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議会から三日後。概ねの情報が揃いつつあった。
レイドコンテンツの内容は<最勝之五重塔>。
斥候班の連絡だとモブの平均レベルは70前後。種類はアンデッドやスライムの類。
知識人の話を聞くに元の世界だと最北の五重塔だとか。
「まぁ、現実の内容を踏んでるレイドは少ないしな」
-大規模戦闘-
通常パーティー(6名)を超えた多くの〈冒険者〉が合同で行う高難易度コンテンツ。
強力なレイドエネミーorボスは、<秘宝級>や<幻想級>といったユニークな効果を持つ武器や防具、素材アイテムなどもドロップする。レイドでなければ入手不可の<幻想級>アイテムの存在は、常に多くの〈冒険者〉のモチベーションとなっている。
今回の大規模戦闘は12,24,48,96の中で24名(6名×4小隊)のフルレイド。最も一般的であり、大規模戦闘の醍醐味を凝縮したと言われるコンテンツ。
だが、目下最大の問題は人数。単純に攻略するための頭数が足りない。
現在、募集しているが集まった希望者の数は15名。突入することは可能だが、24名揃えていくのが基本だ。
「希望者もレベルはバラバラ、装備にも差があるか~」
ゲームの時なら専用のホームページで希望者を募っていた。その時は50人以上が常時参加表明をしてくれた。が、現実に成った今ではモンスターに恐怖する者がいるのは当然だ。正直オレも巨人の類が怖い。
このままでは、ただ自滅しに行くだけだ。
「待って二日だな……。そこまでに人来なかったら、今回の話は無しだな」
正直暇である。今のアキバには何の面白みも感じない。
これなら、まだ現実で学校にでも行って時間を潰していた方がましなくらいである。
念話着信。相手は力神さん。
『追加2だ』
「ジョブとレベル、可能なら装備の内容すべて。どうぞ」
驚きなのはこの世界には紙があまりない。今机の上にある紙はT-basaのサブ職スキルで作ってもらったものだ。そこに内容をとにかく走り書きしていく。話を聞くに2名は武器こそないが参加したいとのこと。
武器は<碧蛇>で借りてくるとのことだった。
『後どんなもんだ』
「7です」
『遠いな』
「ですよね……」
痛手の理由は<BLUE-Raiders>の参加メンバーが三名のみ。'BB工房'が参加していないことにある。
前者は半数以上が毎度参加表明をする。後者も何だかんだ言いながら、そこそこの人数が参加する。
そうなると戦闘をあまり得意としていない生産系のメンバーを借りるしかない。
だが、寄せ集めメンバーで攻略できるほど簡単には作られていないのがレイドだ。
「2人に来てもらえれば……。多少は変わるのかなぁ……」
「その2人のうち1人に私は入っているのかね。三代目」
「……」
数秒で状況を理解した。目の前の人間は身内でしかも入場許可持ち。
となると、各職長か初期メンバーの一人。
「驚きの余り、声も出ないか」
「断じて違います。何しに来たんです、闇医者さん」
「情報を伝えに遠路遥々……」
「<キャスリング>で来ましたね」
<召喚術師>の特技。<キャスリング>。
従者召喚によって呼び出した従者と、術者の位置を瞬時に入れ替える緊急回避呪文。一瞬で発動するため、敵の攻撃が命中する直前などに入れ替えることが可能である。
「まぁ、その辺のことは気にするな」
「何のために、ミナミに居るようにお願いしたと思ってるんすか」
「ふーむ……衛兵に襲われていてもか?」
ホントに謎だ。この人は仕事の事ぐらいしか情報を教えない。
Dr.左門。本名は森 佐門。
ギルド<ゼロ・インフィニティ>の創設者。現実世界ではオレの主治医で町医者(過去形)。
で、本人曰く'闇医者'。数年前に両方とも休業。それ以来、会っていなかったが今回の拡張パックで復活。ミナミの情報を集めてもらっていたのだが……。予想以上の速さで帰還しやがった。