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第87話 街をつくりましょう

 数日後、ボストールの街の跡地に辿り着いた僕は、予想以上の惨状に軽くため息をついた。


「ぼろぼろなの」


 アリアの言う通り、建物は崩れ、雑草が辺り一面我が物顔に羽を伸ばしていた。

 跡地だから少しは何か利用できるかなと思った僕が浅はかだった。

 支度金は白金貨十枚、貰ったときは多いと思ったが、様々な開発作業の事を思うと、どうやらかなり少ない額のようだ。

 もちろんそれは普通に街造りをする場合だが……。


「本当に一からだね。ミサキ、良かったの?」


「……ええ。……無問題」


 それは王城の別室での話し合いでのこと――。

 色々な職人を紹介するとの話を、ミサキはすべて断った。

 その事は王城の職員も有り難がっていた。

 何故ならこんな辺ぴな場所に進んで来たがる職人など中々いないからだ。


 ミサキが断った理由は僕でもわかる。

 恐らくはオークや魚人たちに来てもらうということだろう。

 彼らならある程度の自己防衛も可能、戦力としても数えられる。

 だが、その道の専門家の知識が欲しかったことも事実。

 果たして上手くいくのかが不安だ。


「カナタなら大丈夫だよ!」


 不安が顔に出ていたのか、ミウが僕を励ます。

 まあ、どの道やるしかないなら、全力でやってみよう。

 失敗したらそれはその時だ。


 とりあえずの現状を理解したところで、僕らはイデアへと戻った。





「何やら……んぐ、大変そう……もぐ、でちゅね」


 別荘のリビングにて、女神様がケーキを頬張りながら話しかけてきた。

 喋るか食べるかどちらかにして下さい。

 それに、口の周りにクリームがついてますよ。




「いろいろ大変みたいでちゅね」


 迷わず食べることを優先した女神様。

 食後の紅茶を啜りながら、改めて僕たちに会話を振る。


「はい、良くわかりませんが、いつの間にか――」


「大丈夫でちゅよ。為せば成るでちゅ」


「そんなものですかね」


 女神様にそう言われると少し自信が湧いてくるから不思議だ。


「そんなカナタくんに朗報でちゅ。繋げてあげるでちゅよ。ミサキちゃんもわたしに頼むつもりでちたね」


「……はい。……お願いします」


「よろしいでちゅ。では、いくでちゅよ!」


 女神様がもごもごと何かを唱える。

 数秒後、女神様はテーブルの上の紅茶に再び口をつける。


「終わったでちゅ」


「えっ!? もうですか?」


「もちろんでちゅ! 温泉の横にあるドアがそうでちゅ! 入るのに制限もつけておいたでちゅよ」


「制限というと……」


「一度でもイデアに入ったことのある人でないと、そのドアは見えないし触れないでちゅ。これでセキュリティーは万全でちゅ」


「……ありがとうございます」


 ミサキが頭を下げる。

 ちなみに、ミウとアリアはケーキに夢中でこの話には加わっていない。

 そして、夢中なお方がここにも――。


「お礼はお土産のケーキで良いでちゅよ」


「はい、承知しました」


 何処から聞いていたのか、スラ坊がすぐさま返事をしてキッチンへと向かう。


「あっ! 全種類お願いでちゅ!」


 女神様は慌てたようにキッチンに向かって叫ぶ。

 イデアは至って平和なのであった。





 そして開発は始まった。

 僕とミウは山脈の方角から土魔法でバリケードを築き上げる。

 頑丈さ重視なので、魔法でしっかりとコーティングしていく。


 それと並行するように建物の建設が始まる。

 屈強な若者たちがこぞって土木作業に従事している。

 その若者たちは見た目は人間なのだが、実はオークや魚人たち。

 これには僕たちもびっくりした。


 女神様がつけてくれたドア。

 それを通るとあら不思議、彼らが人間の姿になったのである。

 しかも能力はそのまま。

 中々素晴らしい機能を持ったドアである。

 逆にイデアに帰る為にそのドアを通ると元の姿に戻るようだ。


 かく言うスラ坊もかわいい男の子の姿になっていたが、ここで考えてみて欲しい。

 元々スライムは変形が出来る、そしてドアを通っても能力はそのまま。

 そう、実はスラ坊に関しては何一つ変わっていないのである。

 人間の姿では作業しにくい為、既に元の姿に戻って建築作業に従事しているスラ坊。

 着々と住居が建てられていく様はまさに圧巻だった。


 足りない資材は周りから調達、もしくはイデアからの持ち込みにて対処する。

 夜には見張りを立てて魔物の侵入を防ぎ、昼は得意の人海戦術で建設を担う。

 時には強い魔物が山から下りてきたが、そこは祠の番人さえ退けた僕らとオークたち、それに魚人までいる。

 おいそれと不覚を取ることは無かった。


 そして二ヶ月の月日が流れ、とうとう街の外壁が完成した。

 どこの城塞都市だという位の高い壁。

 内側備え付けの階段から上に昇ることが出来、そこからの防衛も可能になっている。

 入り口は北側の一か所のみ、残念ながらゴー〇ムはいない。

 もちろん堅さについてもかなり頑張った。

 毎日倒れる寸前まで魔力を使い、何重にもコーティングしたそれはまさに鉄壁、さらには魔法防御も備えている一品。

 拘りに拘り抜いた外壁の完成に僕もミウも大満足だ。


 中の建物も八割方完成しつつあった。

 舗装された広めの中央通りを中心にして立ち並ぶ住居。

 建てられた住居のおよそ三割は魚人とオークで住み、残りをそのまま売り出す予定でいる。


 何でも商売に興味があるオークや魚人がいるようで、色々とミサキに聞いていたようだ。

 どんな店を出すのかは教えてくれなかったが、かえって楽しみなので敢えてツッコまなかった。

 ここに住む皆には支度金としてある程度の通貨を渡してある。

 国から貰った支度金はほとんど使っていないから資金は十分、しっかり有効利用させてもらおう。


 そして、この町にも僕たちの住居が建てられた。

 塀に囲まれた大きな屋敷。

 スラ坊がかなり張り切ったお蔭でかなり良いものが出来上がっている。

 見た目こそ一般的だが、中身はイデアの別荘をベースに作られている為、この世界の屋敷とは一線を画した造りになっていた。

 ただし、来客の為のスペースなどは一般的なつくりにしてある。

 下手に目についてトラブルに巻き込まれるは御免だからね。


 更には、その屋敷を囲う塀の一部がくり抜かれ、そこから飛び出るように構えているお店。

 それこそが待望のスラ坊のお店、『美食亭』だ。

 店の奥は屋敷と繋がっていて、自由に行き来できるようになっている。

 もちろんセキュリティーは万全、店員も今のところオークや魚人なため、荒事にも十分対応できる。



「かなり形になったね」


「……ええ」


 僕たちはその景観を眺めながら感慨にふける。

 

「次はどうするの?」


 ミウの問いに僕は答えた。


「ギルドの誘致かな。後は住民」


 とりあえずベラーシのギルドマスターに話してみるか。




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