地の番人
【蒼剣】
「エンカウント確認。戦陣は第壱が切ります。正面」
『第弐は背面、陣取るぜ』
『第参は二手に分かれて左右に行くぞ』
『第四は3人1組で散開。程よく散ってください』
「さぁ、戦闘開始です。<アンカー・ハウル>」
<守護戦士>の特技。ヘイト操作技の<アンカー・ハウル>。
裂帛の雄たけびを上げる敵に自分が脅威であることを知らしめ、一気に自分への敵対心を煽る挑発技。
同時に自身も戦いへ備えることで、短時間ではあるが防御力上昇効果。
<守護戦士>の堅固で強力な前線構築能力の一端を担う。
「挑発成功。タゲは蒼剣さん。補助盾はCastleさんで。残りメンバーは定石通り削ってくださーい」
『『『了解』』』
【Sin】
前衛には攻撃力強化/追加ダメージのバフを行い、後衛は安全圏からの遠距離攻撃や補助を行う。
そして、現在全体の盾となっている戦士職、蒼剣さんたちには防御力増加や回復、ダメージ遮断が惜しまずつぎ込まれる。だが、問題になってくるのは敵愾心である。
『削れ、削れ!』
「まだ1割だ。もっと上げろ」
『左門からSinへ。第弐DPSが上がりすぎですね』
「ごめん、DPS落とせ」
メイン盾以上の敵愾心を煽りすぎると
『槌振り上げてぞ』
「全員退避」
『喧しきかな<冒険者>。土之蛟槌』
強力な反撃が紙装甲組に向いてくる。
この技は、フィールドの中心以外に土の棘を出現させるようなな技である。
退避が裏目に出たようで、数名がその棘に刺さったり掠ったりする。
「第四、蘇生と回復。よろです」
『了解』
【Castle】
『さて、次はこちらに来給え』
また、槌を振り下ろし今度は上空に足場とフィールドを作っている。
「新規フィールドにご招待ってか」
『第壱で追撃。盾交換でCastleさん。蒼剣さんは後退。回復と新規遮断』
第壱は上の階を目指し追撃。だが、その足場に遮断魔法の判定が出る。
足場には尖った石がまかれている。そして踏んでいくたびにダメージが入る仕組みの様だ。
「これって……」
「嫌らしい、攻撃ですね」
ステルスロックとでも名付けるべきか。その石のダメージは一見微意たるものの様だが、レイドではそれすら惜しい。下手するとこれが後々致命傷になる。
「よし、着いた。今度は俺が相手だ、でかいの」
『よろしい、ふん!』
重い一撃が入るがこれは障壁と反応回復で耐久。
『柊さーん、障壁の張り直し要請しまーす』
『上は暫く脈動回復で維持します』
俺は蒼剣と違って攻撃的な<守護戦士>じゃない。防御に徹して時間を稼ぐタイプだ。
連続で<アンカー・ハウル>、<タウンティングシャウト>。
挑発特技を使用して敵のヘイトを高め、その攻撃を自分へと集中させ、仲間が自由に動けるようにする。
『後続、第二ら現着。攻撃始めます」
「頼むぞ」
そして、同時に俺自身も攻撃。<クロススラッシュ>、<オーラセイバー>を始めとする複数の特技でHPを削る。
『鬱陶しいぞ、<冒険者>』
(槌の振り上げ……、地面には打ち付けさせねぇ)
着地点を予測し移動。直撃の直前に<シールドマスタリー>発動。装備している盾の防御性能 + 特技の習熟段階に応じたボーナス修正 を得ることで、さらに防御能力を強化。剣山を無効化。
『ナイス、Castleさん』
「当然だ。俺は<不破>の城塞だぞ」
「私のおかげだよー。Castleさーん」
いつの間にか後ろに居るのは同ギルドの優。
いつも通り<施療神官>のくせに、戦場のど真ん中に居る。
本人曰く「サブ職の都合だよー」らしいが、それで死亡したら元も子もない。
「まだ、余裕か?」
「もちろーん。蒼剣さんの時は適当にやってたからー」
そして、場面場面に合わせて手抜き回復を行う。
それで何度も助かっているので、どうこう言える立場ではないが。
『もうじき二割突入です』
「ここからは<守護戦士>メインで削る」
『策が在るすね』
「おうよ。固定する」
戦場で疑問を感じたり、作戦を思いついた際は必ず言うようにされている。
それがどんなに些細なモノであってもだ。それが実は攻略のカギになり得るからだ。
それを記録係。今回であればDr.左門に報告する。
『ふむ、次はこちらだ』
「逃がさなねぇよ。<ヘヴィアンカー・スタンス>!」
行動阻害特技。至近距離にいる敵1体を自分の目の前に固定する特殊な構えを取る。
構え発動中は自分も敵も移動することができなくなる。
ただし吹き飛ばしなどで間合いが離れてしまうと効果が切れてしまうので攻撃手段には注意が必要。
効果中、対象と自分の間に鉄色に鈍く輝く鎖のようなエフェクトが発生する。
「なら、代わりに槌は俺が止めますよ」
『頼むぜ』
地面に槌を着かせないためにGeki波が敵の攻撃を阻止。
浮遊する足場は発生せず、敵も上の段にくぎ付けに成功。
「先生!これ取っとけよ」
【Dr.左門】
「全く。初手でメモしてあるし思いついてるよ。しかし、成功するとはね」
飛びまわる相手には移動阻害が望ましいのは鉄則だろう。
(飛び回ると言えば……。この特技か)
「<戦技召喚:デッドリィスウォーム>」
攻撃魔法の戦技召喚。
-戦技召喚-
何かを呼び出して敵を攻撃する魔法。
従者召喚とは異なり、効果時間(たいていは一瞬)が切れると呼び出したものは帰ってしまう。
この特技は蟻粒ほどの大きさの毒を持った羽虫の群れを呼び出し、1体の敵を襲わせる魔法
そして、戦技召喚にしては珍しく長めの持続時間を持つ。
群れは対象を追尾し、一定の間隔でダメージを与えるほか、視界を悪化させ攻撃の命中率を低下させる。威力は〈召喚術師〉のレベルに依存し、習熟位階が上がるごとに効果時間が延長される。
「さてと、君たち。巨人の視界を妨げてきてくれ給え」
当然、返事など来るわけはない。
だが彼らはわざわざ呼びかけに応じてくれるのだから、感謝程度はしなくては。
『うおい、毒虫か』
『食らいたくねぇー』
上の階ではその見た目のエグさで賑わっている。
呼び出しといて何だか、正直自分自身も食らいたくない。
「さてと、こっちも仕事しますか」
取り出したのは<幻想級>アイテム。名を<魔導契約書-水之巻->。
数年前のアイテムであるが効力は現在でも使えるだろう。
消費タイプのアイテムなので重要な場面では切らないようにしているが。
「押すなら此処ですね」
引き裂くことで効力発動。効果は味方の攻撃に'+水属性'を付与。
つまり、常時敵の弱点に合わせた攻撃を行えるようになっている。
『サンキュー、先生』
『闇医者ナイス』
別に感謝をもらうためにやっているのではない。こんな所はサッサと踏破したいだけだ。
「ただの気まぐれですよ」
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【Sin】
「初見でここまでなら順調だな」
『まだ、気は抜けないけどな」
「ま、そうだわな」
完全にパターンが読み切れたので、最小限の被害で与ダメージ効率は非常によくなっている。
だが、どのゲームでもHPの減少とともにどの敵も強化される。
「さーて、そろそろ半分だ。変化に注意しないとな」
「よーし、戦陣はこのおれ、<白杖組>の浅桐が切らせてもらうぜ』
「いってらー」
突貫していく浅桐を見送り、少しオレは距離を取る。
下手に近づいて反撃食らうのは御免被りたい。
安全圏から、サブ武器のボウガンで攻撃する事にした。
『HP5割圏内。全員注意を』
「そろそろ、全員上に来てください。壁役も変えましょう」
『『了解』』
攻撃に変化が生じるなら全員がそれに慣れる必要がある。
その為には、必ず一度は見てもらわないと。
「第壱、全員揃いましたよ」
それと同じくらいに第四も全員が到着する。
第三はまだ数名が階段的な斜面を登っているようだ。
『そろそろ、行くか……。<岩石解放>』
『全員警戒!』
体に纏っている岩が離れていく。そして、ある程度の岩を取り除いた巨人は一回り小さくなった。
自傷特技なのかHP残量は残り4割ほどになっている。
だが、かけてあるはずのデバフが数種類無効化されている。
『これで終わりではない……。20人ほどか』
「?」
『<入魂之槌>。さぁ動け、我が分身』
目の前の岩が徐々に人や獣の形を形成している。
その総数目視で10体以上。
正確な数は上空で左門さんがメモしてるだろう。
「何だよ、こいつら」
「うざすぎですねー」
チーム全員が岩の軍団の処理に追われる。
岩の軍団はレベルが高めだ。平均レベルは80前後。
このゾーンに来るまで遭遇したモブと同格である。
これが一度に10体以上現れるのは想定などしていない。
『我が体を覆っているのはただの岩ではない。凝固・融解、思いのままに配列を変えられる不可思議な物質だ』
「勝手に答えやがった」
「その性能は滅茶苦茶じゃねぇか」
「こいつは撤退ものだな……」
『全員上の階に居る、何人かは死亡ですね』
「だな……、全員撤退だ。今回は無理だ」
蒼剣と意見合致。撤退を全チームに指示。
『ここまで来ていおて逃げるのか<冒険者>!』
「そうだっつーの……。尻尾巻いて潔く逃げるんだよ」
『逃がすわけなかろう……。<岩石封の槌>』
今度の技はノーモーションで動ゾーンの入り口を複数の巨石で封鎖された。
しかも隙間なくぴったりにだ。これでは穴を掘っている間に全滅だ。
『どうする、逃げる事をさせてくれないそうだ』
「だーも、めんどいな。誰か引きつけろ」
『俺がやろう』
『一人じゃ無理だな。半分請け負う』
D-ragoと力神さんが名乗り上げた。
よし、これでオレの出る幕無しだ。
二人は戦士職の中で他の二つと比べて非常に脆い部類だ。
だが機動力が在る。それが<武闘家>。
そういう意味では打って付けと言う訳だ。
「よーし、残りのHP削れるだけ削って2人を助けるぞ」
『了解』
【D-rago】
<武闘家>を選択したのはただ、現実でも武道の心得を数種会得していたからだ。
誘われるまま、始めてみたが中々に面白い。
初めてのゲームで最も長く続いているのがこのエルダーテイルだ。
「さて、岩の軍勢か×10か……。悪くない」
状況を整理すると人型が5体、犬型2体。残りは鳥。
順序良くかつ効率よく倒すには……
(鳥を倒すか)
だが、ただ跳躍するだけでは何かアクションを起こされてしまうだろう。
起点となる技が必要だ。
「<エアリアルレイブ>」
低い体勢からすくい上げるような跳躍攻撃。
これで人型にアッパー。空中に打ち上げ、一定時間無防備な状態とする。
そして打ち上げられた敵は浮遊し僅かな間、移動不能状態になる。
それを踏みつけ、さらに跳躍。敵を視界に全て捉え、
「ギリギリ波紋射程圏<虎響拳>」
拳から特殊な振動を流し込み、敵を外部と内部双方から破壊する強力な攻撃技。
この攻撃が命中してダメージを与えると、さらに敵の体に波紋状のエフェクトがつく。
このエフェクトは、数秒程度の間を置いてから炸裂し、時間差で追加ダメージを与える。
また、波紋のエフェクトがついている間は敵の防御力が低下する効果もあるため。
「数体は避けたか」
機敏な犬型はそれを回避したが人型と鳥型を巻き込むことに成功。
犬は落下予想点に集まり攻撃を加えるつもりだな。予想通りの動きで上等である。
順番は前後したが鳥は地に落ち、その他は程よく集まっている。
着地と同時に犬2匹の頭に<ライトニング・ストレート>を叩き込み頭を割る。
瞬時にHPが0になる為、恐らく弱点だろう。
「<暗殺者>の様な高速移動は出来ないが……」
<ファントムステップ>を中心に高速移動。敵の頭に特技を当て確実に割っていく。
残り人型3体。ここからは<アドヒュージョンビー>で執拗に距離を詰め、一発一発を打ち込んでいく。
(残り2……1……)
「敵殲滅」
『フォローいらなかったな……』
「弱点が人と同じだからな。力神さんの方はどうなってる」
『あの人も割とサクっと処理してる』
少々MPを消費した為、少し戦線から離れる。
見れば巨人の方は、残り1割と残り時間数分で決着だろう。
それまで、ゆっくりさせてもらうか。
【Sin】
『敵のHP1割です』
どうやらあの自傷特技。防御力低下/回避率上昇/従者召喚の内容のようで攻撃がバカバカ入る。
無理にDPS上げる必要もないようだな。
『ぬう<冒険者>共め。こうなれば』
「最後の大技来るぞ。しっかり生き残れ!」
『倒される位ならば……<土還>』
体を構成している岩の隙間から少しづつ光が漏れ出している。
ここまでくれば大体の予想は立つ。最高の自傷技もとい、自爆である。
規模がわからない以上、全力で後退し防御態勢を取るしかない。
そして、巨人は大爆散する。ゼロ距離にいた戦士職組は大ダメージだろう。
少し離れていたオレにも爆発によるダメージと岩の破片が襲い掛かる。
だが、水色の鏡のような障壁で防御される。即時理解したのは<禊ぎの障壁>であること。
そして、それが第弐全体に掛けられていた。つまりは、
「<護法の障壁>か。グッドタイミングだ。死花」
『でしょ』
「兎にも角にも、助かった。サンキュー」
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【Sin】
勝敗結果は勝利だが、かなり'運'の要素が強かった。
通常、大規模戦闘におけるボス戦は通常数十回以上における戦闘が繰り広げられる。
その過程で、全滅やら撤退は普通であり相手の攻撃パターンを分析。
確実に封殺し、ようやっと撃破できる。
「そう考えると、やっぱ自傷技が大きな一因だったという事になるね」
「そうですね……。自傷技なんてゲーム時代には存在してない発想でしょ」
「<大災害>以降の世界変化は素晴らしい。きっともっと私を刺激することが起きるのだろうな」
「左門さん、楽しんでますね……」
元々、こういう人だから今更驚きはしない。
もっとも、この人が言う事はたいてい当たる。
(有り得ないが、有り得るか……)
つまりは、ゲーム時代にはできなかった事が出来るかもという事だ。
「あまり変なことを考えるなよ」
「主治医の注意は心に留めておきますよ」