第8話 ギルド登録
カナタ一人称変更 俺→僕
そちらの方が、カナタにしっくりくると思い変更いたしました。
ついでにプロローグ~第七話の微修正。
煉瓦造りの町並み。
広い大通りに雑貨、武器、防具などを扱う商店が立ち並び、屋台もちらほらと見受けられる。
さらに大通りの脇には規則正しく並んだ花壇があり、色とりどりの花が植えられている。
そう、僕たちは今、ベラーシの街の中央通りを歩いていた。
「カナタ! おいしいにおいがするよ!」
「カナタ! あれなあに?」
「カナタ! 水が吹き出てるよ! すごい!!」
ミウは、初めて見る町並みに興味津々らしく、興奮した様子でしきりに話しかけてくる。
確かにミウの言う通り、美味しそうな匂いのする屋台には惹かれるものがある。
僕は一番良い匂いをさせていた屋台に近づき声をかけた。
「おじさん、これいくらですか?」
「ああ、ムルムルの串焼きなら一本銅貨二枚だよ」
「じゃあ二本ください」
知らない動物の串焼きだが、美味しければ問題無しということで二本買ってみる。
恐らく匂いは嘘はつかない筈だ。
「ミウ、そこのベンチで食べよう」
「やった〜♪ カナタは話が分かる〜♪」
公園のような広場がすぐ近くにあったので、備え付けのベンチに腰掛け、早速タレの滴る串焼きを頬張る。
うん、美味い。
肉も美味いが、つけてあるタレが絶品だ。
これなら、あと四本くらい買っておけばよかった。
「カナタ、美味しいね♪」
ミウも小さな口にもごもごと肉を頬張っている。
口の周りにタレが付いていたので、食べ終わった後で布で拭ってあげた。
「さて、先ずはギルドだな。何処にあるか聞いてみよう」
「うん、行こう!」
ミウが僕の頭に再び飛び乗る。
いつもの定位置だ。
公園を出て大通りに戻り、早速通りかかった人にギルドの場所を聞いてみる。
「すいません」
「はい、何か?」
声をかけたのは二十代くらいの女性だが、彼女は僕の予想だにしなかったものを身に着けていた。
それは頭の上で圧倒的な存在感を示し、まるで天を貫くかのようにそびえ立っている。
そう、ネコミミである。
ファンタジーの世界でよくある獣人という種族なのだろうか?
まさかこの世界でお目にかかるとは……。
女神様、ありがとうございます!!
「……あの〜、何かありましたか……」
ふと我に返ると、獣人のお姉さんに怪訝な目で見られていた。
ネコミミも「何、この人?」といった風にひくひくと動いている。
いかん、いかん。
僕は軽く咳払いをして誤魔化し、体裁を整える。
「あ、すいません。実は冒険者ギルドに行きたいのですが……」
「ああ、冒険者ギルドね。それだったら、このまま大通りを進んでいけば左側にあるわよ。剣が二つ重なったような看板が下がっているから、たぶん間違える事は無いと思うわ」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、お姉さんはひらひらと手を振り、人ごみの中へと消えて行った。
お姉さんの言われた通りに通りを進んでいくと、聞いた通りの看板が見えてきた。
早速目の前のギルドの扉を開け、こっそり目立たぬようにギルド内部に入る。
何故かというと、ギルド初日に他の冒険者に絡まれるという、ファンタジーな世界でのお約束を回避する為である。
もちろん、いらぬ心配だとは思うが……。
ギルドの中は割と広く、奥には様々な掲示がされていた。
恐らく依頼が貼ってあるのだろう。
そちらも気になったが、冒険者登録をしなければ何も始まらないので、手前のカウンターにいる受付のお姉さんに声をかけた。
「すいません。冒険者の登録をしたいのですが……」
「はい、新規の登録の方ですね。ギルドについて説明は必要ですか?」
「はい、お願いします」
受付のお姉さんはギルドについて丁寧に説明してくれた。
お姉さんの話を要約すると――
冒険者にはランクがあり、高い方からSS・S・A・B・C・D・E・F・G・Hまである。
初めはHランクからのスタートだ。
依頼にはそれぞれランク付けされており、1段階上のランクまでなら受けることが可能とのこと。
Aランク以上に上がるには試験が必要だが、それ以外のランクは、10回連続で自分のランクかそれより上のランクの依頼を達成すると、自動的にランクが上がる。
また、依頼を失敗すると依頼料の半分の支払い義務が生じ、3回連続の失敗でランクが下がる(Hランクは3ヶ月の謹慎)。
ただし、依頼内容が実際と異なった(ギルドの調査ミスの)場合はその限りではない。
Cランク以上は、有事の際(国同士の争いなどは除く。ギルドはあくまで中立である)の特別依頼に招集されることもあり、断るとギルドから処分が下される。
それ相応の理由があった場合はお咎めなし、その他は罰金、ランクダウン、最も重い処分は除名である。
また、ギルドではパーティを組む事が出来、パーティメンバーのランクの中で一番高いランクの依頼まで受けることが可能である。
その他細かい決まりに関しては、配布した小冊子を読めということらしい。
「――以上で説明を終わりますが、冒険者の登録をいたしますか?」
「はい、お願いします」
元より登録するつもりなので、僕は迷いなく答えた。
「ご登録ありがとうございます。では、少々お待ちください」
お姉さんはカウンターの下にもぐり、ゴソゴソと何かを探している。
しばらくして、バレーボール大の青い水晶玉を抱えてお姉さんが下から現れた。
「お待たせしてすいません。最近新規の方があまり見えてなかったもので……。では、この水晶の上に手を置いてください」
恐る恐る手を置くと、何やら玉が赤く発光をする。
不安そうな顔が表情に出ていたのか、お姉さんが声をかけてくれる。
「ああ、大丈夫ですよ。しばらくそのままでいて下さい」
しばらくすると発光も収まり、水晶玉も元の青い色に戻った。
「はい、もう手を放して大丈夫ですよ。え〜っと、名前はカナタさんで間違い無いですか」
「はい、間違いありません」
「では、この情報でギルドカードを作っておきますね。明日には出来上がってますので取りに来て下さい」
「わかりました。……後、聞きたいんですけど、その情報ってどんな事が分かるんですか?」
女神様のことだから大丈夫だとは思うが、見られてはいけない情報とかは入ってないよね。
でも僕の前世での失敗もあるので、念のため聞いてみた。
「そうですね……。名前と年齢、種族、現在の活動拠点ギルド、レベルくらいですかね。ああ、あと犯罪履歴も見られます。犯罪者の方はギルドに登録できないことになってますので……。ちなみにカナタさんは新規登録されたベラーシの街ギルドが現在の活動拠点になっています。拠点は他の街のギルドの依頼を受ければ自動的に変わりますので、大して気にするような物でも無いんですけどね」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。新規冒険者の方の質問に答えるのも大切な仕事ですから。では、また明日お待ちしています」
お姉さんに背中を見送られて僕たちはギルドを出る。
さて、次は宿探しか……。
「ギルドに聞いてみたら?」
ミウのいう事ももっともなので、僕はそのままUターンして再びギルドへと入っていった。
紹介された宿屋は、ギルドから程近い夢幻亭という宿屋だ。
取りあえず三日の滞在分という事で、銀貨1枚を支払った。
二階にある部屋に入ると、六畳くらいの部屋にベットが一つ、さらに奥にはトイレがあった。
驚いたことにトイレは水洗、そういえば町中に噴水があったくらいだから水の便は良いのか?
まあ便利に越した事は無いので深くは考えないことにした。
「でも、風呂が無いなぁ……」
「風呂って何? おいしいの?」
ミウが首をかしげる。
「風呂っていうのは、お湯をためて体を洗って、さらにはその中に体を沈めるんだ。そうすると疲れが取れるんだよ」
「ふーん……」
良く分かっていないようだ。
まあ、僕の説明も良くないと思うが……。
「天然の物もあるから、機会があったら探してみよう」
「うん、その時に教えてね」
とりあえず今は濡れタオルで体を拭く方法で我慢するしか無いようだ。
桶とタオル貸出で銅貨1枚、必要経費だからしょうがないね。
食事も済み、ベッドの上で僕はうとうとと瞼が下がってきた。
やはり疲れが溜まっていたようだ。
おやすみなさい……。
翌朝、かなり寝たおかげで疲れが殆ど無くなっていた。
一階の食堂で朝食を平らげ、さっそくギルドへと向かう。
受付には、前日と同じお姉さんもいたので、早速声をかける。
「すいません。ギルドカードを取りに来ました」
「あら、あなたは昨日の……。ちょっと待っててね」
覚えてくれていたみたいだ。
何でも無い事だが、何気に嬉しい。
「え〜と、カナタくんで良かったかな? はい、ギルドカードよ。紛失すると銀貨五十枚必要になるから注意してね」
何かの金属でできた板のようなものを受け取る。
特に何も書かれていない。
裏返しても見てみたが、やはり何も書かれていない。
「ああ、ごめんなさい。説明してなかったわね。ここに指を当ててみて――」
言われた通りに指を当ててみると、板に文字が浮かんできた。
なるほど。
「さて、カナタくんはこれで冒険者の一員よ。早速依頼を受けていくかしら。掲示板はあっちよ。大活躍期待してるわよ!」
……何か違和感があるかと思ったら、このお姉さん、昨日に比べずいぶんくだけた雰囲気だ。
僕の疑問を感じてか、お姉さんが説明を始める。
「ああ、これ? 昨日は初めての人だから一応ね。無いとは思うけど、途中でギルド登録しないなんて話になったら私の責任問題だもの。――て事で、こっちが本当の私だからよろしくね。ちなみに私の名前はマリアンよ。呼び方はマリアンお姉さまでも何でもいいわよ」
「いや、マリアンさんで……」
「え〜っ! つまんな〜い」
「こら! マリアン! 新人をからかうのも大概にせい!」
マリアンさんに後ろから拳骨が落とされる。
「痛いじゃないの、マスター。冗談よ」
「全くお前は……。これで仕事が出来なければ即クビにするんだが……」
「怖い事言いっこ無しよ、マスター。ほら、その魔獣も逃げ出す強面に、カナタくんがビビっちゃってるじゃない」
「誰が魔獣も逃げ出す強面だ!」
「マスターに決まってるじゃない♪」
何やら目の前で漫才が始まってしまって声がかけられない。
分かる事と言えば、この眉間に傷のある強面の人は、見かけほど内面は怖くないということだろうか。
「あら、ごめんね、カナタくん。マスターのせいで放ったらかししにしてしまって……」
「まだ言うか! ……ああ、すまんの、カナタとやら。儂はこの街でギルドマスターをやっているザックスだ。よろしくな」
「……あ、はい。よろしくお願いします」
とりあえず掛け合い漫才が落ち着いたようなので、早速、奥にある掲示板を見てまわることにした。
幸い、この世界の文字の知識は頭の中に入っているようで、依頼内容もしっかりと読めた。
「何が良いかな……」
「う〜ん、そうだね。何が良いかね」
「あれ? ミウは字が読めるの?」
「ううん、全然♪」
どうやらある程度は僕が決める必要がありそうだ。
目ぼしい物を何枚か選び、さらにその中から絞っていく。
「……これにするか」
「え、何にするの?」
選んだのは何かの薬草の採取。
まあ初めは無難なところでね。
「そういえばカナタ。討伐部位は換金しないの?」
「あっ、忘れてた!」
そういえば巾着の中に入れっぱなしだ。
巾着は際限なく入るのはいいけど、入れっぱなしで忘れてしまう事があるのが玉に傷、ってのは贅沢な悩みなんだろうな。
受ける依頼も決まったので、再びカウンターに顔を出す。
受け付けてくれたのは、やはりマリアンさんだった。
「あら、カナタくん。何を受けるか決まったの?」
「はい。それもなんですけど、実は換金して欲しいものがあるんですが良いですか」
「もちろんよ。じゃあこの上に出してくれるかな」
指定されたプレートの上にワイルドウルフの牙を出していく。
ちなみに、ワイルドウルフの肉は、際限なく入る巾着の秘密を知られる訳にはいかなかったので断念した。
討伐部位ではないが、食物として売れるものだっただけに残念だ。
「あら、たくさんあるわね。これは何処で?」
「ベルン村の定期馬車に乗っているときに遭遇しました」
「そう……。そういえば、Fランクの依頼にそのワイルドウルフの討伐依頼が出ていたはずだわ。その依頼として処理して構わないかしら。そちらの方がお得よ」
「でも、Fランクですけど良いんですか?」
「ええ、もうすでに達成している場合は特例が認められるわ。……あら、これはウルフリーダーね。倒したの!?」
「はい。でも僕だけじゃなく他の冒険者の人と一緒でした」
「それもそうよね。でも強いのね、見直したわ。……では、ウルフリーダー一匹とワイルドウルフ十一匹で、銀貨三十枚ね」
「えっ、そんなにですか?」
「そうよ。ウルフリーダーを倒したってことは、大発生自体は解決。みごとFランクの依頼達成よ、おめでとう! ちなみにHランクを二件達成として計算しておくわね」
思わぬ臨時収入が入ってしまった。
これでしばらくは宿を追い出されなくて済む。
「――で、こっちは薬草の採取ね。はい、受付終了よ。気を付けてね」
「はい、行ってきます!」
マリアンさんに見送られ、僕たちは初めての薬草採取へと向かった。
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