきたのですか」

「俺を説教したいなら俺のことをよく知ってからにしてほしいんだけどさぁ。俺は自ら変態の極みだなんて気持ちの悪い異名を名乗った覚えはない。それは中学の人間が吐いた言葉が尾を引いているだけで、おれは変態の極みだからこういう振る舞いなんじゃない。昔からそうだ」

「でも結果として変態じゃないですか」

「変態かなぁ俺はそんなこと全く思わないけど。本人の知らぬ間に名前知ってリアルサーチしてくるHBIの方がよっぽど変態だと俺は思うしさっきも言ったけど堅物女はどこ行った」

まき先輩は退任なされました」

「へぇふぅーんじゃあね」

「あっ、こら!」

 男には興味はないんだがな...まぁいいか。


 それから僕は傷つけられたプライドをあの変態の更生という形で癒すために様々な策を講じたけれど、いつもいつでもあの変態の方が上手で、「頭が足りないよ頭が」とか「本当に捕まえる気ある?廃れたなぁHBIも」と経験を積めば積むほどプライドは傷つけられていく。

 そんな僕を見かねてほかの団員が変態を捕まえに行こうとしたが、僕は止めた。

「なんで?左振くんもう限界だよ...」

「大丈夫...です。僕はリーダーです。あの変態を捕まえるのは僕が先導しないと」

「でもそれじゃああいつはずっと左振くんのこと!!それに最近はあいつ益々左振くんの行動を面白がっているのよ...!?」

 それは僕も気づいてる。無謀を重ねるにつれてあの変態は楽しそうに僕の目の前から逃げるようになっていった。そんなにいたぶって楽しいか。ドS変態野郎。

 でもそれが僕があの変態に立ち向かわない理由にはならない。

「僕にも耐性みたいのが付いてきました。最初はプライドずたずたにされましたけど、最近はある程度のこと言われても気にならなくなってきて」

 メンバーの心配な目線が僕をつつく。それでも僕は折れなかった。

「ご迷惑おかけします。ですが僕は槇先輩の意志も継いでいます。あの変態を捕まえるのは僕じゃなきゃいけないんです」

「へぇ、健気だなぁ」

「!!??」

 全員が声の方向を向く。

 そこには、いつの間にか入口付近で壁に寄りかかってる変態の姿。

「なっ...!」

「なんか面白そうな弁舌が聞こえそうだったから結構前の段階で録音始めてたけど、なかなか恥ずかしいことを言うね、漫画?」

「お前っっ!」

「入学して数か月経つけどいつの間にか君本当に俺のことお前としか呼ばなくなったよな。礼儀がなってない」

「うるさいっ!今日こそお前は断罪だ...!」

「断罪でもザーサイでもいいんだけどさ、それよりドMくん」

「ドM!?誰のことを言ってる!!?」

 僕は部屋を見回すが誰もその言葉に反応していないし目を向けたところ全員と目が合う。どういうことだ。

 僕は再び変態のほうを向く。すると変態は僕の方へ指をさしていた。

「お前だよ、ドM貴公子クン」

 ドM...?僕が...!?

「は、はぁ...っ?何を言ってるんだ」

「だってそうだろさっきの言葉も聞こえはいいけど俺流に訳せば「罵倒されるのに慣れてむしろプライドを傷つけられるのが自然になってきたしあの変態様改め大樅先輩に多くの言葉で責め詰られたいんだだから僕以外の誰も僕の大樅先輩に手を出さないでェ~~~」。って解釈できるぜ」

「そんなわけっ」

「じゃあどうしてだろうなぁ貴公子クン」

「え?」

「確か一学期君は結構な賞を頂いて表彰されてたけどその時異常に落ち着きがなかったよねぇ。なんだか目が泳いでたし」

 っ...なんで...

「あぁバレてないと思ってたんなら申し訳ないけどチラチラ俺の方を見てたの気づいてたから。あぁあの時大声で「貴公子クンと目が合ったーーー!!」って言ってやりゃあよかったわ。ごめん暴露しといてなんだけど申し訳ないって感情湧かなかったわ」

「...!!!」

「言葉も出ないようだから俺が会話を先導するけどさぁ。あれってもしや俺に責め詰られるのに慣れて褒められることへの耐性が薄れたからなんじゃないの?ほらRPGでよくある火耐性高めたら水耐性下がっちゃっちゃ~~~みたいなやつ。本来は水耐性あったのに色々あってそうなっちゃったみたいなさ」

「そ、そんなわけないだろっっ!!!」

「なぁキレる時はちゃんと人の顔見てキレろよ。それ以外ならちゃんと俺の顔すら見て喋ってくるのに。なんだ?図星だからか?だとしたら申し訳ないよ今度こそ。まぁ嘘だけどさ」

 ...いつからか、褒められることでなぜか不安を感じるようになっていた。今まではそんなことなかった。褒められればうれしいから何でも頑張っていつの間にか貴公子に見合うようなオールラウンダーになった。

 それが、この変態に罵られれば罵られるほど、そっちの方が普通になった。

 なんでだ?いつから僕は、こんな風に...

「違う...」

「違う?何が。俺に責め詰られたいから日夜俺を追ってきてしっぽ巻いて逃げるんだろ?まさか最近の手口も案外手抜きで俺と追いかけっこしたいからとか?ドMだけじゃなくて犬属性も入っちゃったな下僕貴公子クン」

「ち、がう...!!!」

「あぁその屈辱的な表情、それが本当はたまらないんだよなぁあの堅物女と引けを取らないもんだから結構俺も楽しんでる節があるんだよ。まぁそれとこれとは話が別なんだけどさ」

 何も、言い返せない...何も...!!

「で、そんな下僕貴公子だけじゃなくHBI、にも収まらず学校全体が歓喜に震え自我崩壊を起こしそうな知らせがあるんだけどさ。不本意ではあるが」


「俺明日転校するからそれじゃ。精々HBI解体ぐらいのイベントは報せてくれよな」


「は...?」

 手を振りながら去っていく変態。ところどころからざわめきが聞こえる。

「どういうこと?」「転校?」「え、居なくなるの?」「じゃあ、もういいの?」「...やった」

 その一言を皮切りに。

「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 まるで勝鬨を上げたような大音声が部屋に響いた。

 そしてその声の中で爪弾きにされた僕が一人。

「やった、やったね!左振くん!!この学園から、あいつが居なくなるんだよ!!!」

 これほどまでに人の転校を祝う時はあるだろうか。というか、僕もこれは祝わなければならない。でも何故か、あの変態がさっきまで寄りかかってた壁から目が離せず、そこから体勢を直し手を振って去っていく変態の姿がなぜかスローモーションでいまだ動き続けていた。

 そして気づけば、走り出していた。


「本当、健気な下僕貴公子だね」

 キュキュッ!

 その変態は、入口のすぐそばにいた。

「えっ、あっ...なんでここに居る...」

「逆になんで今HBI盛り上がってるのにここに居る?」

「うる...さい」

「...まぁずっとここに居たわけじゃないよ。話すのに夢中でこれを渡すの忘れてたんだ。何も君を冷やかすために出向いたんじゃない」

 変態の手が差し出したのは、転校願。

「なんでもHBIの覇権が強すぎて指名手配されてるやつはリーダーにこれ出さないと転校できないみたいだな。俺も初めて知った。なんだこの制度」

 僕はゆっくりとその転校願を受け取り、

「当然受理するよな?HBIとしてなら」

 その文字を読み、

「もちろん...」

 握りしめ...

「でも、僕としては...」

 破り捨てた。

「...へぇ」

 目を丸くしながらその様子を見た変態は気持ち悪く笑った。

「それは、『認めた』ってことか?」

「...」

 僕は何を思ったのだろう。HBIとしてはもちろん更生にここまで手間がかかってる。早急にほかの高校で淘汰されるべきだ。しかし。僕個人は、本当にしょうがないくらいその転校を認めたくなかった。

「...あんたのせいだ」

「ん?」

「あんたが僕の策をことごとく潰してついでにいろんな罵倒をしてきたから、僕はこんな人間になってしまった」

「...こんな人間、とは?」

「わかってるだろ...」

「わかるかよ。目の前の鳩が誰かのペットだってことは誰かが言うまで俺には分からないんだ」

「...ドS変態男。だから僕は......お前のせいで、こう、Mっぽくなったというか...」

「Mになったんだな」

「う、るさい!!!」

「君って図星の図星を突かれると語頭だけ離して言うよな」

「そ、んなこと...っ」

「ほら」

「くっ...」

 無謀な経験で手元に残った数少ないこと。それは、結果的にあの変態には逆らえないという性質だけだった。


 これは後に聞いた話で、あの変態は転校を自ら断ったらしい。

 僕は卒業まで変態からは「ご都合漫画みたいに転校無くなったから君に八つ当たりをするけどいいよな」としか言われてこなかった。

 なにが無くなっただ。自ら転校拒否するなんてそれこそご都合漫画のそれじゃないか。

 あの変態が卒業してからも何故か変態は僕にちょっかいを出し続ける。僕の知り合いを通じてLINEアカウントを引き当てたらしい。

 ...ブロックできなかったのは、僕の弱みだ。

 死ねばいいのに...


『ようドM貴公子クン元気にしてるか。まぁ俺にとっちゃ元気にしててもしてなくてもどうでもいいんだけど俺の連絡がないと涸れそうだしブロックされてないってことはそれなりにうれしい忠犬ぶりをはっきしてるんだろうから俺としては悪くない。あー画面の前で悔しがる顔が見える見える。今日も飯が美味い』

如何でしたか?


 今回の作品、BLにするつもりは毛頭ございませんでしたが結果的にそういう香りを漂わせていたのでタグはつけておきました。非常に遺憾ですが不思議な爽快感が漂っております。

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