第91話 妖精たちの輪舞曲
また勢いで書いてしまいました。
ある広場にて、人知れず集まった有志たち。
そこでは、その者たちにとって重要な会議が行われていた。
「やはりイデアロードにも、わたしたちの土地が必要だと思います!」
一人の少女が手を挙げて発言する。
その背中には二対の羽が忙しなく動いている。
「そうだね〜、欲しいよね〜」
「なるべく広い場所があるといいね」
「うむ、ではカナタに要求するということで良いかな」
次々と述べられる意見を議長が制する。
口元には例によって黒い何かが貼られている。
そのスーツのような服装と相まって、どう見てもコスプレとしか思えない格好。
威厳ある口調で話してはいるが、それを欠片も感じさせない。
しかし、それをツッコむ者はこの場には存在しなかった。
「よし、では別荘に向かうぞ!」
「「「おお〜っ!」」」
こうして、妖精たちの新たな戦いの火蓋は切って落とされた。
「「「「突撃〜!!」」」」
妖精たちが玄関より別荘に入る。
その服装は、作戦決行を示す特注の迷彩服だ。
彼女たちを阻む者は何も無い。
嘗て知ったるとばかりにそのまま奥へと侵入する。
「おやおや、いらっしゃい」
リビングで青い塊がぷるんと震えて妖精たちを出迎える。
スラ坊は来客を予知していたのか、その手には大きな皿が持たれていた。
上部に飾られた赤いコントラストによって全体の雪のような白さが引き立てられた物体が、圧倒的な存在感を持って皿の上に鎮座している。
「良かったら食べてください」
大きな苺のホールケーキがテーブルに置かれると同時に、妖精たちは他には目もくれずに噛りつく。
「くぅ〜、幸せ〜」
「うま、うまうま!」
思い思いのセリフを口にしながらも器用に口は動かし続ける。
そしてほんの数分もしないうちに、その全てを小さな腹の中に収めた。
「スラ坊、ありがとう!」
「美味しかったの♪」
「じゃあね〜♪」
妖精たちはスラ坊にお礼を言い、満足げな笑顔で別荘を後にする。
そして妖精たちの住処へと辿り着いた時、一人の妖精がふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「ねえ、わたしたちって、何しに行ったんだっけ?」
「「「ああ〜っ!!」」」
妖精たちの悲鳴がサイレンのように辺りに響く。
しかし、いつもの事なのか、周りにそれを気にする者はいない。
「しまった、忘れてたわ!」
「さすがスラ坊、恐ろしいまでのトラップ」
「強敵ね、侮れないわ」
もちろん、スラ坊にそんな気は無いのは、ここで解説するまでも無いだろう。
「「「「突撃〜!!」」」」
妖精たちが玄関より再び別荘に入る。
その手の甲には、黒いペンか何かで『土地』と大きく書かれていた。
これでもうトラップには掛からない。
大いなる自信を持って妖精たちは奥へと進む。
そして再度辿り着いたリビング、そこには一人の少女が座っていた。
「あっ、アリアだ!」
「アリア、元気?」
「何飲んでるの?」
突然の妖精たちの来訪にもアリアは笑顔を崩さない。
「苺ジュースなの。美味しいの」
果実を絞ったジュースを美味しそうに飲むアリア。
それを見て妖精たちは喉を鳴らす。
「いいな〜、ちょうだい!」
「わたしも飲みたい!」
「いいでしょ、ねえ」
アリアに群がりジュースを欲しがる妖精たち。
その横で「コトッ」と何かが置かれた音がした。
「皆さんの分も有りますよ。どうぞ」
スラ坊によりテーブルに置かれたのは人数分のジュース。
それを見た妖精たちは目の色を変える。
「やったぁ!」
「あま〜い♪」
「んぐんぐ」
コップの中に入るようにしてジュースを飲み始める妖精。
その赤い海に身体ごと飛び込んでそれを貪る。
べとべとになった自らの身体さえも舐め取る程に幸せを堪能した妖精たちは、満足げな笑顔で別荘を後にする。
そして妖精たちの住処へと辿り着いた時、一人の妖精が再び疑問を口にした。
「ねえ、わたしたちって、何しに行ったんだっけ?」
「「「ああ〜っ!!」」」
妖精たちの悲鳴が再び辺りに響く。
手の甲に書かれた文字は、ジュースやそれを舐め取った自らの舌により掻き消えていた。
「うぬぬ〜、やるわね」
「またやられたわ!」
「あの頭脳は侮れません!」
もちろん、スラ坊に――(以下略)。
「「「「突撃〜!!」」」」
決死の覚悟で再々度別荘に入る。
その手の中にはしっかりとメモが握られていた。
既にお腹も満腹、もうトラップには掛からない。
絶大な自信をもって妖精たちは奥へと進む。
そして三度辿り着いたリビング、そこには特徴的な帽子を被った一人の少女が――。
「「「「退却〜!!」」」」
妖精たちは全速力でUターンを開始する。
しかし、それを見逃すミサキでは無い。
風のバリケードを出現させ、妖精たちの行く手を阻む。
「……何かやましい事がある?」
その問いかけに妖精が全力で首を横に振る。
しかし、既に退路は閉ざされている。
絶体絶命だ。
「ん!? どうしたの?」
その時、背後から聞きなれた声がした。
妖精たちが振り返ると、そこには彼女たちにとって神の救いに等しい人物が立っていた。
「カナタ〜!」
「会いたかった〜!」
「死ぬかと思った〜!」
妖精たちは感情を爆発させるかのようにカナタに抱き着く。
感極まって頬にキスまでする者もいた。
だが、それは新たなる逆鱗のスイッチ。
ミサキの掌から火球が十数個発現する。
その一発一発には十分な威力が込められていた。
「ちょっ! ミサキ! 何!?」
災難なのは巻き込まれたカナタであろう。
必然的に妖精たちの盾となったカナタは全力で防御魔法を展開した。
唯一幸いなのは、女神様仕様の別荘が火球程度ではダメージを受けない事くらいだろうか。
その爆発音は暫くの間、魚人やオークの集落まで響いていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
現在、僕の目の前には正座をしたミサキと妖精たちの姿があった。
「何か言うことは?」
「……反省」
「「「「ごめんなさい」」」」
聞けば、妖精たちは特に悪戯などはしていないようだが、ミサキを見ただけで逃げ出すのは些か失礼だと思う。
ミサキの方もやりすぎを反省しているようだし、もうこれ以上言う必要はないだろう。
「そう言えば、何の用だったの?」
僕は正座から解放され、足を崩した妖精たちに質問する。
その結果――、
イデアロードにある僕たちの屋敷。
その庭に広めの花畑が設置された。
「「「「やった〜!」」」」
その周りを嬉しそうに飛び回る妖精たち。
無論、僕ら以外にその姿は見えない。
「「一件落着だね(なの)」」
簡単な一言で纏めるミウとアリア。
いや、僕はかなり大変だったんだけど……。
いきなりの攻撃しかり、魔法での移設もきつかった。
「……細かいことを気にしちゃ駄目」
しれっと言うミサキ。
僕はそれをジト目で返した。
こうして妖精たちは新たな住処を手に入れることとなった。
この花畑が一年中花が咲いている場所として有名になるのはまだ先の話である。
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